ビリヤードとは、ラシャと呼ばれる布を張ったスレートのテーブル上で
「キュー」と呼ばれる棒を使い、静止している球を撞き、
別の球に衝突させてそれらの球が起こすアクションを
自分の思い通りにコントロールしようとすることを目的とした競技である。
ビリヤードは常に一人でテーブルへ向かってプレイを行い、静止した球を撞く。
そのため対戦相手と直接球を撞き合うことはなく、
ショットの成否は全て自らのプレイによる結果となる。
また、体格や体力において優れていれば必ず勝てるとは言えず、
技術の熟練度やプレッシャーに負けない精神力、
集中力を備えているほうがよい結果を残すことが多い。
技術の緻密さ、ゲームを有利に進めるための戦術を競う競技であることから、
メンタルスポーツのひとつとされる。
第十四話「波紋の真髄」
マウスシードの追手を振り切った俺とジョースターは
その足で古ぼけたビリヤード店に入った。
実をいうと俺は中学校の頃からビリヤードは嗜んでいたので
それなりの自信はあるため、ジョースターに勝てるに自信があった。
「お前、その顔はビリヤードをやったことがある顔だな。
とりあえずナインボールでいいな」
お互いの実力を測ったり、ただ単に遊ぶならばナインボールは最も適切で簡単なゲームだ。ふたりで白い手球を撞き合って、9つのボールを落とし合う。
ジョースターは適当にキューを選び、今回使われない10番のボールを手に取った。
俺はそんな適当なジョースターとは違い、店の中にあるキューを一本、一本手に取り時間をかけて選んだ。キュー選びから勝負は始まっているからだ。
11番のボールを手にし、キューの先端にチョークを擦りつける。
これは滑り止めの効果があるため、ビリヤードをやったことあるものなら必ず行うが
ジョースターはそれすらせずに悠々としていた。
「とりあえずパンキングといこうか」
お手柔らかにと軽く一礼しヘッドレール側にふたりで並ぶ。
フットレールに向かって構え、身を沈めると、浦島はその緊張感を思い出して再び頬を緩めた。
ふと横を見ると、形はそれっぽいものの、まるでブリッジが組めていないジョースターがそこにいた。
―こいつ、素人だな。
同時に打ったボールは俺の11番がフットレールに近いため、俺の先攻となった。
対するジョースターは完全に芯を外し、まっすぐにすら飛ばせていなかった。
「ジョースター、あんたさっき『娘が日本人に嫁いで行った』て話していたが
あんた一体いくつなんだ?」
「そいつを聞いてしまうか。俺は今年で40....ホリィもなんで日本人なんかに
嫁いで行ったのか....おかげで会いたくても地球の真後ろまでいかんとならない」
「今年で40か.....えぇ!!!今年で40????」
今年で40の体には全く見えないぞ。
肌だってつやつやしてるし、どっからどう見たって20代後半のいい感じの兄ちゃんにしか見えない。
「これも波紋の呼吸によるものよ」
綺麗なダイヤ型に組んだラックに向けて、ブレイクを打つよう浦島に促した。
心を落ち着かせるため、深呼吸し慣れ親しんだフォームを取る。
ブリッジはスタンダード。
キューの真上に真っ直ぐ顎が乗るように。
ストロークはリズムを持って真っ直ぐに。
パワーショットよりもほんの少し弱めの力で。
撞いた後もフォロースルーは大切に。
乾いた懐かしい音を響かせ、白球がボールが散らせたのを確認し、キューを上げる。
クッションには二番と四番がポケットに入った。
「ヒュー、ナイスショット」
それに軽くはにかんで答える俺。
マスワリでもしてみるかと思ったが、そこまでに実力は俺にはなかった。
一番と三番、そして五番を落としたところでジョースターのターンとなる。
組めていないブリッジ。
ぎこちないストローク。
これはファールで終わりそうだなと思った瞬間、俺は目の前の光景を疑った。
ジョースターが放った手玉は六番を落とし、七番、八番を三つ連続でポケットに入れたのだ。
「これで終わりだな」
難なく9番をポケットに入れると、ジョースターは勝ち誇った顔で浦島を見つめる。
「まあビギナーズラックという言葉もあるし、最初ぐらいは勝たせないとな」
負けた俺はしぶしぶラックを組み直す。
この時俺はすでに波紋の修行が始まっていたことなど知る由もなかった。
―数時間後―
「いくらなんでも俺が一回も打つことが出来ないで負け続けるなんておかしい!!
ジョースター、あんたインチキしてるだろう?」
そりゃそうだ。最初のゲームから一度も俺が打つこと出来ずに終わるなんておかしい。
ましてやブリッジもまともに組めない奴に負けるなんて、ありえない。
「インチキはしていないいぞ。キューだってこの店の物だし、ボールだってこの店の物だ。
何よりあんたがずっと監視役なのだから、イカサマなんて出来やしないさ」
「確かにそうだが.....」
言い返す言葉などなかった。
しかし、俺のプライドが素人に負けたことを許せなかった。
こうしている間にもジョースターは悠々とブレイクショットを放つ。
また、一人でマスワリか....
消えかけた蝋燭のように死にかけた目でジョースターのショットをみていると
俺はあることに気づく。
ジョースターは呼吸のリズムが普通の人間とは違うのだ。
それは改造人間である俺でも真似は出来ないものであった。
―あれがボールを自由自在に操ることができる秘密だな。
だが、それに気付いたところでどうする事も出来ないのもまた事実だ。
呼吸をやめさせる....そんなことをしたら呼吸困難で死んじまうからな。
だったら呼吸のリズムを乱すことはできるんじゃないか?
例えば話しかけて、相手をびっくりさせるようなこと出来れば
いくらジョースターとはいえ、呼吸のリズムを狂うはず。
「ジョースター、実は俺、この世界の住民ではないんだ」
「そうだろうな」
この核爆弾級のカミングアウトで驚かない奴はいないだろうと放った爆弾は
見事に撃退された。
「実は俺、人間ではなく改造人間なんだ」
「そりゃあ、目の前で変身されたら普通の人間ではないことなんてわかっているさ」
何事もなかったのように淡々とボールをポケットに入れる。
こいつには俺の心が見透かされているのか?
ジョースターの心はまるで柳のようであった。
どんな風や雨が来ようとそれを受け流し、そこに立つ姿はまさにそれが相応しかった。
ならばこれならどうだ。
「なあジョースタ―、こんな話を知っているかい?
俺が住む日本には土方歳三という武士がいてね。
そいつはかれこれ100年前に死んだはずなんだが、
今なお日本でひっそりと生きていて、マンガを書いているんだってよ」
「そんなバカなことがあるわけないだろう。だって100年前と言えば
俺の爺さんのいた時代だぜ。そんなのがいたら吸血鬼としかいいようが....」
―かかった!こいつがマンガ好きなのはバッグの中にある『のらくろ』を見て
筋金入りのマンガコレクターだということは見えたんだ。
つまり少なからず日本の漫画への関心はあるということ、
だったら、この話題には食いつくはず。
俺はジャケットの内ポケットから素早くスマートフォンを取り出し
画像フォルダから土方歳三と現代でひっそり漫画を描いている土方歳三の画像を見せた。
「ジーザス!!!こんなことがあり得るなんて、
日本人はいったいどうなっているんだッッ!!!」
完全に呼吸のリズムは乱した。
あとはミスショットを待つだけ。
ジョースターのショットはそれまでの絶妙なコントロールを失い、ファールボールとなった。
テーブルにあるボールは6番、7番、8番...そして9番。
呼吸は乱さず集中力を高め、ボールの芯を狙い打つ。
ただ一点にめがけそキューを放つのだ。
呼吸....その呼吸はいつの間にかジョースターのように特殊な呼吸となっていた。
「こいつ....才能あるな....」
ぽつりとジョースタ―が本音を漏らす。
しかしその言葉は集中力を極限まで高めた浦島の耳には届かなかった。
浦島のショットは見事6番ボールを落とし、7番ボールを落とす絶好のポジショニングを取った。
「ここで俺に勝てば、波紋の極意をお前に教えてやろう。勝てればの話だがな」
浦島に対し、プレッシャーを放つジョースタ―。
だが、浦島とて何度も苦難を乗り越えてここにいる戦士だ。
そう簡単にプレッシャーで崩されることはない。
呼吸のリズムを整えた浦島は7番ボールを絶妙な力加減でポケットに入れた。
「...あと二つ」
キューを立ててチョークを擦りつける。
その眼は完全に獲物を狙う勝負師の眼になっていた。
「ところでお前さん、いったい何のために戦っているんだい?
まさか理由もなく戦っているなんて言わないよな~?」
今までとは違う重い質問がジョースターの口から発せられた。
この問いにどう答えるか、それがこの試練を乗り越えるターニングポイントになるだろう。
「俺は....」
浦島の呼吸に乱れはなく、8番ボールはポケットに入った。
だが、9番ボールと持ち球は対角線の位置にあるため、少しでも力を入れてしまえば
9番ボールともに持ち球もポケットに入り、浦島の負け。
力を緩めすぎれば、ボールに当たらずファールボールになり、
ジョースターのターンで負けとなる。
ここ一番の場面で浦島はジョースターにこう答えた。
「...俺は人間の持つ愛と正義のために戦う...それが俺の戦う理由だ...」
呼吸が安定し、波紋エネルギーが浦島の体を纏う。
9番ボールに狙いを定め絶妙な力加減で持ち球は9番ボールをポケットに入れた。
持ち球はそのまま勢いをなくし、ポケットに入るギリギリのところで止まった。
この瞬間浦島の勝利は決まったのだ。
「おめでとう浦島 空也。お前は波紋の極意を身につけた」
「えっ??そんな簡単に??」
「そうだ。波紋の呼吸とはどんなことがあっても乱れない精神と肉体が必要なんだ。
肉体の方はすでに出来上がっているようだったから、後は心の問題だった。
お前は俺のプレッシャーに耐え、
俺の呼吸を真似することによって、波紋の呼吸を手に入れたんだ」
「ありがとうジョースターさん、これでマウスシードと戦えるぜ」
修行を成し遂げた浦島の瞳は快晴の空のように晴れていた。
もうすぐ夕刻そろそろマウスシードたちが動き出す時間だろう。
俺とジョースターさんは店を出て、そのままライトチェイサ―であの施設に向かった。
だが、施設はもぬけの殻だった。
地下の倉庫を見つけるとそこにはどうやら奴らの作戦地図があった。
『ベルリン空襲計画』
そう奴らはマウスシードを航空機からベルリンに降下させ、
街を吸血鬼の巣にしてしまおうという恐ろしい計画を立てていたのだ。
「今からここを出て間に合うのか?」
一刻の猶予もないなか、浦島とジョースターは猛スピードでベルリンに向かった。
奴らがベルリンに降下するまであと3時間....
ビリヤード編終了しました。
駆け引きが難しいですね。
ジョジョ編は今年中に終わらせるのが目標です。
ジョセフの口調が怪しいので
もし違和感がありましたらご指摘おねがいします。