とある資産家の屋敷。
その屋敷は自然が豊かな山奥にひっそりとたたずんでいる。
屋敷のとある部屋では、キングサイズのベッドにただ一人ポツンと女性が寝ていた。
見るからに痩せ細った体は痛々しく、自慢の長い髪はすべて抜け落ちている。
その瞳からはすでに輝きを失い、まるで屍のようだった。
「ただいま澄江」
大きな扉を勢いよく開けて入ってきたのは、富永 恭一郎。
この屋敷の主人である。
「澄江、食事はまだかな?今日は一緒に食べようか」
そういうと彼は待機していた召使いに澄江の体を車いすに乗せるよう指示し、食堂に向かった。
まばゆい光を放つその部屋のテーブルは、その部屋に似つかわしくない二人用の小さなテーブルであった。
彼と彼女の距離を離れないようにと、富永が運んできたものである。
すでにテーブルには食事が並べており、とても一般人が食べれるような代物ではない。
それがテーブルいっぱいにあるのだ。
「もうすぐ君と出会ってから20年の時間が経つね。
君がいたからこそ僕はここまで上り続けることができた。
君は僕にとっての天使だ。君と永遠の時を過ごすことが、僕の願いだよ」
その言葉に嘘などなかった。彼の一言一言がすべて彼の彼女に対する愛で満ち溢れていた。
だが、彼女は一言もしゃべることもなく、ただ座っているだけである。
一向に食事に手を付けることなく、ずっと目は開いて富永を見つめている。
その風景を怪しむものは、この屋敷で働く者はいなかった。
なぜなら、それを口にすることはタブーであったからである。
もし口にしてしまったら.....それは屋敷の者が最も恐れることが待っているだろう。
彼らはいつの間にか、彼女が食事をしないことに何の疑問も抱かなくなった。
「澄江、僕はあの女から霊力を奪って君をもう一度動けるようにさせてあげるからね。
そしたら一緒に散歩にいこう。緑あふれるこの自然を思いっきり楽しもう」
彼がワインを飲み干すと、富永家の食事は終わった。
何事もなかったように召使いたちは澄江の体を寝室へ運ぶ。
彼女の体から異臭がしようと、彼女らには関係ないのだ。
「澄江、僕は魔族から買ったこのルビーと、あの男からもらったこの種で
君の魂を必ず取り戻す。必ずね.....」
第二十話「男はつらいよ(その三)」
横島と合体してからそろそろ一週間が経とうとしていた。
彼のすさまじい煩悩に付き合わされる浦島は、覗きに明け暮れる日々であった。
その甲斐あってか横島の文殊生成は順調であり、すでに三つできていた。
「もう少しでこの体とおさらばや!
そしたら、さっそくいきつけのビデオ屋であのビデオとこのビデオを見て、それから....」
「そうだな。やっとこの犯罪生活からおさらばか....思えば何度美神さんから殴れてきたことか。
いくらこの体でもあの威力は体にこたえるぞ」
この思春期の男の部屋独特のイカ臭い空間は、横島の家である。
浦島が最初この部屋に入った時よりも、かなりきれいになったが
それでも臭いはなかなか取れなかった。
「おっし、そろそろ飯にすっか」
浦島は干したての蒲団から腰を上げると、台所に向かった。
ここもGが出てきてひどかったが、浦島の掃除おかげでここ数日は見ていない。
浦島が取り出したのはスーパーで買ってきた牛肉。
もちろん半額のラベルが貼ってある商品である。
横島もGSとして成長したため、時給は1000円程度に上がっていた。
それでもこの業界では低いほうである。
「また牛丼かよ。ここ毎日牛丼じゃさすがに飽きるぜ」
横島の言葉に耳を傾けずに、黙々と料理を進める浦島。
そしてできたのが、ミート直伝特製牛丼だ。
おそらく浦島はこのくらいしか料理はできないだろう。
なにしろ高校までは祖母が飯を作っていたし、大学に入ると寮の飯があったので
台所に向かう機会はなかった。
それでも何かを作れる分、日々カップラーメン生活の横島よりはまだマシだったが。
いただきますの言葉とともに、牛丼にがっつく浦島。
キン肉マンに勝るとも劣らない速さで一杯目をたいらげ、すぐに二杯目に入った。
「なあ浦島、明日行ってもらいたいところがあるんだがいいか?」
いつになく神妙な口ぶりで話す横島に何かあると感じた浦島は、
その言葉にただ頷き、三杯目に入った。
遅めの食事が終わり布団に着き、明日を迎えるため就寝した。
もっともこの体なら、三日程度なら寝なくても困らないが、
横島の負担を考えると人間の生活に合わせるべきだと判断したからである。
夢.....
その夢はいつになく悲しい夢だった。
そこに出てくるのは自分ではなく、横島であった。
彼の記憶がフラッシュバックされていく。
美神に時給250円でバイトを申し込んだこと。
幽霊だったおキヌちゃんをはじめ、多くの人と出会ってきたこと。
その最後には魔族の少女が出てきた。
彼女は横島に惹かれ、また横島は彼女に惹かれて行った。
彼女を助けるため、戦士になる覚悟もした。
だが、世界は非常だった。
彼は世界をとるか、愛する人をとるかの選択をさまられていた。
悩んだ結果、彼は世界を取り、手に持っていた文殊で水晶体を破壊した。
そこには世界を救ったという達成感ではなく、何とも言えない虚無感が横島を覆っていた。
彼はこの世界と引き換えに愛する人を失ったのだ。
それでも彼は背負った運命ともに明日を迎えるため生きている。
「どこか似ていると思っていたら、こんな過去があったのか....」
そして夢は覚める。
朝日が浦島を照りつけ、朝であることを知らせた。
今日は朝から美神事務所に出勤しなくてはならない。
いつも着ているフライトジャケットを羽織ると
玄関のドアを開け、空き地に停めてあるライトチェイサーにまたがり
美神事務所に向かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「おはようございます。浦島さん、横島さん」
「おはよう人口幽霊一号」
玄関を開けると、この事務所のセキュリティである人口幽霊一号が挨拶をしてきた。
いつものように台所に向かうとおキヌが朝飯の支度をしていた。
「おいっす!おキヌちゃん」
「おはようございます。浦島さん、横島さん」
おキヌに挨拶すると
浦島は日課になりつつある盛り付けを始めた。
「いつもすいませんね。前は横島さんと美神さんの分を用意すればよかったんですが、
住民が増えたんで、その分早く起きていろいろやらなくちゃいけないんですけど
なかなか大変で....浦島さんが手伝ってくれて本当に助かります」
「いやいやそんな。毎日こんなうまい飯が食えるなんて
ほんとありがたいよ。ほんとは変わってあげたいくらいだけど
俺は牛丼しか作れないから、変わってやれんしな」
「いいんですよ。日課ですから。
それじゃ美神さんたち起こしてきますね」
食事の支度を終えたおキヌは、この家の主人を起こすために台所を出る。
「おっ今日は鮭か。やっぱ日本の朝は鮭だよな~」
何気ない一日の始まり.....しかし、その日常はついに破られる時が来た。
起きてきた美神に今日の仕事を尋ねると、
東京タワー近くビルで仕事が一軒あるだけだった。
一見なにも怪しいところがない仕事であるが、その依頼主が問題だった。
井川建設.....どこにでもありそうな土建屋であったが
報酬の額をみると10億とある。
バブルがはじけ、長い不景気にある日本の土建屋で
このような額が出せるはずがない。
だが、この会社を調べると、富永グループつながっていることがわかった。
つまり、横島の霊力を狙うためもう一度挑戦してきたのだ。
美神は断ることもできたが、この仕事を断ってしまうと
日本の土建屋の大半が富永グループの影響下にある中、
今後土建屋から仕事が来なくなってしまうかもしれない。
それに断ったとしても、奴は何らかの理由を持っている以上
こちらをやりあうことは目に見えていることである。
ならば残された選択は仕事を受けるしかなった。
幸い美神事務所は日本最強のGSである美神を筆頭に死霊使いのおキヌ、
人狼のシロ、九尾の狐のタマモがいるため、戦力的にはどこの事務所にも負けない。
そして横島の文殊は三つあるため、残りの一つが出きれば
横島が復活して使えることができる。
これだけでも十分だが、まだ実力を出していないであろう浦島も戦力として考えれば
中級魔族が来ても戦える。
こうして美神事務所一同は朝飯を済ませると、愛車のシェルビーコブラに乗り現場へ向かった。
この時すでに美神はミスを犯していた。
それは相手が魔族であると仮定して、現場に向かったことである。
今回の敵は魔族や悪霊ではないのだ。
そしてもう一つ、相手の目標が美神ではなく、霊能力者であること....
つまり、全員がターゲットであったのだ。
ここにきて更新が遅くなってしまって、申し訳ないです。
最近仮面ライダーアギトの映画をひさしぶりに見ました。
G4役の岡本次郎さんの殺陣が、素晴らしすぎます。
春休みはRXを全話みたいですね。