fate/to the night material which dies,and goes 作:相馬エンジェル梅太郎
今回は少し短いかもしれません!
太陽の明かりを感じながら、歩いた帰路は随分短く感じた。
今日は色んなことがありすぎて、内心はまだ気張っていたのだろう。その証拠に家に着いた時、思わず大きなため息が出た。
「ただいま」
いつもの通り、特に意識した訳ではない一言だった。
「お帰りなさい」
その声は後ろから聞こえた。振り向けば、僅かに微笑むセイバー。それが妙に恥ずかしかった。
「セイバーも帰りの挨拶は?」
慎二の冷やかしの言葉に、セイバーは真面目に反応する。
「そうでした。ただいま」
「お帰り。セイバー」
慎二は、何とも言えない表情だった。やはり俺も、アイツも家族という物には敏感に反応してしまう。それが分かってるから、慎二にも言ってやろうと思った。
「ほら。慎二。お前もだよ」
「僕もか。ちょっとからかうだけのつもりだったのにな」
僅かに頬を掻き、視線を逸らす。俺とセイバーは慎二に振り向き、言葉を待つ。
「ただいま」
「お帰りなさい。慎二」
「お帰り」
三人共玄関で何をやってるのか、と笑いたくもなるが心の中が妙に温かくて、言葉を紡ぐのも恥ずかしくて、三人共苦笑いのまま居間に向かった。
「美味しい」
「ありがと」
セイバーがカップを置く。居間に着いてすぐに解散するのは、何となく味気ない気がして三人共居間に集まり紅茶を飲む。
ブリテンの王であったセイバーの舌に、あったようでよかった。聞けば食事は随分粗末な物であったようだ。憤慨とでも言いたげなセイバーの表情は、まるで子供のそれであり、それが可笑しくて笑った。
生前の食事が楽しむことが出来なかったのなら、今回の聖杯戦争では美味しい物を沢山食べさせてやろうと思った。まるで親心のような感覚。慎二はこちらの心情を見透かしたような表情を浮かべていたが、無視した。
カップの紅茶を飲み終えた、セイバーを見て声を掛ける。
「セイバー。少し真面目な話をしていいかな?」
「はい」
セイバーは背筋を再び伸ばし、俺に向き合う。室内で煙草を吸うのはあまり好きじゃないが、この際仕方ない。煙草に火を付け大きく息を吸う。慎二は無言で灰皿を持って来てくれた。
「聞きたいことが幾つかある」
「はい」
交わる視線に、虚はない。俺の問答の全てに答えてくれる。それが容易に分かる程の意思を感じた。
「それじゃあ、まず1つめだ。君はアインツベルンの名に。もっと言えば衛宮切嗣の名に覚えがあるはずだ」
「はい。あります」
思った通りの反応に、安心する反面。僅かに動揺もした。
「そうか。それならアインツベルンの聖杯の仕組みも知ってるな?」
「体内に聖杯を宿すマスターを用意するのは、知っています」
「それは、過去の聖杯戦争に参加した記憶を留めていると考えていいな?」
黙って頷く。やはりそうだった。考えてみれば、当然のことだった。
俺の体内にセイバーの宝具があること。それはつまり。
「君は前回の聖杯戦争で衛宮切嗣のサーヴァントだった」
「はい」
切嗣の言った通りだった。切嗣は断固として語らなかったが、俺の懇願に根負けした形で第四次聖杯戦争について語った。そのお蔭で前回の聖杯戦争については、大まかな形ではあるが把握している。セイバーが勝利を手にすることが、出来なかったことも。
「それじゃあ聞くが、セイバー。君の望みはなんだ?それが分からないと、真の協力関係を結ぶことは出来ないと思う」
慎二は何も言わない。けれど、気にならなかった訳ではないだろう。真剣な表情を崩す事無く話を聞いている。
セイバーは暫し考え込んだ後、静かに口を開いた。
「私の願いは、ブリテンの王の選定をやり直すことです」
それは余りにも、悲しい願いだった。
「それはどうして?自分よりもブリテンには、相応しい人間がいたと?」
セイバーは頷く。それを見て、再びセイバーに問いかける。
「それじゃあ、セイバーはブリテンがあの結末を迎えたのは、自分が王だったからだと?」
再びの頷き。
「それじゃあ、自分よりも相応しい人間が王になれば、ブリテンはもっと繁栄し、あんな最後を迎えることは無かったと?」
「はい。その通りです。私が王であったのが間違いだった」
悲痛な叫びのように聞こえた。細々とした言葉だったが、耳から聞こえた言葉は叫びのように聞こえた。実際セイバーは心の中では叫んでいるのかもしれない。自分の無力さに打ちひしがれ、多くの民を犠牲にしてしまったと。
煙草の火を消す。部屋が少し煙草臭くなってしまったような気がした。
「そうか。セイバーはそう考えているのか」
「はい」
強い眼差しだった。これから自分が犠牲にする物。それが分かった上での覚悟なのだろう。その覚悟を踏まえた上で、俺の答えは決まっている。
「それは素晴らしい願いだと思う」
「え?」
困惑の声はセイバーから発せられた物だった。
「どうしてセイバーが驚くんだ?セイバーの願いは、充分素晴らしいと思うよ」
他者を思うこと。自己を顧みず他者を思う。それは素晴らしいことだ。
「セイバーは万能の願望機に他人の幸せを願えるんだ。それは十分素晴らしい。その願いは気高い物だよ」
セイバーは未だ困惑したままだった。自分の願望を受け入れてもらえるとは、思わなかったのだろう。しかし状況を理解し始めたのだろうか。少しずつ顔が和らぎ始める。
「ありがとうございます」
静かにセイバーは頭を下げた。礼をされる覚えはないが、有難く頂戴しよう。
「いえいえ。これから頑張っていこうな。まだ始まったばかりだからさ」
「はい。勿論です。シロウとシンジ。私は改めて誓う。私は貴方たちの剣となり、盾になる」
「ああ。よろしく頼む。約束された勝利を」
「はい」
セイバーの剣の名を拝借した挨拶を軽くスルーされたが、俺達の絆はより一層強い物となった気がした。
会合はこれで終わった。各自部屋に戻る。セイバーは俺と部屋が隣のため、後ろに付いてくる。
「シロウ。もう一度言わせて欲しい」
「ん?何を?」
セイバーは真っ直ぐこちらを見て、言った。
「私の夢を応援してくれて有難う」
「ああ。そんなことか。そんな畏まる必要はないよ。セイバーの夢は気高いよ。素晴らしい。他者を思いやれるその才能は、素直に感服するよ。だから応援する。出来る限りのことは協力する。だって俺達は仲間だからな」
セイバーは恥ずかしそうに微笑んだ。それは綺麗な表情だった。日が昇っている。暖かな日差しに包まれる。
「もう寝よう。俺は疲れたよ」
「そうですね。お休みなさい。シロウ」
「ああ。セイバーもお休み」
互いの寝室で別れる。体を横にすると、すぐさま睡魔が襲ってきた。隣の部屋にセイバーの存在を感じた。大きくて温かい。そんな感じ。それが心地よく、重い瞼が下がるのを、抵抗する事無く眠りについた。
日は今上った。