その瞬間、鈍い音が響き渡る。
それは一瞬の出来事だった、痛みを感じるほどの殺気が放たれたかと思えば俊哉の体が吹き飛んでいた。風見幽香のあまりに恐ろしい一撃、その場で繰り出されたノーモーションでの蹴りではあるがその破壊力は計り知れない。
「がっ...」
座っていた場所から凡そ十メートルは吹き飛ぶ。蹴りを入れられた背中には鈍痛が走る、この蹴りは只の妖怪とは到底思えない。純粋な力ならば萃香にも負けず劣らずの強さだ。だが致命傷とまではいってなかった、俊哉は蹴られる瞬間に背中に神力を重点的に込めて防御力を高めた事によってダメージを軽減する事に成功。それでも重い一撃には変わりないのだが。
「ゲホッゴホッ、なんて力だ」
「流石ね、やっぱりこの程度じゃ死なないか」
幽香は既に俊哉の背後まで距離を詰めていた、そのゆったりとした姿からは想像もつかない速さで。右手に拳をつくると再び背中目掛けて降り下ろす。反射的に振り向いた俊哉は両手を胸で交差させる事で拳を防ぐ。だがそれが間違いだった、反射的に振り向いた為に俊哉の体勢は片膝立ちという不安定な状態。チャンスと見た幽香は左手に構えたお気に入りの日傘の先端を俊哉へと向ける。
「あらあら、もうお仕舞い?「元祖」マスタースパーク」
日傘の先端から放たれたのは極太のレーザー。この一撃は魔理沙の放つ「マスタースパーク」に近いがその出力は明らかに違った。妖力の込められたレーザーは俊哉を飲み込むとあまりの威力にそのまま地面をもえぐり取る。立ち込める砂煙を眺めながらハァ、とため息を漏らす幽香。あまりにもあっさり終わってしまったことにガッカリしてるのだろう。ギャラリー達も開いた口が塞がらない。
「たいして強くないじゃない、つまらなかったわね」
「おいおい、あれが本気か? 笑わせるな」
「あら、まだ生きていたのね。これならもう少し楽しめそうだわ」
幽香の表情はまるでこの戦闘が遊びであるかのように楽しそうな笑みを浮かべていた。
ーーーー
「おっ、紅魔館組が来たんだぜ」
「あら、魔理沙にマリオじゃない。久しぶりね」
「久しぶりだなレミリア。それに咲夜やパチュリーも元気そうじゃないか。あれ、そういやフランはどうしたんだ?」
「妹様は今回気分が乗らないそうで欠席です。でも美鈴も一緒ですので問題ありませんわ」
この戦闘中に姿を現したのは湖の付近に建つ紅の屋敷に住まう西洋の者達。主のレミリアにメイド長の十六夜咲夜、それにレミリアの親友のパチュリーに使い魔の小悪魔。
レミリアもまた加藤俊哉の強さに興味が湧いた為にやって来たのだろう、今すぐ闘いたいと言わんばかりに目を輝かせている。
「それにしてもお前まで来るとはなパチュリー、お前も俊哉の戦闘目当てか?」
「まあそれもあるけど、本当はこあがどうしても来たいって言うからよ」
「でもお前もまんざらでもないだろ、私の目はごまかせないぜ」
「うるさいわね、てかそれより本を返しなさい」
「だから言ってるだろ、死んだら帰すって」
「じゃあ今すぐ死になさい」
「そりゃないぜ」
やはりこの展開になってしまったか、でもまあいつもの事かと咲夜とマリオは思う。だがマリオは一方で別な事に疑問が浮かんでいた、それは何故小悪魔が来たいかと言ったかだ。マリオは彼女とはほとんど話した事はないが今までの宴会で見てきた限り戦闘好きという感じはしない。何か別の目的があるのだろうか。
と、考えていると再び爆音が響く。マリオはひとまず頭の隅に置いといて戦闘の方に目を向ける。
ーーーー
「くそ、一撃一撃が重すぎるんだよ」
「そういう事はもっと本気になってから言うことね。ずっと手加減してるじゃない」
紅魔館のメンバーと談笑してる間にも俊哉と幽香は激しい攻防を繰り広げていた。互いの拳と拳がぶつかり合い、その度に衝撃が辺りに響き渡る。幽香は拳に加えて自身の日傘をまるで剣のように振るう。妖力の込められた拳や日傘の力任せの攻撃を俊哉もまた創造の剣で受け流していく。神力の込められた剣は折れこそはしないものの握る手に伝わる衝撃には手が痺れる。
「いい加減に本気を出しなさい、いつまでこんな事を続けるつもり? それとも私を怒らせたいのかしら」
「ああ分かったよ。じゃあこいつは最初の仕返しだ」
一瞬にして俊哉の全身に神力が巡らせていくのを肌で感じる。だがもう既に遅かった。幽香の捉えきれない速度で距離を詰めていた俊哉から繰り出されるのは三発の拳。あまりの速さに幽香は頭が追いつかない、気がついた時には既にうつ伏せに倒れていた。そのまま意識を手放すのに時間は掛からなかった。
「やべっ、やり過ぎた。でもあのままじゃ俺も危なかったしな」
「凄いぜ俊哉! まさかあの幽香をこんなにあっさり倒すなんてよ」
「それよりこいつどうしたらいいか? 流石にこのままじゃまずいだろ」
「俺が手当てしておくよ」
マリオは倒れた幽香を抱えると縁側まで運んでいった。おそらくマリオには回復系の技があるのだろう、ならば安心して任せられる。妖怪達との二連戦は流石に堪えたのか、俊哉は神社の中へと戻るとまだ僅かに残っていた料理に手を伸ばす。結構大量に作ったつもりだったがそのあまりの減りの早さに、つくづく幻想郷の女性は恐ろしいと感じた。
「あの、しゅ...俊哉さんですよね? わ、私...小悪魔と申します」
「ああそうだが。ん、小悪魔って事は名前と気配からして悪魔か、とてもそうは見えないけどな。少なくとも俺の知る範囲では」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。それより君も食べたらどうだい?せっかく宴会に来たんだしさ」
「で...でも、ほとんど無くなっているので流石に...」
「あー、じゃあまた作ってくるわ。ちょっと待っといてくれ」
「あ、はい!」
そう言い残すと俊哉は台所へと姿を消す。それを見た魔理沙や霊夢、他の参加者達はまたご馳走が出てくると大騒ぎ。幽香の介抱を行っているマリオと、何故か俊哉をじっと見つめている小悪魔を除いては。
「出来たぞ」
「おっ、来たぜ来たぜ!」
「それにしても遅かったわね、結構手間が掛かったの?」
「お前らの食う量が多すぎるからその分多く作るしかないだろ」
「まあそんな事言うなって」
「すまないな小悪魔。遅くなってしまって」
「いえ...大丈夫ですよ」
両手に様々な料理の盛られた大皿を運んできた俊哉。みんな待ってましたと言わんばかりの反応だ。たまに本当にこいつら女性か?と思ってしまう程。
能力を使用して創造された幻想郷にはない素材や見たこともない料理にみんなは再び舌鼓を打ち、酒を嗜む。先程来訪した紅魔館のメンバーもまた以前いた外の世界の知識で作った西洋酒、主にワインを嗜んでいた。小悪魔に聞くと紅魔館の者達は美鈴を除いて日本酒はあまり口に合わないのだとか。俊哉もワインをわけてもらい二人で飲み交わしていると近づいてくる影が一つ。
「ちょっといいかしら、加藤俊哉さん。幻想郷に海はないのに何故こんなにも魚介類があるのですか? あの料理はどう見ても川魚だけとは思えないし」
「それは俺の「創造する程度の能力」で創造したものだ、詳しくは言えないが。てかお前は誰だ? その服装からしてあの吸血鬼のお手伝いさんってとこか?」
「あっ、これは申し遅れました。私は十六夜咲夜といいます。あちらにいるレミリアお嬢様の従者を務めています」
青を基調としたメイド服に身を包んだ銀髪の女性、十六夜咲夜は自己紹介と共に会釈する。咲夜もまた俊哉に興味があった、周りの者達とは違ってその強さではなくて料理の方に。やはり同じ調理場に立つ者として新たな料理には興味が湧いてくる。それだけではない、俊哉は外の世界の食材をも扱っていた。何らかの方法で彼が入手出来て、もしそれをわけて貰えるとなればこれ程有り難い話はない。
「あの、もしよろしければ今度いくつか送っていただけないでしょうか?」
「え? 別にいいが「話は聞きましたよ俊哉さん! あなたさっき能力があると言いましたね、詳しく教えてもらいましょうか。いつ頃から能力を」」
うるさいと感じた俊哉は一瞬にして文の額にでこぴんを入れる。ジャーナリスト魂に火の灯った文はあっさり気を失ってしまう。あの「幻想郷最速」を誇る鴉天狗の射命丸文でさえも対応しきれない速度ででこぴんを放つとは、見ていた者達は改めて加藤俊哉の強さを思い知った。ただ魔理沙は今のがツボにはまったのか腹を抱えてハハハと笑っている。
「ハァ、あっちがうるさいな。それより咲夜、食材の件だが別にいいぞ。俺が元の世界に帰るまでの間でよければだけどな」
「ええ、それで充分ですわ。ありがとうございます」
「それくらい構わないさ。そういえば小悪魔、料理はどうだ? 口に合ったか?」
「はい、とても美味しいです。ところでこの料理は何と言うんですか? イモを使った料理みたいですが」
「それはフライドポテト、外の世界では有名な料理だ。自宅で作るより店で買う方が主流なんだけどな」
口が寂しかったのかおもむろにフライドポテトに手を伸ばす俊哉。本人としては外の世界に存在するとあるファストフード店(マッ●)の料理をイメージしたのだとか。咲夜や小悪魔は当然何を言ってるのか理解出来なかった。
「まあ塩分や油分が多いから食べ過ぎには気をつけた方がいいぞ」
「確かに油は多そうですね、お嬢様にお出しする時には気をつけねば。ところで俊哉さん、貴方は元の世界では彼女とかいなかったのですか?」
「へ? いや、別にいなかったが」
「そう、これだけ万能なんだから一人か二人いると思ったわ」
別に興味はなかったからな、と俊哉は話した。咲夜としては自分と大して変わらない年の男性なら女性に興味くらいあるだろうと踏んでいた。でも違った、せっかく面白い事になりそうだったのにと少々残念だ。
「あのっ、俊哉さん! もしよろしかったら暫くの間紅魔館に住みませんか? レミリア様もきっと許してくれる筈です。ですよね、咲夜さん」
「え...そうね、お嬢様さえよければ私も構わないわよ。どうする?」
「いや遠慮しておく、もう住む場所は決まってるからな」
断られてしまった事が残念だったのか少々うなだれている小悪魔。本人の感情と同調しているのか頭と背中から生えた皮膜の付いた悪魔羽は元気がなさそうに垂れ下がっている。俊哉にどうしても来てほしい訳でもあるのだろうか、咲夜と俊哉は二人して首を傾げていた。
「おいっ、加藤俊哉っ! さいきょーのあたいと勝負しろ!!」
「ハァ、また面倒なのが来た」
俊哉はため息を付きながらお猪口に注がれた酒を飲み干した。
投稿が遅くなってしまってすみませんでした。今後もこんな感じで不定期更新が続くと思います。のんびり待っていただけると幸いです。