俺だって人間だから、これからどういう人生を歩んでいくか考えてはいたさ。
大学を退学したって、社会でやっていく自信があったし
明日の飯さえ食べていければよかったんだ。
高望みもない、ただ平凡な人生が欲しかった 。
それなのになぜ、こんな体にならなきゃいけないのか。
俺はいまだに現実を受け入れられない。
鏡に映ったバッタの怪物が、今の俺の姿なんて….
第二話「逃亡」
鏡を見てから数時間がたった。
俺の体はいつのまにか人間だったころの姿に戻り
なんとか精神的に落ち着いていられた。
―今のは悪い夢だったんだ。
そう自分に納得させようとするも、体に刻まれた手術の跡が痛々しく残っていては
あまり意味ない。
だが、少なくても自分が怪物と認識してしまうことよりは、はるかにましだった。
すると突然ベッド横のテレビの電源がつき、あの少年の姿が映し出される。
「おはようNo9。気分はいかがかな?」
あの屈託のない爽やか笑顔がこの世の何よりも憎い。
「久しぶりの成功品だしね。君には期待しているよNo9。
さっそくで悪いけど、君に働いてもらうよ。まずは『種』の回収をしてもらおうか。
No6との共同作戦だけど、がんばってね。」
テレビの横から扉が出てきて、クモの怪人が待ち構えている。
俺の意識はあるのに、体が勝手に動く…
まるで操り人形のような感覚だ。
俺の人間としての自由は奪われたのだ。
☆☆☆☆☆
一時間くらいだろうか、黒い背広の男の運転で
俺とクモの怪人はある施設に向かった。
到着するとそこは病院だった。
人間の姿にもどっていたので、病院に入れた俺たちは
隣にいたクモ怪人から今回の任務が聞かされる。
「今回の任務は大和乗組員の赤松大輔の種を回収することだ」
さっきから気になっていたことをクモ怪人に聞いてみる。
「さっきから気になっていたんだがよ、(種)って何だ?何でお前らは回収するんだ?
何で大和の乗組員が(種)を持っているんだ?回収して何をする気なんだ?
俺も知る権利はあると思うぜ。クモの旦那よ?」
クモの怪人は顔色一つ変えずその疑問に答えた。
「(種)というのはソウル・シードのことだ。この種は我々人類に進化を促してくれる魔法の種だ。
これを体内に入れられることによって、お前や私は人類から新人類に進化したのだ。
大和の乗組員皆は(東京湾海戦)の前にプロフェッサーCによってソウル・シードを植えつけられた。 プロフェッサーCが言うには人類の生存本能が黄金の種に良い栄養となるのだ。
だが、あれから20年の月日が経つのに大和乗組員から進化したものは誰もいない。
ソウル・シードも無限ではないからこうして回収しているのだ。
そして回収したソウル・シードすべてプロフェッサーCの下へ集められる。
プロフェッサーCは何かを建設しているようだが、私にはわからないな」
「大体のことはわかったぜ。それからこれはあんたに対しての質問だが、
あんたこの体になったことをどう思うんだい?」
俺はこいつを信頼しているわけではないが、今自分の置かれている状況を理解できるのは
こいつしかいないので、とりあえず聞いてみた。
だが、信頼していないのはこいつもいっしょだった。
「貴様に言う義務はない」
気のせいだろうか、先ほどまでこいつは感情を一切態度に表さなかったのだが
病室に近づくにつれ、息が荒くなり、どこか落ち着きがない。
まるで、餌を見つけ尻尾を振ってはしゃいでいる犬のようだった。
そんなことを考えていると
赤松大輔の病室の前まで来た。
彼はどうやら交通事故で怪我をしたらしい。
中をのぞくと子供が二人いた。
兄と妹だろうか、まだ二人とも小学生にもなっていないようだった。
「こんにちは、赤松さん。例のもの回収しに来ました」
そういうと隣にいた男はクモの姿に変わる。
子供たちが悲鳴をあげ、駆け付けた警備員二人が警棒で抑えようとするが
全く歩みを止めないクモ怪人に糸で縛りあげられ窒息死した。
「やっぱりいいな~人を殺すっていうのは。
そいつの今までの人生が俺の手によって無駄になるんだからよ。
シードに選ばれて最高に幸せだぜ。おい、No9。お前も人を殺してみろよ。
病みつきになっちまうぜぇ~」
さっきまでの冷徹な姿は仮の姿だろうか、こいつの本性は快楽殺人者なのだ。
俺自身の体もさっきからおかしい。
体が熱い。体の底からマグマのような血があふれだすような感覚だ。
ベッドで恐怖に駆られる子供たちを抱いている赤松がこう言ってきた
「おい、お前はあのガキの部下だろ?お前の目当ては俺なんだから、子供達には手を出すな。」
そこには子を守る父の姿があった。
俺にはわからなかったが、あれが「父親」というものなんだろうか
子供の守るために自らを犠牲にしてもかまわないという覚悟。
その背中を見つめる子供たち。
こうして子供は育っていくのか。
そんなことを考えていると興奮気味なクモ怪人は
「ダメだね。子供に俺の姿を見られたんだから
そのガキどもは始末しないとね。ガキの悲鳴は最高にキモチイイカラナ。」
クモ怪人は子供を守ろうとする赤松を壁に投げ
子供たちを手にかけようとする。
「さぁ~て、どうやって楽しもうかなぁ。」
おびえる子供たち…
守りたくても守れない父親…
迫りくるクモ怪人の魔の手….
俺は自分の内側から、自分ではない誰かの
「殺せ」
とういう欲求を抑えるので精一杯で
指一つ自分の意志で動かすことができない。
自分ではないものに体を支配されている感覚。
子供たちの首をクモ男が締め上げる。
……た……す…..け…..て…..
そのちいさな叫びは
俺の中の何かを断ち切らせた。
―子供たちを殺させはしない
次の瞬間俺はバッタの怪人の姿になって、クモ怪人に体当たりをしていた。
クモ怪人は吹っ飛び、壁に吹っ飛んでいた。
子供たちは目を丸くしている。
「早く逃げろ」
俺がそういうと子供たちは我に帰り、赤松さんの下に逃げていった。
瓦礫からクモ怪人は
「何のつもりだぁ?」
と狩りを邪魔された猛獣のような目で、俺をにらんでいた。
「お前の狩りを邪魔したくなっただけだ」
俺はそう一言だけ言った。
そしてクモ怪人との間合いを詰め、拳を浴びせた。
クモ怪人は右手で防御をしようとしたが
右手は俺の拳によって吹き飛んだ。
「グアァァァオオオオォォォォオ!!!」
クモ怪人は苦痛をあげる。
隙を逃さず、わき腹に蹴りを入れ、クモ怪人は血を流した。
それは真っ赤な血だった。
「化け物でも真っ赤な血の人間と変わらないんだな」
一瞬の隙を突かれ、クモ怪人の糸で
首を絞められてしまった。
切ろうにも、鋼鉄のような硬さでなかなか切れない。
「ギザマハコロス。ウラギリモノハコロス。」
クモ怪人はさらに糸を締め上げ
俺の意識が遠退いてきた。
―このまま親父のことも知らずに死んでいくのか
―死ぬんだったら、もっとマシな死に方が良かったな
何もかもあきらめかけたその時
「がんばれ」
「まけないで」
どこからかそんな声が聞こえた。
あの兄弟たちだった。
―あんな小さな子供たちがこんな怖い目に逢ってるのに
生きる希望を捨ててないのだから
俺が生きるのをまだ諦めてはいけないな。
最後の力を振り絞り、クモ怪人の糸を切りにかかった。
クモ怪人の糸は見事に切れ
あわてるクモ怪人に渾身の蹴りを浴びせた。
「グアァァアオッォォォオアォォオォ!!!!!」
クモ怪人は悲鳴とともに窓から落下し、爆発を起こした。
燃える炎の中で俺はこの体で生きていくことを誓った。
そしてこの誓いを立たせてくれた子供もたちにお礼を言おうと近づいた瞬間
「その子たちに近づくな!!!!化け物!!!!」
あれは母親だろうか。
その表情は化け物に対する恐怖と
子供たちを危険から守ろうとする親の表情だった。
―化け物に襲われる子供にしか見えないもんな。
詮俺は化け物なんだ…
奴と同じ…
バケモノ….
俺はその場から逃げた。
夜の闇の中に隠れるように逃げた。
その仮面の下では涙を流しながら…
以前執筆していた話に修正を加えました。
戦闘シーンに迫力がないので、自分の力のなさを痛感しました。