――― 防衛大学 ―――
「……昭和29年、此の年、我が国は恐るべき災害に見舞われた………ゴジラである!!」
此の時、自衛隊の将来を担う幹部になるであろう若き候補生達の為に立花泰三海将補による特別講義が行われていた。
「戦場と化した首都東京は一夜にて灰燼と化し、多大な犠牲を払いながらも先人達はゴジラを駆逐した。
此が第二次世界大戦後、平和憲法の下に設立された保安隊…そしてその保安隊を再編されて誕生した我々自衛隊の初実戦である」
現時点で見た処、講義の内容はゴジラを踏まえた自衛隊の歴史である様だった。
「だが此の戦いは世界近代史に置いてキングコングとアメリカ軍との戦いから始まった怪獣と人類の戦いの一端にすぎず、世界的にも未だにゴジラを初めとした怪獣達の存在が確認されている」
立花は一端水を飲んで息を整えた。
「近年だけでもアメリカ・ニューヨークがゴジラに襲撃され、フランスではモン・サン=ミシェルの礼拝堂がゴジラらしき怪獣に破壊されたとの未確認情報がもたらされている……」
「…ねぇねぇ、つぼみ」
「……何ですか、えりか?」
不真面目な事に立花の講義に飽きてきた候補生の一人がノートを取りながら真面目に聞いていた学友に小声で話を始めた。
勿論、その学友は迷惑そうであった。
「アメリカとフランスの奴って結局ゴジラだったの?」
「そんなの私知りませんよ」
「…それが襲撃されたアメリカとフランスの当事国は襲撃したのはゴジラだとしたらしいけど、日本の学者はどっちのも否定しているみたいだよ」
「詰まり両方共、襲った怪獣はゴジラじゃないって事、いつき?」
「それじゃゴジラはビオランテの一件以降何処に行っちゃったのかな?」
実際問題、ビオランテとの二度の対決を初めとした出来事以降かなりの時が流れていたが自衛隊はゴジラの消息を完全に見失っていた。
勿論、此の間ゴジラは活動を停止している(の筈…)ので都市部への上陸や原子力関連(原発や原潜)の襲撃等の新たな被害は無く、逆に先の襲撃で被害を受けた街々は復興を遂げていた。
「しっかし、今の自衛隊は情けないよねぇ~…。
結果オーライだったけど二度のゴジラの襲撃の迎撃は殆ど失敗しているんだから」
「だけど保安隊はゴジラを倒せず、手柄泥棒をしたかもしれないんだよ」
「アレですか?
一頭目のゴジラを倒したのは実はプリキュアだって噂…」
「…我が国も近年だけでもゴジラとビオランテだけでなく、神奈川県を中心に謎の怪獣や怪物の出現報告が多数ある上……ん?」
小声で会話をしている者達に気付いて注意を促そうとした立花だったが、その直前に詫びを入れながら入室した部下が何かの紙を差し出した為にそちらに向いた。
「……出動命令?」
「はい、直ちに海没事故の調査に向かう様にとの事です」
「…講義終了!」
「気を付け!……敬礼!!」
室長の号令下、軍隊(一様が着くが…)ならではの一糸乱れぬ行動をした候補生達を背に退室した立花は此の出動命令の内容に胸騒ぎを感じていた…
――― 加音町・大型ショッピングモール ―――
『臨時ニュースを申し上げます。
先程東京湾海上遊園地・フェアリーパークが海没事故を起こしました。
繰り返します……』
同時刻、東京湾で発生した事故の一報がニュース番組を通して日本中に駆け回っていた。
『…幸いな事にフェアリーパークは整備休園中の為に人的被害は最小限ですみましたが、施設全てが海に沈んだそうです………只今入った情報によりますと政府はフェアリーパークの事故調査の為に自衛隊を出動させる事を決定いたした模様です』
「…ニャンですとぉーー!!?」
「「っ! しぃーー!!!」」
「……にゃぷ~…」
勿論、此所加音町の大型ショッピングモールでも大型テレビからニュースキャスター月影ゆりが読み上げている内容に誰もが驚き、ざわついていた。
此の為、白猫・ハミィが叫んだのに誰も気付かなかった。
「フェアリーパークが沈没…」
「嘘!! 私あそこにすっごく行きたかったのに!」
そしてその中に南野奏と北条響…伝説の戦士である二人のプリキュア、キュアリズムとキュアメロディもいた。
『…フェアリーパークは建設時から原因不明の金属融解事故が多発していた上、開園時に謎の怪人達や巨大生物に襲撃された事もあって今回徹底的な調査が行われる模様です……』
「…ねぇ、此の事件ってマイナーランドの仕業かな?」
「それは多分違うにゃ」
「どうしてなのハミィ?」
真っ先に敵対する闇の勢力かと疑った響の疑問に奏に抱かれているハミィが周りに気付かれない様に小声で否定した。
実は先程から喋っているハミィは見た目…と言うか見るからに猫なのだが本当は異世界・メイジャーランドの妖精であるのだ。
「フェアリーパークには光の秘宝のレインボージュエルがあるニャ。
だけどそれが破壊されてもいないし、奪われていないニャ」
ハミィの言葉に間違いは無く、確かにニュースで海自の先遣隊だレインボージュエル(と思われる巨大シャコ貝)を発見して回収作業に入ったとの現場からの映像着きの一報が読み上げられていた。
「それに幾らマイナーランドでも一瞬でフェアリーパークを海没出来る筈がないしね」
「そうか……ん?」
響が奏に何かを返そうとしたが、人混みの中で何かを見付けた。
「……エレン? 奏、向こうにいるのエレンじゃない?」
「…あ、本当にそうね」
響の指し示しながらの言葉に従って奏が振り向いた先に……確かに自分達の知人の黒川エレンがニュース映像を見詰めていた。
しかもエレンは何処か顔色が悪かった。
「本当!! セイレーン(エレンの別名)がい、もがもが!」
そしてそのエレンに響と奏が声を掛けようとしたが、ハミィが大声で叫んだ為に響が慌ててハミィの口を押さえ、更にハミィの声に反応した周囲の人達を何とか誤魔化した。
「駄目じゃないハミィ」
「御免ニャ…」
「…っ! 響、エレンがいない!」
その間にエレンは何所かに行ってしまった…
――― 東京湾 ―――
此の時、フェアリーパークが存在していた海域に海上自衛隊の最新鋭護衛艦『あいづ』を初めとした艦艇が停泊して救助活動を行っていた。
更に護衛艦群に搭載されていた特殊深海作業艇『さつま』から送られてくる映像の確認作業をしていた。
「…酷い有様だな」
「本当にそうです」
艦長以下の乗組員達はフェアリーパークの残骸が散乱している光景に顔を顰めていた。
特に妖精を模った遊具が横転して半ば埋もれているものなどは取り分けて酷く、後日マスコミに公開されて此の事故の象徴的な物となった。
「…『さつま』一号機より通信、レインボージュエルに浮き袋の設置作業が終了したそうです」
「では二号機と共にフェアリーパークの土台へ向かわせろ」
二隻の『さつま』が「了解!」と返事をして暫く経った後、根元から無残に折れたフェアリーパークの土台と海底の映像が映し出された。
「…海没の原因は此だな。
根元を破壊されたんだな」
「ですがおかしいですね?」
「……どうした?」
『あいづ』航海長の南瞬が破壊痕に疑問を感じ取った。
「……此の部分を見て下さい。
まるで中から何かが這い出た様な感じです」
瞬が示した場所に破壊のプロ(そう言って良いのか?)である彼等は明らかに爆破物でのものではないと見抜いた。
「…では此の破壊痕から何が出てきたのだ?」
残念ながら艦長の疑問に誰も答えられなかった。
「まさかフェアリーパークを襲ったって言う例の海坊主じゃないですか?」
「否、まさか…」
場を和ませようとした乗組員の一人の冗談に苦笑がそこそこ聞こえてきた。
「…兎に角、もっとも『さつま』に調査する様に命じる必要があるな」
瞬以下の乗組員達も同意の意を示すのを確認した艦長が実際に命じようとしたその時、一斉に二つの映像が……否、『さつま』が揺れ始めた。
「どうした!? 何が起こっている!?」
「……大海流です!」
「っ! 直ぐ『さつま』を避難させろ!
急げ!!」
艦長の命令を聞くまでもなく、『さつま』は二隻共避難行動を起こしていたが…
「ああ!! 二号機が!」
…僅かに行動が遅れ、しかも更に操作を誤った二号機が残骸に接触して爆発した!
只、一号機は二号機の最後を映しながら大海流に揉まれながらも無事であったが…
「っ!! 何だ、今のは!!?」
…その直後、一号機の船外カメラに一瞬何かが写った事に瞬が気付いた。
そして他の乗組員達や一号機の搭乗員達もそれに気付き、大海流が収まってきた事あって再び写し出されたそこに…
「っ!!」
「こ、此は!!?」
…そこに残骸と砂煙に紛れて海底を這うように進む背鰭が多数立ち並んだ黒い背中に太く長い尻尾が存在していた。
幸い……と言うべきか、此等は『さつま』一号機から離れようとしていた。
「……『さつま』一号機、『さつま』一号機!…」
どう考えてもフェアリーパークの海没に関連していそうな……それも彼等自衛官何処か日本人なら容易に正体が予測出来るものを見た事もあって艦長が『さつま』一号機への通信マイクを取った。
『ひかり、早く立て直して!!』
『分かっています!
それより薫さん、今の見ましたか!?』
…だが『さつま』一号機に乗り込んでいる九条ひかりと霧生薫は搭乗機の現状に加えて、カメラ越しに見たものから軽い騒ぎを起こしていた……まぁ、分からない事もないが…
「…薫!! ひかりでも良い!!
状況を報告しろ!」
『瞬ですか! 私達と『さつま』は大丈夫です!』
艦長からマイクを奪った瞬の怒鳴りながらの質問に薫が無事を報告したので取り敢えず全員が安堵の息を吐いた。
「…南!!」
「っ!! 艦長、失礼しました!」
思わず自身がやった行為に瞬は謝罪して艦長にマイクを返した。
「霧生、先程カメラに映った移動中の物体は何だ?」
『……艦長…自分の目が信じられません!』
『あいづ』の乗組員の誰もが大災害が起こるであろうと否応なく予感した。
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