霊の集う場所。
この世に生を受けた者がいつか必ず訪れる死後の世界、それが冥界。そこには白玉楼と呼ばれている和風の屋敷が存在し、幽霊を管理するお嬢様とその庭師が住んでいる。
主が不在の今現在この白玉楼では庭師の魂魄妖夢と迷いこんだ大海賊の亡霊コルテスの激戦が繰り広げられていた。妖夢は『白楼剣』と『楼観剣』と呼ばれる刀二本を使いこなし、対するコルテスは自身の体にも劣らない巨大な武器を四つも使用していた。
「ハァハァ...なんて強さ。あんなの、正真正銘の化け物じゃないですか」
妖夢の戦闘は決して悪くなかった。毎日欠かさず鍛練を積んできたその剣技は到底半人前とは思えない程に研ぎ澄まされていた。更には亡霊に有効な楼観剣を駆使した戦いは文句なしだ。だが相手が悪すぎた、幾戦もの修羅場を潜り抜けてきたコルテスにはその剣の殆どが通用しなかったのだ。自慢のスピードで翻弄するも相手の有り余るパワーに押されてしまい消耗するばかり。しかも不幸はそれだけではない、コルテスの回復力の早さもまた妖夢の想像を上回っていた。
「くっ...ありえない、何故それほどの回復力を」
「ん? そりゃあオレ様はこの亡霊の身となってからは再生力に自信があるからな。だがその剣だけは予想外だ、嫌な力を感じる」
斬られた箇所を押さえながらコルテスは話す、だがこの表情は明らかに余裕がある。対する妖夢は既に疲労しており呼吸を乱していた、どちらが優勢かなど言うまでもない。だがそれでも妖夢は諦めない、全ては我が主である幽々子の留守を守る為だ。
「いくら回復出来ると言っても限界はある筈、それに楼観剣も確かに効いている。ならば攻めるのみ」
再び妖夢が駆け出す。目指すは相手の懐、反応される前に素早く斬りつけられればチャンスはある。だが目の前に降ってきた西洋の槍『レイピア』によって妨げられた。レイピアは妖夢の足元に深く突き刺さっておりその貫通力が伺える。
「っ、危なかった」
「まさか今の一撃を避けるとは。だがこれならどうだ」
レイピアを地面から引き抜くと再び妖夢目掛けて突き刺す。フットワークを活かして避けるもコルテスは連続で攻め続ける。その乱れ突きはさながら雨と言ったところか、だが妖夢も負けじと剣で逸らしたりすれすれでかわしたりと何とか防いでいた。
「キリがない、こうなったら...これです!」
「何をしようと無駄...ぬっ!?」
顔に何かが衝突したのを感じた、そしてその瞬間腹を斬られた痛みがコルテスを襲った。あまりに突然の事だったので何が起きたのか理解出来ない、続いて背中にも痛みが走る。でも反射的に武器の一つ『サーベル』を後方に振り回した事で刃の腹が妖夢に直撃し吹き飛ばす。それでも刀二本で防いでいた為に致命傷は避けた。
「まさか『「人符」現世界』の速度に追いつくなんて、信じられない」
「二度も斬りつけといてよく言うな。だがお前のトリックは分かった、その白い塊を使ったんだな。それはお前のペットか?」
「いいえ、これは半霊といって私のもう半分です。私は人と幽霊のハーフなんですよ、理解してくれましたか?」
「よく分からんがそういう事にしておこう。だが女よ、もう手加減はなしだ。オレ様の力を受けてみろ」
コルテスが全身を縮めるようにうずくまっていく。だがただうずくまったのではない、全身に力を凝縮させているのだ。妖夢はコルテスの気が高まっていくのを肌で感じていた、ピリピリと肌が痛み、刀を持つ手が震えている。だが妖夢は震える手で刀を強く握り、体を屈めてその時を待つ。狙うは技発動直後の一瞬の隙、それなら決定的な一打を打ち込める筈だ。
「...来る!」
空気が変わった、刺すような殺気が妖夢を襲う。その瞬間コルテスから四方八方になんと骨が飛び散ってきた、骨の一つ一つには強力な霊力が込められている。あまりに予想外の攻撃に一瞬怯むも素早く反応、弾幕避けの要領で隙間を上手く潜り抜ける。
今だ、と言わんばかりに妖夢は駆け出す。予想通りコルテスはこちらへの反応が遅れている。これは絶好のチャンス、勝てぬと思われた相手への勝機が見えた瞬間だった。スピードを活かして一気に距離を詰めた妖夢、そしてそのままコルテスを斬る事なく駆け抜けた。これには斬られる覚悟をしていたコルテスも思わず唖然とする。
「な、何が起きた...がっ!?」
その瞬間幾つもの斬撃がコルテスに襲いかかった。一瞬だが桜の花びらのような残像が見えた。この時コルテスは察した、駆け抜ける際に連続斬りを浴びせたのだろうと。これには流石のコルテスも体勢を崩さずにはいられなかった。いくら再生力に自信があると言っても楼観剣での攻撃を立て続けにくらったのでは身が持たない。
「なんてこった、まさかオレ様がこんなガキ相手に」
「今のは『「剣伎」桜花閃々』斬撃が一瞬遅れてやってくる私の剣技の一つです。最初は駄目かと思いましたけど頑張れば案外勝てるものですね」
「ぐぐぐ、急に全く違う場所に飛ばされたかと思えばこんな少女剣士と戦闘、挙げ句の果てに追い込まれるとは。踏んだり蹴ったりじゃねぇか」
「これも全ては幽々子様の為。これ程危険なお化けが白玉楼に紛れ込んでいたのでは幽々子様にも被害が及びますからね。さあ、大人しく降参して下さい」
刃を突きつける、これ以上抵抗すれば容赦なくとどめを刺すと言わんばかりに。この時妖夢は警戒しつつも心には余裕が生まれていた。敵わないと思われた相手にここまで善戦する事が出来た上に追い込めたからだ。もしこれで見事解決すれば主の幽々子は何と言ってくれるだろう。自分を褒めてくれるだろうか、ついそんな事を考えてしまう。でも油断は禁物、まずは確実に終わらせる必要がある、剣を強く握りコルテスを睨む。
するとコルテスの体がガタガタと震わせ始める。妖夢が異変に気づいた時はもう遅かった。
「ふざけんじゃねぇ...オレ様の真の実力を思い知れぇ!」
今までに感じた事のない殺気を覚えた。殺気だけではない、霊力さえもさっきとは桁違いに上昇していた。ここまでの殺気を放つ相手など殆ど会った事がない、危険を感じて素早く後退するも剣を握るその手はあまりの恐怖に震えずにはいられなかった。
コルテスの形状が変わった、それは頭部に腕四本のいつもの形ではなくて完全な人間型。三メートルはあると思われる身長に相変わらずの腕四本と全身骸骨、そして黒のジェストコールを羽織ったのその姿はまさに大海賊の亡霊そのものだった。
「まさか、こんな事が...」
「どうだ、これがオレ様の本気だ。さぁ覚悟しろ」
さっきとはと違いコルテスは走る事で距離を詰めてきた、それも妖夢の予想していたよりも遥かに早く。両刃の剣『ソード』を縦横無尽に振り回す、直線的である為に回避は難しくないものの一太刀毎に伝わる衝撃は確実に妖夢の体力を削っていく。万全の時なら未だしも今は疲労困憊の状態、受け流すのが精一杯だ。それでも薙ぎ払うように振るってきたソードの剣撃の衝撃と反動を利用することで追撃を逃れた。
「よく今の猛攻から逃げ切れたな。だがもうここまでだぁ」
「ハァ...ハァ...ま、まだです」
とは言っても妖夢の体は既に限界を迎えていた。それもそのはず、妖夢はかれこれ数時間に及ぶ戦闘を繰り広げていたからだ。どれだけ攻撃しても直ぐ様再生、休む間もなく攻められたのでは。それに妖夢は稽古で鍛えているとはいえスタミナ自体は同年代の少女とさほど大差はない、それをコルテス相手に持久戦はあまりにも酷だった。
「ならばこいつを受けきって見せろ」
妖夢との距離を再び詰めたコルテスがソードによる猛攻を仕掛ける。だがもはや今の妖夢には反撃するだけの力は残ってない、剣でひたすらに受け流すだけで決して攻めに転じたりはしない。でも妖夢はただ受け流しているのではない、防御に徹して時間を稼ぐことで何か突破口はないかと模索していたのだ。
しかし、その懸命な抵抗も水泡に帰す事となった。ソードを防いでるところに唐突に迫ってきたコルテスの第四の武器『クロウ』によって白楼剣と楼観剣が次々に弾かれたのだ。丸腰となった妖夢にはもう成す術がない。
「申し訳ありません、幽々子様」
そう一言呟いた妖夢は全てを覚悟してそっと目を閉じる、その覚悟を受け入れたコルテスは敬意を表して一思いにソードを...。だがソードが振り下ろされる事はなかった。
「...?」
不思議に思った妖夢が恐る恐る目を開く、ソードを振り上げたまま動きが止まっていたのだ。かと思えば爆音と共にコルテスが吹き飛ぶ。何者かが放った弾幕が直撃したのだろうか、でもコルテスを吹き飛ばしたその星型の弾幕には見覚えがある。それはかつて自分も受けたことのある弾幕だったのだ。
「ふー、間一髪セーフってとこか?」
「どうやらそのようね...」
まるで自分を守るかのように目の前に降り立つ二人の影。そこにいたのは幾多の異変で共に戦ってきた友達とも仲間とも呼べる存在、博麗霊夢と霧雨魔理沙だった。それだけではない、二人の両隣にも新たな二つの影が現れた。その二人もまた妖夢のよく知る人物、霊夢達と同じように異変を通して知り合い、そして共に異変を乗り越えてきた者達、東風谷早苗と十六夜咲夜までもが現れたのだ。
「大丈夫ですか、妖夢さん?」
「とりあえず無事みたいね、よかったわ。でも...安堵するにはまだ早そうよ」
声をかけて無事を確認にする早苗と、妖夢を気にかけながらもコルテスへの警戒を解かない咲夜。二人もまた妖夢を助ける為にと参戦してきたのだ。
刺すような殺気がこの場の全員を襲う、倒れていたコルテスが起き上がってきた。妖夢との一騎討ちによって傷を負ってはいるもののまだ戦闘には差し支えないようだ。
「それにしても、大海賊の亡霊とはよく言ったものですね」
「お前よくあんなのと戦えていたな。ありゃどう見てもヤバイぜ」
「でも皆さんが来てなければ死んでました、本当にありがとうございます」
「別にいいわよお礼なんて、何にせよ命があったならそれでいいわ。それよりあんたは下がってなさい妖夢、あの
妖怪退治の時にはいつも愛用している博麗のお札とお祓い棒を構えた霊夢がコルテスへと向き合う。霊夢が構えたのに合わせて魔理沙達もそれぞれの武器を手にとって戦闘体勢に移る。
コルテスもまた只ならぬ新手の出現に今一度身を引き締める。特に赤と白を基調とした巫女服を身に付けた少女、霊夢への警戒は怠らない。コルテスも歴戦を繰り広げてきただけあって目の前の相手の危険度は気配で分かっていた。
睨み合う両者、これから巻き起こる戦闘は恐らく白玉楼史上最大級のものとなるだろう、どちらに軍配が上がってもおかしくはない。異変解決者の少女達と大海賊の亡霊、本来決して交わる筈のない両者がこの冥界の地にて激突する。
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妖怪の住む寺『命蓮寺』に併設された例の幽霊騒動のあった墓地にて。
「あの様子ですと、無事に復活なされたようですね」
無事に異変を終えたと思われる
「青娥ー、一体どうなってんだ?」
「簡単な事よ芳香。あの赤い帽子のおじさん達と豊聡耳様達が仲良くなったのよ。大方これから彼らの家にでもお邪魔するんでしょう」
青娥の読みは合っていた。マリオ達は実は人里にある彼らの家に向かっていたのだ、目的としてはお互いの親交を深める事と時間を潰すこと、そして体を休めること。やはり夜通しで戦っていたのでは体力にも限界が来てもおかしくはない。戦いを影からこっそり見ていた青娥にはよく分かる。
「でもまさか本当に和解するなんて、これは嬉しい展開ね」
「嬉しい展開?」
「そうよ、本当なら先に博麗の巫女に会いに行くつもりだったけど、これなら先に彼に会っても問題はないわ」
「彼って誰だー?」
「もう、さっきも言ったでしょう芳香。あの赤い帽子のおじさん、マリオよ」
「おーっ、マリオかー。何か思い出したぞー」
青娥はじっとマリオを見つめる。その瞳には一切の曇りはない、むしろ純粋と言った方がいい。でもその純粋さの裏には瞳に負けないくらいの純粋な欲望が渦巻いてるのをまだ誰も知らない。
今回の元ネタ?
『コルテスの形態変化』ジェストコールを羽織った完全な人形の骸骨姿は原作にはなく、オリジナルです。