モグラだってドラゴン名乗っていいじゃない!   作:すこっぷ

17 / 86
カズキの禁手は、手脚にハイパーな電池で動くロボットみたいなタービン。
身体は、モビルスーツくらいスリムにしたモゲラのイメージ。
武器はもちろんドリルです。

今回はイッセー視点から。


17話

「よかったの?アザゼル」

 

「あん?何がだよ」

 

カズキを転送した後、たばこを吹かしてたらベネムエが話しかけてきた。

 

「コカビエルの事よ。いくら鍛えても、今のカズキちゃんじゃ厳しいでしょう?」

 

「あいつ弱っちぃからなぁ」

 

カラカラと笑いながら答える。

だから面白いんだけどな。

 

「だったらなんであんな無茶振りするのよ。下手したらカズキちゃん、死んじゃうわよ?」

 

「ダイジョーブだよ、面倒見のいい兄貴が見守ってるからな」

 

ヴァーリの奴、珍しく素直にたのみを聞きやがった。

赤龍帝が気になるのもあるんだろうが、カズキが気になるんだろ。

あいつも大概過保護だねぇ。

 

ヴァーリは多分、近いうちに俺たちから離れていく。

しかし、カズキのことはどうするのかね?

一緒に連れて行く気か、それとも無慈悲に突き放すか。

 

まぁいい、若者は好きに生きるといい。

ケツモチは、俺ら年寄りの仕事だ。

いや、まだ若いけどな!

あいつらに比べればって話だ。

 

「にしても、少しやり過ぎたかしら? 結構ボロボロになってたけど」

 

「あいつは基本ものぐさだからな。手っ取り早くエンジン付けるには、あれがちょうどいいのさ」

 

負けたらペナルティって言っといたしな。

多分今頃、コカビエルでストレス発散しようとしてんじゃねぇかな?

 

「さて、ヴァーリに持たせた通信機の映像を見ながら、酒でも呑むかね」

 

「あら? いいじゃない、付き合うわよ?」

 

「どうせてめぇら全員観てくんだろうが。おら、つまみ取りに行って来い。俺は酒を持ってくる」

 

俺様のとっておきを開けちまおうかね。

さて、どうなるか楽しみだ。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

「いくぞ……《禁手》(バランス・ブレイク)ッッ!!」

 

カズキの掛け声と共に、掌のモグさんが光り輝く。

その光はどんどんと輝きを増し、カズキの身体を包んでいく。

 

カズキの周りに力が渦巻いて集まっていくような感覚だ。

その光を弾け飛ばす様に、いきなり蒸気が噴き出す。

空気の抜ける様な音が収まると共に、カズキに纏わり付いた蒸気も次第に晴れていく。

 

関節の可動を邪魔しない程度の銀色の装甲。

背部にはブースターみたいな機械。

腕部と脚部には、火花を散らしながらモーター音を響かせるタービン。

頭部は、どことなくモグラをイメージした様なフルフェイスのヘルメット。

 

俺の『赤龍帝の鎧』とは違う。

重要な箇所以外の守りを捨てて、機動に特化した感じだ。

それに、何処か生物よりも機械を連想させる。

 

「ほぉ……それが貴様の禁手か」

 

コカビエルが不敵な笑みを浮かべながら手元に光を集め、光が剣の形に変わる

槍以外にも出来るのか。

 

「いいぞ、かかって来い。遊んでやろう」

 

背中のブースターを吹かしながら、カズキはコカビエルへ突っ込んでいく。

カズキが拳を振りかぶると、突如としてコカビエルの足元から土の柱が襲いかかった。

 

今迄は地面を殴って発動してたのに、その動作もいらないのか。

地味だけど、ノーモーションの攻撃は怖い。

 

「ふん、くだらん曲芸を」

 

コカビエルは、つまらなそうに光の剣で薙ぎ払う。

しょせんは土の塊だ、簡単に壊され–––

 

「なにっ!?」

 

え!?壊せてないぞ!?

コカビエルが仕方なく避けると、そこにはカズキの拳が待ち構えていた。

 

「ぐがっ!……っ何故だ!?土くれごとき何故破壊できん!!」

 

カズキは返事もせずに殴り飛ばしたコカビエルに再び飛び掛かった。

コカビエルも迎撃するが、その度に動きを阻害するように地面から土が伸びてくる。

それを避けれても、今度はカズキの拳が顔や身体に深々と突き刺さるのだ。

 

すげぇ、俺たちが束になっても攻撃が擦りしかしなかったコカビエルを完全に翻弄している。

あいつ、どんだけ強かったんだよ。

これならライザーだって楽勝だったんじゃないか?

 

苦し紛れにコカビエルが剣をカズキに投げつけてきた。

不意をつかれたのか、カズキが躱し損ねてメットの一部が割れ、右側の顔部分が露出する。

 

それでも怯むことなく、ひたすらに黙々とこぶしを叩き込んで……あれ?

カズキ……笑ってる?

コカビエルを殴りながら、笑ってる。

涙を流しながら、笑っている。

我慢出来ないというか、思わず溢れてしまったかのような、そんな笑みだ。

 

「ぶ、部長。カズキの奴……」

 

「えぇ、泣きながら笑ってる。カズキくん……彼は今、怨みを、憎しみを吐き出しながら戦っているの?」

 

「カズキくん……貴方は一体どれだけの苦しみを……」

 

朱乃さんが呟いた後に、殴られ続けたコカビエルが大きく後ろに飛び退いた。

カズキは追わずにその場に棒立ちになっている。

 

「ぐふぉぁ、何故だ……何故人間の拳程度でこの俺がダメージを……ッ!」

 

コカビエルの言葉が途中で止まり、カズキの腕を凝視している。

釣られて見ると、カズキの拳を淡く光が包んでいる。

 

「なるほど……闘気、いや純粋な生命のエネルギーを消費して拳に纏わせているのか。狂っているな、人間の身でそんな真似をすればすぐに死ぬぞ」

 

は? 死ぬって……カズキが?

何を言って……

 

「お前を殴れるなら、それでいい」

 

カズキが右手の手首を握りながら答える。

手首の甲の部分にある穴から、ドリルが飛び出してタービン音を響かせながら回転しだす。

……っ馬鹿野郎!

 

「カズキ! そんな力使うな! 今から俺たちも一緒に戦えば……!」

 

「何とかなるとでも? この場で俺とやり合えるのは、こいつだけだ。足手纏いなんだよ、お前らはな」

 

うぐっ! でも、このままじゃカズキが!!

 

「バカ、敵の言葉を鵜呑みにするな。俺が死ぬ訳無いだろう」

 

カズキがこちらを振り向きもせずに言う。

口調が柔らかくなって、俺たちのよく知るカズキの物に戻っている。

もしかして本当にあいつの嘘……?

 

「嘘ですわ」

 

「朱乃さん?」

 

朱乃さんの方を振り向くと、凄い哀しそうに顔を歪ませながら喋り出した。

 

「闘気なら問題ないんです、あくまで生命エネルギーから溢れるものですから。でも、生命エネルギーそのものを使ったりしたら身体に影響がない訳ありません……」

 

つまり、殴る度に寿命を削ってんのか!?

おい、カズキ……ッ!

 

もう一度止めようと思い振り向くと、そこにはこちらをみながら困った様に笑うカズキの顔。

おい……なんだよその顔っ……!

お前、本当に死ぬ気なのかよ……!!

 

『おい、相棒。あいつを死なせたく無いんだろう?』

 

ドライグ!? なにか方法があるのか?

 

『力を溜めて、あいつに譲渡しろ。なんとかなるかもしれん』

 

そうか!その手があった!!

 

俺は即座に力を溜め始めた。

それにしても、やけに親切だな?

 

『ああいうバカは、嫌いじゃないからな』

 

そうか、お前もカズキを気に入ってくれたのか。

絶対助けてみせるぞ、カズキ!!

 

 

 

 

俺たちの想いとは裏腹に、戦闘は続いていく。

先ほど手首から出したドリルの回転音を響かせながら、コカビエルに突っ込んでいく。

 

「フハハハハ! そうだ、これだよ! 俺はこういう感覚が欲しかったんだ!!」

 

コカビエルも手元に二本の光の剣を作り出し、笑いながら迎撃に出る。

コカビエルの光の剣とカズキのドリルが凄まじい音を立てながら、何度もぶつかり合う。

 

パワーではコカビエルに分があるのか、押し負けてカズキが後ろに下がる。

その隙を逃さずに、剣を大量の小さな槍に変えて放った。

 

「そぅら、これが躱せるかな!!」

 

カズキに槍が殺到し、巨大な土煙を巻き上げる。

しかし、煙が晴れるのを待たずにコカビエルの背後からカズキが現れて殴り飛ばした。

 

「なに!? ぐあぁぁぁ!」

 

煙が晴れるとそこには大きな穴が。

地面に潜って回避して、そのまま攻撃したってことか。

 

コカビエルもすぐに体制を立て直し、剣に持ち替えて再び踊り掛かった。

カズキも動きを止め、その場で相対を始める。

 

「楽しいっ! 楽しいぞ人間!! あの戦争が終わってから、こんなに楽しかったことはない!」

 

「ぐっ……!」

 

「もっとだ! もっと俺を楽しませてくれぇ!!」

 

コカビエルの攻撃を受け流しながら殴るカズキ。

カズキに殴られながらも攻撃を止めないコカビエル。

カズキが押している!?

 

しかし、段々とカズキの動きが悪くなってきた。

腕や脚を包んでいた光も、少しづつではあるが輝きが薄れている様に見える。

 

「っいけない! みんな、カズキくんの援護にいくわよ!!」

 

部長の掛け声で、みんなが一斉に駆け出した。

木場や朱乃さん、先程まで戦意を保てなくなっていたゼノヴィアまで一緒に突っ込んでいく。

 

「邪魔をするなザコどもがぁ!!」

 

しかし、コカビエルの声と共に放たれた翼による攻撃で、虫を散らすように簡単に薙ぎ払われてしまった。

 

その隙にカズキが蹴りを放ち、コカビエルは宙に舞い上げられるがそのまま空中に止まる。

お互いに肩で息をしているが、カズキの顔色が悪い。

 

くそ、ドライグ!

まだ溜まらないのか?

 

『そろそろだ、用意をしておけ』

 

早くしてくれ!

カズキがもうっ……!

 

「クハハ、そろそろ限界か? お前のお陰で久し振りに楽しい時間が過ごせた。お礼に最大威力で葬ってやろう!!」

 

今まで使っていた光の剣を消し去り、空中で巨大な槍を作り始める。

デ、デカイ!!

 

「畜生め……ここで負けたら、意味がないんだよっ!」

 

カズキの声に反応して胸の装甲が開き、内部のオレンジ色の結晶体が露出する。

呼応する様に腕と脚に取り付けられたタービンも回転を始め、火花を散らしながら速度を上げていく。

胸の結晶体に、エネルギーが収束していく!

 

「何をしようが無駄だ、全員纏めて吹き飛ぶがいい!!」

 

コカビエルはもはや槍とも呼べない巨大な柱を振りかぶり、全力で投擲する。

カズキに向かって一直線に飛んでいくが、カズキは避けようともしなかった。

 

「お前がぶっ飛べ、くそったれぇぇぇ!!」

 

カズキの言葉と共に、胸からレーザーみたいなのが発射された!

互いの攻撃が拮抗し合う。

しかし、段々とカズキが押され始める。

くそ、このままじゃあ……!

 

『相棒、待たせたな』

 

ホントに待ってたぜ!

攻撃の余波による衝撃が凄いが、そんな事言ってられない。

なんとか踏ん張りながらカズキににじり寄り、背中まで辿り着く。

 

「カズキ、今の俺にはこれが精一杯だ。情けないけど、頼んだ!!」

 

『Transfer!!』

 

肩に触れて譲渡完了。

一気に膨れ上がるカズキのレーザー。

それはコカビエルの巨大な槍を軽々と消し去り、コカビエル自身を襲う。

 

「俺の槍がこんな容易く!?くっ、舐めるなあぁぁぁ!!」

 

結界ごとぶち抜いて、空高くに消えていくレーザー。

コカビエルも踏ん張ってはいたが、均衡を保てなくなり光に呑まれ、最後にはブスブスと音を立てて地面に墜落した。

 

カズキの勝ちだ!!

 

「やった……これで……みんなに……」

 

カズキは何かを呟くと、前のめりに倒れてしまった。

アーシアが駆け寄り、神器で癒し始める。

 

やっぱとんでもないな、カズキは。

ほとんど一人で堕天使の幹部を倒しちまった。

何時になったら追いつけ–––「い、今のは危なかった……」っ!?

 

「赤龍帝の力を譲渡すると此処まで化けるとは……こいつは危険だ。今、確実に殺す!」

 

まだ動けたのかよ……!?

くそ、カズキは殺させない!

カズキを庇う為にコカビエルとの間に入り、俺たちが身構えた。

その時、空から声が降ってきた。

 

「–––ふむ、戦いを掠め取るみたいで気がひけるんだがな……仕方ないか」

 

翼の付いた鎧を纏って、そいつは降りてきた。

声が大きい訳でもないのに、呟いたそのたった一言が、この場の全てを支配する。

 

「っ、【白い龍】(バニシング・ドラゴン)か!」

 

白い龍って確かドライグが言ってた白龍皇って奴か……?

でも、俺たちに敵意を向けてこない。

どういうことだ?

 

「哀れだなコカビエル、人間にそこまで無残にやられるとは。アザゼルに頼まれてるんでね、お前を連れて行く」

 

「アザゼルだと!? そうか、さては貴様最初からこの男を!」

 

コカビエルが最後まで話す前に、白龍皇の拳打で強制的に黙らされた。

弱ってるからってコカビエルがワンパンか……こいつも半端ない強さだな。

 

その後、それぞれの神器の中にいるドライグとアルビオンが言葉を交わし、白龍皇はコカビエルとフリードを担いで連れて行こうとする。

 

「そうだ、赤龍帝。そいつにこれを飲ませろ、失った生命エネルギーもそれなりに戻るはずだ」

 

白龍皇はそう言いながら、小瓶を投げ渡してきた。

これは確か、【フェニックスの涙】。

ライザーとの戦いの時にレイヴェルが持ってたな。

 

「赤龍帝、もっと強くなれ。最低でも、そいつ以上にはな」

 

白龍皇はそう言うと、凄い速さで飛び去って行った。

なんでカズキを助けてくれたんだ……?

それにしても、最後の最後で凄い注文をしてくれた。

カズキより強くなるって、どうすりゃいいんだよ……。

 

朱乃さんに受け取った小瓶を手渡すと、カズキに飲ませてあげている。

カズキはまだ目覚めないが、部長が言うには何とかなるそうだ

取り敢えず、これで今夜は終了か。

なんかやたらと長い夜だった。

 

……もっと、強くなりてぇなぁ。




次回はカズキ視点。

だけど明日は忙しくて無理そうなので、明後日に更新します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。