仮面ライダーLOST   作:九番ライト

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第十九話「男はつらいよ(その二)」

この感覚をなんと言い表したらいいか、正直俺には分からない。

 

俺の中にいるもう一人の俺....

 

そんないいもんじゃない。

 

赤の他人が俺の中に住んでいるんだ。

 

もしかしたら変身にも影響が出るかもしれない。

 

なんとかしてこの状況を打開しないとな。

 

「前みたいに美神さんと合体するならまだしも、

 なんでこんなむさくるしい男の中にいなきゃならんのだー!!

 早くここから出してくれー!!」

 

俺の中にいる居候が俺の口を勝手に使って泣き叫ぶ。

 

「うるさい!俺だってこの状況を早く打開したくてしょうがないんだ!!

 つべこべ言わずにおとなしく俺の中で寝てろ!!」

 

周りからしてみれば、実に滑稽な光景だろう。

なんせ俺が一人芝居をしているようにしか見えないんだから。

 

美神の事務所に連れてこられた俺は、一見普通の美人のアンドロイドに手足を椅子にしばりつけられ

逃げられないようにされていた。

幸か不幸か、口は自由にできるため、このようなしゃべることができるのだ。

 

「アンタたちちょっと黙ってなさい!!!」

 

美神の怒号に反応し、思わず黙る俺たち。

 

この奇妙な生活はいつまで続くのか?

 

それは神のみぞ知るってところだな。

 

「小竜姫さまは本人たちの努力次第言ってたわよ」

 

「神様に知り合いがいるのか....世の中は広いな」

 

 

第十九話「男はつらいよ(その二)」

 

 

「横島の体の方は、カオス式冷凍カプセルⅢ号に入れておいたから、何十年でも保存できるぞい」

 

長いマントを着た長身の老人は、美神に仕事を終わったことを告げに来た。

 

冷凍カプセルなんて数時間でできるような代物ではないはずだが、

この老人は難なくやって見せた。

 

「ごくろうさまDr.カオス。報酬はそこに置いといたわ」

 

「まいどー。しかしこの男の中に、横島がいるのか....

 普通は一つの体には一つの魂しか入らないから、霊的法則から考えて無理なはずなんじゃがな」

 

「確かにそうなんだけどね。横島クンのことだからあの宝石に取り込まれた時に

 文殊を発動させたと思うんだけど、まさかこの男の中に入ったままになるとは....

 文殊の効果も切れないし、小竜姫さまに聞いてもこのケースは珍しいから

 本人たちの努力次第としか言ってないの。横島クン、文殊は出せそう?」

 

今回のケースは、俺の常識が通用しないこの世界にも珍しいことらしい。

神様でもわからんことを誰もわかるわけがない。

 

「それが、出そうと思っても全然出てくる気配がないんすよ。

 いつものペースなら一個作れるはずなんすけど....」

 

横島の意識が俺の左半身を使い、『霊力』を蓄えているのがわかる。

この、体中から湧き出る力は底が見えない位とてつもなく大きな力だ。

 

「文殊が出せるなら、なんとかなったんだけどね....

 もしかしたらこの『ハゲ』の力が横島クンの霊力と混合して

 文殊が作りにくくなっているのかもしれないわ」

 

『ハゲ』高校時代何度そう言われてきたことか。

野球部はハゲではなく、坊主なのだ!!

それに俺は現在『短髪』の部類に入るのであり、けして『坊主』ではない。

 

 

「だからハゲじゃない!!

 俺の髪型は坊主気味の短髪だ!!!

 それに俺は浦島 空也というちゃんとした名前があるんだから、名前で呼んでくれ!!」

 

美神はめんどくさそうに了承した。

いつもの美神なら力で解決する所であったが、今回は横島が体内にいるため迂闊に手を出すことはできない。

それに霊力とは違う謎の力も、浦島の中には存在する。

敵意はないようだが、細心の注意を払っておかなくてはならない。

霊波は人間のものを感じとれるが、肉体がそうではないからだ。

 

「おぬし、単刀直入に言うが、人間ではないな?」

 

Dr.カオスの空気を読まない一言は、静粛な湖に岩石を投げ込むにふさわしい暴挙であった。

もしこいつが魔族であったら、始末しなければならないのは美神であるからだ。

この戦いには一文も金が入ってこない。

これが守銭奴の美神に対して何を意味するか?

タダ働きというとてつもない苦痛である。

 

「横島も気付いていると思うが、確かに俺は人間じゃない。

 ソウルシードを植えられた改造人間だ」

 

改造人間....この単語を聞くのは美神の世界ではTVの中だけであった。

人造魔族のガルーダなどの魔族とは戦ったこともあるが、

人間自身を人の手によって改造してしまうケースはなかった。

 

「ならば納得いくな。こやつの肉体はすでに全身が強化された人造筋肉に覆われており

 精神はあっても、肉体は完全に人間のものではないのだから、横島がここに留まれるも頷ける。

 さらにこやつの発する力は霊力ではないことは確かだが、美神の証言から

 霊的存在に有効なのも真実であろう。つまり貴様の謎の力が、横島の霊力と干渉しあった結果

 横島の霊体は浦島の肉体の中でも存在できるのだ」

 

さすがはヨーロッパの魔王Dr.カオスと呼ばれることはある。

いつものボケ爺ではないと美神ついつい感心してしまう。

 

「まさか『波紋法』が原因だったとは、参ったな。

 ジョセフから、呼吸の止め方なんて教わってないからな~

 俺にはどうすることもできん」

 

波紋法と霊力の意外な結びつきが今回の合体騒ぎの原因ならば、

どちらか一方が自身のエネルギーを止めることが分離するカギだろう。

だが、そう簡単には物事は進んでくれない。

 

「残念ながら、このまま横島の体が浦島の体に留まってしまうと

 横島の魂が浦島の魂に吸収されて、消滅することになるぞ」

 

「横島さんが消滅してしまうんですか!!!」

 

Dr.カオスの驚愕の一言に外に出るよう言われていた他の住民たちが入ってきた。

 

「先生がいなくなってしまうなんて....なんとかしろこのクソ爺!!!!」

 

「解説するくらいなら、解決策を用意しなさいよ!!!」

 

おキヌに続いて入ってきたのは、白い髪のラフな格好な少女と金髪のシックの服をきた少女の二人であった。

 

「やめなさいシロ!!タマモ!!まだ解決策はないわけではないのよ」

 

我を忘れてDr.カオスに詰め寄る二人の制止に入る美神。

そうまだ解決策がないわけではないのだ。

 

「美神さん、解決策なんてあるんですか?」

 

おキヌの一言がこの場にいる一同の期待をを一手に背負う。

 

「簡単よ。文殊で《幽》《体》《離》《脱》を使うのよ」

 

「でも、肝心の文殊がこいつの波紋のせいで作れないんすよ?

 そんななかどうやって作れっていうんすか?」

 

横島の指摘はもっともだった。

いくら文殊が万能だからといって、作れなけば意味がない。

ないものを頼るのは、いくら横島でもできないことなのだ。

 

「横島クン、あんたの霊力の源は『煩悩』よ。

 その『煩悩』は少なくても男である浦島君にもあるはずだから

 二人の『煩悩』を極限まで高めれば、文殊も作れるはずよ」

 

『煩悩』それは横島の中にある様々な欲望が横島の力の源となっている。

その『煩悩』はすさまじく、彼の『煩悩』をしのぐことはおそらく人間ではいないだろう。

浦島も改造人間である前に男であるなら、『煩悩』の一つや二つあってもおかしくはない。

ならば二人でその『煩悩』高めて、横島のエネルギーとして文殊を作り出すことしか

他に方法はないのだ。

 

「わかった。本来の姿に戻れるならどんなことでもやってやろう。

 さっそくだが、何をすればいいんだ美神さん?」

 

方法がこのほかにない以上、実行するしかない。

しかし『煩悩』なんてどうやってためればいいんだ?

 

「俺に任せておけ浦島!!」

 

ここまでうるさいだけだった横島が、水を得た魚のように動き出した。

 

「部下の命のためならしょうがないっすよねー!!!美神さーん!!!」

 

浦島の体を根性で動かした横島は、美神を抱きつこうとする。

その動きはまさに常習犯だからこそできるケモノの動きであった。

 

「やめんかー!!!このバカ!!!」

 

美神の鉄拳が俺の顔にヒットし、事務所の壁に体がめり込んだ。

体は俺のものだから実に痛い....そして制御ができない。

 

「このバカの犯罪を容認することになってしまうとは....

 いい横島クン。もし警察に厄介になることがあったら

 スイス銀行に口座を持つ強面スナイパーがあんたの眉間をぶち抜くからね!!」

 

―ちょっと待ってくれ。

 ということは俺の生命活動にも支障が出るじゃないか?

 

という一言は美神の威圧感に負けて決して口にできなかった。

 

「横島さん、浦島さん。学校の方には来ないでくださいね....」

 

おキヌちゃんの笑顔が怖い....笑顔なのに顔が笑っていないのだ。

 

「わかったよおキヌちゃん....六道女学院には近寄らないから、そんな目で見ないで....」

 

横島も心底おびえているようだった。

 

「先生!!シロもお供するでござる!!」

 

「私もヨコシマについてくー!!」

 

「あなたたちはひのめの遊び相手でもやってきないさい!!」

 

シロとタマモは美神の手によって、別に任務を与えられた。

二人の顔から察するに、結構きつい任務なんだろう。

 

 

「では、横島 忠夫。浦島 空也。パトロールに行ってきます!!」

 

そして目にも見えない速さで俺の体は走りだし、横島と俺の戦いは始まった。

 

そう正義の味方である俺はその職務にあるまじき行為をするのだが、

この時はまだ、いまいちイメージが湧かなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銭湯....そこは人々が日ごろの疲れを洗い流す現代のユートピアである。

普通であれば風呂に入りに行くのが普通だが、横島は「俺に任せろ!!」といって

体の主導権を握っている。

 

こいつに任せたほうがよさそうなので、ついつい体を明け渡してしまった。

そう、それが第一の間違いだったのだ。

 

「おい、横島。これはどう考えても『覗き』だよな」

 

「何を言っている!これは美神さんから直々に命令された。

 『煩悩』をためるために必要な儀式なのだ。

 彼女たちには悪いが、正義のための犠牲になってもらう」

 

銭湯の窓からこっそり女風呂を覗く....これはどう考えても犯罪です。

 

「バカ野郎!!こんな非道徳的なことが許されると思っているのか!!」

 

「おい!あまり動かすな!」

 

いくら性欲旺盛な思春期であっても、非道徳的なことを軍人の端くれでもあった俺が

やっていいわけがない。

横島から体の主導権を奪い返そうと感情が高ぶってしまったのが、第二の間違いだった。

張り込みの基本は自然と一体になること....その基本を自らの手で破ってしまった俺たちに

明るい未来が待っているわけがなかった。

 

「キャー!!!覗きよ!!!」

 

50を過ぎたであろう熟れすぎた果実の一声で俺たちは見つかった。

次々に投げられる風呂桶が俺の体のありとあらゆる箇所に命中する。

 

「とんずらするぞ!!」

 

横島の慣れた足どりでその場を後にする俺たち。

後ろからパトカーの音が聞こえるが、横島は見向きもしないで俺の体で疾風のように走り去る。

 

「横島、お前慣れてるだろ?」

 

「あたりまえだ。次はO大女子寮のテニス部更衣室に突入だ!!」

 

横島の煩悩に押されて、体の主導権を握られる俺。

体は俺だから、万が一指名手配された時には俺の顔が町中に張られることになるだろう。

そうなってしまったら、シード怪人を探すことに制限が出るだろう。

一刻も早く、横島を元の肉体に戻さなければ。

 

男であるがゆえに、本意ではないにせよこのような行為に走るとは....

体がどんどん変質者の道へと突き進んでいく。

 




仮面ライダーWのイメージで描いているつもりなんですが、
横島の煩悩に圧倒されて、体が制御できなくなっていますね。
作者自身もヒーローがこんなことをしてもよいのか疑問に残りますが
そうしないと横島が消えてしまうのでしょうがないでしょう。

あれっ...まだ怪人が出てきてないですね。
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