fate/to the night material which dies,and goes   作:相馬エンジェル梅太郎

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発見

1つの仮説に辿り着いてしまうと、その考えに固執してしまうのは衛宮士郎の悪い癖だ。考えを1つに絞るのはいいが、考えを限定してしまうと視野が狭くなり他の可能性に辿り着けなくなってしまう。だが、この考え方の全てが悪い訳ではない。1つの事に愚直なまでに取り組む。それこそが衛宮士郎の神髄である。そう自負している。日はまだ出ない。鳥の囀りも聞こえず、冷たい風が枯れた草木に吹き付け俺の頬を撫でるだけ。

「はあ」

ため息を1つ吐き、家を出て土蔵に向かう。昔はここに入り浸った。切嗣はあまりいい顔をしなかったが、俺はこの場所が好きだった。

大きな扉を開けると、吹き付ける風によって砂が舞い踊る。目に入りそうになるのを目を瞑り耐える。ゆっくりと目を開ければ慣れ親しんだ物が溢れていた。土蔵に広がる無限の剣。昨日慎二と共に片づけたものだ。変わらず鎮座している。大地を貫かんと聳える剣は全てが名剣。セイバーには見せていないが、彼女も驚いてくれる気がする。1本を手に取る。右手に持つ剣は双剣の類のものだった。湾曲した刃渡り。無駄を排除し、一切の妥協も無く鉄を織り交ぜた名剣。嘗て中国に名を轟かせ、偉大なる名工が妻を犠牲にして作った剣。名を干将・莫耶の陽剣干将。

投影。俺が可能する魔術の1つであり、異端の魔術。俺が可能にしているのは剣の投影。剣を投影しようとしているのでは無く、自身の心を投影する。その結果剣を投影するこのが出来る。俺自身が只管な鍛錬によって導きだした結論である。心の投影。一種の心象の具現化。胸に触れる。心臓の鼓動とは別に2つの鼓動を感じることが出来る。存在を感じることは出来るが、表すことは出来ない。そんなものが己の体の中には2つ埋没している。心臓の鼓動に連動するように、鼓動する2つの神秘。この身に余る物であるという自覚はある。だが、決して不要な力ではない。これもまた自身の一部であり衛宮士郎にとって価値のあるものなのだ。

温かな日差しを感じ振り返ると外は、徐々に太陽が上がっているようだ。爽やかな朝の訪れを感じて俺は土蔵を後にした。

 

 

 

 

 朝居間に集まる。慎二とセイバーが居間に座り話を待ち構えている。顔は真剣であり、冗談を求めている表情ではない。

「まず最初にこれまで通りの生活を送る。これは慎二と前から決めていたことだ」

「それは学校に行くということですか?」

首を縦に振る。セイバーは難しい顔をしているが、作戦を話す。

「問題はない。セイバーには霊体化して学校まできてもらう」

霊体化。死して生前の偉業が認められ、世界と契約することで成りえることの出来るサーヴァント。彼らの特性の1つが霊体化。実体を持たずに霊体のまま行動することが出来る。それならば、俺達が学校に行っている時も霊体化してもらえば問題ない。だが、セイバーの表情は暗い。

「どうした?セイバー。何か問題があるか?」

セイバーは重い口を動かすように答えた。

「この体は霊体化が出来ません。理由は不明ですが、召喚の際に不都合なことが起こったのかもしれない」

凛とした声に乗せ、非常にマズイことを話すセイバー。表情は申し訳なさそうな表情をしている。

「セイバー。君が霊体化出来なくなっている理由は本当に召喚の際の不手際が問題だと思うか?」

真っ直ぐ強い視線で彼女を捉える。彼女は言った。召喚の際に不都合なことが起こったと。だが、こちらは万全の準備を整えた上での召喚だ。不都合などまずあり得ない。

「分かりません。ですが、それ以外の問題も考えられない」

嘘だ。直感的に感じた。彼女は嘘を付いている。人の感情には敏感だ。彼女が感じた感情は嘘を付いた人間の感情と同様のものだった。彼女は嘘を付いている。それは分かるが、彼女のことを何も考えずに口答えするのはマズイと感じた。今後の聖杯戦争にも影響する。

「そうか。分かった。じゃあ別の対策を考えよう」

本心を隠し、言葉を告げた。

「はい。分かりました」

「慎二もいいな?」

黙ってこちらの話を聞いていた慎二に投げかける。

「ああ。問題ない」

慎二は頷いた。時計を見れば、既に6時になっていた。普段ならば走り終わってこれから道場での鍛錬が始まる時間だ。だが、今日は仕方ない。事情が事情だ。今日の学校までに作戦を練らなければならない。鍛錬は明日からにしよう。セイバーも入れて。そう考えた。

「じゃあ飯にするか」

「シロウ。手伝います」

「大丈夫だよ。セイバー。ゆっくりしていて」

「ですが」

申し訳なさそうな表情をする。立ち上がる慎二を見て、自分1人だけが休んでいるのが申し訳ないと感じたのだろう。案外可愛らしい所もある王様だ。

「ゆっくりしてな」

優しく金色の髪を撫でる。髪の1本1本が非常に柔らかく、心地いい。セイバーは不満そうに、けれど心地よさそうに笑っていた。

「はい。ではお言葉に甘えて」

台所に立ち、セイバーを見る。セイバーは恰好は中世のヨーロッパの貴族の姫のようだった。青いドレスは露出度は低く、上品な印象を与えるが、彼女の表情や、仕草から溢れる魅力は素晴らしいものがある。上品な恰好に負けない上品さを彼女は持っていた。

「セイバー」

「はい」

優しい表情のままこちらに振り返る。ゆっくりと。絵画の中にいるような感覚に陥る。1つ1つの動きが洗礼されており、恰好も相まって彼女の魅力を増長させている。

「セイバーは苦手な食べ物はあるか?」

「いいえ。特には」

「そうか。よかった」

再びセイバーに背を向ける。セイバーは日本人ではない。ならば、味覚も日本人とは異なるはずだ。

「よし。今日は洋食にしよう」

「え?珍しい。士郎が洋食作るなんて」

「たまにはな」

油を落としたヘルシーチキン。辛味の効いたソースの豆腐サラダ。オムレツ。市販のコーンスープ。前から買っていたフランスパン。

「おお!美味しそうです」

目を輝かせてくれるセイバー。はしゃぐセイバーは普段より幾分か幼く見える。

「今日は珍しく洋食だ。明日からはまた和食になるけど、たまには洋食を作るよ」

「シロウとシンジは料理がお上手なのですね」

「僕はまだまだだよ。士郎と一緒に作らないとここまでの物は作れない。本当に上手いのは士郎だよ」

「そうなのですか?」

関心した。と言いたげな表情で問われる。

「ああ。そうかもね。前から1人で作って食うみたいなこともあったからさ」

「あ、そうだったのですか」

言ってからしまったと思った。彼女に夜中に会った時に、彼女は俺が過去に何か負い目があると思っているのだ。それなのにこんなことを言ったらセイバーに負担をかけてしまう。

「大丈夫だよ。セイバー」

夜とは違う、ハッキリとした口調で告げる。彼女はそれを見て胸を撫で下ろし、優しく笑った。

「食べようか」

スプーンとナイフと3人分のコーヒーを配膳し、準備を終える。

「「「いただきます」」」

1人分多い挨拶が家に響く。それが何だがとても嬉しかった。

 

 

 

音は無いが、温かさに満ちた朝食を終える。食洗器に食器を入れ家を出る。俺と慎二はまだ私服だ。

「どこに行くのですか?」

セイバーは戸惑いを浮かべている。

「服を買いに行く。その恰好で学校に行くのはマズイだろう?」

「そうですが」

セイバーは自分の恰好を確認するように立ち止まる。

「似合ってるよ」

「え?」

俺の言葉に疑問を抱いたようで、確認を求めるような声を出す。

「綺麗だよ。セイバー。でも学校では浮くからな」

「そうですか」

セイバーはキョトンとしているが、俺達と並んで歩く。朝の冬木は少し肌寒い。厚手のジャケットを着て来たが、もう少し厚着をしてきても良かったかもしれない。慎二はマフラーをしている。セイバーは薄着なのに寒さをあまり感じていないようだ。

「セイバーは寒くないの?」

「はい。特には」

「スゲーな。僕らは十分寒いよ」

慎二は肩を震わせて寒いアピールをしている。気温は徐々に高くなっているが、吹き付ける風の冷たさは未だに厳しい。腕時計に目をやる。時刻は7時半を差している。周りには俺達と同じ学校に通う生徒が急ぎ足で歩いているが、俺達は流れに逆らうように新都に向かう。すれ違う度に交わされる挨拶。その1つ1つに返事をする。今までの努力の成果はこういう所に現れている。

「シロウ。私達は学校に行くのではないですか?」

「ああ。けどその前に服を買いに行く。遅刻は仕方がない」

「はあ。そうですか」

やはり生前は王として規律を守り生きてきたのだろう。こうして遅刻をすることにも僅かな抵抗を感じるようで、周りをチラチラ気にしている。さらに周りがセイバーをよく見るというのもあるかもしれない。彼女の美貌に多くの人間が驚き、羨み、視線を送っている。それらが混ざり合い彼女はこうしてチラチラ周りを見ているのだろう。

「気にすることないよ。セイバー」

セイバーは何をとは言わず、理解したようだった。

「はい。分かりました」

優しい笑みを浮かべて言ってくれた。

道中他愛もない話に花を咲かせ、新都に向かう。セイバーは最初の内は気まずそうな表情を浮かべていたが、今は俺達との会話を楽しんでくれているようだ。笑顔を増え、セイバーが色んな話をしてくれることもある。それが嬉しかった。人が笑顔になるのは嬉しい。それを俺自身が成すことが出来たのならもっと嬉しい。暖かな心のまま新都へと歩みを進めていく。

新都についたのは8時を少し過ぎた時間だった。学校は既に始まっていて遅刻だが、俺と慎二は元から気にしていないし、セイバーももう気にしていないようだった。店を回りたいが開くのはもう少し時間が経ってからのようだった。

「セイバー。これからこの地で戦うことになる」

一転して真面目な雰囲気になるが、彼女はすぐに順応していた。

「はい。承知しています」

真っ直ぐな視線。強い言葉。それで確信した。この聖杯戦争は大丈夫だと。

「分かってるならいい。それで今から少しこの街を案内しようと思う」

「ありがとうございます」

優しく微笑むセイバー。本当は行きも案内したかったが、生徒の行き来もあったし何よりセイバーが戸惑っていたから帰り道を使って案内をすることにした。

「よし。じゃあ行きますか」

「はい」

ゆっくりと新都を練り歩く。

 

 

 

「シロウ。1ついいですか?」

「ああ。でも少し待ってくれ」

「士郎。セイバーにはこういうのも似合うと思う」

「おお。中々いいな」

慎二が持ってきた服を手に取る。セイバーのイメージとは正反対に位置するシックな黒のドレス。街中で歩くのも問題ない。寧ろ夜新都に出掛けるならこのくらい大人びていた方がいいかもしれない。試着室の中で赤面するセイバーの前に翳して見てみる。セイバーが今着ているのは、白のワンピースに青のカーディガン。如何にもセイバーらしく、少し幼い部分も残す彼女のイメージにも合っている。既にお買い上げが決まっているカゴの中には白のシャツと青のスカート。イメージとはまた違う迷彩柄のタイトスカートと赤のニット。それとジャージャンにキャップ。スニーカーも買った。セイバーは何を着せても抜群に似合い、可愛らしい。最初は軽い買い物のつもりだったが、今では絶賛買い込み中である。

「セイバー。次はこれを来てくれ」

慎二が持ってきた黒のドレスを差し出す。セイバーは渋々受け取る。だが、中々試着室のカーテンを閉めようとしない。露出プレイなのだろうか。セイバーはそっちの趣味があるのだろうか。

「あのシロウとシンジにお話があるのですが?」

「うん?どうした?」

2人でセイバーを見る。セイバーは言い淀んでいるが、意を決したように言った。

「街の視察はどうしたのでしょうか?」

「「あ」」

時計を見る。既に時刻は11時半を回っていた。この店に来たのが、8時半だから実に3時間以上も入り浸っている。周りには多くの女性客がおり、楽しそうにこちらを見ていた。

「とりあえずそれ着て見て」

「ふん」

セイバーは拗ねてように強くカーテンを閉める。それを見て俺も慎二も深く反省した。

 

店を出て、小腹が空いたため歩きながら食べれる物を買い今度こそ視察に向かう。セイバーは店を出てから暫くは不機嫌だったが、食べ物を買えばご機嫌になった。食費も服のお金も勿論俺と慎二が出した。中々掛かったがそれは仕方ない。店員さんに2つの袋に入れてもらったセイバーの服を慎二と1つずつ持つ。

「次はどこに行くのですか?」

「ああ。次はな」

次の場所を言おうとすると、ビル群の方が騒々しいのに気が付いた。嫌な空気が漂っている。人の生死に関わることが起こっている。直感的にそう感じた。

「慎二。セイバー」

2人に向き合うと共に真剣な表情で頷いた。予定を変更し騒々しいビル群の方へ向かう。辿り着くとそこは好奇の空気が渦巻いていた。見上げる程高いビル。冬木の中でも一際高いビルの名前は桐山貿易本社ビル。その前に(おびただ)しい程の野次馬が集まっていた。お昼の休憩中という時間も相まって、人の数は凄まじい程だった。その中心には多くの救急車が止まり、中から人が運ばれてくる。野次馬の声に耳を澄ませば、また昏睡事件だってよ。そう聞こえた。被害者は全員が酷い状態であることが容易に伺えた。状態から察するに庄山薬品の事件と同様の物に思える。被害者の状態が何よりも顕著に示していた。2人も黙って見守っていたが、セイバー突然小声で話始める。

「サーヴァントの気配を感じます」

息を呑む。この民衆の群れの付近にサーヴァントがいる。

「本当か?」

黙って頷く。セイバーの言葉を信じ意識を集中させる。2人も同様に意識を集中し、周りを確認していた。瞬間強い風が吹き付けた。無意識に目を閉じる。風は収まり目を開ける。無意識に空を見た。広がるのは新都のビル群。災害からの復興の証。その屋上。紫の髪を靡かせた女が下を見下ろしているのを見た。

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