モグラだってドラゴン名乗っていいじゃない!   作:すこっぷ

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主人公くん、さいて〜


12話

来れました、魔界。

え? あぁ、冥界って言うの?

その冥界にやってきました。

 

あの後、グレイフィアさんが自宅に送ってくれて、そのまま眠って起きたらまたグレイフィアさんのお姿が。

 

なぜか、俺にもパーティーに参加する様に魔王様からご指名が来たらしい。

そんな恐ろしげな人と面識ないからオロオロしてたら、あの時あった先輩のお兄さんなんだとか。

 

あの優しそうな人、魔王なんですか。

てか、リアス先輩って魔王の妹なの?

それなんてラノベ?

 

疑問を浮かべてたら、ゲームの時と同じ光が身体を包んでいく。

目を開くとそこは文字通り別世界。

城、いや館かな?

 

何でもここで魔王様が待ってるそうだ。

つまりここは、魔王の館。

いつの間にラストダンジョンに挑むことになったのか。

俺のレベル幾つよ?

レベル上げを所望したい。

 

さっきから続く怒涛の展開に、混乱して思考が飛びまくってる。

気付くと俺の目の前には、この間会った紅い髪のイケメン、サーゼクスさんが。

 

「やぁ、来たね。待っていたよ」

 

アザゼルさんの所で見た事ある様な、立派な執務机から顔を上げて爽やかに挨拶をしてくる。

 

「えっと、ご無沙汰していますサーゼクスさん……じゃなくてサーゼクス様」

 

いかん、魔王様をさん付けとか。

 

「さん付けで構わないよ。急に申し訳ないね、『アザゼルの秘蔵っ子』と少しばかり話がしてみたくて」

 

「あれ? アザゼルさんの事知ってるんですか?」

 

言ってから気付いたけど、そりゃ知ってるよね。

アザゼルさんって、あんなんだけど堕天使のトップだし。

悪魔のトップであるサーゼクスさ……あぁもういいや、サーゼクスさんが知らない訳がない。

てか秘蔵っ子って何?

 

「彼から色々と聞いているよ、『人間の癖に面白い奴がいる』ってね」

 

「アザゼルさんの言うことは、半分は戯言なんで気にしないで下さい。シェムハザさんもそう言ってましたし」

 

何を話した?

碌でもない話に決まっている。

俺もあの人のある事ある事喋ってやろうか。

 

サーゼクスさんに勧められて、一緒に食事をする事に。

魔王様と食事か。

俺はどこに向かって生きているんだろう。

 

「先日のゲームは楽しかったよ、結果は残念だったがね」

 

最初の突撃には笑いが抑えられなかった。

サーゼクスさんは、心底楽しそうにそう言ってワインを傾ける。

そういや見てたんだっけ。

 

と言うか残念って……サーゼクスさんはリアス先輩を結婚させたかったんでは?

本音は違うのかな。

 

「所詮俺は人間ですから。先輩は勝たせてあげたかったですけど」

 

「ふむ……君は本当に悪魔に興味はないのかい?リーアに誘われたんだろう?」

 

リーアって誰?

もしかしてリアス先輩か?

 

「悪魔になって何したいってのもないですし……勝手になったらアザゼルさん達にイジメられそうで怖いです」

 

なんかめっちゃ笑われた。

ちゃんと答えたのに酷い。

 

「しかしそうか……残念だが、縁がなかったと諦めよう」

 

なんか一人で納得しておられる。

 

しかし料理が美味い。

トカゲとか出てきたらどうしようかと思ったけど、冥界の料理って意外とイケる。

 

「さて、話は変わるが、実は君にお願いしたい事があってね」

 

あ、悪巧みしてる時のアザゼルさんと同じ眼をしてる。

この眼をする人に関わると、大抵俺に良くない事が起こるのだ。

 

しかし、ここは冥界の魔王の館。

完璧なアウェー。

俺に断る権利は、無い。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

パーティー当日。

着慣れないタキシードに身を包み、THE日本人な黒髪を、オールバックにセットする。

うむ、我ながら似合わない。

服に着られてる感がハンパないな。

隣できっちり着こなしている木場が、たいへん羨ましい。

 

リアス先輩とはパーティー前に会って、やたらと謝られた。

こちらも、力になれなくて申し訳ないと伝えておいた。

時間がないらしいのでそのまま別れたが、あまり気にしてないといいな。

 

木場に励まされながらパーティー会場へ。

モグラさんはさすがに出してるとマズイので、俺の中でお休みして貰う。

 

映画やドラマの中で観た様な光景が、目の前に広がっている。

まさに豪華絢爛。

圧倒されていると、後ろから小猫ちゃんと朱乃先輩もやって来た。

小猫ちゃんは薄いピンクのパーティードレス、朱乃先輩は大人びた黒い着物。

 

二人とも似合っている。

とても綺麗だとは思うのだが。

どうしよう、朱乃先輩がどう見ても人妻や未亡人にしか見えない。

 

顔に出さない様に二人とも褒めておく。

わかりきっている地雷を自分から踏んだりはしない。

今日は特に。

 

「貴方ですわね? あのゲームに参加した人間って」

 

手渡されたドリンクを片手に時間を潰していると、金髪ツインテロールの少女に絡まれた。

後ろにはライザーの《女王》が控えているし、この子も下僕悪魔かな?

 

「お兄様に勝てないまでも、《女王》であるユーベルーナも含めて6人も倒したと言うからどんなに凄いのかと思いましたのに。」

 

こんな冴えない方だったとは。

明らかに見下し、呆れながらそう言ってくる。

なるほど、あいつの妹だったのか。

そう言えば最初の襲撃で、ライザーと一緒に燃えてるのがいたな。

 

「あぁ、最後まで何もしなかったおかげで生き残った《僧侶》ってキミか」

 

瞬間、空気が凍る。

目の前のツインテロールが揺れ、所々から火が漏れている。

 

「フ、フフフ……負け犬の遠吠えも、ここまで来ると気持ちいいですわね……」

 

「というか、君たちマトモに倒したの《女王》の人がやった小猫ちゃん一人だけだよね? 後は一人も倒せてないよね?」

 

あ、やばい。

めっちゃ震えてる。

めっちゃプルプルしてる。

取り敢えず、謝っとこう。

 

「ごめん、言い過ぎた。えっと……と、とにかくそんな泣きそうな顔しないで下さい」

 

「貴方なんて嫌いですわぁぁぁ!」

 

そのままライザーの妹は走って行ってしまった。

後ろにいた連中もそれを追い掛けていなくなる。

やってしまった。

 

「随分と女の子の扱いがお上手ですね?」

 

年下を泣かせてしまってショックを受けていると、笑いながら声を掛けられた。

嫌味ですか。

おや? その顔は何処かで……?

 

「ソーナ会長じゃないですか」

 

木場の言葉で俺も思い出した。

そうだ、うちの学校の生徒会長さんだ。

え、なに?

会長さんも悪魔だったの?

うちの学校ヤバくね?

 

「絡まれてるから助けようかと思ったんですが……必要なかったようですね?」

 

「あんまりイジメないでくださいよ……」

 

口に手を当てながら笑う会長さん。

ていうか、こっちはもっと不味い。

小猫ちゃんが拗ねてしまった。

 

「どうせ私は一人だけやられましたよ……」

 

「い、いやでもホラ。俺も《女王》にやられた様なもんだし、似たような……」

 

あぁ、そっぽ向かないで!

ごめんなさい! ホントにごめんなさいっ!

 

「冥界の名だたる貴族の皆様方!」

 

急に響き渡る声。

そこには、ライザーとサーゼクスさんが並んで立っていた。

ライザーはそのまま演説を続ける。

 

「……よって、此方におられる我らが魔王、サーゼクス・ルシファー様からご提案が御座います!」

 

そしてサーゼクスさんが演説を引き継ぐ。

実にいい笑顔だ。

殴りたい、怖くて出来ないけど。

 

【私の妹の婚約パーティーの催しとして、ライザー君と、彼の眷属を《女王》含めて約半数を一人で撃破した人間、カズキ君との再戦を見てみたい】

 

長々と話していたが、要約すると言いたいことはこれである。

サーゼクスさんに何してもいいと言われたし、やる事を伝えたら大笑いされたが許可してくれた。

やるしかない。

 

「全く、魔王様もお戯れが過ぎるな。今更こんな人間と戦っても何も意味などないのに」

 

闘技場? に移動したライザーは、大袈裟な身振りをしながらそんな事を言っている。

俺が一番言いたいです、それ。

 

「だがちょうどいい、貴様には虚仮にされたままだったからな。存分に恥をかかせてやるさ」

 

周り中悪魔だらけなのに、俺にかく恥なんてあるのかね。

しかし、恥ねぇ……。

 

「ライザーさんはご飯食べました?」

 

「何?」

 

ライザーはこちらに怪訝そうな視線を向けてくる。

 

「冥界のご飯って美味しいですよね。でもなんか物足りなくって」

 

「貴様、何を言って……」

 

俺は両手を合わせて頭を下げる。

 

「今から頂きますね、好物の【焼き鳥】」

 

おー、身体に纏ってた炎が一気に燃え上がった。

悪魔って沸点低い奴ばっかだな。

こんなんで怒ってたら将来禿げるよ?

 

『では、始めたまえ』

 

サーゼクスさんの号令があり、試合が始まる。

 

「貴様から攻撃させてやる、来い」

 

腕を組みながら、空も飛ばずに仁王立ち。

プライドの塊だな、悪いことじゃないけど。

 

「じゃ、遠慮なく」

 

すでにモグラさんは装着済み。

何時ものように拳を地面に何回も叩きつけて、石の柱を相手に向けて大量に伸ばす。

 

「ふん、所詮はこん……がぁっ!?」

 

眼前に迫る柱を燃やそうとした瞬間、ライザーの足下から脛にめがけて普段より小さい石柱をぶち当てる。

小さい分凄い勢いで命中し、さすがのライザーも痛みで一瞬動きが止まる。

 

「もいっちょ」

 

その脛に伸びた石柱が枝分かれし、今度は足の小指を強打する。

 

「………………っ??!?」

 

ふはは、声も出ないか!

だろうな、このコンボは普段無表情なヴァーリさんですらほんのり涙目にした、飛ばないやつ限定の嫌がらせ技だ。

 

試合前に挑発したおかげで、真正面から向かい合ってきた。

最高のカモだ。

 

「まだまだ」

 

相手が悶えているうちに、素早く地面を叩いてから、その反動も使ってダッシュ!

《凹》の能力で、痛みに悶えるライザーの足下に、突然落とし穴が出現する。

 

「ぐ……ぁっ!こんな物に落ちるはず「ないよな、分かってるよ」 ぐがっ!」

 

ライザーが足の痛みに耐えながら飛ぼうとした時には、俺は既に上を取っている。

拳を背中に叩き込み、無理矢理落とし穴の奥へと押し込める。

 

「くそっ! こんな事をした所でダメージな……ど……」

 

かなり深い所まで落ちたライザーが、怒りながらこちらを見てくるが、俺が持っているものを見て、表情が固まる。

 

「精神的に潰す……色々考えたけど、お前にはやっぱこれだよな?」

 

「や、やめっ! 貴様、それでも人間か!?」

 

「人間だから、何でもするんじゃないか」

 

狼狽えるライザーに向かって、俺は無慈悲に持っているものを投げつける。

 

俺とモグラさんの合作

『マッスル☆アニキ〜僕の滾る腹直筋〜』

『ハッスル☆アニキ〜俺の燃える大胸筋〜』

『パッション☆アニキ〜僕らの希望の上腕二頭筋〜』

 

作るたびに自分の中の何かを削っている気がするが、気になどしていられない。

ライザーに向けてどんどん投げつける。

レーティングゲームの時には使えなかったが、結果オーライだ。

 

「ぎゃあぁぁぁ! やめろ! そんなおぞましい物を投げつけるなっ!」

 

ライザーは狭い穴の中で器用に避けている。

よほど触りたくないのだろう。

けど、甘い。

 

「おっと、下にも気をつけろよ。一番最初に仕込んでおいた物がお前を狙ってるぞ?」

 

「っ!?」

 

穴の底には、岩で出来た表現してはいけない形状のものが敷き詰められ、時折突き出て下から攻撃してくる。

やけに尻を狙ってくるのは気のせいだ。

 

「くそ、上からも下からも!? 何がしたいんだ貴様は!」

 

「あん? 嫌がらせ」

 

「はぁ!?」

 

下からの攻撃を避けながら器用にこっちを見てくる。

 

「虚仮にされるのが嫌なんだろう? これで存分に恥がかけたぞ! ヤッタネ☆」

 

あ、切れたなあいつ。

撤退。

 

「貴様ぁぁぁぁあっ!!」

 

ライザーの怒号と共に、穴から火柱が起こって俺の嫌がらせアイテムを全て灰にする。

おー、やっぱり凄いなフェニックス。

空に舞い上がったライザーが凄い形相で睨みつけてくる。

でも、そろそろ時間切れだ。

 

『ライザーくん、そこまでだ』

 

「っ!何故ですか!!」

 

『事前に話したろう?本命が来たのだよ、赤い龍の帝王が』

 

そう、俺の役目は時間稼ぎ。

サーゼクスさんのお願いとは、イッセーがやって来るまでの単なる場繋ぎだ。

ついでなので、精神を削れるだけ削った。

あれであってるのかは知らないが、何かイライラしてるし多分問題ないんじゃないかな。

 

俺があいつとガチンコなんてしたら死ぬから。

文字通り灰になるから。

 

サーゼクスさんに説得された様で、ライザーが地上に戻ってくる。

 

「貴様は赤龍帝のガキの後で燃やしてやる、覚悟しろ……!」

 

おっかない。

でも。

 

「そりゃ無理だ、お前はイッセーに勝てないもの」

 

ちょうどやって来た様だ。

転送されてきたのは、俺の友達。

 

「遅いよイッセー、殺されかけたじゃん」

 

「悪い、待たせたカズキ。後は任せてくれ」

 

イッセーと入れ替わりで、俺の身体が光り出す。

 

「貴様、初めから時間稼ぎが狙いか…!?」

 

「男だったら、惚れた女は自分で助けたいもんだろう?」

 

ライザーにそう言って、闘技場からパーティー会場に戻ってくる。

ふぅ、カッコよくバトンが渡せた。

俺の仕事は終わった。

そんな俺を待っていたのは……。

 

 

 

 

朱乃先輩、小猫ちゃん、生徒会長による正座&説教だった。

生徒会長にまで怒られるとは……。

 

あ、ごめんなさい。

調子乗りすぎました、はい、ごめんなさい。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

初めてのレーティングゲームで、僕達は負けてしまった。

そのせいで、僕たちの主であるリアス部長はライザー・フェニックスとの婚約を飲まざるを得ない事に。

これからその婚約パーティーが行われる。

 

こちらの願いを聞き入れて、戦力の足りない僕たちに力を貸してくれたカズキくんは、人間だからという理由でパーティーには参加できないそうだ。

 

イッセーくんはまだ目覚めていないようだけど、彼はきっとまだ諦めていない。

パーティーが始まる頃には、きっと駆けつけてくれるだろう。

 

 

 

何故か、カズキくんが冥界にいた。

魔王サーゼクス・ルシファー様に招待されたそうだ。

魔王に招かれるって、彼は一体何者なんだ……?

 

しかも、その魔王様からのご指名で、今からライザーと戦うという。

無茶だ。

いくら強いとはいっても、カズキくんは人間だ。

フェニックスの炎にかかれば、即座に灰にされてしまう。

 

僕たちの不安とは関係なく、試合は始まってしまう。

その内容は、なんと言うか、その……色んな意味で凄惨な物だった。

 

悲鳴をあげるライザーと、邪悪な笑みを浮かべるカズキくん。

どちらが悪魔なのかわからない。

 

それも、サーゼクス様の一声で終わる。

僕らの主を助ける為に、イッセーくんが現れたから。

 

カズキくんは、イッセーくんと入れ替わりで会場に戻ってくる。

何やら格好いい事を言っていたが、行動が伴っていない。

 

リアス部長はイッセーくんが心配で見ていないが、部屋の隅で朱乃さんや小猫ちゃん、ソーナ会長にまで怒られている。

 

なんでも、サーゼクス様から頼まれてイッセーくんが来るまでの時間稼ぎをしていたらしい。

ついでに精神を削れるだけ……言い分はわかるが、あれはダメだろう。

イッセーくんの事を怒れないと思うよ?

 

これからイッセーくんが戦いを引き継いで、ライザーとの戦いが始まる。

君の顔からは決意を感じた。

絶対にライザーを倒してくれると信じている。

 

この残念な流れを、変えてくれ……っ!




木場くんの心からの叫びで終了です。

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