fate/to the night material which dies,and goes 作:相馬エンジェル梅太郎
喉が痛いです。
皆さんも風邪には気をつけてください。
4話投稿します。
相馬エンジェル梅太郎です。
常闇に沈む土蔵にあっても、白銀の少女の輝きは損なわれていない。俺を見詰める強い視線。契約の言葉を発した凛とした声。絶対的な強さを持ちながらも、畏怖を抱かない真摯さ。全てが規格外であり、全てが魅力的だった。
「ああ。そうだ。俺がマスターの衛宮士郎だ」
「衛宮士郎ですか」
俺の名を繰り返す彼女は酷く困っているように感じた。視線も俺から外れている。
「どうした?」
「いえ。大丈夫です」
強い視線が再び俺を捉えた。大丈夫だと確信した。
「君はアーサー王で相違無いな?」
「はい。私はアーサー王です。だが、この聖杯戦争では貴方の剣だ」
「ああ。頼んだ」
右手を差し出す。彼女は微笑み、右手を差し出し握手をした。
「勝とう。この戦いに」
「はい。貴方に勝利を。セイバーの名に懸けて」
かのアーサー王に忠誠を誓われるのは酷く可笑しなことだったが、彼女の顔は真剣で、自然と俺も対応していた。
「俺は君のことをセイバーと呼ぶよ」
「はい。なら私は何と呼べばいいでしょうか?」
思考する。彼女に呼ばれる名を考える。すぐに答えは出た。
「士郎で頼むよ。セイバー」
「シロウですか?はい。分かりました。確かにこちらの方が呼びやすい」
マスターという呼び名よりもと言う意味だろう。だが、自然と心が温かくなる程度には嬉しかった。
「じゃあここを出よう。紹介したい奴もいる」
「はい。分かりました。シロウ」
微笑まれる。彼女は優しく、尊大な人間なのだろう。俺とは正反対だ。土蔵を開く。満点の月が、彼女の誕生を祝福しているかのように輝いていた。土蔵の前で煙草を吸っていたのだろう。慎二は彼女をみるなり、動きを止め見入っていた。
「紹介しよう。セイバー。今回の聖杯戦争の協力者で、俺の親友の藤村慎二だ」
「シンジですか。よろしく」
「あ、ああ。よろしく頼むよ」
おずおずとセイバーが差し出した右手を握る。慎二が女の子の対応に困っているのを見たのは初めてに近い。
「セイバー。このメンバーでこの戦いを勝ち抜く。同盟を結ぶことをあるだろう。でも最終的に味方でいられるのはこのメンバーだ」
強い視線が俺達に送られる。慎二も元に戻ったようで、多少無理をしている感は否めないが普段の慎二に戻っている。
「はい。私は二人の剣になりましょう。必ずその手に聖杯を」
「ああ。ありがとう。だが、俺達も頑張るよ。セイバー。君のその手に聖杯を。最優のサーヴァントのマスターの名に懸けて」
セイバーはキョトンとした顔を浮かべて、照れ隠しのように優しい笑みで笑った。
満点の月が夜空に君臨していた。空を駆けるように、1つの影が疾走している。新都のビル。屋上から屋上へ飛び移る人影は人間ではない何かだった。長い髪を翻し、
夜が更けていた。詳しい話を明日にする方針で今日は眠る。屋敷の中の存在密度が非常に濃い。人が増えたからだが、増えた人間の密度の濃さが異常だった。彼女の行動が手に取るように分かる。それ程までに感じる存在感。彼女を彼女としているのは、この存在感に他ならないのだろう。彼女の意志は遠き時代の王国では、王国の意志であり。彼女の物語は王国の物語だった。その重圧を彼女が背負っていた。それが余りにも悲しい。幼い少女が背負うべき重圧ではないと感じる。だが、それを彼女に伝えても彼女は否定するだけだろう。意識が徐々に落ちていく。思考はハッキリしているが、闇が濃くなり眠りに就こうとする。確信があった。今日深い眠りに入れば夢を見る。あの夢を。思考までもが鈍り、夢の世界へと誘われた。
地獄のようだった。だが、地獄のようでなかった。あれは紛れも無い地獄だった。生命の息吹を感じることなど出来なかった。熱さと苦しさで頭が可笑しくなりそうだった。けれど苦痛を超越する程の想いがあった。憎しみという想いが。何を感じたのだろう。憎しみだけだ。そう断言できる。だが、衛宮士郎の最初の記憶は笑いだったのだ。何故俺は笑っていたのだろう。全てを失ったのに。
夢が切り替わる。切り替わりを認識した瞬間。目を覆う程の輝き。純白の輝きは眼を焼き殺さんという勢いで光っていた。
切り替わる。大きな場所だった。作りは家にある道場と同じようなものだった。木材で作られた室内は温かみなど皆無で、恐怖心を感じた。何の映像なのだろう。誰の夢なのだろう。衛宮士郎はこの光景を知らない。
視界がぼやけて、音も遠い。
「喜べ少年。お前の願いはようやく叶う」
夢は終わった。衛宮士郎の意識が浮上する。覚醒する。
目覚めは真夜中だった。湖の水面のように、緩やかで静かだった。慎二も彼女もまだ寝ているようで、屋敷の中で静寂を感じているのは自分だけだった。縁側に腰掛ける。空は未だ夜が支配し、幻想的な輝きが冬木の町を照らしている。煙草を取り出し吸う。夏と違って肌寒く、虫の声すら響かない。世界に取り残されたかのような恐怖。けれど、この静寂は好きだ。美しさを感じる。衛宮士郎はそれを素晴らしいと感じる。空を見ていたからだろうか。近づく彼女の存在に気が付かなかった。
「シロウ。まだ起きていたのですか?」
「ああ。何か目が覚めちゃって」
「そうですか。隣いいですか?」
「ああ。構わないよ」
凛とした彼女が俺の横に腰掛ける。夜中でも彼女には欠点の一つも見られない。
「シロウは煙草を吸われるのですか?」
「ああ。これだけは辞められなくて」
「そうですか」
興味がありそうでなさそうな返答。だが、それでよかった。丁度いい距離感だった。吸殻を灰皿に捨て、もう1本煙草を手に取る。
「吸ってもいいかな?」
「はい。どうぞ」
優しく微笑む彼女に了承を得て、煙草に火を点ける。煙は肺に入れ、吐き出せば心がさらに落ち着いていく。
「どうかしたのですか?」
「え?」
顔を覗き込むように尋ねられた。彼女瞳は強く、俺を捉えていた。
「ああ。何かあったんだよ」
「何かとは?」
妙に突っ込んでくるセイバーに苦笑いしながら、当たり障りのない程度に話す。
「夢を見たんだ」
「夢ですか」
頷く。煙草を吸うが、心が少し浮ついている。どんな夢だったのか。それを聞きたいのだろう。彼女の表情には葛藤が見え隠れしていた。
「幼いころの夢を見たんだ。それで懐かしい気分になっちゃって」
「ああ。そうだったのですか」
安心した。そう言ってくれそうな表情。癒される。心の穢れが落ちていくように感じた。
「シロウは幼いころはどんな少年だったのですか?」
「え?」
それはセイバーにとっては何てことのない質問だったのだろう。彼女は問うているのだ。衛宮士郎の幼少期を。だが、衛宮士郎に幼少期などない。この身の幼い頃の思い出などあの夜に跡形も無く、散って行ったのだから。
「シロウ?」
「あ、ああ。何でもないよ」
額に汗が滴っている。僅かの間だったが、自身の思考を想像以上にぐちゃぐちゃになっていた。
「すみません。何か失礼を」
「いや。問題ない」
謝るセイバーの言葉を途中で区切り、己の考えを発する。
「セイバーは何も悪くないよ」
「ですが」
「本当に悪くない。大丈夫だ」
暗示のように心の中で呟く。大丈夫。大丈夫。
「今日はもう寝るよ。明日も早いしな。お休み。セイバー」
「あ、はい。おやすみなさい。シロウ」
縁側から立ち、自室へ向かう。背後からセイバーの視線を感じたが振り返ることはしなかった。
大きな太陽だった。温かさを感じ、生命の息吹を感じることが出来る。視界は
「士郎も一緒にサッカーやろうぜ!」
手を引っ張られる。皆の元に駆ける。俺は笑っていた。それはもう、楽しそうに。
目覚めは安らかに。意識が浮遊し、肉体の元へ帰る。瞼がゆっくりと開く。顔を出したばかりの太陽は、冬樹に微かな温かみを与えていた。立ち上がる。布団を片づけようとすると、凄まじい程の汗をかいていた。幾つかの夢を見ていた。全てが意識の根底に沈み、中々思い出せない。だが、確かに見た。部屋を出て、縁側に腰掛ける。煙草を取り出し、火を点け吸う。心がフワフワしていて中々落ち着かない。屋敷の中に音は無く、慎二もセイバーも未だ眠りに就いているようだった。分からないが、いつもより幾分か早起きをしたようだ。吸殻を捨て、大きく伸びをする。冬木の町は静かに時を刻んでいる。その中で唐突に。
自分だけが取り残されている感覚に襲われた。