「ミノタウロスなんて、笑わせてくれるじゃないの...」
美神の目の前にいる敵は中級魔族に匹敵する霊圧を発しており、
とても誕生したばかりの魔族とは思えなかった。
「ケモノ耳に、はち切れんばかりのバスト....魔族だとわかっていてもたまらん!!」
横島は浦島と分離したため霊体だけの存在であったが、
肉体があろうとなかろうと、煩悩に突っ走るのがこの男だ。
数多くの己の命の危機を乗り越えたからこそ、こんな場であっても
敵の怪人に欲情できるのだ。
「のんきなこと言ってるけど、あんたがあいつを倒さないと
あの宝石に取られた分の霊力が戻ってこないのよ。
そのためにも、ここに西条さんに頼んであんたの肉体を冷凍しているカプセルを
運んでもらっているのに、あんたって奴は人の苦労を....」
バッファローシードが妖怪化してくれたおかげで
こちらの攻撃も通じるようになったのは好都合だったが、
今回の作戦目標である横島の霊力奪還ができない以上、
ミノタウロスシードを倒すわけにはいかなかった。
IPCOのヘリも来ていないようだし、ここでミノタウロスシードを
横島を近づかせるわけにはいかない。
「要はヘリが来るまでミノタウロスシードを足止めすればいいわけだな」
浦島の腹部に変身ベルトが出現する。
もう横島という霊体はいないため、ソウルシードは正常に動くはず。
ならば戦わない道理はない。
深く深呼吸をし、構えを取ってスイッチを入れる。
「変身ッ!」
その言葉とともに、浦島の体は人間の姿から一瞬にして仮面の戦士と変えた。
第二十二話「男はつらいよ(その五)」
「俺は仮面ライダーLOST!
ミノタウロスシード、俺の相手はお前だ!」
「あんたの『種』には興味ないわ。そこの坊やの霊体を吸い込みさえすれば
私は文殊を手に入れることができるの。
そうすれば私は肉体を永遠に持つことができるわ。
あんたたち人間には、わからないでしょうけどね!!」
ミノタウロスシードが持つ大きな斧がライダーに襲い掛かる。
見るからに威力のありそうなその斧を食らってしまうことは、そのまま死に直結する。
「だったら攻撃される前に、攻撃してやればいい。
刻むぜ!!熱き血潮のビート!!波紋疾走ライダーパンチ!!」
練り上げた波紋を右手に集め、放ったその拳はミノタウロスシードの腹部に
確実に命中した。
「おバカさんね...わざわざ私に生命エネルギーを送り込むなんて」
「効いていない!?そんなバカなわけあるか!!」
魔族や悪霊と戦うためには波紋を帯びた攻撃が必要不可欠。
だが、この魔物は波紋を通さないのだ。
「次は私の番よ」
ミノタウロスシードはライダーを蹴り上げ、斧の柄の部分で殴りつけようと襲い掛かる。
ライダーはとっさに攻撃をガードして、防戦態勢に入った。
「美神さん!!まずいですよ!!」
「わかってるわ!うちの従業員がやられていて手をこまねいているだけなんて
私はいやよ!!浦島クンには一週間分の食料費を払ってまらわないと困るんだから」
美神は神通棍に霊力を込め、ミノタウロスシードに一太刀を浴びせた。
「美神令子、あんたの霊力もいっしょよ。
すべてのエネルギーは私の血となり肉となるのよ」
「だったら、あんたに攻撃は通用しないじゃない!!こんなの卑怯だわ!!」
―あの美神さんでさえ卑怯と言わせるミノタウロスシード。
霊力が通用しないとなると俺達GSじゃ敵わない相手なのか....
そんなバカなわけない!この女に不可能はないんだ!
いつだって美神令子という女は不可能を可能としてきた。
それは彼女がけして最後の最後まであきらめなかったからだと横島は気づいている。
卑怯だろうがなんだろうが、最後に必ず美神は勝つ。
そのために彼ができること、それは.....
「横島!!西条のヘリが来たわよ!!」
上空でヘリが見えたタマモの報告を聞いて、横島はある作戦を思いついた。
一か八かの賭け、それでもやってみる価値はあった。
横島はこちらに向かってきた自分の肉体のあるヘリへ向かった。
へりにはパイロットとICPO通称オカルトGメンの西条が乗り込んでいた。
「横島クン!君の肉体はこのカプセルの中に入ってる。
僕個人としては、君にはその姿がお似合いだと思うが
残念ながら先生からの圧力で素直にこの肉体を渡さねければならない。
本当に残念でしょうがないが、これも令子ちゃんのためだ。受け取りたまえ」
「西条の野郎。そこまで俺のことが嫌いか...。
今それどころじゃない。とにかく俺の体は受け取るぜ」
横島はカプセルの中にある自分の体へと入っていった。
肉体と霊体が完全に融合し、起き上がる。
「やっぱ自分の体が落ち着くな。
西条!早速だがこのヘリをあそこで戦ってる美神さんたちへ向けてくれ」
美神事務所の一番弟子である横島は、師匠である美神が手こずる相手にどう戦うのか。
ヘリは美神の下へ向かう。
波紋と霊力が通用しない相手にどうする事も出来ない美神とLOST。
攻撃が通じない相手なんてあり得ないはずだが、
手段がない以上ミノタウロスシードの攻撃をかわしていくしかない。
「ちくしょう!どこに波紋を叩きこんでも奴はビクともしない。
一体どうしたら奴にダメージを与えることができるんだ?」
「ダメージを与えていないはずないわ!
エネルギーを吸収するルビーが奴の本体なら、
攻撃を与えていけば必ず体内に隠れている本体が出てくるはず。
だが、どんな攻撃もミノタウロスシードにとってはエネルギーは餌でしかない。
本体さえ見つければこっちのものよ」
その本体が見つからない以上勝機はない。
一体どうすれば奴の本体を探すことができるのか。
万策尽きたかと思われたその時!
「美神さん!避けてください!!」
ヘリから首を出しているのは横島であった。
その横には西条もいる。
「ちょっとあんた達何する気?まさか....!」
「そのまさかっスよ!!」
横島たちを乗せたヘリは超低空飛行で突っ込んでくる。
「そういうことなら手伝うぜ!」
横島の狙いはこのヘリをミノタウロスシードに特攻させて、
物理的にダメージを与えさせること。
ならばミノタウロスシードに直撃させなけれその攻撃は意味がない。
ライダーはミノタウロスシードを抑え込んだ。
「はなせ!仮面ライダー!!貴様も巻き添えをくらうのよ
人間どもに何の理があって貴様はそこまでできるのよ!!」
ミノタウロスシードを盾にしているとはいえ、
LOST自身にもダメージは相当負うはずだ。
「何の理があって人間を守るかって.....そんなこと決まってるじゃねえか。
自己中でケチだったり、煩悩でだらけでやることがセコイ人ばっかだけど
自分の欲しいものは全部自分で手に入れようと戦っているんだぜ。
てめーみたいに他人の力で、他人の悲しみを利用し、
自分の傲慢を築いてる人たちじゃないんだ。
俺はあの人たちの生きる強さに価値を見出した。
ただ....それだけのことなんだ!!」
「くたばれ化物ー!!!」
ヘリの操縦感は横島に握られ、
ミノタウロスシードに直撃する寸前に脱出する西条とパイロット。
「く....くるな....くるな!!!!」
ミノタウロスシードへとへリは突撃し、大爆発が起こった。
大都会東京でこんな騒ぎがあっては、警視庁やGS協会も黙っていない。
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。
事件は二人の男の尊い犠牲によって幕は閉じた。
彼らのことは人々も永遠に忘れないだろう。
その20数年の命を犠牲に東京都民800万人の命を救ったのだから。
「そんな....横島さんと浦島さんが見つからないなんて」
「先生たちは拙者たちを守るために犠牲になるなんて、
拙者は何もできなかったのでござるか?」
「人間って本当に馬鹿ね。なんでもっと自分の命を大切にしないのよ....」
燃え盛るヘリコプターの残骸を見つめ、悲しみにくれるおキヌたち。
だが、美神はその現実を飲み込もうとしなかった。
「大丈夫よ。あのバカたちならきっと生きているわよ。
きっとその辺に埋まって『あー死ぬかと思った』とかなんとか言って
出てくるに決まっているわ....」
生身で大気圏に突入したり、自分よりも何倍も強い相手に戦って生還してきた男が
そう簡単に死ぬわけない。
そう....簡単に死ぬわけないのだ。
「あー死ぬかと思った」
ヘリの瓦礫の中から出てきたのは横島忠夫その人である。
誰もが死んだと思っていたので、突然の出来事に声が出なくなってしまった。
「いやー最後まで文殊が出なかったので、死ぬかと思ったんスけど
そういえばカオスのおっさん特製のカプセルがあるんだから、
それで何とかならないかな―と思って入ったら、爆風を防げたのはいいスけど
瓦礫の中に埋まっちゃって、危うく窒息死するとこでした」
これだけの爆発で目立った外傷が一つもないのだから、相当な運の強さである。
「でー浦島はどうしたんスか?あいつの姿が見えないんですが」
「浦島クンは....まだ......。
ミノタウロスシードは倒したはずなのに....」
ミノタウロスシードのエネルギーの塊であった宝石の残骸は発見されており、
この場に霊的反応がないことから消滅したのであろう。
横島の決断は間違っていなかったわけだ。
「そんな...俺が奴を殺したっていうんですか?俺は....」
浦島を不可抗力ながらも殺してしまった罪悪感が横島を襲う。
世界にために愛する人を犠牲にし、今度は浦島まで....。
「そう簡単には死ねないさ」
どこからともなくライトチェイサ―を引き連れて現れたのは、
変身を解いた浦島であった。
「浦島さん、生きてたんですね!」
「もちろんさ。こいつが爆発する直前に俺をかばってくれて助かったわけだ。
さすがスーパーマシンだぜ」
煤だらけになりながらも自力走行するライトチェイサ―を褒める浦島。
気のせいか機械のはずのライトチェイサ―も喜んでいるような気がする。
「これで全員生還したわけだし、ささっと日本政府に報酬をもらいに行くわよ!」
仕事は終わり、すべては終わったかと思われた。
だが、彼らは肝心なことを忘れていた。
ミノタウロスシードの実体ともいえる宝石が砕けたといっても、
この怪物はすでにシード怪人である。ならばソウルシードを破壊しない限り、
ミノタウロスシードは倒されたことにはならないのだ。
「まだ....終わってないわよ....」
燃え盛るヘリの残骸から出てきたのは、ミノタウロスシードであった。
体は爆発の衝撃でボロボロとなっており、歩くたびに足が崩れていくありさまだったが、
その執念に満ちた顔から察するに、まだなにか隠し玉があるのだろう。
「まだ生きていたのかミノタウロスシード!変身ッ!」
一瞬にして仮面ライダーと姿を変えた浦島であったが、
やはりあの爆発の中を無傷で生き残れるのは無理だった。
体を覆う装甲の再生が終わっていないため、満身創痍の状態で戦うことになる。
「一発で決める。ライダーキック!!」
自分に残されたエネルギーが僅かばかりであるため、最後の力で必殺の一撃を放った。
「ギャァァァァァァ!!!」
その一撃はむき出しとなったソウルシードを粉砕した。
暴発するエネルギーがミノタウロスシードの体を焼き尽くし、ソウルシードとともに
ミノタウロスシードは爆発の中に消えていった。
「終わったか....」
ソウルシードの爆発の中から、
この世界の扉を見つけた浦島に一つの霊体がその背中を襲う。
「おバカさんね!!肉体が滅んでも、もとが霊体の私には0に戻ったのと同じことよ。
あんたには最後の力も残されていない。あんたの体を乗っ取って、
私はまた復活するわ。死ねぇぇ!!仮面ライダーLOST!!!」
実体を持たない霊体となって浦島を襲う、ミノタウロスシードの執念はすさまじく
変身エネルギーを失くしてしまった浦島にはどうする事も出来ない。
「しつこい悪霊ね。あんたにはこれ以上この世界にいさせることはできないわ。
このGS美神令子が極楽に往かせてあげる!!」
美神の神通棍に霊力をこめ、ミノタウロスシードだった悪霊にとどめの一撃を放った。
悪霊は断末魔とともにその身を消滅させ、二度と光が照らせれない場所へと戻っていった。
「これで本当に終わりっスね美神さん。
ひさしぶりの自分の体の感覚を確かめるためにも
美神さんのその体で試させてください!!!!!!」
「体が戻ってもあんたはそれかー!!!」
美神の鉄拳が横島の顔面に入り、横島はそのままノックダウンした。
何気ない美神事務所の一日がようやく戻ったのだ。
「あれっ浦島さんは?」
おキヌが浦島のいないことに気づき、あたりを見渡すが
それらしい影はどこにもいなかった。
「まだお別れも言ってないのに、どこに行ったんでしょう?」
「おキヌちゃん、あいつは別れもなしに消える奴じゃないさ。
またどこかで会えるからきっと何も言わずに行っただけなんだよ」
「そうよおキヌちゃん。浦島クンには一週間分の食費や
ガソリン代のつけだってあるんだから、ちゃんと返しに来るはずよ。
返しに来なかったら、地獄の果てまで追い回してでも払わせてやるわ」
「結局金なんですか.....」
美神の守銭奴ぶりは毎度のこと思いながらながら呆れつつ、事務所へと帰る美神たち。
いつの日かまた坊主頭のあの男に会えることを願いつつ、
彼らは明日を迎えるのだ。
GS美神編終了しました。
主要人物のほとんどを思うように動かせないまま終わってしまい、
自分の文章能力のなさ涙が出ます。
先週号と今週号に掲載していたGS美神の読みきりですが、
MR,ジパングや一番湯のカナタからもキャラが出てくるとは
思いませんでした。
ギャグのセンス往年のキレのままでしたし、また機会があったら読み切りを作ってほしいです。
次回からは地獄先生ぬ~ベ~編です。
内容を考えるにあたって文庫本で全巻読み直しましたが、
メイキングオブぬ~べ~で真倉先生岡野先生が主人公の性格を把握するのに
30話近くかかったことを聞いて、若干迷走中の主人公のキャラクターを
正すヒントになった気がしました。
それと、そろそろライバルキャラを出そうかと思います。
詳細はまだ考えていませんが、モチーフは「侍」にしようと思います。