夕暮れ時の霧の湖。
西の方角に沈み始めた太陽は幻想郷に橙色の明かりをもたらしていた。普段は昼間でも薄暗さを感じる程の霧の湖でも夕日が差し込めばそれもまた幻想的な風景を写し出している。
全身が打ち付けられたように痛い、夕焼けの空を眺めながら仰向けに倒れている二人はそう感じていた。辺りにはチルノ達や相手チームのサニー達、更にはこの痛みの元凶である風見幽香までもが二人を覗き込んでいる。
「おっ、やっと気がついたかお前ら。全く、心配させやがって」
「っ、体中がすげえ痛ぇ。何があったんだ」
「覚えてないんですか!? 幽香さんにやられてあれから一時間近く気を失っていたんですよ」
「そうだったのか。どうりで体中が痛ぇ訳だな」
まるで鉛のように重く感じる体に鞭打って二人は何とか起き上がる。体に手当てされたような後があるところを見るとおそらく治療はしてもらったのだろう。それでもまだ全ての痛みは取れていない。起き上がった二人の元に近づいてくるのは二人を吹き飛ばした張本人の幽香。日傘をさして涼しい表情を浮かべたその姿からはあの戦闘は想像も出来ない。すると彼女が二人に声を掛けてきた。
「初めましておじさん達。...いや、ワリオとワルイージだったわね。私は風見幽香、妖怪よ。さっきはごめんなさいね、私はてっきり貴方達が妖精達に何か善からぬ事をしているんじゃないかって思ったのよ」
「ってお前か犯人は! さっきはよくもやってくれたな。謝ったぐらいで俺様が許すと思っているのか」
「おいおい止めとこうぜワリオ、今の俺様達じゃどうやったってコイツには勝てねえよ。少なくとも今まで会った奴の中じゃあのロリ鬼と同じくらいヤバイ奴だと俺様は思っている」
不服ながらもこれ以上食って掛かる事を止めてワリオは大人しくなる。確かに幽香の強さはハンパじゃなかった、力には自信のあるワリオでさえもあっさりと吹き飛ばしてしまうほどに。萃香と一度戦った事があるワリオだからこそ言える事だが、風見幽香は本当に恐ろしい妖怪だった。出来ることならもう二度と対峙したくはないほどに。
「でも流石はマリオの知り合いね、私の攻撃をくらってその程度で済んでるなんて。ふふ、よかったらまた今度戦いましょうか」
「そりゃ勘弁してくれ。てかお前マリオの事を知ってんのか?」
「ええ、マリオとは以前に一度戦った事があるの。とても人間とは思えない強さで中々楽しめたわ。特に身体強化した彼との拳の応酬は本当に楽しかった」
「「アイツも苦労してんだな...」」
二人して同じ事を口にする。そして確信したことがある、それは幽香という女性は非常に危険だということ。あの時チルノやサニー達も怯えていた理由もこれなら説明がつく。とんでもなく強い上に好戦的という最悪の組み合わせ、萃香と言いここの女性は一体どうなっているんだと思わずにはいられなかった。
「んで、お前らは結局どうなったんだチルノ。湖の縄張り争いとやらは終わったのか?」
「ああ、もちろんさ。幽香立ち合いの元、これからはみんなで仲良く使うという事で手を打ったのだ」
エヘン、と胸を張るチルノ。別に偉い事ではないのだがここでは黙っておく。三月精達と打ち解けているチルノ達を幽香は思わず微笑んでいた。やはり先程の戦闘狂の幽香からは想像出来ない、今の彼女はどう見ても子ども好きの優しいお姉さんだ。でもここでそんな事を口走ってしまえば間違いなく殺される、二人はきっちり黙っておく事にした。
「さて、もうじき夜になるけどよかったら家に来る? 今日はご馳走するわよ」
「おーっ、気前がいいな幽香は。あたいは是非行きたいぞ」
「私達も行っていいんですか? 」
「ええ、勿論よ。こんなに大人数ならきっとメディスンも喜ぶわ」
幽香から出された突然の提案に妖精達は喜びを見せている。この様子は親子に見えなくもない。勿論妖精だけでなくミスティアやリグル、ルーミア達妖怪組も大喜び。特にリグルは嬉しそうにはしゃいでいる。
一方でワリオ達にとってはまさに悪魔の提案、あの凶悪な妖怪の住みかに行くなど冗談ではない。正直言って1UPキノコが幾つあっても足りない。二人はヒソヒソと話しながらどうやってこの状況を脱するか考える。方法はある、都合が合わないと言って断るかすぐさま逃げるかだ。だが後者の方はどう考えてもリスクが大きすぎる、下手をすればまた半殺しにされかねない、それにこの傷では逃げるのに支障をきたす。となれば丁重にお断りするのが妥当だろう。
「いや~、残念、非常に残念だ。折角誘っていただいたのに申し訳ない、実は俺様達は今晩はどうしても外せない用事があるんだ。なっ、ワルイージ」
「えっ、あっ、そっそうなんだよ。だからすまないが俺様達はまた別の機会にという事で。それでは失礼...」
「あら、遠慮しなくていいのよ。ねぇ」
二人の背筋が凍った。あの幽香がこれまでにない程の笑みを浮かべているのだ、それも閉じた日傘の先端をこちらに向けながら。本能的に分かる、もし断ったりなどすれば間違いなく消されることを。ならば残された道は一つしかない。
「「よ、喜んで参加させていただきます」」
こうして湖での妖精同士による
さて、これから行われるは幽香の家での晩餐会。普段のサディスティックな妖怪からは想像も出来ない、それでもチルノやサニー達は特に怯えてる様子はない。幽香が実は優しい一面も持ち合わせている事を知っての事なのだろうか。少なくとも絶望に身を震わせている男二人は知るよしもない。
ーーーーー
「まさか墓地の下にこんな地下空間があるとはな」
明かりのない洞窟をただひたすらに突き進む三人の影。洞窟といっても所々にどこか中華風とも呼べる装飾が施されている事から人工的な手が加えられている事が分かる。相変わらず今回の異変の発端でもある霊がこの洞窟でも確認出来た。するとやはりこの洞窟は今回の異変に深く関わっているのだろう。
「それにしても何なんだここは、普通墓の下にはこんなもん無いぞ」
片手に少々変わった懐中電灯を持ちながらマリオは進む。マリオの手に持っている懐中電灯は『テレよけライト』と呼ばれる対幽霊用のライト。放たれる光には霊が嫌う成分が含まれており、現にマリオ達三人には霊が一切近寄ってくる事はない。まさに今回の異変にはもってこいの装備だった。
「でもここの霊にも効くんだね、ボクはテレサにしか効かないと思っていたんだけど。ひょっとしてさっきの死体の子との戦闘の時にも使ったの?」
「いや、使ってないが。...でも確かに途中から霊が全くいなくなってたな。お陰で回復されずに何とか撃退出来たが」
それは墓地での宮古芳香との戦闘での事。彼女はタフで頑丈な上に浮遊していた霊を食する事で回復する超防御重視の戦いを繰り広げてきた。あまりの耐久力に流石の三人も苦労させられたが突如としてあの霊がなくなった為に芳香は回復手段を失った。それはマリオ達にとっては好機となり結果として勝利出来たが何故急に霊が消え失せたのかは分からない。
「モグ、う~んモグ、一体...モグ、何ででしょうね...ごっくん」
「おいっ、ちょっと待てヨッシー。お前さっきから一体何を食ってんだ?」
「只のその辺の霊ですよ。それがですねマリオさん、結構行けるんですよこれが」
「...あぁ分かった。霊の減った原因が、コイツだ...」
マリオの予想は合っていた。実はあの時、芳香が霊を食べているのを見てヨッシーも空腹に襲われた。だが戦闘中に食事をすれば大きな隙となる。それで芳香がマリオ達との戦闘でこちらに気が回ってない一瞬を付いて一口。その霊は思いの外美味しくてついつい手が、いや舌が出てしまい結果として全部食べてしまったのだ。
「でもまあそのお陰で勝てたからいいじゃないですか。あっ、マリオさん達もお一つどうぞ」
「いらねえよそんなもん。それより前に気を付けろよ、何が出てくるか分からねえからな」
マリオの言う通りこの洞窟はまだまだ続いているようだった。懐中電灯の明かりでさえも遠くまでは照らすことが出来ず一定の距離で闇に溶けていく。それだけ奥深くにまで洞窟が伸びている証拠だ。これではまるでキノコワールドの地下のようだ。キノコワールドでは地下という場所は案外多くの者に好まれている、光を好まない種族から無法者など様々ではあるが。
それから時間にして凡そ十分、三人は歩き続けた。流石に何度も冒険をしているだけあってか三人共特に疲れた様子はない。もし霊夢や魔理沙ならば飛翔によってもっと早く進めるだろう、でも三人は歩行を選んだ。理由は飛べないからではない、闇雲に進むのは危険と判断したから。ましてやここは幻想郷、いくら慣れたとはいえまだまだ地理を理解しきれてない三人にとっては余りにもリスクが大きすぎる。
「結構歩いたつもりだが、一体どこまで続いているんだこの洞窟は。まさか永久に続いているとかじゃないだろうな」
「え、怖いこと言わないでよ兄さんっ」
「だが、もし何らかの術が施されているとしたら考えられない話じゃない。現にクッパだって「ちょっと二人共、あれ何ですか?」」
ふと立ち止まったヨッシーが呼び止める。話に夢中になっていた二人は気づくのが遅れたがヨッシーの一声によって気づかされた。三人の目の前には先程までの細長い洞窟とは打って変わって巨大な地下空間が広がっていた。更には洞窟の装飾に似た中華風の建造物がそびえ立っている。木造のその八角塔は住居というよりはお墓などの特定の目的の為に建造されたと思われる。
「これは驚いた、まさか地下に塔が建っているなんてな。こんなの初めて見たぞ」
「でも家って感じはしないよね、どちらかと言うと何かを祀る為にあるような。でもやっとそれらしき場所に着いたね」
「塔だけに『とうとう』着いたって事ですね」
「......しかし、一体何の為に」
ヨッシーが何かを言った気がするが二人は何もつっこまないでおく。でも何はともあれようやく異変の元凶とも思えるような場所に辿り着く事が出来た三人。あの塔から例の霊が出ている事からここが怪しいと見てまず間違いないだろう。辺りに警戒しつつ早速調査を開始する。だがそれはいきなり中断せざるを得ないのだが、突如として降り注いできた雷によって。
間一髪危険を察知したマリオがファイアボールを放つことで何とか相殺出来た。
「フン、よく気づいたな。どうやら貴様達は只者ではないと見た、何者だ」
「お前の方こそ誰だよ。それにこれだけの雷を放ったところを見るとお前も只者じゃないな」
「まあな、ならば一応名乗っておこう。私の名は蘇我屠自古、この夢殿大祀廟を守護する者だ」
「お前がここの番人か。俺はマリオ、この沢山浮かんでる霊の調査にやって来た」
三人の前に姿を現した蘇我屠自古は鋭い睨みを効かせつつ同じ目線にまで下がってきた。屠自古は薄い緑色のショートボブを持ち、深緑のワンピースに烏帽子のような黒の帽子を被った女性。そして何より驚いたのは彼女には足がなく、変わりに幽霊のような足が二本あるという事だ。屠自古は再び右手に雷を込めるとここから立ち去れと言わんばかりに睨み付ける。
「マリオよ、悪い事は言わない。すぐにここから立ち去る事を勧める。さもないとこの雷によって消し炭にされる事になるぞ」
「すまねえな、生憎俺達もそうはいかないんだ。この異変を終わらせないと後であいつらから怒られるからな。それにお前に一つ聞くぞ、何故ここを守ってるんだ。取られたくない宝でもあるのか?」
「お前達に話す事は何もない。でもその様子じゃ大人しく帰りそうにはないな、ならばここで終わらせ「おーい屠自古ー、何をしているのだーっ。遊びなら是非我も混ぜてほしいぞ」...ハァ...」
何処からともなく聞こえてきた無邪気な声に屠自古は大きなため息を一つ。流石にこういった事は何度も経験してる為にマリオ達もあまり驚いてはいない。
現れたのは一人の女性、というよりは少女に近い人物。灰色のポニーテールに烏帽子を被り、白装束と紺のスカートを穿いている。
「屠自古よ、何故ため息をつくのだ 。まあよい、実はな、ただ太子様の復活を待つだけではどうも退屈でな。そこでお主と少しばかり話そうかと...ん、あいつらは何者だ、もしかして客なのか?」
「ハァ、お前は本当に能天気だな布都。あいつらは侵入者だ。何か霊の調査に来たとかで、面倒だから私が撃退しようとしてた所だ」
布都と呼ばれた者は屠自古と違って特にマリオ達を警戒してる様子はない。怪しい者じゃないと判断しての事なのか、それともただ単に勘違いしているだけなのか、十中八九後者だろうと屠自古はまたしてもため息をつきそうになる。
「成る程な、つまりはその太子様とやらを復活させるのが目的だったのか」
「なぬ!? お主、何故分かったのだ! まさか超能力を使えるというのか。まずいぞ屠自古、奴は超能力者だ」
「アホかお前は! さっき自分で太子様の復活って口走ってたろ」
「えっ!? そ...そうだったかな」
アハハ...と口を濁す布都につっこんだり落ち込んだりと何かと忙しそうな屠自古。その二人を見てマリオは理解したことがある、それはこの二人の仲が実は良いということ。だが一見するとどうでもいい事かもしれない。だがマリオは経験で分かる、この手の相手の厄介さとこの後の展開を。
「だがまあばれてしまった事は仕方ない、ここは共に戦うぞ屠自古」
「フン、まあいいだろう、足を引っ張るなよ布都。ここで負けてしまえば太子様の身にもしもの事があるかもしれないからな」
「うむ、十分に理解しておるぞ。だがお主こそ無理だけはするなよ。お主の身に万が一の事があれば我は心配だからな」
「ふぇ!? し...心配!? な、何を言ってるんだお前は! わ、私がやられるとでも思うのか!?」
何故か顔を真っ赤にして屠自古は怒りだす。これには布都も、見ていたルイージやヨッシーでさえも理解出来ずに口をポカンと開けている。でもマリオには何となくだが一つ分かっていた、これは想像以上に厄介な事になるということを。
ここからまたマリオ編へと戻っていきます。自分としてはワリオ編が少し短すぎたと感じています。次回は長くしようと思います。
今回の元ネタ
『テレよけライト』マリオパーティ4より。テレサというオバケを追い払う時に使用します。今回は他の霊にも効く仕様です。