IN<インフィニット・ネクスト>   作:金蔵

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終焉と始動

 人間は罪深い生き物だ――

 

 それは最初の人間たるアダムとイブが、神の教えに反し禁断の木の果実に手をだした時から消える事の無い真実――

 

 罰として神は二人を楽園から追放し、苦労して地を耕さねば食糧を得られなくした――

 

 

『第一段ロケットブースター――燃焼終了。機体からの切り離し――確認。続いて、第二段ロケットブースター――点火』

 

 

 ならば、更なる過ちを犯した人間は如何なる罰を以て償えば良いのだろうか?――

 

 その為には、さまざまな代償が求められる――

 

 その最も代表的な物が……死だ――

 

 

『第二段ロケットブースター――燃焼終了。機体からの切り離し――確認。続いて、第三段ロケットブースター――点火』

 

 

 だが、これは場合によっては加害者の自己満足にしか過ぎない――

 

 被害者が加害者の死を望まない限り、加害者は例えどんな辱しめを受けようと生きなければならない――

 

 しかし、逆に被害者が加害者の死しか望んでいなかったら?――

 

 

『第三段ロケットブースター――燃焼終了。機体からの切り離し――確認。着陸目標まで――距離300。対象軌道への最適入射角――算出。高精度スラスター――起動。軌道進入――開始』

 

 

 それしか償いの選択肢は無いのだろうか?――

 

 加害者は死以外を望む事は許されず、生きる行為自体が更なる罪になるのだろうか?――

 

 そして、――本当に、死を以て罪が償えるのだろうか?――

 

 

『着陸まで、――3――2――1――』

 

 無限のように広がる宇宙。

 その中に存在し、地球の唯一の衛星である天体――月。地球から約38万キロ離れ、その環境はあらゆる生命の存在を拒絶する。

 遥か昔にアメリカが、人類で初めて降り立った地に巨大な何かが降り立つ。高さにして約15メートルといったところだろうか。人型で穢れ無き純白の色を持つ其れは、体が全て人工の装甲で覆われており、背部に一対の機械の翼を持つ姿は正しく機械天使と言った言葉が似合うだろう。

 そしてその天使を操るのもまた、創造主たる人間であった。

 

『月面着陸成功。パイロット及び機体各所に異常無し』

 

 脳に直接流れ込む様に聞こえる音声。耳で聞く必要がない為、一字一句聞き漏らす事がない。

 

「了解だ。……それと、戦闘に支障が出る。VOB(ヴァンガード・オーバードブースト)ユニットをパージしてくれ」

 

 そして、その声に返答する青年と思われる声。

 

『了解。パージします』

 

 声と共に機体の後方にマウントされていた巨大なロケットユニットの基部が切り離され、空中分解する。

 同時に、コクピットに鳴り響くアラート音。

 

『センサー及びレーダーで、こちらに急速接近中の物体を確認。数――6』

 

 目視では一切確認できない。しかし、高性能電子機器類が集めた情報が確かに何かの接近を感知し、間を置かずしてより詳細な情報が脳に流れ込む。

 

『形状、搭載兵装、カラーリング、機体出力などから≪粉砕者≫最終ロットと判定』

 

 眼球の角膜に搭載された小型ディスプレイに敵機の姿が映し出される。20メートルの巨体を黒色を基調とし、所々にまるで血管の様に流れる赤のエネルギーラインがその禍々しさを象徴していた。

 

『危険指数をAに設定、ジェネレーター出力を戦闘モードに移行』

 

 言い終わるや否や、機体に搭載された常識外れの出力を誇るジェネレーターから膨大なエネルギーと、放射能など比にならない程の汚染物質が、隔離施設を優に超える濃度で生み出される。

 そして――

 

『プライマルアーマー――展開』

 

 生み出された汚染物質が機体周囲に展開。不可視の障壁が圧倒的な密度と強度を以て月面を抉り、人工のクレーターが出来上がる。

 

『VQB(ヴァンガード・クイックブースト)――起動』

 

 背部の翼が浮かび上がると、一定の距離を保ち機体に空中固定される。その光景は先ほどの不可視の障壁の件と相まって、最早魔法の域に達している様な光景だった。

 これで全ての準備は整った。

 

『ホワイト・グリント・セラフ――起動。システム、戦闘モードに移行します』

 

 敵との距離は直線距離にして約20キロ。普通なら、メインブースターを使って徐々に戦闘が可能な距離まで接近するべきだが、――生憎と、敵の性能にこちらも合わせて戦う気は無かった。

 障害となるものは全て排除するだけだ。

 

「奴らにこちらの性能を解析させる暇すら与えるつもりは無い。……一気に仕掛けるぞ」

 

『了解です』

 

 その言葉と共に、VQBにエネルギーが流れ込む。

 

 

 

 敵のセンサーからも、目標に――より正確には二基の巨大なブースターにエネルギーが収束する事は感知していた。

 だが、次の瞬間には膨大なエネルギーの残滓を残し、目標をロスト。レーダーで索敵を行おうとするが……それすら叶わなかった。

 一体、どのような方法を使ったのだろうか。

 一瞬で20キロの距離を詰めた機体は、敵機の背後で右手に持つ大口径ハイレーザーライフルの銃口を頭部に押し当てていた。

 引き絞られる引き金。

 銃口から放たれる極太のレーザーが、センサー及びレーダーなどが搭載された≪粉砕者≫の頭部を消し去る。

 同時に左手をコア部に突き刺し、無理やりジェネレーターを引きずり出すと握り潰す。

 動力源を失った≪粉砕者≫は、成す術も無く機能停止に陥り、無重力空間をただ漂うだけの藻屑と化した。

 

『ターゲット1、撃破』

 

「まずは……一機目」

 

 余りの一方的な状況に残り五機は一瞬、機能不全に陥るが無人機たる≪粉砕者≫に動揺という物は存在しない。

 すぐさまお互いにデータリンクを行い、機械ならではの凄まじい連携攻撃を仕掛ける。

 だが≪熾天使≫と≪粉砕者≫の差は、その程度で埋められる領域を超えていた。

 まず二機が、両腕に装備された巨大なレーザーブレードで前後から挟み打つ形で切り掛かってくる。その切り掛かるタイミングも、若干のズレを作る事で回避を困難にしている。

 しかし≪熾天使≫は一歩も動かず、プライマルアーマーに前後からレーザーブレードが襲い掛かる。≪粉砕者≫も攻撃が直撃し、そのまま断ち切ろうと機体出力を上げるが同時に異変にも気付く。プライマルアーマーを断ち切ろうとするブレードは、まったく動かないどころか接触部分から徐々に消滅していったのだ。

 ブレードが通用しないとわかり、次の攻撃に移ろうとするが……遅すぎた。

 左右の肩に搭載されたブースターを前後逆に噴射することで自機を支点に急速旋回、同時に左手に装備された金色の粒子を放出する菱形の物体を振る。

 金色の粒子が円を描きながら二機に襲い掛かり、接触面は光子を巻き散らしながら消滅した。

 

『ターゲット2及び5、撃破』

 

 残り三機。

 接近戦は危険と判断したのだろう。急速に距離を取ると、二機が無数のホーミングレーザーを放つ。

 無論、ブレードを無効化したプライマルアーマーの前では何の意味も無い。無数のレーザーは機体に直撃する前に掻き消され続けるが、同時にセンサーでエネルギーの収束現象を感知する。

 

(なるほど……考えたな。レーザー弾幕を張ることで、足止めとセンサーによるエネルギー探知を誤魔化す気だな)

 

 しかし、この機体に搭載されたレーダー及びセンサー類は、その辺の電子機器類とは一線を画する。

 正確な方角、角度、距離を算出すると、先ほど使用したクイックターンで瞬時に収束を行う敵機を正面に捉える。

 収束完了までまだ時間はあり、右手のレーザーライフルで狙撃するが、前方に展開されたバリアーに阻まれ撃破の為の有効打にならない。

 

『エネルギー方式のバリアーを確認。YAMATOの使用を提案します』

 

 バリアーを突破するには火力不足と感じたのだろう、使用兵器の変更を提案してくる。

 

「了解だ」

 

 二基のVQBにそれぞれマウントされた大型兵器の片方を使用する。展開された物は大口径長距離砲と言う名が相応しい兵器で、長い銃身には複数の装備がなされている。

 だが、これはただの運動エネルギー兵器ではない。銃身の装備が放電し出すと、大質量の弾頭が膨大な電力を使用した超電磁誘導により発射される。

 脅威的な速度で発射された弾頭はバリアーを貫通。≪粉砕者≫の装甲をも貫通して内部に進入した後、弾頭の高性能炸薬が爆発。木端微塵に吹き飛ぶ。

 

『ターゲット4、撃破』

 

「残り……二機」

 

 そう言って残りの二機を視界に捉える。

 だが、様子がおかしい。敵機のエネルギーラインの輝きが増していってる。

 

『敵機、リアクターの暴走を確認。自爆します』

 

「くだらない手段だな。AA(アサルト・アーマー)を使って爆発を相殺する」

 

『成功確率――99.83%。了解です』

 

 同時に起こる眼前の敵の自爆。リアクターにより生み出された二つの爆発が、こちらに迫ってくる。

 

「AA――起動」

 

 ≪熾天使≫を中心に急激に収束する汚染物質。高すぎる密度に機体周囲の空間に歪みが生じる。

 遂に限界に達した収束が解放された。反応炉によって生み出された爆発と、放射能すら凌ぐ汚染物質の爆発。

 どちらが勝っているかなど、火を見るより明らかだった。

 二つの反応炉の爆発は、それすら超える爆発に飲み込まれ消滅した。

 

『戦闘終了。続いて最優先目標に向かってください』

 

「了解。グラウンド・ゼロに向かう」

 

 背部ブースターが展開。三対六基になったブ―スターから推力が生み出される。

 

『これより、『プロジョクト・エンカウンター』最終段階に移行します』

 

 

――これが、俺の最後の戦いになるはずだった。だが、それでも運命の歯車は止まらない――

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