外までやって来た。
ここに結界を張っているから、派手に暴れても問題ないそうだ。
イッセーは初めは興奮していたが、言いたい事を言ったからか段々と落ち着き、今は戦いに乗り気ではないようだ。
位置取り的に、ゼノヴィアと木場、イッセーとイリナさんになるのかな?
ゼノヴィアも木場に興味がある様だし。
木場は開始前から既に神器を発動させ、手元だけでなく、周辺にも剣を出現させている。
『魔剣創造』(ソード・バース)。
朱乃さんに聞いたら、思い描いた魔剣を幾らでも作り出せる神器だとか。
いつもの笑顔とは別物の笑みを浮かべながら、ゼノヴィアと対峙している。
やっぱ、聖剣への憎しみが滲んで来ちゃうのかね。
先に戦闘を始めたのはイリナさん。
聖剣を日本刀に変えて、イッセーに躍りかかる。
そのまま戦闘は続いていき、結果はイッセーの必殺技『洋服崩壊』(ドレス・ブレイク)の誤射によりお流れ。
木場は対抗心を燃やしすぎて、魔剣の選択を誤り柄頭での打撃で敗退。
二人はこの場を去ろうとするが、それはさせられない。
「次は俺と戦ってくれない?出来ればゼノヴィアさんと」
「何? なぜ君と戦わねばならない」
君は人間だろう?
ゼノヴィアの疑問が伝わってきたが、そんなものは関係ない。
「友達が虐められたから、助ける。当然の事だろう?」
「……わかった、それで満足するならそうしよう。怪我で済むといいな」
ゼノヴィアが嘆息混じりで剣を構える。
さぁ、始めよう。
モグラさんは調子が悪いから使えない。
なら、純粋な体術で戦うだけだ。
美猴さんに教わった型通りに構える。
「あら? モグちゃん使わないのかしら?」
「いえ、部長さん実は……」
「最近、モグさん調子悪いらしいです……」
「じゃあ素手で戦う気ですの?」
「普通のグローブ使うみたいですよ?鉄板入ってるそうですが」
周りから色々言われてるが、気にしない。
ヴァーリさんや美猴さんに教わった事を思い出す。
とにかく速く、正確に。
「……素人じゃないね、キミ。」
型を見て判断したのか、ゼノヴィアが呟く。
「気にしないで、さっさと終わらせよう」
「どういう意味かな?」
「さっさと来て手早くやられろって言ってんだよ、狂った宗教家」
表情が鋭くなる。
そうだ、それでいい。
「余り調子に乗らない事だ! 悪魔でなくとも刃は刃、当たれば容易く命を奪うぞ!」
ゼノヴィアが剣を担ぎ上げ、大上段から振り下ろす。
「ふっ」
「な!? あぐっ!」
半身になって避け、手首を取って引き倒し、顔から落ちる様に地面に投げつける。
そしてすぐに間合いを取って構え直す。
「くそっ油断した」
「それは大変だ、次は油断するなよ」
「……」
ゼノヴィアは喋るのを止め、隙のないよう構え、距離を詰めてくる。
俺はゼノヴィアが正面になるように体を動かし、待ち続ける。
焦れたのか、ゼノヴィアが突撃してきた。
剣を自身の右下に配置し、一気に振り上げる。
それを躱すと、一気呵成に攻め立ててきた。
逆袈裟、左薙、切り上げ、唐竹。
全てを躱し、その度に足を刈ったり引き倒したりして、地面に転がす。
「くそ、何故当たらない! 何故見切られるんだっ!」
「そんなデカい剣を自在に振り回せるのすごいと思うけど、剣筋って大体14,5種類だし、基本は9種。木場と戦ってる時に見てたし、その程度の速さなら余裕で見える」
「私の、力不足か……」
「ほら、早く立て。その度に転がしてやる。アーシアちゃんに土下座する様に」
「え?」
ゼノヴィアが顔をあげると、視線の先には心配そうに見つめるアーシアの姿。
「謝れないんだろう? 手伝ってやるよ。何度でも、何度でも」
顔が擦り切れるまで。
何度でも。
「ほら立てよ。それとも立たせてやろうか?」
俺がゼノヴィアに手を伸ばすと、後ろから衝撃が。
振り向くと、アーシアちゃんが抱きついている。
「もう、もういいです! カズキさんの気持ちは嬉しいですけど、これ以上は……もう……もうっ……!!」
抱きついているアーシアちゃんの手は、ひどく震えていた。
……何してんだろ、俺。
「アーシアちゃん……わかった」
俺の声を聞くと、アーシアちゃんは手を離してくれる。
「あ〜……やり過ぎました、ごめんなさい」
ゼノヴィアに頭を下げて、返事も聞かずにその場を立ち去る。
あ、木場の事そのままにして来ちゃった。
……ま、大丈夫だろ。うん。
最近モグラさんと話せてないからかな。
思考が暗くて、物騒な方向に傾いてしまう。
今日のは八つ当たりみたいな物だった。
もし今度会ったのなら、二人にもっとちゃんと謝ろう。
会った。
会ってしまった、簡単に。
部室で見た白いローブを身に纏い、お布施を頼む美少女が二人。
えらく目立っている。
「迷える子羊にお恵みを〜……」
「御慈悲を〜……」
……今の二人に声、掛けたくないなぁ。
「あの〜……」
『はいっ!!』
二人が同時に振り向き、同時に固まる。
やはり印象が最悪の様だ。
身構えながら、此方を睨みつけてくる。
お腹の音を盛大に鳴らしながら。
よし、正攻法でいこう。
「お腹減ってるなら、ご飯奢ろうか?」
着いてきたよ、家に。
いや、持ち合わせがそこまでなかったから家で作る事にしたんだけど。
ホイホイ男の家に着いてくるのは、年頃の女の子としてどうなんだろうか。
誘った俺が言うのも何だけど。
「うまい、男の手料理がこんなに美味いとは!」
「あぁ、久し振りのお米! お味噌汁! なんて美味しいのかしら!!」
「はいはい。で、おかわりは?」
『くださいっ!!』
……米が尽きそうだ。
「あ〜、美味しかった。ああ主よ、この慈悲深き人間に祝福を」
二人とも満足したのか、一息ついて水を飲んでいる。
イリナは食後のお祈りか。
「食事については感謝しよう。で、私達に何か用かな? 君は私の事が嫌いなのだろう?」
「いや、この間は返事も聞かずに逃げちゃったから、もう一度ちゃんと謝りたくて。この間は済みませんでした」
頭を下げてから顔を見ると、眼をパチクリしている。
そんなに驚かなくても。
「……何故、君が謝る。非があるのは私なのだろう?」
「あ、勘違いしないで。アーシアちゃんに暴言吐いた事については許してない」
ゼノヴィアはその一言で黙ってしまう。
「俺が謝ってるのは、女の子相手にやり過ぎた事と、君に酷い事を言ったこと。最近色々と良くない事が続いてて。八つ当たりみたいになった。ごめんなさい」
「あ、いや……此方こそ、すまなかった。折角善意で食事を用意してくれたのに、酷い態度で接してしまった。許して欲しい」
「私もごめんなさい。友達を悪く言われたら、怒って当然よね?」
「私もだ。完全に理解は出来ないかもしれないが、あの言葉は撤回させて貰う」
おぉ、やっぱり話し合いって大切だね。
ちゃんと分かり合えた。
「うん、出来ればアーシアちゃんにも直接言ってあげて。無理なら手紙でもなんでもいいから」
その後も少し談笑して、二人は立ち上がる。
「助かったよ。アーシア・アルジェントの件はもう少し自分の中で考えてみる」
「私もそうするね、ごちそうさま」
二人を見送ろうとすると、携帯に着信。
イッセーからだ。
『あ、カズキ。今大丈夫か?』
「大丈夫だけど、なんかあったのか?」
『教会の二人組を探してるんだけど、手伝ってくれないか?』
「あ〜……ウチに来い、確保しとく。」
『は?』
通話を終了する。
事情を説明してもう少しいて貰おう。
イッセーが小猫ちゃんと木場、何故か匙まで連れてやって来た。
狭い、非常に狭い。
イッセーはゼノヴィア達と協力して聖剣の破壊を行いたいそうだ。
木場とゼノヴィアはまだギスギスしているが、互いに了承。
敵の名前も判明した。
【皆殺しの大司教】『バルパー・ガリレイ』。
それが木場の仇の名前。
そして堕天使の幹部『コカビエル』。
……ここで来ちゃうのか。
情報と連絡先を交換をして、この場は解散になった。
その際小猫ちゃんの心からのお願いで、木場も普段の自分を取り戻してくれたようだ。
女の子の涙ってスゲー。
木場はみんなにも自身の過去を語って聞かせた。
俺に語っていた時は、聖剣への憎悪が言葉の節々から漲っていたが、今は少し違う。
聖剣への憎しみは消えてはいないが、かつての仲間の為に。
彼らの無念を晴らしたい。
彼らの死を無駄にしたくない。
彼らがエクスカリバーよりも強いと証明したい。
そう言っていた。
その話を聞いて号泣してる人物が一人。
匙である。
『絶対に、救ってくれたリアス先輩を裏切るな』
『お前の為なら会長に怒られても構わない』
木場の話を聞いて、涙しながら言葉を口にする。
何だ、こいつもいい奴じゃないか。
俺が感動したのも束の間、イッセーとバカ話を始めたので二人して家から追い出したけど。
小猫ちゃんと木場はそれを見て笑っている。
やっと『らしく』なってきた。
モグラさんも早く元気になるといいなぁ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
今日、教会からやって来たエクソシストが部室に訪ねてきました。
なんでも今、エクスカリバーという聖剣を巡って大変な事が起きているようです。
こちらに手出しをしないようにとお願いに来たそうですが、立ち去る際に私に話しかけてきました。
『–––もしやと思ったが、君は【魔女】アーシア・アルジェントか?』
『あなたが噂の【魔女】になった元【聖女】さん?』
言葉が胸に刺さりました。
やった事について、後悔はしていません。
でも、あの時の周りの人達からの視線は忘れる事が出来ません。
その事を思い出すと、今でも身体が震えてしまうのです。
イッセーさんが庇ってくれたのはとても嬉しかったです。
家族で、友達で、仲間だと。
だから守るのだと、そう言ってくれました。
その後祐斗さんも加わって決闘する事に。
結果は、イッセーさんが私と小猫ちゃんの服を間違って消し飛ばしてしまい、力尽きて終了。
祐斗さんも、ゼノヴィアさんの攻撃を受けて倒れこんでしまいました。
聖剣を相手にして、誰も重傷を負わずに済んでホッとしていると、カズキさんがゼノヴィアさんに話し掛けました。
口調は何時も通りでしたが、何故か微妙な違和感を感じて……。
今思うと、本当に怒りを感じていたのでしょう。
そのあと、合意の下でカズキさんはゼノヴィアさんと戦いを始めました。
カズキさんは自分からは一切攻撃しません。
モグちゃんの調子が悪いのは聞いていたので、力を借りていないのも原因だったのかもしれません。
ゼノヴィアさんが剣を振り下ろすと、カズキさんは避けながらゼノヴィアさんを地面に倒します。
それを何度も何度も繰り返した後に、ゼノヴィアさんにカズキさんは言いました。
「ほら、早く立て。その度に転がしてやる。アーシアちゃんに土下座する様に」
「え?」
そう。
カズキさんは攻撃を躱しながら、ゼノヴィアさんを私のいる方向に倒していたのです。
「謝れないんだろう?手伝ってやるよ。何度でも、何度でも」
「ほら立てよ。それとも立たせてやろうか?」
そう言って、ゼノヴィアさんを無理矢理立たせようとして手を伸ばしました。
私の大事な友達であるカズキさん。
お兄ちゃんみたいなカズキさんが、違う何かになってしまう。
そう思ったら、私は気付くと駆け出していて、カズキさんに抱き付いていました。
カズキさんは私の制止を聞き入れ、ゼノヴィアさんに謝った後に軽く頭を下げると、そのまま何処かに歩いて行ってしまいました。
木場さんまで部長さんと話した後に居なくってしまった。
あの時のカズキさんはいつもと何かが違いました。
私の為に怒ってくれたのもあるのでしょうが、もしかしたらカズキさんにはまだなにか秘密があるのかもしれません。
これから一体、どうなってしまうのでしょうか……。
しかしその数日後に、カズキさんからゼノヴィアさん達と仲直りしたと聞きました。
私に言ったことは訂正するといってくれていたとか。
私への言葉なんてもうどうでもいいんです。
いつものカズキさんに戻っていた事が、何よりも嬉しかった。
私に出来ることは少ないですが、何かあったら言って欲しい。
どんな事でも、私は全力で協力させて貰います。
次回はモグラさん復活!