来れました、魔界。
え? あぁ、冥界って言うの?
その冥界にやってきました。
あの後、グレイフィアさんが自宅に送ってくれて、そのまま眠って起きたらまたグレイフィアさんのお姿が。
なぜか、俺にもパーティーに参加する様に魔王様からご指名が来たらしい。
そんな恐ろしげな人と面識ないからオロオロしてたら、あの時あった先輩のお兄さんなんだとか。
あの優しそうな人、魔王なんですか。
てか、リアス先輩って魔王の妹なの?
それなんてラノベ?
疑問を浮かべてたら、ゲームの時と同じ光が身体を包んでいく。
目を開くとそこは文字通り別世界。
城、いや館かな?
何でもここで魔王様が待ってるそうだ。
つまりここは、魔王の館。
いつの間にラストダンジョンに挑むことになったのか。
俺のレベル幾つよ?
レベル上げを所望したい。
さっきから続く怒涛の展開に、混乱して思考が飛びまくってる。
気付くと俺の目の前には、この間会った紅い髪のイケメン、サーゼクスさんが。
「やぁ、来たね。待っていたよ」
アザゼルさんの所で見た事ある様な、立派な執務机から顔を上げて爽やかに挨拶をしてくる。
「えっと、ご無沙汰していますサーゼクスさん……じゃなくてサーゼクス様」
いかん、魔王様をさん付けとか。
「さん付けで構わないよ。急に申し訳ないね、『アザゼルの秘蔵っ子』と少しばかり話がしてみたくて」
「あれ? アザゼルさんの事知ってるんですか?」
言ってから気付いたけど、そりゃ知ってるよね。
アザゼルさんって、あんなんだけど堕天使のトップだし。
悪魔のトップであるサーゼクスさ……あぁもういいや、サーゼクスさんが知らない訳がない。
てか秘蔵っ子って何?
「彼から色々と聞いているよ、『人間の癖に面白い奴がいる』ってね」
「アザゼルさんの言うことは、半分は戯言なんで気にしないで下さい。シェムハザさんもそう言ってましたし」
何を話した?
碌でもない話に決まっている。
俺もあの人のある事ある事喋ってやろうか。
サーゼクスさんに勧められて、一緒に食事をする事に。
魔王様と食事か。
俺はどこに向かって生きているんだろう。
「先日のゲームは楽しかったよ、結果は残念だったがね」
最初の突撃には笑いが抑えられなかった。
サーゼクスさんは、心底楽しそうにそう言ってワインを傾ける。
そういや見てたんだっけ。
と言うか残念って……サーゼクスさんはリアス先輩を結婚させたかったんでは?
本音は違うのかな。
「所詮俺は人間ですから。先輩は勝たせてあげたかったですけど」
「ふむ……君は本当に悪魔に興味はないのかい?リーアに誘われたんだろう?」
リーアって誰?
もしかしてリアス先輩か?
「悪魔になって何したいってのもないですし……勝手になったらアザゼルさん達にイジメられそうで怖いです」
なんかめっちゃ笑われた。
ちゃんと答えたのに酷い。
「しかしそうか……残念だが、縁がなかったと諦めよう」
なんか一人で納得しておられる。
しかし料理が美味い。
トカゲとか出てきたらどうしようかと思ったけど、冥界の料理って意外とイケる。
「さて、話は変わるが、実は君にお願いしたい事があってね」
あ、悪巧みしてる時のアザゼルさんと同じ眼をしてる。
この眼をする人に関わると、大抵俺に良くない事が起こるのだ。
しかし、ここは冥界の魔王の館。
完璧なアウェー。
俺に断る権利は、無い。
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パーティー当日。
着慣れないタキシードに身を包み、THE日本人な黒髪を、オールバックにセットする。
うむ、我ながら似合わない。
服に着られてる感がハンパないな。
隣できっちり着こなしている木場が、たいへん羨ましい。
リアス先輩とはパーティー前に会って、やたらと謝られた。
こちらも、力になれなくて申し訳ないと伝えておいた。
時間がないらしいのでそのまま別れたが、あまり気にしてないといいな。
木場に励まされながらパーティー会場へ。
モグラさんはさすがに出してるとマズイので、俺の中でお休みして貰う。
映画やドラマの中で観た様な光景が、目の前に広がっている。
まさに豪華絢爛。
圧倒されていると、後ろから小猫ちゃんと朱乃先輩もやって来た。
小猫ちゃんは薄いピンクのパーティードレス、朱乃先輩は大人びた黒い着物。
二人とも似合っている。
とても綺麗だとは思うのだが。
どうしよう、朱乃先輩がどう見ても人妻や未亡人にしか見えない。
顔に出さない様に二人とも褒めておく。
わかりきっている地雷を自分から踏んだりはしない。
今日は特に。
「貴方ですわね? あのゲームに参加した人間って」
手渡されたドリンクを片手に時間を潰していると、金髪ツインテロールの少女に絡まれた。
後ろにはライザーの《女王》が控えているし、この子も下僕悪魔かな?
「お兄様に勝てないまでも、《女王》であるユーベルーナも含めて6人も倒したと言うからどんなに凄いのかと思いましたのに。」
こんな冴えない方だったとは。
明らかに見下し、呆れながらそう言ってくる。
なるほど、あいつの妹だったのか。
そう言えば最初の襲撃で、ライザーと一緒に燃えてるのがいたな。
「あぁ、最後まで何もしなかったおかげで生き残った《僧侶》ってキミか」
瞬間、空気が凍る。
目の前のツインテロールが揺れ、所々から火が漏れている。
「フ、フフフ……負け犬の遠吠えも、ここまで来ると気持ちいいですわね……」
「というか、君たちマトモに倒したの《女王》の人がやった小猫ちゃん一人だけだよね? 後は一人も倒せてないよね?」
あ、やばい。
めっちゃ震えてる。
めっちゃプルプルしてる。
取り敢えず、謝っとこう。
「ごめん、言い過ぎた。えっと……と、とにかくそんな泣きそうな顔しないで下さい」
「貴方なんて嫌いですわぁぁぁ!」
そのままライザーの妹は走って行ってしまった。
後ろにいた連中もそれを追い掛けていなくなる。
やってしまった。
「随分と女の子の扱いがお上手ですね?」
年下を泣かせてしまってショックを受けていると、笑いながら声を掛けられた。
嫌味ですか。
おや? その顔は何処かで……?
「ソーナ会長じゃないですか」
木場の言葉で俺も思い出した。
そうだ、うちの学校の生徒会長さんだ。
え、なに?
会長さんも悪魔だったの?
うちの学校ヤバくね?
「絡まれてるから助けようかと思ったんですが……必要なかったようですね?」
「あんまりイジメないでくださいよ……」
口に手を当てながら笑う会長さん。
ていうか、こっちはもっと不味い。
小猫ちゃんが拗ねてしまった。
「どうせ私は一人だけやられましたよ……」
「い、いやでもホラ。俺も《女王》にやられた様なもんだし、似たような……」
あぁ、そっぽ向かないで!
ごめんなさい! ホントにごめんなさいっ!
「冥界の名だたる貴族の皆様方!」
急に響き渡る声。
そこには、ライザーとサーゼクスさんが並んで立っていた。
ライザーはそのまま演説を続ける。
「……よって、此方におられる我らが魔王、サーゼクス・ルシファー様からご提案が御座います!」
そしてサーゼクスさんが演説を引き継ぐ。
実にいい笑顔だ。
殴りたい、怖くて出来ないけど。
【私の妹の婚約パーティーの催しとして、ライザー君と、彼の眷属を《女王》含めて約半数を一人で撃破した人間、カズキ君との再戦を見てみたい】
長々と話していたが、要約すると言いたいことはこれである。
サーゼクスさんに何してもいいと言われたし、やる事を伝えたら大笑いされたが許可してくれた。
やるしかない。
「全く、魔王様もお戯れが過ぎるな。今更こんな人間と戦っても何も意味などないのに」
闘技場? に移動したライザーは、大袈裟な身振りをしながらそんな事を言っている。
俺が一番言いたいです、それ。
「だがちょうどいい、貴様には虚仮にされたままだったからな。存分に恥をかかせてやるさ」
周り中悪魔だらけなのに、俺にかく恥なんてあるのかね。
しかし、恥ねぇ……。
「ライザーさんはご飯食べました?」
「何?」
ライザーはこちらに怪訝そうな視線を向けてくる。
「冥界のご飯って美味しいですよね。でもなんか物足りなくって」
「貴様、何を言って……」
俺は両手を合わせて頭を下げる。
「今から頂きますね、好物の【焼き鳥】」
おー、身体に纏ってた炎が一気に燃え上がった。
悪魔って沸点低い奴ばっかだな。
こんなんで怒ってたら将来禿げるよ?
『では、始めたまえ』
サーゼクスさんの号令があり、試合が始まる。
「貴様から攻撃させてやる、来い」
腕を組みながら、空も飛ばずに仁王立ち。
プライドの塊だな、悪いことじゃないけど。
「じゃ、遠慮なく」
すでにモグラさんは装着済み。
何時ものように拳を地面に何回も叩きつけて、石の柱を相手に向けて大量に伸ばす。
「ふん、所詮はこん……がぁっ!?」
眼前に迫る柱を燃やそうとした瞬間、ライザーの足下から脛にめがけて普段より小さい石柱をぶち当てる。
小さい分凄い勢いで命中し、さすがのライザーも痛みで一瞬動きが止まる。
「もいっちょ」
その脛に伸びた石柱が枝分かれし、今度は足の小指を強打する。
「………………っ??!?」
ふはは、声も出ないか!
だろうな、このコンボは普段無表情なヴァーリさんですらほんのり涙目にした、飛ばないやつ限定の嫌がらせ技だ。
試合前に挑発したおかげで、真正面から向かい合ってきた。
最高のカモだ。
「まだまだ」
相手が悶えているうちに、素早く地面を叩いてから、その反動も使ってダッシュ!
《凹》の能力で、痛みに悶えるライザーの足下に、突然落とし穴が出現する。
「ぐ……ぁっ!こんな物に落ちるはず「ないよな、分かってるよ」 ぐがっ!」
ライザーが足の痛みに耐えながら飛ぼうとした時には、俺は既に上を取っている。
拳を背中に叩き込み、無理矢理落とし穴の奥へと押し込める。
「くそっ! こんな事をした所でダメージな……ど……」
かなり深い所まで落ちたライザーが、怒りながらこちらを見てくるが、俺が持っているものを見て、表情が固まる。
「精神的に潰す……色々考えたけど、お前にはやっぱこれだよな?」
「や、やめっ! 貴様、それでも人間か!?」
「人間だから、何でもするんじゃないか」
狼狽えるライザーに向かって、俺は無慈悲に持っているものを投げつける。
俺とモグラさんの合作
『マッスル☆アニキ〜僕の滾る腹直筋〜』
『ハッスル☆アニキ〜俺の燃える大胸筋〜』
『パッション☆アニキ〜僕らの希望の上腕二頭筋〜』
作るたびに自分の中の何かを削っている気がするが、気になどしていられない。
ライザーに向けてどんどん投げつける。
レーティングゲームの時には使えなかったが、結果オーライだ。
「ぎゃあぁぁぁ! やめろ! そんなおぞましい物を投げつけるなっ!」
ライザーは狭い穴の中で器用に避けている。
よほど触りたくないのだろう。
けど、甘い。
「おっと、下にも気をつけろよ。一番最初に仕込んでおいた物がお前を狙ってるぞ?」
「っ!?」
穴の底には、岩で出来た表現してはいけない形状のものが敷き詰められ、時折突き出て下から攻撃してくる。
やけに尻を狙ってくるのは気のせいだ。
「くそ、上からも下からも!? 何がしたいんだ貴様は!」
「あん? 嫌がらせ」
「はぁ!?」
下からの攻撃を避けながら器用にこっちを見てくる。
「虚仮にされるのが嫌なんだろう? これで存分に恥がかけたぞ! ヤッタネ☆」
あ、切れたなあいつ。
撤退。
「貴様ぁぁぁぁあっ!!」
ライザーの怒号と共に、穴から火柱が起こって俺の嫌がらせアイテムを全て灰にする。
おー、やっぱり凄いなフェニックス。
空に舞い上がったライザーが凄い形相で睨みつけてくる。
でも、そろそろ時間切れだ。
『ライザーくん、そこまでだ』
「っ!何故ですか!!」
『事前に話したろう?本命が来たのだよ、赤い龍の帝王が』
そう、俺の役目は時間稼ぎ。
サーゼクスさんのお願いとは、イッセーがやって来るまでの単なる場繋ぎだ。
ついでなので、精神を削れるだけ削った。
あれであってるのかは知らないが、何かイライラしてるし多分問題ないんじゃないかな。
俺があいつとガチンコなんてしたら死ぬから。
文字通り灰になるから。
サーゼクスさんに説得された様で、ライザーが地上に戻ってくる。
「貴様は赤龍帝のガキの後で燃やしてやる、覚悟しろ……!」
おっかない。
でも。
「そりゃ無理だ、お前はイッセーに勝てないもの」
ちょうどやって来た様だ。
転送されてきたのは、俺の友達。
「遅いよイッセー、殺されかけたじゃん」
「悪い、待たせたカズキ。後は任せてくれ」
イッセーと入れ替わりで、俺の身体が光り出す。
「貴様、初めから時間稼ぎが狙いか…!?」
「男だったら、惚れた女は自分で助けたいもんだろう?」
ライザーにそう言って、闘技場からパーティー会場に戻ってくる。
ふぅ、カッコよくバトンが渡せた。
俺の仕事は終わった。
そんな俺を待っていたのは……。
朱乃先輩、小猫ちゃん、生徒会長による正座&説教だった。
生徒会長にまで怒られるとは……。
あ、ごめんなさい。
調子乗りすぎました、はい、ごめんなさい。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
初めてのレーティングゲームで、僕達は負けてしまった。
そのせいで、僕たちの主であるリアス部長はライザー・フェニックスとの婚約を飲まざるを得ない事に。
これからその婚約パーティーが行われる。
こちらの願いを聞き入れて、戦力の足りない僕たちに力を貸してくれたカズキくんは、人間だからという理由でパーティーには参加できないそうだ。
イッセーくんはまだ目覚めていないようだけど、彼はきっとまだ諦めていない。
パーティーが始まる頃には、きっと駆けつけてくれるだろう。
何故か、カズキくんが冥界にいた。
魔王サーゼクス・ルシファー様に招待されたそうだ。
魔王に招かれるって、彼は一体何者なんだ……?
しかも、その魔王様からのご指名で、今からライザーと戦うという。
無茶だ。
いくら強いとはいっても、カズキくんは人間だ。
フェニックスの炎にかかれば、即座に灰にされてしまう。
僕たちの不安とは関係なく、試合は始まってしまう。
その内容は、なんと言うか、その……色んな意味で凄惨な物だった。
悲鳴をあげるライザーと、邪悪な笑みを浮かべるカズキくん。
どちらが悪魔なのかわからない。
それも、サーゼクス様の一声で終わる。
僕らの主を助ける為に、イッセーくんが現れたから。
カズキくんは、イッセーくんと入れ替わりで会場に戻ってくる。
何やら格好いい事を言っていたが、行動が伴っていない。
リアス部長はイッセーくんが心配で見ていないが、部屋の隅で朱乃さんや小猫ちゃん、ソーナ会長にまで怒られている。
なんでも、サーゼクス様から頼まれてイッセーくんが来るまでの時間稼ぎをしていたらしい。
ついでに精神を削れるだけ……言い分はわかるが、あれはダメだろう。
イッセーくんの事を怒れないと思うよ?
これからイッセーくんが戦いを引き継いで、ライザーとの戦いが始まる。
君の顔からは決意を感じた。
絶対にライザーを倒してくれると信じている。
この残念な流れを、変えてくれ……っ!
木場くんの心からの叫びで終了です。