配管工+αの幻想冒険録   作:宮古ヨッシー

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少女VS大海賊

 異変とは平凡な日常に突然として起こるものである。

 時には人の欲望によって、ある時には何者かの出来心によって、そしてまたある時には誰にも予想出来ない偶然によるものなど様々。そんな異変は時に世界をも揺るがす大事件に発展する事もある、それは妖怪達の楽園である幻想郷なら尚更。だが幻想郷ではひとたび異変が起これば相手が誰であろうとも解決に向かう者がいる。

 爆発のような衝撃が辺り一帯に響き渡る。ここ冥界の地白玉楼では今まさに異変に相応しい激戦が繰り広げられていた。その渦中にいるのは異変解決を生業とする巫女の霊夢を中心とした異変解決者の少女達、そして相対するは今回の元凶とも呼べる異世界の亡霊コルテス。この両者が今互いに信念を持って戦っているのだ。

 

「はあっ!」

「うぉ、危ねぇ」

 

 霊夢が体の前へと構えた紅白の玉、陰陽玉をコルテス目掛けて放つ。だがそれが直撃する事はない、コルテスの有り余る力を生かしたサーベルの一振りによって弾かれた。力任せの攻撃であるために単調ではあるもののもしまともに喰らえば只ではすまないだろう。だからこそ霊夢は飛び道具による遠距離攻撃や『空を飛ぶ程度の能力』によって得られた機動力で上手くかわしているのだ。

 空中を自由自在に飛び回り戦う霊夢を真っ先に討ち取るべくコルテスが距離を詰める。レイピアによる連続突きを繰り出すも霊夢はそれをあくまで逆らわず受け流すように避けていく、その姿は空を舞う蝶と言うべきか。

 

「くそ~、すばしっこい奴め」

「生憎だけど避けるのは昔から得意なのよ、そんな直線的な攻撃じゃ私には当たらないわ」

「ふん、大した自信だな。だがこれがオレ様の力の全てだと思うなよ」

「それくらい分かるわよ、でもあんたこそ油断しない事ね。今は私一人じゃないし」

 

 その瞬間だった、コルテスの視界に何かが写る。それは無数とも呼べる程の数のナイフ、それらが楕円形にコルテスを取り囲んでいたのだ。あまりに突然の出来事に何が起きたのか一瞬判断が遅れてしまう、そして直後に襲ったのは全身に突き刺さるナイフの痛み。それでも四つの武器を闇雲に振り回した為にその半数近くは叩き落とされていた、それに妖夢の楼観剣とは違って霊の類いに強い訳ではないので致命傷には至っていない。

 

「ちっ、一体どうなってやがる。何故急にナイフが現れるんだ」

「これは驚きましたわ、まさか私のナイフを正面から受けて立っていられるなんて。これも亡霊の力かしら」

「耐久力には自信があるんでな。その程度の攻撃じゃオレ様は倒せないぞ」

「ええ、分かってますわ」

 

 その一言を言い終わった途端に咲夜の姿がコルテスの目の前からいなくなる。何処へ行ったと辺りを見回すもその姿はなく、代わりに大量のナイフが再びコルテスへと向けられていた。それはまさに瞬間移動、咲夜の『時間を操る程度の能力』を知らないコルテスにはそう見えるだろう。

 それでもコルテスもただ受けるばかりではない、四つの武器を駆使してナイフを素早く弾いていく。全ては防ぎきれていないものの先程よりも傷は浅い。

 

「咲夜の攻撃でも大した傷にはなってないか。これはかなり厄介ね」

「どうする霊夢? これじゃきりがないわ」

 

 霊夢の元へと移動していた咲夜がナイフを構えながら口を開く。ナイフを避けられる事は今までにもあったがここまで直撃してダメージが入らなかった事はまるで経験がない。咲夜に嫌な汗が一筋流れる、僅かではあるが焦りの表情が見てとれた。でも二人の仲間がそんな咲夜を安心させるように口を開く。

 

「効かないとしてもとにかく攻めるしかないわ。いくら再生出来ても限界はある筈よ」

「霊夢の言うとおりだぜ咲夜。ああいうデカい奴にはパワーで攻めるのが一番だぜ」

 

 最初から力で押しきる事を決めていた魔法使い、魔理沙が箒に乗って一気に加速していく。強大な亡霊コルテスに一切臆する事なく突き進んでいく魔理沙の瞳はまるで希望に満ちた子どものように輝いている。それは自分を、そして仲間を信じているからこそ自信を持てるのである。

 

「行くぜ化け物」

 

 充分に自分の射程範囲まで近づいた魔理沙が星形の弾幕を大量に放つ。『「魔符」スターダストレヴァリエ』と名付けられた魔理沙の弾幕はそれはまるで流れ星のよう。咲夜のナイフの時と同じように四つの武器それぞれで弾いていくがその量が半端ではない。更に魔理沙は自慢の飛行速度を生かしてコルテスの周囲を高速で旋回。そのまま放ち続ける為にコルテスにとっては四方八方から弾幕が飛んで来る状態だ。これには腕四本あるコルテスでも受けきれず次々に被弾していく。

 

「ぐっ、ちょこざい攻撃を」

「へへっ、こんなもんかな」

 

 コルテスは明らかに魔理沙の動きについていっていなかった。それは攻撃している本人にも分かっていた、これはチャンスと見た魔理沙は旋回を止めてコルテスの前で立ち止まる。その手には魔理沙お気に入りのマジックアイテムが構えられていた。

 

「さぁ、これが私のパワーだぜ『「恋符」マスタースパーク』」

 

 魔理沙の手に握られた八角形の柱に似た道具、ミニ八卦炉から放たれるは魔力の込められた極太の眩いレーザー砲。弾幕はパワーだぜと豪語している彼女の代名詞とも呼べる一撃、その威力は見た目どおり強力でそこらの妖怪なら間違いなく消し炭にする事は可能だ。眩い光はそのままコルテスの白骨の巨体を飲み込んでいく。レーザーの中からはコルテスの声とも思われる絶叫が周囲に響き渡り確実に効いている事が分かった。

 

「行っけぇ!」

 

 全身の力を振り絞って魔理沙がレーザーを放ちきる。放出し終えたミニ八卦炉を下げるとコルテスは直立したまま動かない。その姿はまさに仁王、何者にも屈しない大海賊として相応しい姿だった。だが数秒の硬直のうちまるで糸の切れた操り人形の如く崩れ落ちる。人の形を亡霊の力によって保っていた骨同士は無造作に散乱し再生してくる事はなかった。

 息を荒げながらその様子を見ていた魔理沙は勝利を確信しへへっ、と笑いながら仰向けに倒れ込む。彼女もまた全身の力を使いきって疲労困憊のいった状態だ。

 

「まさか、本当にやったの?」

「魔力が効果的とは思いませんでしたわ」

「凄いです、流石魔理沙さんです」

 

 この戦闘中ずっと妖夢の手当てに専念していた守矢の巫女東風谷早苗と、彼女の『奇跡を起こす程度の能力』によってある程度傷を癒す事が出来た妖夢が駆けつける。

 そしてみんなから魔理沙にかけられたのは驚きや賞賛の声。当の本人はそれを少しくすぐったそうに受け止めていた。

 

「全く、まさかあんたに手柄を取られるとは思わなかったわ」

「いいだろ別に、私がとどめを刺したって。たまには最後を決めないと目立てないからな」

「まあ、別にいいけど」

「それにしてもあの亡霊は何だったんでしょうか?」

「私にも分かりません、急に現れたものですから。幽々子様ならあるいは何か知ってるかもしれませんが」

 

 只の骨の残骸となったコルテスを遠目に少女達はそれぞれの心境や憶測について語り合っていた。それでも五人は共通して気になる事が一つ、それは何故コルテスが急に幻想郷に出現したか。紫の話ではそもそも海賊とは幻想郷には存在しない海にいる賊の事、つまりコルテスは外の世界からやって来た可能性が高いのだ。外の世界に詳しい早苗と咲夜は海賊については多少なり知識があった。

 

「でも今の時代海賊なんてそうそういませんよ。もしいたとしても直ぐに捕まります」

「てことはやはり...忘れ去られる事による幻想入り。きっと彼は何処かの無人島でひっそり暮らしてる内にみんなから忘れられたのね」

「その線が一番正しいと思うわ。それ以外は成功率が限りなく低いし」

 

 咲夜の言うとおり外の世界から幻想郷への干渉は本来不可能、やはり偶然による幻想入りが一番適当な答えだった。でも何はともあれこれにて異変は終了、冥界での決闘は霊夢達少女組の勝利、後はコルテスの残骸の処分だけ。

この時の五人は動かぬ相手を前に完全に気を抜いていた、警戒心の強い霊夢と咲夜でさえも三人程ではないとはいえ油断している部分があった。だがその小さな気の緩みが命取りとなる、大海賊の異変はまだ終わってはいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の現状に頭が追い付かない。

 あれは確かに倒した筈、五人の誰もがそう思っていた。でも実際には違っていた、大海賊コルテスはまだ倒しきれていなかったのだ。

 そしてコルテスが起き上がり時に放ったと思われる一撃。五人には辛うじて当たらなかったものの自分達の遥か後ろまで抉られた地面がその破壊力を物語っている。

 

「...オレ様が、そう簡単に...くたばるかよ」

「おい、ウソだろ...」

「アイツ、今なにしたの」

 

 身体中の至る所に焦げた痕のある骨を見ればコルテスもかなりの傷を負っているのが分かった。だがそれは自分達も同じこと、致命傷こそは負ってないものの疲労はかなり溜まっている。唯一戦闘に支障がなさそうと言えば手当てに専念していた早苗だが彼女もまた流れ弾を防いだり妖夢の回復に霊力を使用したりと何かと体力の消耗が大きかった。

 

「覚悟しろ」

 

 コルテスが四つの武器全てを頭上に掲げるように構える。彼女達はそれだけで理解する、コルテスは先程の技をもう一度放つつもりだと。みるみる内に膨れ上がっていく霊力、周囲にほとばしる刺すような殺気。

 

「みんな、もう一発来るわよ!」

「分かってますわ」

 

 全員がそれぞれ回避体勢に移り放たれるその時を待つ。それは敵がいつ攻撃を放ってもいいように、そしていつでも避けられるようにコルテスから目を離さない。

 両者の間に流れる沈黙。僅かな時間とはいえこの時ばかりはとても長く感じる。だがその長さも永遠ではない、一際強力な殺気を肌で感じた瞬間に沈黙は破られた。

「『覇槍』」

 

 大海賊コルテスの最終奥義。

 振りかざした武器全てを一気に振り下した、海をも断つ破壊力を持った一撃。放たれた衝撃波は螺旋状となって直線上にあるもの全てを破壊してく。間一髪のところでかわしきった霊夢達だがそのに思わず唖然とする。やはり一発目同様に攻撃が通過した地面は弧状に抉り取られていた。この奥義に貫けぬものなし、まさに槍の如き一撃。

 

「そんな...」

「こんな奴...どうやって相手しろってんだ」

「正真正銘の化け物ね」

「あ、あんな技まともに食らえば...」

 

 コルテスという化け物相手に今まで自信に満ち溢れていた少女達に陰りが見えた。圧倒的な相手への死の恐れ、恐怖の二文字が頭の中によぎっていたのだ。彼女達も今までに幾度となく死闘を繰り広げてきた、それこそコルテスのような化け物から規格外の相手まで様々に。だがそれはあくまで弾幕ごっこのような決闘ルールの元での事。勿論ルール無用の命懸けの乱闘も潜り抜けてきたが今回ばかりは違った。いくら当たらなければ意味はないとはいえこれ程の力を見せられたのでは戦闘にも迷いが生じる。

 だがそんな少女達の中でもただ一人怖じける事なくコルテスに向かう者がいた。それは博麗神社の巫女、博麗霊夢だ。

 

「なに技の一つや二つでびびってるのよ。あんた達の覚悟はそんなもんだったの?」

「いえ分かってます。ですが霊夢さん...」

「あのね、私を誰だと思ってるのよ。博麗の巫女をなめないで、あんな化け物には絶対に負けないわ」

 

 霊夢の手に握られていたのはスペルカード。それを見た四人は察する、霊夢は次の一撃で決着をつけるつもりだと。その目にはあの時の魔理沙と同様一切の迷いはない。

 

「相手も既にボロボロ、私が一撃で終わらせるわ。だからあんた達は黙って下がってなさい」

「...へっ、何言ってんだよ霊夢」

「何よ魔理沙、まさか私じゃ勝てないとでも思ってんの?」

「私もやるに決まってんだろ。手伝わせろよ、お前が一撃で仕留められるようにな」

 

 魔理沙もまた手にはミニ八卦炉とスペルカードが握られていた。それは咲夜や早苗、そして初めにコルテスと死闘を繰り広げた妖夢も同じだった。みんな霊夢の一言で完全に迷いを断ち切ったのだ。好きにしなさいと霊夢は一言呟いただけだがその表情はどこか嬉しそうだった。

 

「行くわよ、これで全部終わらせるわ!」

 

 少女達が一斉に駆け出す、そしてコルテスもそれを迎え撃つ。

 冥界史上最大とも言える大海賊亡霊の異変はついに終幕へと向かっていく。

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