とあるよく晴れた日。
いつものように人里の自宅にてクッキーを販売していたマリオ達。ルイージが生地を作って型をとり、マリオが絶妙な火加減で焼き上げていく。香ばしく焼き上がったクッキーをつまみ食いしないように気をつけながら店頭に並べるのはヨッシーの担当。ちなみに嘘か本当かヨッシーにはつまみ食い一回につきファイアボールが一発が飛んでくるのだとか。店頭というが特別家の中をパン屋のように改装したのではなくて玄関の外に置かれた木製の机に袋詰めされたクッキーを並べるというスタイル。これといった理由は特にないが一番手っ取り早いのだとか。
「さて、一段落付いたし休憩しようぜ」
「うん、そうだね。じゃあボクお茶を入れてくるよ」
「マリオさん、余ってるクッキー食べてもいいですか? どうせこのままじゃ冷めちゃって商品になりませんし」
「お前が食べたいだけだろ、それにクッキーは冷めてもうまいぞ。まあその棚のやつは別にいいか」
棚に余っていたクッキーを家の中へと持っていくヨッシー。余程食べたかったのだろう、息づかいの荒さからしてよく分かる。マリオは玄関戸に休憩中の立て札を掛けて部屋に向かう、部屋の座敷ではルイージが既に緑茶を入れて待っていた。
「それではいただきまーす」
「おいおい、あんまりがっつくなよ。喉を詰まらせ...はしないか」
「でも、ヨッシーも頑張っていたんだしこれくらいいいんじゃない?」
「でもな、一日のクッキーの消費量の半分はアイツだぞ」
「はい? じゃあこれからはヨッシーにも払ってもらわないとね」
「うっ、以後気をつけます」
いくら売れるようになったとはいえやはり異文化の食べ物。里の人々の中にはどうしても躊躇ってしまう人もいる、その為にクッキーが多く売れ残る日も少なくない。最近は作る量も調整してなんとか売れ残らないようにはしているが当初は半分近く残る日もあった。ヨッシーにとってはある意味売れ残っていた方が嬉しそうだったが。
マリオとルイージも余っているクッキーに手を伸ばす。自分で作っておきながら言うのも何だがこれは中々の物だ。作りたてではないとはいえこのサクッとした食感と口に広がる甘さは何とも言えない。本当なら紅茶で飲みたいところだが意外にも緑茶でも合う。
あと残り二~三袋といったらところで戸を叩く音が家の中に響く。休憩中に誰だ? と思いつつもマリオは玄関へと向かう。
「休憩中にすまない、今ちょっと時間いいか?」
「えっと、お前は確か...」
「あ、こうやって実際に話をするのは初めてだな。私は八雲藍、八雲紫様の式を務めている者だ」
「ああ、紫から話は聞いたことがある。確か九尾とかいう妖怪だったな」
マリオの元へとやって来たのは金髪のショートボブに金色の瞳、白を基調とした長袖ロングスカートに身を包み、九本の金色の狐の尾を生やした女性。八雲藍は腕を交互の袖に入れたまま挨拶を交わす。このスタイルは大昔の大陸の風習によるものだとか。
「まあ立ち話もなんだし上がってくれ、茶くらいは出すぜ」
「ではお言葉に甘えてそうさせてもらうよ」
部屋に上がってきた藍にルイージとヨッシーは驚きを隠せない。式神というものはよくは分からないが八雲紫の最も信頼出来る仲間である事は分かる、となればかなりの強者だ。マリオも気配からして只者ではないことを感じていた。
囲炉裏を囲む形で四人は座り藍はルイージに入れてもらった緑茶をすする。東洋の人間ではないとはいえルイージの入れた緑茶は中々のものだった。
「このクッキーも結構美味しいな、もしよかったら後で私にも一つ売ってくれないか? 橙にも食べさせたいんだ」
「別にいいが、橙って誰だ?」
「私知ってます。尻尾が二股の黒猫ですよね、見かけた事があるんですよ。とても美味しそ「あ゛?」ごめんなさい」
その一瞬だった。藍から放たれたのはその気になれば鬼をも黙らせる程の凄まじい殺気。幾多もの戦いをくぐり抜けてきたマリオ達であっても震え上がらずにはいられない。
「あ、つい頭に血が上ってしまった。すまない、橙の事になるとどうしてもこうなってしまってな」
「いや、こっちも悪かったよ。ヨッシーが無神経なばかりに。ところで藍、そもそも何でお前はここに来たんだ? クッキーを買いにきただけとは思えないが」
「そうだった、つい本題を忘れてしまうところだった。実はお前達に相談があってな」
先程までの和やか?な空気から一転、真剣な表情へと変えた藍。彼女の表情からしてかなり重要な事なのだろう。マリオ達は以前にも紫から直々に依頼された事があった、間欠泉と共に湧きだしたあの怨霊の異変の調査だ。てことは今回も異変関係の話だろうか。
「実はまたしてもお前達に調べてほしい事があるんだ。それはとある霊についてだ」
「とある霊? またか」
「そうだ、ついこの間里の外れに妖怪寺が創設されただろう? 実はその寺の墓地から亡霊とは違う霊が発生していてな。今のところ特に被害はないのだが念の為にお前達に調べてほしいんだ」
「別に構わないが、なんでまた俺達なんだ? そういう異変は霊夢や魔理沙の方がいいんじゃないのか?」
「それが、霊夢達も実は別の異変に出向いていてな、それもかなり危険な異変に。それで生憎人手不足なんだ」
「分かった、そういう事なら俺達が行くよ。断ったら今度は紫に何か言われそうだしな」
藍からの頼みを引き受ける事にした三人。というのも藍が来るという事はこれは紫の頼みでもあるという事だ。下手に断ったりしたら紫からお咎めが来るだろう。ならばややこしくなる前に引き受けた方が無難だ。
「すまないな、じゃあお願いするよ」
「ああ、まかせとけ」
帰り際に余ったクッキーを受け取った藍。少し時間が経っていた為にマリオが何割かまけてくれた。藍は一足早いが夕飯の食材を買うために里の方へと姿を消していった、橙の大好物の魚を見て回るのだとか。
三人は再び異変関係に向かう為にと準備を開始する。必要な道具を集めたり、いつ帰れるか分からない為に店もまた閉店の立て札を掛けておく。
「こんなもんかな、じゃあ昼間は寺には人もいるだろうし目立つから夜に行くぞ。いいか二人共?」
「「おおーっ」」
ーーーー
夜の幻想郷。
今は昼間とは打って変わって闇夜と静寂に包まれていた世界。耳には時おり遠吠えを上げる獣の鳴き声のみが聞こえてくる。それもそのはず、幻想郷、少なくとも人里では夜に外へ出ることは滅多にない。なぜなら夜はまさに妖怪の世界、音も光もない闇の中に飛び出すなど自殺に等しい行為だ。
二人の配管工と一人のドラゴンはそんな夜のまっただ中にいた。マリオは片手にハンマーを担ぎ、もしもの時に備えて辺りを警戒しながら進んでいる。ルイージとヨッシーもそれに続いていく。目的は勿論命蓮寺周辺に発生している謎の霊の調査。なお、僧侶の聖白蓮には既に許可を取っている為に出入りは自由となっていた。
命蓮寺は夜ということもあってかいつもよりも不気味に感じてしまう。寺の中からは説法を説く白蓮の声が伝わってくる。
「さて、やっと着いたな。目的の墓はこの辺りか」
「お墓か、ちょっと怖いな。ましてや幻想郷のお墓なんて...」
「確かにちょっと不気味ですよね。キノコワールドとは大違い」
「よし、早速調べるぞ」
寺の裏には墓地が広がっていた、それも思っていたよりも広大に。マリオ達も墓地には何度か来たことがあったが幻想郷の墓地は初めて、流石に緊張が走る。
そして、やはり藍の言っていた通り辺りには霊のような白くモヤモヤとした物体が幾つも漂っている。それは幽霊や亡霊、そして怨霊とも何かが違った。しばらく調べるもこれといった成果は上がらず、霊には触れてみたりもしたが特に何も起こらない。
「ハァ、疲れた。本当に何なんだろうねこの霊は。実態が分からないんじゃオバキュームで吸い込む訳にはいかないし」
「食べてみるのも何か怖いですしね」
「妖怪を喰おうとしたお前が言える台詞かよ。まあ確かにこいつは謎だな。一体何なのか...おっと、やっぱりこっちへ来るか。気をつけろ、お前ら」
「「え?」」
マリオは既に感じていた。霊でもなく命蓮寺の者達でもない何者かが墓に紛れこんでいたことを、そしてまるでこの辺りを警護するかのように徘徊していたことを。
「ーーっ、来たぞ、避けろ!」
「ちーかよーるなー」
突然何者かがこちらに突っ込んできた。いち早く察知していたマリオは二人を掴むとすぐさまその場を離れる。何者かは勢い余ってそのまま墓石に激突するも何事もなかったかのように起き上がる。あれほどの速度でぶつかったにも関わらず全く効いていない。
「何なんだお前は、只の人間とは思えないが」
「私か、私は...何だっけ? え~と、ん~と、そうだった、思い出した。私は腐っても
「キョ、キョンシーだと!? まさかピョンピーみたいな奴が幻想郷にもいたとはな」
「ピョンピー? 兄さん、一体何なの? そのキョンシーとかピョンピーとかって」
「簡単に言うならカロンみたいな死体のキャラクターだ。動きこそは遅いものの耐久力は半端じゃない。ちなみにピョンピーはサラサランドのチャイ王国にいた敵キャラだ」
三人の目の前に姿を現したのは一人の少女。肩程度の暗い藤色の髪を持ち、赤の中華風の上着に黒のスカートと星形のバッジの付いたハンチング帽を被った妖怪、宮古芳香。両手を前に突き出しているその姿はキョンシー特有のスタイルと言うべきか、キョンシーは関節が曲がらないのだ。その為に殆どのキョンシーはピョンピョンと跳ねながらしか行動が出来ない。マリオはキノコワールドで以前にもキョンシーに似た敵キャラと対峙した事があったので知っていたのだ。
「そうだ、判ったらここから去れ。もしくは仲間になれ」
「悪いが仲間になるつもりはない。それに一つハッキリした、やっぱりここには何かがあるってな。だからここは何とか押しきるぞ、ルイージ、ヨッシー」
「うん、分かったよ」
「了解です」
「部外者は全部倒してやるぞ、すべてはあの方の為に」
まず先に仕掛けたのは芳香。苦無型の弾幕を縦横無尽に展開していく。玉の大きさこそは小さいもののその密度は半端じゃない。だがマリオ達も負けてはいない、僅かな隙間を見つけては上手く掻い潜り、厳しいところはハンマーで弾く。
距離を縮めたマリオはまず腹に右拳を放つ、続いて左脚を軸とした右脚の回し蹴り、とどめにハンマーを脇腹に決めて殴り飛ばす。手応えはあった、だが芳香はやはり無傷。直ぐ様起き上がると再び構える、とは言っても両手を突き出すスタイルは変わらないのだが。
「きーかーんーぞー」
「くそ、なんて頑丈な奴だ。カロンとは比べ物にならねえ。それにアイツ、周りの霊を食ってやがる」
「え、あれって食べられるんですか!?」
マリオの言う通り、あの霊を芳香はなんと捕食していたのだ。見た感じ殴った部分の傷が消えている、おそらく回復しているのだろう。タフな上に回復手段まで持っている、ここまで厄介な敵もそういない。マリオも流石に焦りはじめていた。
「兄さん、物理攻撃が駄目なら特殊攻撃だよ。ここはボクにまかせて」
「ルイージ...分かった、お前に任せよう。だが無理だけはするなよ」
次に動いたのはルイージ。マリオを追い越して真っ直ぐに突き進む。放たれてくる弾幕は隙間に上手く入り込む事で回避していく。ルイージもまたこの世界での経験を通して弾幕避けは確実に慣れていた、これなら弾幕ごっこでもそう簡単に負けたりはしないだろう。
右手に込めていた炎を弾として放つ。放たれた一発の深緑の炎は芳香へと直撃した。服の袖が燃えてはいるものの芳香は倒れない。ならばとルイージは左腕に力を込めていく。それは炎とは違ってバチバチと閃光がほとばしっている。
「これでどうだ、サンダーハンド」
雷を纏った拳が芳香に襲いかかった。青白い雷撃が芳香を包み込み、感電させる。でも倒れない、まさに直立不動と言うべきか。そして芳香が再び大量の弾幕をばらまく、とっさに避けようとするもこの距離では無理がある。直撃を覚悟したがヨッシーが舌を使ってルイージを引き戻した為に間一髪直撃を免れた。
「ありがとう、助かったよ。それにしても、やっぱりあの子丈夫過ぎるよ」
「だがそう悲観することもないぞ。お前の言う通り、特殊攻撃ならいけるかもしれない」
「無駄だぞー、私は何度でも甦るん...あれ?」
突然芳香が辺りを見回す、というより慌てているようだ。マリオ達も何が起きたのか分からない、だが先程とは明らかに状況が違った。それはあの霊の数。最初の戦闘時に比べて霊は全くと言っていいほど消えていた。
何故かは分からないが、これはまたとないチャンス。マリオとルイージはそれぞれ炎と雷を両手に集める。そして一気に打ち放った。
ーーーー
「あらあら、まさか芳香が負けるなんてね。あの傘の妖怪は追い払えたっていうのに」
倒れた芳香を我が子のように撫でながら墓地に佇む一人の女性。羽衣を纏い、母親のように優しくも不敵な笑みを浮かべる彼女の姿は妖艶の一言に尽きる。
「彼らも思ったよりはやるみたいね。芳香を倒しただけでなく、夢殿大祠廟への抜け穴まで見つけるなんて」
それは芳香を倒した後の事。マリオ達は墓場の一角に地下へと続く穴を発見、これは何かあると踏んで突き進んでいったのだ。
「うぁ、せ...が...ご、ごめ...」
「気にしなくていいわ、貴女は充分頑張ったんですもの。だから今は休みなさい、私の愛しい芳香」
そっと芳香の頭を撫でる女性。芳香は安心したのかそのまま眠るように目を閉じる。
女性は夜空に浮かぶ月を眺める、その目は何処か楽しげそうだった。まるでこの時をずっと待っていたかのように。
「さて、一応は予定通りね。芳香も充分時間を稼いでくれたし。うふふ、遂に気が熟しましたよ、豊聡耳様」
誰に話しかける訳でもなく、女性はただそう呟いた。
今回はマリオ編を書きました。次話はどの編でいくかはまだ未定です。
今回の元ネタ
『オバキューム』ルイージマンション1、2より。対お化け用の掃除機です。
『カロン』ノコノコの骨。初登場は「スーパーマリオブラザーズ3」 その後スポーツやパーティなど様々なジャンルで活躍。
『ピョンピー』スーパーマリオランドより、その姿はまさにキョンシー。ちなみにスーパーマリオランドはデイジー姫の初登場作品で主人公はマリオ(ルイージは出てない)
『サンダーハンド』マリオ&ルイージRPGより、その名の通り雷属性の技。