第二十三話「正義とは」
仮面ライダーLOST...浦島空也。
彼はGS美神の世界から突然はじき出され、あの不思議な空間の中にいた。
無数の扉があふれている空間。それらの扉はどこかの世界につながる扉であり、
そこには必ずZと呼ばれる男が作り出したシード怪人が待ち構えている。
彼に扉を開けないという選択はない。
なぜなら彼は、仮面ライダーの宿命を背負い孤独の中で戦っているからだ。
彼の願いは『Zの野望を止めること』そして『父の死の真相を確かめること』
この二つのために彼は戦っているのだ。
『Zの野望を止めること』...そこに何の意味があるのか?
野望を止めた時、彼は鋼鉄の体でどこに行くのか?
彼の正義ははたして本当に正しいのか?
それが次の世界で試されるのであった。
第二十三話「正義とは」
「い...一体なんだこの世界は?」
扉を開けた浦島が入り込んだ世界。
空は厚い雲に覆われ、太陽の恵みは大地に届かず植物ひとつ咲いていない。
そこにあるのは、首のない仏像が無残にも横たわるだけだった。
文明の墓標...そんな言葉がふさわしいのかもしれない。
「誰か人はいないのか?」
浦島は破壊された建物の中に人がいないかどうか確かめるため、
すでに荒廃した寺院に足を踏み入れた。
建築様式からから察するに、こここはどうやら日本ではないアジアのどこかであることがわかった。
そして白骨化した無数の死体が供養されることなく放置されており、
何者かの襲撃を受けてこうなったのは確かだった。
「惨いな...老若男女すべてが殺されている。まさかこんな虐殺が行われているなんて」
力なき者たちの末路。
それは人類の歴史から何度も繰り返してきた悲劇だ。
我々人類がほんの少し前まで平然と行っていた行為が、
改造人間になるまでただの学生であった浦島の心を痛まさせていた。
彼にとって虐殺などという行為は、あまりに衝撃的だったのだ。
そして同時に、この虐殺を行った者たちを突き止めるべく、浦島は現実と向き合っていた。
しばらく寺院の中を探索すると、首をもがれた大仏が横たわっていた。
そしてそこにすがるようにして死んでいった者たちの遺体が所狭しと並んでいた。
無情にも仏に助けを求めた彼らに、仏は何もできなかった。
その現実だけが浦島の目の前に広がる。
「力なき者は、殺されていくしかないのか....」
弱肉強食が世界の真理であり、浦島の目に移る光景は力なき者たちの行く末でだった。
生物である以上争わなくてはいけない。
ならば強き者の力こそがすべてなのか。
「それは決して違う」
彼は弱者の味方『仮面ライダー』を名乗る者だ。
人類を悪の結社の魔の手から守り続けた英雄の名を受け継いだ者ならば、
彼の思いは一つ『悪の手から人類を守ること』である。
そこに一切の迷いなどなかった。
ドダダダダンッッ!!!
建物の奥から破壊音が聞こえた。
浦島は今までの勘から、破壊音が聞こえた場所に助けを待つ人がいる確信があった。
急いで奥の部屋に向かうと、そこにはライオンの怪人が一人の少年の前に立ちふさがっていた。
「大丈夫か!!」
浦島はおそらく恐怖のあまりに動けないに少年に語りかけ、意識を取り戻させた。
「ドージェさんが....」
少年が指さす先には、修行僧の生新しい死体がそこに倒れていた。
この少年と死んだ修行僧がなぜここいるのかはわからないが、
間違いなくいえることは、この修行僧はライオン怪人に殺され、
ライオン怪人の次の獲物はこの少年であった。
「変身ッッ!!」
変身ベルトからまばゆい光があたりを照らし、ライオン怪人の視界を遮る。
そしてその光が収まると同時に、浦島の体は仮面ライダーの姿となった。
「いくぞ!ライオンシード!!」
今まで戦ってきたシード怪人と姿が共通しているため、
間違いなく元の人間はZとの接触があったと思われる。
何があってこの姿になったかわからないが、
人を殺める化け物である以上倒さなくてはいけない。
浦島は先制攻撃を仕掛け、そのまま近接戦闘に入って攻撃を加える。
ライオンのシード怪人であるため、素早さでは負けることが予測され間合いを先に詰めされては不利になる。ならば、こちらから仕掛けていくしかないという判断からきたものである。
「ライダァァァパンチッッ!!」
その拳は全く避けられることなく、あっさりと命中した。
まるで元から攻撃を避けるという行動を選択していないようだった。
正面からライダーパンチをくらったライオンシードは壁まで吹き飛ばされた。
埃が舞ってタイガーシードの姿を確認できないため、いったん距離を置いて迎撃に徹することにした。
しかし、そんな浦島の考えとは真逆にライオンシードは壁にめり込んだまま動こうともしなかった。
「いったいどういうことなんだ??」
今まで自分に敵意がある者としか戦ってこなかったため、
ライオンシードの行動に対してどう対応したらよいかわからなかった。
このまま一気にライダーキックで倒してしまうのがベストだが、
果たしてそれは本当に良いことなのか?
無抵抗の怪人を倒すことが仮面ライダーとして正しい行動なのか?
浦島は戦いの最中で迷いが生じてしまった。
「グアアアアアアア!!!!」
ライオンシードは素早く突進し、ライダーを左腕をその鋭い牙で捉えた。
「しまった!!」
油断大敵。命がけの勝負では迷いがあったものが負けるのだ。
そんなことはわかっていたはずだったが、人間としての甘さがライダーにピンチを招いていた。
ライオンシードの噛みつきにより、腕の骨がどんどん軋んでいく。
このピンチを脱出するためには、この状況を生かすしかない。
敵の懐に入りこんでいるのだから、敵の急所に攻撃すれば良いのだ。
「ライダァァチョップ!!」
「ギャァァァァァ!!!」
残された右腕でライオンシードの喉元を切り裂くと、真っ赤な血が大量に噴出した。
その光景はまるで火山の噴火のようであり、返り血がライダーの体に浴び、純白であったマフラーが真っ赤に染まってしまうほどだった。
「はぁはぁはぁ」
ライオンシードは力尽き、ソウルシードは体外に放出され一気に腐っていった。
彼がどういう事情があったかはわからないが、ソウルシードを植えられたばかりに、こうして葬るしか彼を救うことはできないのだ。
浦島はそう考え、自分の罪を背負う。
仮面ライダーである以上、同族殺しの罪は免れないのだ。
神も仏も浦島の罪はけして許してはくれないだろう。
彼はソウルシードをばらまく張本人であるZを倒すまで、戦い続けなければならないのだ。
「おーいテンジン、大丈夫か!」
ボロボロの民族衣装を身に着けた老人が浦島と少年がいる場所へ向かってくる。
老人は少年の姿を見つけると彼を大事そうに抱擁した。
おそらく孫と祖父の間柄なのだろう。
「こちらで恐ろしい叫び声が聞こえたと思ってきたら、テンジンがこんな化け物に襲われていたなんて....あんたが助けてくれたのか日本人よ」
「俺も叫び声が聞こえたから、ここに来たんだ。
そしたら口元を長いマフラーで覆った男がその怪物から少年を守ってくれていたんだ。
「あんたが何者かは分からないが、早くここから逃げたほうがいい。
奴らに見つかったら、問答無用で殺されてしまうぞ」
『奴ら』とはいったいなんのことだ?
怪人なら倒したはずだが、もしかしたらもう何体かいるかもしれない。
そう考えた浦島は、老人に対して自分が日本から来た学者であると言い、しばらくこの辺の歴史的調査をしたいので家に泊まらさせてくれと頼んだ。
老人はただ一言
「飯は出せないぞ」
とだけ答えると浦島を自分の家に泊めることを承諾した。
ここがいったいどこであるのかを調べるとともに、なぜこの地で虐殺が行われてたのかを調べる必要があった。
浦島は老人と少年とともに廃墟を後にした。
彼らの姿を瓦礫と化した仏塔から見守る男が一人いた。
大日本帝国海軍第二種軍装を纏い、腰には大太刀と小太刀がぶら下がっている。
古めかしい鞄を左手に持ち、二本の足は鋼鉄のブーツを履いている。
深くかぶった海軍帽から見えるその瞳は鷹のように鋭く、真っ直ぐな眼をしていた。
男の名は
「......東方に敵影あり、我迎撃に向かう」
菊水は浦島たちに背を向け、自らが進むべき道をとった。
敵......この世界に潜む本当の敵を討つべく、戦闘用高速自動二輪車「
☆☆☆☆☆
一発の銃声が静かな山に響き渡る。
この神々しい山ではかつて争いなどなかったはずだった。
だが、奴らが来てからすべてが変わった。奴らには文明の力がある。
文明の力は未開の物たちにとっては、傲慢すぎるほどの力となって襲い掛かってくる。
それは今こうして、民族衣装を着た女が必死に夜の山を逃げ回っている状況からも言えることだ。
現在はこの地に人を襲うような獣は、存在していないのにも関わらずだ。
昔はトラなどがいたそうだが、今や奴らに毛皮とされこのあたりのトラは全滅してしまった。
では、彼女を追う者はなにか?
それは獣より恐ろしく、残忍な者......悪魔であった。
「久しぶりの獲物だ!!傷は付けるなよ」
軍服を着た男たちが、まるで狩りを楽しむかのように女一人を追いかけている。
襟に階級章があるため、一応軍人であったが、その姿はただの野盗にしか見えなかった。
「このあたりの女は、大体収容所に連れていったと思ったんだがな......まだあんな上玉がいたとは」
「まったくだぜ。おかげで俺たちが思う存分楽しめるんだから、感謝しなければなあ~」
「わかっていると思うが、本部には報告するなよ」
男たちは徐々に彼女を追い詰めていった。
パニックになり、冷静さを失っているウサギと、狩りを楽しむ狼とでは、勝負はついていた。
「追い詰めたぜ、お嬢さん。おとなしく俺たちと楽しもうや」
四方を男たちに囲まれた彼女に逃げ場はなかった。
「助けて!!」
その言葉も人里から遠く離れたこの場では、意味を成さなかった。
そして何より、このあたりの若い男たちがすべて彼らによって殺されており、自分を助けてくれるものなどいないことなど知っていた。それでも彼女は、助けを求めた。
「神なんて、大事な時に助けにきてくれないんじゃ、祈っててもしょうがないないんだよ。大人しく俺たちの餌になるんだな」
男の一人がそう言うと、軍服を脱ぎ捨て怪物へと変身した。
目が膨張し、顔を覆うほど大きくなり、背中からは羽が生えてきた。
その姿は、ハエとなっていた。
一歩一歩と彼女に近づくハエ怪人。
そこへ爆音とともに一人の男が割って入ってきた。
「それ以上、その女性に近づくな」
その男は菊水 正次郎であった。彼は火龍から降りるとハエ怪人に対して、眼だけ制した。
「ふざけるな!憎き帝国の格好なんてしやがって、ぶっ殺してやる!!」
ハエ怪人の隣にいた男が菊水に向かって、肩に下げていた小銃の引き金を引いた。
わずか数mの距離であるため、男は白装束を真っ赤に染めることができたと、確信していた。
小銃が火を噴いた瞬間、菊水は己の腰にある刀を抜き、その銃弾を真っ二つに切った。
人間技ではない......この場にいる誰もがそう思った。
「貴様のその言葉、その行動......来世で反省するんだな」
菊水は刀を鞘におさめ、ただ火龍に搭載されていた鞄に触れた。
「電着!!」
その言葉とともに、鞄の中から鎧と触手が出てきた。意志を持ったように、菊水の体を触手が覆うと、触手は鎧と菊水の体を接続する生体細胞になり、鎧と菊水が合体し、一人の戦士がここに誕生した。
天・地・雷・鳴
強化外骨格独特の光沢が菊水の迷いなき覚悟を現し、両肩になびく純白のマフラーは、そのけがれなき心を示している。腰の刀は、さらに切れ味を増し、鞘に眠っている。
額には<義勇>の二文字書かれていた。
「覚醒式強化外骨格、雷雲!!」
その雷は弱きものに闇夜を照らす一筋の光となり、強きものには天地を汚した神罰となるのだ。
仮面ライダーと強化外骨格戦士......相いれないはずの彼らが、この神が滅んだ世界で出会った。
半年振りの更新です。
何度もやめてしまおうか迷いましたが、きっといるであろう読者の方々の期待を裏切るわけにはいかないので、なんとか文章量を十分にして書いたつもりです。
最後に強化外骨格が出てきたので、覚悟のススメの葉隠覚悟もそのうち出すつもりです。
前話のあとがきでは「ぬ~べ~編突入」告知していましたが、作者の力量ではオカルトものは難しいと判断し、当分は書かないことにしました。GS美神編も後から読み返すと、酷かったもので.......。