紅魔館の廊下にて。
ここもまた外観やエントランス同様に天井、床、壁が深紅に染まっていた。ここまで赤いからこそ紅魔館の名を語れるのだろう、それだけこの館は赤が多いのだ。これが主人の趣味なのか設計主の意向なのかは分からないが。
普段ならここに勤めるメイド妖精達のお喋り以外は聞こえないであろうこの廊下、だが今はちょっとばかり騒がしくなっていた。それは霊夢やマリオとは違って裏からこっそり侵入した魔理沙とヨッシー、それにルイージが関係している。
魔理沙は霊夢と美鈴の戦闘の隙を付いて裏へと回っていた、ヨッシーはそれに便乗してついていきルイージはその二人を止める為に追いかけたといった形。何とか侵入出来た三人だが黒幕が何処にいるのか分かる訳もなく適当に進んでいた。そしてとある部屋に入ると遭遇してしまった、紅魔館の最凶とも呼べる人物に。
「あはは、待ってよ。なんで逃げるの? 一緒に遊んでよ」
「待てって言われて待つ人間はいないんだぜ」
「でもお姉様は待ってくれるよ?」
「そんなの知りませんよ! だったらそのお姉様と遊んでくださいよ」
「だって忙しいって言って相手してくれないんだもん」
三人は今現在逃げていた。箒にまたがって高速で飛ぶ魔理沙と翼を生やして飛行するヨッシー。ルイージはというと走っては逃げきれないのでヨッシーに乗せてもらっている。数々の異変を乗り越えてきたこの三人を追い回しているのは何と一人の少女。金髪のショートボブにフリルの付いた赤の服とミニスカート、そして背中には一対の枝に七色の宝石をあしらったような特殊な翼を生やしている。人間でいうなら十歳未満だと思われるその容姿は非常に愛らしい、だがそれは彼女の強さに目を瞑るならの話。
フランドール・スカーレット
それが彼女の名前、種族は多種多様な妖怪の世界でも間違いなく上位に君臨する種族『吸血鬼』である。吸血鬼とは日の下では生きられず銀に弱い、流れる水を渡れないなど何かと弱点が多い。だがその代償に与えられた強さは鬼の名がつくだけあって妖怪でもトップクラスの力を持つ。
フランドールはここのところ退屈していた。館の者達が誰一人として自分に構ってくれないからだ。声をかけても忙しいの一点張り。それは紅魔館の主であり幻想郷移住を決めた張本人である実の姉レミリア・スカーレットもまた例外ではなかった。だからこそフランドールは久々に遊べそうな相手を見つけて嬉しかったのだ。
「どうする二人とも、いくら何でもあの子はヤバすぎるよ」
「そんなの私に言われましても」
「とりあえず何処か広い所へ逃げ込もうぜ。こんな廊下じゃ只の的になっちまう」
三人が警戒しているのは何も吸血鬼という種族だけじゃない、種族としての強さだけならスキマ妖怪や鬼など他にも強い妖怪は沢山いる。では何か、それはフランの能力にあった。三人が初めてフランドールのいる部屋に入ったときの事、最初はその子どものような姿から害はないと判断していた。でも互いに敵と分かるとフランが三人の前に立ちはだかった。手を前に出して何もない空をぎゅっと握る、その瞬間三人が入ってきた部屋の扉が爆発、文字どおり粉々に砕け散る。本能でヤバイと判断した三人はすぐさま逃げ出した。
「これじゃまるで鬼ごっこだね、てことは私が鬼か。なら、きゅっとして...」
「!? 来るぜっ」
「ドカーン!」
危険を察知した魔理沙が叫ぶ。丁度T字路に差し掛かっていた為に上手く右方向へと逃げ込む事で一撃をかわす。魔理沙達が避けた代わりにフランドールの一撃は壁へと衝突して壁は爆散、その衝撃で粉塵が辺りに飛散してフランの視界を遮る。あまりの粉塵の量に思わず咳き込みながらも腕を振るって粉塵を吹き飛ばす。しかし廊下には既に魔理沙達の姿はなかった。
「あーあ、逃げられちゃった」
間一髪の所で避けられた事にフランドールは肩を落とす、久しぶりに遊んでも『壊れ』なさそうな人達を見失ってしまったから。『ありとあらゆるものを壊す程度の能力』それこそがフランドール・スカーレットの持つ恐るべき能力。狙いを定めた物を触れる事なく何であろうとも粉砕させる力。それ故にフランは屋敷から出ること許されず窮屈な毎日を送っていた。
「それにしても、この壁どうしよう。美鈴にでも直して貰おうかな...ん?」
自らが破壊した壁を眺めていたフランドールはあるものに気づく。それは魔理沙達が逃げた廊下とは真逆の左側の廊下、先程は夢中になりすぎていて気づかなかったが気配を感じる。そこにいたのは緑。いや、正確に言うならば緑色の帽子を身に付けた人間。確か魔法使いと一緒にいた黄緑の変な恐竜に乗っていた。その男も何が起きたのか分かってないようで呆気にとられている、恐らく今のゴタゴタで振り落とされたのだろう。だがこれはフランドールにとってまたとないチャンスだった。
「あはは、お兄さんなら私と遊んでくれるよね」
「あああああ!?」
声にならないような悲鳴をあげるルイージ、やっと自分の身に起こった事が理解できた。だが時既に遅し、これからルイージは『悪魔の妹』と称されるフランドール・スカーレットと一対一で対峙しなければならない。
ーーーーー
とある部屋。
ここは恐らくこの紅魔館でも一、二位を争うくらいに広く造られている。今ここで息を潜ませているのは先程までフランとの鬼ごっこを繰り広げていた魔理沙とヨッシー。二人はフランの猛攻から何とか脱して偶然見つけたこの部屋に潜り込んだのだ。部屋の外からは特に凶悪な気配は感じられない為に上手く撒けたと分かった。二人はひとまず安堵する、ただ一つ気がかりな事もあるが。
「どうしましょう、ルイージさんを落っことしてしまいました。まさか振り落てされるなんて考えもしなかったです」
「んー、ルイージなら心配ないとは思うんだけどな。アイツに会ってなきゃ」
「それが一番の問題ですよね」
二人はちゃんと気づいていた、ルイージを置いてきぼりにしてしまった事を。あの時はあまりにも逃げる事に必死だったのでつい忘れていたのだ。それだけフランドールという相手は二人の想像を遥かに越えていた。
「だがさっきはつい驚いただけだ、次はこうは行かないぜ。今度は私が追いかけ回してやる」
「おっ、流石魔理沙さん。これなら百人力です」
「じゃあルイージを助けに行くか...と、今さらだがここは何の部屋だ?」
魔理沙とヨッシーは改めて部屋を見回してみる。そこにあったのは木製の古ぼけた本棚。それも一つどころか大量に建てられており、高さも二人の身長を足しても足りない程に高く作られていた。そこは書斎というには小さすぎる、図書館と言った方が妥当だろう。
ルイージの事をひとまず頭の隅に置いておき二人は好奇心から探索を始めていた。本棚には当然のように本がぎっしり並べられておりとても一日では読みきれない。
「本当に凄いですねここは。難しそうな本ばかりで私は眠くなってきそうです」
「私はむしろ興奮してきたぜ。なんたってここには
「うーん、折角ですが遠慮しときます。私字を読むのは苦手でして」
「そっか、なら私の独り占めって事で「勝手に持ってかないで」!? 誰だ」
覇気の感じられないやる気のなさそうな声が聞こえた。本をどっさり両手に抱えた魔理沙が声のする方へと振り向く。そこにいたのは二人の少女、一人は薄紫のナイトキャップに似た帽子を被り全身は薄紫に紫の縦じまの入ったゆったりとした感じの服を着こなしている。もう一人は赤の長髪に黒のベストとスカート、そして悪魔羽を背に生やしていた。
「うわっ、何か出てきたぜ」
「何かとは何よ、勝手に湧き出てきたのはそっちでしょうに。そりより貴方達は誰なのよ」
「私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ。そんでこっちがヨッシー。まあよろしくな」
「あら、それはどうもご丁寧に。なら一応名乗っておくわ、私はパチュリー・ノーレッジ、この大図書館に住んでるわ。...って違う違うそうじゃない。その本は私のよ、大人しく返しなさい」
「いやいや、私はただ借りてくだけだぜ。こんなにあるんだから少しくらいいいだろ」
「嫌よ。それに貴方の思い通りにはさせないわ」
パチュリーは本を持っていこうとする魔理沙の前に立ちはだかり制止する。その時魔理沙は気づいた、パチュリーが手に持ってる本が魔導書だということを。それに体にひしひしと伝わってくる魔力からは只者ではない事くらい分かる。それと同時に自分の体のそこから沸き上がってくる何かを感じていた、相手が魔女という事もあり久しぶりに血が騒いでいるのだ。
パチュリーは魔導書を開き幾つもの魔方陣を展開していく。
「悪いけど貴方達には消し炭になってもらうわ。放っておくと面倒だしレミィに怒られるし」
「へへっ、やっぱりそうなるよな。まあいいぜ、相手になってやる」
魔理沙もまた箒にまたがって上空へ飛ぶとお気に入りの道具ミニ八卦炉を取り出して構える。その瞬間パチュリーの魔力が急激に膨れ上がっていくのを感じる、魔理沙が戦闘体勢に移ったのに合わせてパチュリーもまた自身の魔力を上昇させたのだ。
主の邪魔はすべきではないと判断した使い魔である小悪魔は二人から距離をとる。小悪魔の考えに賛同した訳ではないがヨッシーも魔理沙から一旦離れる。すると互いに離れた者同士偶然目と目が合う。
「あ、貴方はあの魔理沙さんとかいう魔女のお供の方。まさか貴方もパチュリー様の本を狙って」
「いえ違いますよ。実は私本にはあまり興味がないんです」
「え、そうなんですか? じゃあ何でここへ?」
「本当はあの紅い霧を晴らす為に来たんですが、それは他の方の仕事でして。私はただ付き添いでやってきただけなんですよ、いわば観光みたいなものです。なので私は戦う気はありませんよ」
勿論それは本当といえば本当だし嘘といえば嘘である。だがヨッシーとしては命懸けの戦闘は出来るだけ避けたかった。そして少なくとも目の前にいる小悪魔は戦闘の意思はなさそうなのでここは上手くやり過せるだろうと考えたのだ。結果として小悪魔の警戒が少しずつ解かれていってるのでひとまず胸を撫で下ろすヨッシー。小悪魔の方もヨッシーが本当に戦う気がないと分かったのか安堵しているのが見てとれる。
「いや~助かりましたよ。いざ戦うとなれば私もそれ相応の覚悟が必要になりますからね」
「貴方はちょっと変わってますね。今回の侵入者達の具合からして好戦的な方かと思ってましたよ」
「まあ仲間がピンチになれば共闘しますけどね、でもやっぱり一人で戦うのは怖いですよ」
「それは私もです。一使い魔である私じゃ精々サポートが限界でして。一対一の戦いでは人間を追い払うのがやっとなんです」
「それでも充分すごいでしょ...」
お互いの性格に何かと共通点があったのか打ち解けていく二人。少なくともこの二人が今すぐ一騎討ちをする事はないだろう。でももし自分の友達や主の身に何かが起これば二人共直ぐに駆けつけて戦闘に移る、そこもまたお互いに理解していた。
爆発に似た音が響き渡り二人は気づく、こうして二人がこうして和解している間に『東洋の西洋魔術師』霧雨魔理沙と『西洋の東洋魔術師』パチュリー・ノーレッジは既に戦闘を開始していた。それは弾幕と弾幕、魔法と魔法とが衝突し合いその凄まじさはまさに戦争と呼べるレベル。だがこれから更に二人の魔女の決闘はその激しさを増していく。
ーーーーー
「ずいぶん賑やかになってきたわね」
ここは霧の湖を一望する事も可能な高さに位置する紅魔館時計台、この屋上のような場所は館の者達で月夜を楽しむには充分な広さ。そこには今現在ワイングラス片手に優雅に紅き今を楽しむ少女が一人。
青みがかった銀髪のウェーブのセミロング、ピンクのナイトキャップにこれまたピンクのふんわりとしたワンピース、そして悪魔羽を生やした幼い容姿の彼女の名はレミリア・スカーレット。夜の支配者吸血鬼にして今回の異変の全ての元凶。
だが異変を引き起こした張本人は仲間が侵入者と戦っていて紅魔館全体が揺らいでいるにも関わらずその表情はどこか楽しげだった。
「こんな騒がしい日も悪くはないわ。思惑通りならこのまま侵入者は撃退、そして幻想郷は我が手中へと収まる筈なんだけど。そう簡単にはいかないみたいね」
レミリアが視線を向けた先にいるのは宙に浮いた一人の少女。巫女の衣装を身に付けており尋常ではない霊力を放っている。少なくとも穏便に決着をつけるつもりはないらしい、でもそれはレミリア自身も同じだった。体の奥から疼いてくるものがある、久しぶりに本気で暴れるに相応しい相手が現れたのだから。
「一度だけ言うわよ、あの霧迷惑だから消しなさい」
「それは私が吸血鬼と知っての台詞か?」
「そんなの知らないわよ。もし大人しく消さないってなら力ずくで消させるわ」
「どうせ何言ってもそうする癖に。まあいいわ、楽しい夜になりそうね」
博麗の巫女と紅魔館の主が対峙する。ここから起こる一騎討ちは両陣営のまさに大将戦。紅魔館各地でも戦いは更に激化していき紅霧異変は一気に最終局面へと動いていく。