fate/to the night material which dies,and goes 作:相馬エンジェル梅太郎
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微睡の中に微かな光を見つけた。微かな光を伝手に意識を覚醒させて行く。意識を根底に引き込もうとする物はもう何もない。瞼を開ければ、朝日が僅かに顔を出していた。
「ふぁ~あ」
大きな欠伸を一つ。眠気はもう消えた。だが、体を支配している倦怠感は留まることを知らない。
「呑みすぎたな」
完璧な二日酔い。頭痛が凄まじく、吐き気すら催しそうになる。だが、そんな体に冬の空気は効いた。大きく息を吸えば、体が落ち着いていく気がする。体を見回せば、どうやら私服のまま寝てしまってしたようで外出用のお気に入りのジャケットを羽織ったまま寝ていた。
「最悪」
また一つ気持ちが落ち込む。服を脱ぎ消臭剤を掛け仕舞う。そして動きやすい服に着替え部屋を出る。屋敷のような家は広大で正直これ程の家は必要ないのだが、切嗣が残してくれた物の一つなので今日も大事に住んでいる。居間に入ると俺と同じように動きやすい格好をした青年が一人立っていた。
「今日は僕の方が早かったね。士郎」
含みのある笑みを浮かべるこいつは藤村慎二。俺の友人であり、親友。そして相棒であり、同居人。
「ああ。負けたよ」
こいつが俺の家に住んでいるのは、俗に言う訳ありというやつだ。
「行くか?」
「いいけど、その前に一服してから行こうよ。士郎一本頂戴」
「無くなったの?」
「うん。昨日で全部吸っちゃったみたい」
二人で縁側に腰掛け、煙草を吸う。肺の中に煙が入る。体に悪いことだというのは十分に理解しているが、これと酒だけは辞められそうにない。無言で煙草を吸う。流れる音は鳥の囀りと、煙草の焦げるような音。静寂に包まれているこの空間は好きだった。吸い終わると予め用意しておいた灰皿に煙草を捨てる。慎二も俺に習うように捨てた。
「やるか」
「ああ。そうだね」
立ち上がり、玄関に向かう。靴が散乱していた。
「こりゃ後で片付けないとな」
「そうだね。てか士郎昨日の記憶ないだろ?面倒だったぞ」
「わりぃ」
軽口を叩きながら、ランニングシューズを履く。家の無駄にデカい門を開け暫し待つ。冬の風が頬を撫でる。高台の上に立つこの家から見る朝日は格別だった。名残惜しむように目を瞑る。ゆっくり息を吐き、切り替える。ここまで来たらふざけるのは無しだ。歯車がかみ合うような感覚を捉える。目を開ければ、あれ程美しいと感じた朝日にはもう興味など微塵も感じない。隣を見れば、慎二も目を開けた。
「いいか?」
「ああ」
短いやり取りを終え、走り出す。ダッシュいうほど早くは無く、けれどジョギングとは絶対に呼べないようなスピードで駆け出す。
坂を駆け降りると住宅街が広がっていた。人は姿を見せず、惰眠を貪り夜が明けるのを拒み続ける。スピードが上がる。全力疾走と言っても過言ではない。50mを6秒台の速さで冬木を駆けまわる。橋を渡り、新都に向かい、学校に行き、教会を意図的に避け、一時間程前に駆け降りた坂を駆け上る。
「はあ。はあ。はあ」
二つの吐息が連動している。着かず離れずの距離を維持して、走り切った。体内を循環していた魔力を弱める。スピードを上げることはしないが、体力面のサポートをしている。火照った体を冷ますこと無く、道場へ向かう。神聖な空間である道場。暖かな日差しが差し込み、優しい無音が支配する。
「よろしくお願いします!」
それらを打ち破る、二つの怒声。腕立てを始める。
魔術師は体が資本。ここで様々なことを学んだ。様々なことを身に着けた。
「497!498!499!500!」
この筋力も幼い頃からの努力の賜物。己が体を鍛える。魔力を使用するなんてことは絶対にしない。どれ程の時間が掛かろうと、決めた回数は絶対に熟す。それがルールだ。
次はいよいよ実戦的な練習になる。道場に置かれている竹刀を二本取り、一本を慎二に渡す。向い合い、素振りを始める。一回一回全力で、基本に忠実に。
剣道や、武術だけで無く様々な物に基本はある。基本とは完成に至るまでの下地では無く、基本こそが一つの完成形なのである。物事が始まり、それが受け継がれて行く中で、最も理にかなっているのもを先人達が定め、志す者達が受け継ぐ。我流を貫く者もいるが、基本を理解しなければそれは出鱈目である。我流とは言わない。様々なものが派生して行く中で、その根幹にある物は基本である。
強くなりたければ、基本を極めろ。強さとは、即ち愚直さの表れに他ならない。
頭の片隅にある言葉。誰がこれを自分に授けたのか、すら定かでない。けれど、心に響いた。その通りだと思った。故に今も。
「547!548!549!550!」
教えを守り、それに反する事無く、自身を極めている。
肺に空気を入れる。疲労が抜けていく感覚を感じる。慎二から竹刀を受け取り、片付ける。道場内に張りつめた空気が広がる。それは目の前の男と、自分が醸し出している物に他ならない。体を脱力させながらも、全くの隙を感じさせない。自分も同じ状態になる。鏡のようだ。全く同じ構え。全く同じ呼吸。しかし、それは当然である。互いに学んだ師が同じであるのだから。
「やろうか」
「ああ。いいぜ」
慎二の提案に頷く。互いに距離を取る。構える。右の拳を顔の下まで上げ、左の拳は肘でボディを守るように置く。慎二も全く同じ。拳は強く握らず、柔らかく。足は呼吸に合わせ、タイミングを計る。ここに準備は整った。
冬木の一角。高台を望む、屋敷。質素な作りの屋敷だが、大きさは広大であり、十分に豪邸と呼べる程である。その一角。道場に二人の青年がいた。片や赤胴の髪に、多少の褐色の皮膚を持つ青年。片や整った顔立ちは聡明さを表し、けれど今はそれすらも覆い隠す程の剣呑さに包まれている青年。構えは同じ。音はない。無音が支配している。凍てつくような雰囲気に支配されている道場は、常人ならば呼吸をすることすら困難な程だろう。道場の外を見れば、一羽の小鳥が止まっていた。暫し、止まり何かを感じ取るように羽を羽ばたかせ、飛び去った。それが双方の青年にとっての合図だった。
始める、壮絶な肉弾戦。しかしそれは肉弾戦というには余りに美しく、余りに壮絶だった。風を切るような速さで拳が飛ぶ。それを互いに見切り、針の穴よりもさらに小さい隙を探す。達人の域に達した者しか、理解出来ないフェイントを掛ける。だが、それすらも見切る。拳は鉛玉のように唸り、全ての動きに虚が感じられない。けれど、降り注ぐ弾丸の雨。もとい、拳。その中に紛れ込む、明らかな必殺の意志。それを感知出来なければ負けだ。それを感知させなければ勝ちだ。その意思は赤胴の青年より、紫の青年の方が現れていた。それが何を示すか。意思を感知されやすいのだ。紫の青年は気づかない。それ程薄く、淡い必殺の意志。けれど、皮を剥げば赤胴の青年の意志は紫の青年の意志すら凌駕する。赤胴の青年の拳が飛ぶ、それを受ける。余りの力に青年が揺らぎ、崩れる。体のダメージはほぼ皆無。しかし、決定的な隙を与えた。膝立ちの青年の顔は無防備だった。瞬間。赤胴の青年の左足が鞭のようにしなり、鍛えられ拳と同等の硬さを持つ足の甲が紫の青年のこめかみに向けて放たれる。防ぐとこは愚か、躱すことすら出来ない。数瞬後には紫の青年は地に伏せる。それは変えようのない事実だった。青年は痛みに耐えるように、目を瞑り。
「降参だ」
高速で放たれた一撃は、青年のこめかみ寸前で止められた。
「今日も俺の勝ちだぜ、慎二。シャワーは俺が先な」
「ああ。譲るよ」
道場に和気藹々とした空気が広がる。太陽はもう登り、時刻は既に八時を迎えていた。
家に入る。靴が散乱している玄関の掃除を慎二に任せ、風呂に向かう。明け方から流した汗が冷えない内に流す。清々しい気持ちのまま、リビングに向かうと慎二が難しい顔でテレビを見ていた。
「どうした?」
「ああ。これ見てくれよ」
こちらに顔を向けずに、話す。画面には冬木でまたガス漏れと書かれていた。新都のビルでガス漏れが多発。今回は庄山薬品本社が被害にあったそうだ。
「庄山か」
「ああ。士郎、それがどうかしたのか?」
庄山薬品とは日本随一の薬品メーカーであり、その本社がこの冬木の新都にある。一際大きなビルで圧倒される。さらにテレビからの情報では今回のガス漏れは重傷者も出ているらしい。その情報が耳に残った。今までの事故も、フロアにいた全ての人が昏睡し、誰もその時のことを覚えていないと言う。けれど、重傷者と呼ばれる程の危険に犯された人間は一人もいなかったのだ。
「慎二これについてどう思う?」
慎二は考え込むような表情を浮かべる。これまでの状況と、今自分が持ち得る情報から推測を立てている。慎二はこういう物には非常に長けている。
「そうだな。考えてみれば、今回の昏睡事件には明らかな殺意があるな。この手事件を考えると、犯人は何らかの目的があったんだ。けど、今回は違う。間違いなく別の意図により、犯人はこの事件を計画した」
「別の意図。口封じか」
慎二が軽く頷く。強い頷きではないのは慎二の仮説がまだ、決定打に掛けているからに違いない。
「ああ。そうだと思う。なあ士郎」
初めて慎二がテレビから視線を外す。目には強い意志が感じられた。
「今回の事件はこれからのことに関係あると思うか?」
「ああ。十中八九関係ある」
確信している。これから起こる祭典。冬木は少しずつ、けれど確かに。その形を歪に変えていた。
時刻は既に八時半。この時点で遅刻である。けれど、そんなものは関係ない。学校という場所に思い入れも無ければ、行く必要性も感じられない。昔世話になっている人が教師をやっていて、恩返しの意味も込めて行くだけだ。故に、成績などは気にしない。遅刻も早退も欠席だってする。30分の遅刻をしながら、今こうして台所に立つ俺達を否定することの出来る人間はこの世にいない。
「慎二これ切れ」
「はいはい」
豆腐渡し、慎二は器用に手の上で切っている。今日の朝食は和食だ。アジの開きに、ワカメと豆腐の味噌汁。ほうれん草のお浸しに、納豆。日本伝統の和食。落ち着いた雰囲気の我が家にはピッタリの食事だと思う。慎二も料理は出来る。この家で一緒に住み始めて、5年の月日が経った。料理が全く出来なかった慎二に料理を教えて、今では中々の腕前を誇るが、それでも俺の方がまだまだ上手い。その為に朝食だけは毎日一緒に作っている。朝食は一日の食事の中で最も重要な物であるからだ。満足な朝食を食べれなければ、その日はきっと上手く行かない。
出来上がった物から皿に盛りつけ、机に運ぶ。いい匂いが部屋に広がり、鍛錬後の空腹の腹を刺激する。全てを運び終え、食べ始める。
「「頂きます」」
口が悪いと色んな人から言われるが、礼儀作法だけは気をつけるようにしている。感謝の心を言葉に表すことの出来ない人間は、未熟な人間の証であるからだ。互いに無言で食べ進める。箸の音と、テレビから流れることだけがこの部屋の全てだった。
「あ、味噌汁の中に慎二がいる」
「士郎そのネタ好きだな。毎日言ってるよ」
味噌汁のワカメのような髪型の慎二は、髪を弄りながら反論する。慎二も気にしていないし、俺も適当に言っているだけだ。互いによく喋る方ではあるが、毎日一緒にいるため、家でご飯を食べる時は互いに味わいながら、先程のような冗談を言い合い静かな時間を共有する。この無言の時を楽しめるのも、二人で育んできた友情のお蔭である。
「「ご馳走でした」」
ほぼ同時に食べ終わり、食器を運ぶ。軽く水洗いをして、食洗器の中に入れる。スイッチを入れて、歯を磨き身支度を整え家を出る。
「あ、学校行く前に一服しよう」
「ああ。そうだな」
慎二に煙草を一本渡し、再び縁側に腰掛ける。元々煙草を吸い始めたのは切嗣の真似をし始めた時からだ。日に日に弱っていく切嗣だったが、それでも煙草だけは辞めることは無かった。試しに吸ってみると、酷くむせて切嗣に笑われた。本格的に吸い出したのは切嗣が亡くなってからだった。あの頃はどうしても、一人で家にいることが多く、ストレスが溜まり易かったのだろう。それ程俺は切嗣の存在に依存していたのかもしれない。短くなった煙草を灰皿に捨て、慎二を待つ。慎二も程なく捨て、二人で玄関に向かう。
「綺麗になったな」
「士郎が汚くしたんだけどな」
「あ?そうなの?覚えてないわ」
「お前、悪酔いする癖直した方がいいぞ。昨日の子だって軽く引いてた」
悪酔いはしない方がいいとは思っているが、元来酒は好きだがあまり強いタイプでは無く、直ぐに顔が赤くなったりしてしまう。けれど、俺の場合はそこからが本番でより一層ペースが上がってしまうのだ。で、結果悪酔いする。昨日遊んだ子にも迷惑をかけたらしい。後で謝っておこう。一体どの子なのかは分からないが。
門を出ると、朝見たよりも幾分も太陽は上がっていた。気持ちのいい程の快晴。風は冷たいが、こういう空気は好きだ。学校へ向かおうすると隣の家から、見知った人が出て来た。
「おお!お前たち今日も遅刻か!」
「龍我さん。どうもです」
「お早うございます。龍我さん」
二人で頭を下げる。目の前に立つ男は大柄で、黒の短髪。鋭い視線は今は笑顔に隠れている。この人は藤村龍我。これから向かう学校の教師、藤村大河の父であり。
「慎二。お前は父さんか、親父と呼べって言ってるだろう」
「いや、それは流石に」
藤村慎二の義理の父親でもある。血は繋がっていないが、本当の親子のような絆がある。そして俺も非常によくしてもらっている。繋がりは俺の方が長い。けれど、俺達二人には、同じような接し方をしてくれる。
「大河は随分前に行ったぞ」
「ああ。藤ねえは朝練があるからね」
「そうか。士郎は部活やらないのか?」
「そういうのには興味ないよ。龍我さんだって分かってるでしょ」
笑い合う。慎二は龍我さんの他にも、藤村家全員に敬語を使うが、俺は使わない。必要最低限の礼儀は弁えるが、それ以上の気遣いはしない。龍我さんは慎二にもそれを求めているようだが、それは難しいようである。他愛ない話に花が咲く。けれど、龍我さんが急に難しい顔をする。
「どうしたんですか?」
慎二の問いに一度俯き、顔を上げる。そこには優しい龍我さんはいなかった。極道として冬木に君臨する一人の漢の表情になっていた。
「ニュースは見てるか?」
頷く。ふざけた回答を求めていないことは、龍我さんの表情を見れば、一目瞭然だった。
「最近嫌な空気が冬木に蔓延している。濃さでいったら10年前とさして変わらない程に」
僅かに心配そうな表情で俺を見る。あの災害のことを思い起こさせてしまったなのではないかと思ったのだろう。けれど、問題ない。強い表情を維持したまま、龍我さんを見返す。
「新都の方でも、色々動きがあるらしい」
龍我さんは一度口を閉じ、もう一度開いた。
「木曜に組の主だった物を集めて会合を開く。お前達も来い」
今日が月曜であることを含めれば、急遽開かれる会合であることは間違いない。それ程藤村組はこの事態を重く見ているのだ。
「分かりました」
慎二の変わりに答える。立場上慎二は俺の弟子であり、こういった場面の判断を決定するのは兄弟子の役目だからだ。
「その時にお前達の稽古もつけてやる」
「ありがとうございます」
二人で頭を下げる。龍我さんは俺と慎二の師匠である。勿論魔術ではない。武術のだ。様々なことを教えられた。そして俺達はこの人を未だに超えられない。それはもう魔術を使っても勝てないのではないかと思えてしまう程に。
「じゃあな。若人よ。今日も勉学に励めよ」
遅刻に対する皮肉だろうか。再び優しい笑みを浮かべて、龍我さんは隣の家に入っていった。
途中慎二の煙草を買い、二人で一服してから学校に来た。時刻は既に9時15分。門は閉ざされており、体育のクラスも無いのか重苦しい沈黙が流れていた。門を飛び越え、学校に入る。昇降口に向かい自分のロッカーを開ける。
「ラッキー。ラブレター」
1枚の手紙。可愛らしくピンクの封筒は、ハートマークで封されていた。
「今回はちゃんと付き合うの?」
慎二がニヤニヤしながら聞いて来る。
「分からん」
「勇気を振る絞って書いたんだ。ちゃんと答えろよ。抱いて終わりとかよくないぞ」
「うるせーな」
忠告を無視し、手紙を読む。そこには可愛らしい文字で昼休みに屋上で。と書かれていた。
「放課後じゃなくて昼休み」
疑問を口に出してしまう。この手の物は貰ったことがある。けれど、いつも放課後を指定していた。それが暗黙のルールだと思っていた。
「放課後だとお前が帰ると思って、昼休みを指定したんだろ。やるじゃんその子」
「ふーん」
鞄に仕舞う。人の気持ちを無下にすることはしないようにしてるが、周りの人間にはどうしても踏みにじっているように見られることも多々ある。この気持ちを理解してくれのは慎二だけだ。
階段を上がり、職員室へ向かう。教室に向かう前に、遅刻報告書なる物を書かないといけない。それがこの学校のルールだ。
職員室の前の机に置かれている、紙を1枚取り名前と、遅刻の理由と、登校した時間を書き、学年の先生にサインをを貰う。勿論小言は言われるが、気にしない。慎二もまた同様で適当に相槌を打ち、教室へ向かう。
「遅れましたー」
「同じく」
教室のドアを開け、教卓に立つ教師に遅刻報告書を出す。また小言を聞き流し、窓際の席に着く。前の席は慎二。後ろは無人で、左は窓。慎二の隣の生徒は後藤君。俺達をからかうように、笑っている。彼は最近大河ドラマにはまっているようで、その話をしたそうにしている。俺の右隣は。勿論可憐なる美少女だ。
「おはよう。衛宮君」
「おはよう。三枝っち」
三枝由紀香。俺のクラスメイトであり、友人。天然で和やかな性格。その性格にぴったりな容姿。間違いなく美少女と呼べるレベルの少女である。
「遅刻し過ぎだよ、衛宮君。今日も寝坊?」
怒る様な表情を浮かべるが、全く怖くない。それどころか可愛く見える。
「そう。寝坊。起きれないんだよねー」
嘘をつくが、三枝っちは気づかず、話を続ける。
「また呑んだの?ダメだよ。未成年なのに」
「面目ない。でも三枝っちだって俺の家来た時はいっつも呑むじゃん」
俺の言葉に後藤君が反応する。凄まじい眼光。お前らそんなに仲よかったのか!と言いたげな瞳である。
「後藤君。前向きな?先生に怒られるよ?」
三枝っちの言葉に弱弱しく頷き、前を向く。後藤、弱し。
「衛宮君はその話は内緒でしょ」
体を前のめりにして、問い詰めるように言う。
「そうだっけ?」
とぼける。慎二に助け船を送ろうと視線を送れば、机に突っ伏して既に夢の中であった。
「そうだよ。もう全く」
プンプンといった感じ。それが実に彼女に合っていた。
「かわいいね。三枝っちは」
「え!?かわ!かわいい!?」
びっくり仰天。目が飛び出そうな程驚く。思わず声を上げ、寝ている慎二以外が三枝っちの方を見ていた。ぺこりと頭を上げる。皆はざわざわしながらも、再び授業に集中している。後藤君だけはまだこちらに耳を澄ませていた。変態め。
「もう。いきなり変なこと言わないでよ」
「変なことなんて言ってないよ」
俺の言葉に何故か、後藤君が頷く。いつまで聞くつもりだ。
「それでも今言うことではないでしょ」
「さーせん」
三枝っちの言うことは正論だった。項垂れる。後藤君も項垂れる。俺と彼はシンクロしているようだ。
「何であんなこと言ったの?」
今度は疑うように言われる。本音を言えばまた怒られる。絶対的な確信があった。後藤君の方を向く。アドバイスを求めると、力強いグッドサインが現れた。頑張れ。彼はそう言っていた。使えない奴である。
「だって三枝っちが最近、俺の家に遊びに来ないから」
これもまた本当のことである。中々最近は遊べていない。俺が忙しいのも勿論だが、三枝っちもまた忙しそうなのである。
「ならまた今度、お邪魔するね」
「おう。歓迎してるよ」
無事に約束を取り付けた所でチャイムが鳴る。後藤君は誘って欲しそうな表情を浮かべていたが、気づかない振りをした。すまん。後藤君。
その後は睡眠に時間を費やした。クラスメイトの団欒をうたた寝の中聞くと、時刻はもう昼休み直前のようだった。チャイムが鳴る。大きな伸びを一つする。前で惰眠を貪る奴の背を叩く。
「おい、慎二。昼休みだぞ」
「え、………あ、うん」
二人で立ち上がり、屋上に向かう。解放されている屋上はこの季節は人がまばらだ。この寒空の元、昼食を食べる人も少ない。ポケットから煙草を取り出し、吸う。慎二も俺に習うように吸う。息の詰まりそうになる狭い教室よりも、大きな空を望むことの出来る屋上の方が好きだ。
「士郎。そろそろ女の子来るでしょ。僕は戻るよ」
煙草の火を消し、慎二は携帯用にの灰皿に捨てた。そこに俺のも入れる。
「それじゃあ頑張って、衛宮君」
一体誰の真似だろうか。鬱陶しい言葉を残して、慎二は消えた。流れる時間。雲の動きが早い。掴めそうな雲。俺はあの雲を掴むことが出来るのだろうか。焼野原で崩れた自分より、俺は成長出来たのだろうか。分からない。分からないから悩んでいるのだ。屋上の扉がガチャっと音を立て開いた。足音が近づいて来る。目線を空から、前に向ける。そこには。
「今日は逃げずに来たようね!士郎」
あかいあくまが立っていた。