モグラだってドラゴン名乗っていいじゃない!   作:すこっぷ

21 / 86
今回は勘違い薄めです。
ご注意ください。


20話

「で、何しに来たんですか?」

 

お茶を入れ、差し出す。

ヴァーリさんはそれを受け取って、啜りながら喋り出した。

 

「アザゼルが学園で会談を行う話は聞いているか?それに付き合わされるのさ。それまで暇でな」

 

街を歩いて見学してた。

散歩ついでにあんな騒ぎ起こしたのか。

 

「だからってイッセー達に絡まないでやって下さいよ」

 

「いや、彼は俺のライバルなんだぞ?向こうにも気合いを入れて貰わないと困る」

 

「今のイッセーにヴァーリさんの相手とか、無茶に決まってるじゃないですか」

 

「だから、カズキも兵藤一誠を鍛えてやってくれ。俺といい勝負が出来るくらいに」

 

何言ってんだこの人は。

どうもおれの強さを間違えてる。

 

「俺自身がヴァーリさんに手も足も出ないのにどうしろと」

 

「カズキが格闘術と駆け引きを教えればいい。美猴とだって組み手なら勝率三割に届きそうだったじゃないか」

 

「めっちゃ遊ばれてたでしょ、あれ。ずっと笑ってたし」

 

「あれはお前を鍛えるのが楽しかったからさ」

 

「あの虐めを楽しいとか、やっぱドSか」

 

 

 

 

–––つい、懐かしくて話し込んでしまった。

夕飯を食べていって貰いたかったが、何やら他にもやる事があるそうだ。

 

帰り際に

「お前は、今の世界をどう思う?」

と尋ねられたので、

「世界は知らないけど、今の生活は楽しい」

と返したら、少し黙ってから『そうか』とだけ返事をして、薄い笑みを浮かべてから帰っていった。

 

なんか悩み事でもあるのかね?

まぁヴァーリさんの悩みを俺ごときが解決出来るとも思わないけど……相談してくれないのは、さみしいなぁ。

 

 

 

授業参観当日。

俺は誰も来ないので気楽なものだが、イッセーは両親が『アーシアちゃんを』撮影しに来るそうだ。

イッセーはため息を吐いていたが、アーシアちゃんが嬉しそうなのでなんの問題もない。

 

で、その授業内容が『粘土で好きな物を作れ』。

……あれ、英語だったよね?

『そういう英会話もある』ってねぇよ。

 

しょうがないのでモグラさんを作成。

わりとよくできた。

モグラさんも納得の完成度だ。

粘土が余ったので、イッセーの禁手化した鎧姿を作成。

こちらもよくできた。

アーシアちゃんが欲しがったのであげたけど。

 

イッセーはリアス先輩の裸婦像を作り上げて、周りがオークションを開催していた。

妄想を具現化するとか、そこまでいくとスケベも凄いものに感じてくる。

 

 

 

授業が終わり、ジュースを買いに歩いていると人混みを発見。

何事かと覗いてみると、コスプレした美少女にカメラを持った男たちが群がっている。

興味もないので教室に–––

 

「あー! あなたでしょ、サーゼクスちゃんのお友達って!」

 

……関わりたくないのに。

てかサーゼクスさんの知り合いかよ。

 

「人違いです」

 

「え? あなたカズキくんじゃないの?」

 

「人違いです」

 

このまま相手にせずに離脱しよう。

 

「おら! なんの騒ぎを……あれ? カズキじゃん、何してんだ?」

 

あ、バカ。

 

撮影会の騒ぎを聞きつけたのか、生徒会役員である匙が人を散らしながらやってきた。

後ろにはイッセーとリアス先輩、朱乃さん、サーゼクスさんに……誰だ、あの紅い髪のダンディな人。

もしかしてリアス先輩のお父さんか?

 

「やっぱりカズキくんじゃない! もう、なんで嘘つくの?」

 

面倒くさそうだったから、て言ったらダメだよね。

 

「何事ですかサジ、問題は簡潔に解決しなさいと……」

 

あ、会長さん。

 

「ソーナちゃん! 見つけた☆」

 

はい? この人会長のお知り合い?

 

 

 

 

なんでもこのコスプレ美少女セラフォルーさんは、会長さんのお姉さんで現4大魔王の一人だとか。

今度の会談にくる魔王さんはこの人だそうです。

うっかり自分の名前を間違えたといって謝ったら許してくれた。

チョロいぞこの魔王。

 

会長さんが可哀想だったので『辛かったら愚痴くらい聞きますよ』といったら、涙目で両手を握られた。

セラフォルーさんに耐えきれなくて走って逃げてしまったが。

 

それからまた匙が冷たくなった。

あいつに嫌われるような事してないのに。

今度会長さんに相談してみよう。

 

 

 

次の日の放課後。

遅れてしまったが、コカビエルの時のお礼を言いに生徒会室へ。

ノックをしてから入ると、会長さんと副会長さん。

あと、匙が何やら書類仕事をしていた。

要件を言うとソファーに座る様に促され、副会長さんがお茶を淹れてくれた。

 

「この間は俺が壊した物の後片付け、押し付けてすみません。あと、ありがとうございました」

 

俺が頭を下げると、向かいに座った会長さんが微笑む。

 

「いえ、私たちは戦いに参加出来ませんでしたから、あの位は当然です。カズキくんの戦いぶりが見れなかったのは残念でしたが」

 

「俺は大した事ないですから。モグラさんが頑張ってくれたんですよ」

 

俺がそう言うとモグラさんがポケットから這い出てきてテーブルの上に移動し、会長さん達に頭をペコリと下げる。

 

「この子がカズキくんの神器ですね。リアスに聞いてはいましたが、こんなに小さいのに凄いですね」

 

会長さんが指を伸ばすと、モグラさんは両手で指を掴んで握手する。

おぉ、会長さんの顔が緩んでいる

副会長さんが悶えているのがちょっと面白かった。

 

その後、匙がイッセーの所に行くというのでついて来た。

なんでもグレモリー眷属の《僧侶》が顔を見せたそうだ。

今まで封印されてたとかなんとか。

 

封印されてたって、どんなゴツい奴なんだ。

そう思いながら行ってみると、確かに見知らぬ顔はいた。

背の低い、金髪の女の子。

それをデュランダルを片手に追いかけ回すゼノヴィア。

ゼノヴィアの足を引っ掛けて転ばせても、仕方ないと思う。

 

「で、なんであんな陰湿な事を」

 

「いや、鍛える様に部長からお願いをされて」

 

「それで笑いながら聖剣持って追っかけ回すのか? 後輩いじめちゃダメだろう」

 

「健全な精神を養おうと……」

 

「目的は分かるが刃物を振り回すな。今日の晩飯、お前だけもやし炒めな」

 

「そ、そんな!? 今日は前から頼んでいた『スキヤキ』にしてくれると言っていたじゃないか!」

 

「知らん」

 

崩れ落ちるゼノヴィア。

鍛えてやるのはいいが、刃物はダメだ。

ましてや女の子に……え? 男?

 

「すまんゼノヴィア、今日は少しいいお肉にしてあげるから許して」

 

「ホントか!?ありがとうカズキ、大好きだっ!」

 

抱き付いてくるのをヒラリと躱す。

 

「なぁ兵藤、カズキっていつもああなのか?」

 

「完全に餌付けされてんなぁ……」

 

「餌付けとか言うな、人聞きの悪い」

 

匙とイッセーの言葉に反論すると、さっきの女装後輩くんギャスパーが服の袖を掴んでくる。

 

「あ、あの……助けてくれて、ありがとうございました」

 

……これが、男の娘かぁ。

なんか世の中間違ってるよね。

匙と二人してなんか凹む。

うんうんと頷いてるイッセー。

お前もか。

 

これ以上用もないので、夕飯の仕度をしに先に帰った。

肉が本当に高かったので、高いのと安いのを混ぜて出してみたらゼノヴィアは器用に高い肉ばかり食べていた。

バカのくせにこんな所だけ鋭い。

 

次の日に、イッセーからあの後アザゼルさんと遭遇したと聞いた。

ギャスパーの訓練方法と、匙に神器の能力を教えてそのまま帰ってしまったらしい。

暇なのか、アザゼルさん。

 

 

 

 

休日に、イッセーと一緒に朱乃さんに神社に呼び出された。

何かやらかしてないか必死に考え、いざとなったらイッセーになすりつけようと頭をフル回転させながら向かった。

 

そこで待っていたのは久しぶりに見る巫女服姿の朱乃さんと、金色の羽を広げた天使ミカエルさんだった。

 

「初めまして赤龍帝、兵藤一誠くん。そして君が瀬尾一輝くんですね」

 

ミカエルさんは挨拶を済ませると、イッセーに『アスカロン』とかいうステキカッコいい剣をプレゼントした。

俺には何もなかったよ。ちくせう。

 

ミカエルさんは少し会話した後、イッセーの籠手に剣が合体したのを確認したらそそくさと帰っていった。

忙しいんだろうな、お偉いさんだし。

アザゼルさんと大違いだ。

 

ミカエルさんが帰った後、イッセーもギャスパーを鍛えると言って帰ってしまった。

俺は残って朱乃さんが出してくれたお茶を啜っている。

緑茶でも相変わらず美味い。

 

「カズキくん……私の話、聞いてくれるかしら?」

 

朱乃さんはポツリポツリと自分の事を話し始めた。

自分が堕天使の血を引いている事。

その堕天使は幹部のバラキエルさんである事。

そんな堕天使の血が嫌いである事。

 

バラキエルさんに聞いてるから堕天使のハーフなのは知ってたけど、そんなに嫌っていたとは……。

ただの反抗期じゃなかったのか。

 

「貴方は、堕天使が嫌いでしょう? 貴方の身体を、人生をメチャクチャにして。貴方に酷い事ばかりする堕天使は……」

 

今も背中から生やした堕天使の羽を、憎々しげに見つめている。

 

「別に俺、堕天使嫌いじゃないですよ?」

 

朱乃さんは今まで伏せていた顔を不思議そうに此方へ向ける。

 

「まぁ攫われた時は怖かったですけど、それだけです。この身体も慣れたら便利だし、気にしてませんよ」

 

俺の言葉に、朱乃さんは何故か悲痛な顔を向ける。

 

「なんで、そんな……」

 

「それに俺、朱乃さんの事いい人だって知ってますから」

 

そう言ったら朱乃さんが顔に手を当てて泣き出してしまった。

お、俺が悪いの!?

 

一人でどうすればいいのかアワアワしたあと、取り敢えず頭を撫でてみた。

 

「な、泣かれると困っちゃいますから……笑って下さい」

 

「カズキくん……」

 

落ち着いてきたのか、泣き止んでくれた。

よかった。

これでセクハラとか言われたらシャレにならん。

 

朱乃さんが落ち着くまで待って、その日は帰った。

朱乃さんが見送ってくれた時の顔は、少しすっきりした様な顔をしてた気がする。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

カズキくんに、ついに話してしまった。

聞いてしまった。

私が堕天使の子供だと。

そんなわたしが憎くは、嫌いではないかと。

 

聞いてから、後悔した。

もしこれで避けられたら、嫌われたら……。

でも、すぐに答えは出た。

 

「別に俺、堕天使嫌いじゃないですよ?」

 

そんな筈はない。

彼の人生をメチャクチャにしたのは堕天使だ。

彼が生命エネルギーを消費して、文字通り命を削ってまで打ち倒した、あのコカビエルと同じ堕天使なのだ。

 

その後も色々と理由を付けていたが、私に気を使ってくれているのでしょう。

この身体も以外と便利だなんて言い出した。

 

なんで、貴方はそんなに……人に優しくするばかりで、自分に優しく出来ないのか。

思い悩む私に、彼から言葉を投げかけられた。

 

「それに俺、朱乃さんの事いい人だって知ってますから」

 

もう、無理だった。

目から涙が溢れてきて、手で顔を覆ってしまう。

そんな私に、彼は正面に座って私の頭を優しく撫でた。

 

「な、泣かれると困っちゃいますから……笑って下さい」

 

本当に困ってしまった様な顔をして。

ゆっくりと、優しく撫で続けてくれた。

 

何故、そんなに人に優しく出来るの?

何故、そんなに気を使ってくれるの?

 

私が落ち着くまでずっと頭を撫でてくれて、その日は帰っていきました。

彼を見送りながら思いました。

 

多分、もう我慢できません。

男性と接していてこんなに心が暖かくなったのは、幼い頃に遊んで貰った父以来だった。

 

私は彼が好きなんだと思う。




朱乃さん自覚回。
次回から会談始まります。

カズキくんは味方の魔の手から生き残れるのか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。