「なんで俺、こんな席に着いてんだろ」
モグラさんを頭に乗せながらついボソッと呟いてしまう。
深夜の駒王学園の職員会議室。
学校にあるはずもない豪華なテーブル。
辺りを見渡せば見知った顔ばかり。
壁際には会長さんと副会長さんまでいる。
知らないのはミカエルさんの側にいる天使の女の人くらい。
「そりゃお前が調子乗って首突っ込むからだろ」
一番長い付き合いのおっさんが突っかかってきた。
「うっさいよ元凶め。あんた自分の部下の締め付けぐらいしとこうよ」
「へいへい、すまんね」
全く反省してないように見えるが、一応関係改善に奔走したらしい。
裏で出来るなら表でもやれよ。
だからみんなに厨二って言われるんだ。
「というかサーゼクスさん。みんな俺の事知ってるんだから紹介する必要ないですよね? 帰っていいですか?」
隣に座るサーゼクスさんに尋ねる。
その隣には会長さんのお姉さん、セラフォルーさんもいる。
「寂しい事を言わないでくれ、セラフォルーも楽しみにしていたんだよ。もう少し居てくれないか?」
「そうよ、サーゼクスちゃんがいつも自慢するから楽しみにしてたんだから! この間は慌ただしくてお話出来なかったし」
「あなた達が大はしゃぎしてましたもんね」
あ、会長さんが顔を赤くして俯いてる。
可哀想に。
いや、俺のせいか?
あ、サーゼクスさんが給仕をしてくれているグレイフィアさんにこっそり怒られてる。
ざまぁ。
「いやー凄いですね。これだけのメンツが集まっているのにその中心が人間、将来有望です。どうです? 教徒になってみませんか?」
「間に合ってます」
そしていまいち何を考えてるのか分かりにくいミカエルさん。
ある意味一番やりにくい。
早く帰りたい、そう思っていたらリアス先輩達が到着。
サーゼクスさんが紹介し、先輩と会長が事の顛末を説明した。
「悪かったな、ウチのコカビエルが迷惑をかけた」
「ホントだよ」
アザゼルさんの悪びれない謝罪に俺が突っ込む。
リアス先輩達がこちらを見ているが、気にしない。
その後もアザゼルさんが余計な一言を言う度に俺が突っ込み続けた。
話の内容はよくわからないが、このおっさんが余計な事をいってるのだけはわかったから。
最初は空気が凍ったりもしていたが、周りも苦笑しかしなくなった。
「さて、アザゼル。今回の騒動、総督としてのキミの意見が聞きたい」
サーゼクスさんからの振りに、不遜な態度を崩さずにアザゼルさんは答えた。
「先日の事件は完全にコカビエル単独の暴走だ。なので奴の処理は『白龍皇』が行い、コキュートスで永久冷凍の刑に処した。もう出てこれねぇよ」
「あんなの氷のオブジェにしたら迷惑すぎるな、夢に出てくる」
「お前はいい加減余計なチャチャいれんなよ、ったく……回りくどいのは無しだ、さっさと和平を結んじまおうぜ?」
アザゼルさんが頭をガリガリと掻いてから、面倒そうに話を切り出した。
どうにも、今回の主題はこれのようだ。
神も四大魔王も滅び、堕天使の幹部も沈黙した。
これ以上やってもお互いが滅びるだけ。
無駄な争いはやめましょうって話のようだ。
その中でアザゼルさんが
『神がいなくても世界は回る』
とかまた厨二発言をかました後、イッセーがミカエルさんに噛み付いた。
何故アーシアちゃんを追放したのか、か。
やっぱりこいつは凄いな、こういう時はいつもそう思う。
自分より格上の相手でも、迷わず踏み込んでいく。
ミカエルさんの答えは納得しないまでも、理解は出来た。
その上で異端として排除したアーシアちゃんとゼノヴィアに、頭を深く下げて謝罪した。
その謝罪を受け、アーシアちゃんとゼノヴィアは答える。
『私達は今の生活に幸せを感じ、満足している。だから謝らないでくれ』
自分を追い出した相手に、害をなした相手にこう言えるのは凄いと思う。
ゼノヴィアには夕飯のグレードを上げてあげようと思う。
イッセーはアザゼルさんにも噛み付いたが、のらりくらりと躱されてしまう。
まぁ自分なりのやり方で償うみたいだし、そこは置いておこう。
「ではカズキくん。きみは和平についてどう思う?」
「戦闘より銭湯が好きな俺になにを聞くのか」
サーゼクスさんの質問に俺が答えると、何故かリアス先輩たちが一斉に吹き出した。
俺は関係ないけど、君らお偉方の前でそんな事していいの?
イッセーがアザゼルさんに遊ばれてアホな宣言をかました後、事件が起きた。
周りが、停止してる。
あのギャスパーくんの神器が暴走しているらしい。
敵さんに捕まって強制的に能力を発動させられている様だ。
アザゼルさんたちは単純に強いから、木場とゼノヴィアは聖剣の力で、イッセーはドラゴンの力で守られたから無事の様だ。
リアス先輩もイッセーに触れていたから無事らしい。
え? 俺は?
あぁ、そういやモグラさんもドラゴンだったね。
可愛いからついドラゴンだって忘れてしまう。
ん? つまりモグラさんて、そこの二匹並みに強いの?
あ、おデコの石の力なんだ。
便利だね、それ。
イッセーとリアス先輩はギャスパーくんの救出に、ヴァーリさんはアザゼルさんの指示で外の敵を掃討してくるそうだ。
「そうだカズキ、お前もヴァーリと行ってこい」
「あんな逆さまになってるのがデフォな変態の相手したくないです」
なんかあいつらフードからビーム出してるじゃん。
ビームに当たって同じ格好になったらどうしてくれる。
「ほら、行くぞ」
ヴァーリさんが俺の襟首を掴んで窓から外に飛び出す。
「俺の撃墜数の半分以下ならペナルティだな」
上昇しつつ、急にそんな事を言ってくる。
「そんなご無体な!?俺飛べないんだよ!?」
「飛べなくても跳べるだろ?」
そう言うと俺の襟首を離し、俺だけ落下する。
「さぁ、開始だ!」
「そんな無茶苦茶っ……ああもう!」
『禁手化ッ!!』
ヴァーリさんは空中で、俺は落下しながら禁手化する。
着地する頃には変身は完了。
手脚のタービンが唸りを上げながら、全身を銀色の装甲が覆う。
ヴァーリさんも白い龍を模した全身鎧に身を包んでいる。
ヴァーリさんは敵に突っ込みながら、カミナリみたいな攻撃で敵をドカドカ倒していく。
マズイ、このままじゃペナルティが……!
モグラさんのお陰で、腕を使わなくても柱が出せるようになった。
だったら今腕を使えばっ!
「オラッさぁ!!」
両手で地面を殴り付けると、モグラ? ドラゴン? を模した土の塊が敵に襲いかかって次々と伸していく。
おぉ、これなら何とかいける!?
ヴァーリさんに必死に喰らいついていると、後ろにあった校舎が爆発。
また露出度の高い服を着た女性が、みんなに杖を向けていた。
アザゼルさんやサーゼクスさんがバリアみたいなのを張ってみんなを守ってくれている。
どうやら、アザゼルさんが相手をするらしい。
なら安心だと敵に向き合うと、もう殆ど残っていない。
しまった、気を取られてる内に!
もうどうあがいても無理だろこれ……。
「どうやら俺の勝ちみたいだな、カズキ」
ヴァーリさんが地上に降りて話しかけてきた。
あ〜ペナルティって何やらされ–––うゎ!?
「よく避けた。以前までなら避けられなかった」
俺の眼前を白い光が横切る。
辛うじて避けたそれは、ヴァーリさんの拳だった。
「ちょ、ヴァーリさん! ペナルティなら後で受けるから今は」
「いや、今だからこそだ」
ヴァーリさんはそう言うと、向こうで戦っているアザゼルさんに突撃して殴り掛かった。
そのスキに女性が更に攻撃を加える。
ヴァーリさんが続けてアザゼルさんを殴ろうとするのを、間に入って拳を止める。
ヴァーリさんは俺の手を振り払い、大きく距離を開ける。
「ヴァーリさん。この人がなんかやったなら後で一緒に懲らしめますから、今はそれ位で……」
「いい加減認めろカズキ、ヴァーリは『向こう側』だ」
俺の言葉を遮り、アザゼルさんの言葉が俺の中に響く。
『向こう側』。
つまり、敵に寝返った? 何故? いつから?
女が何か言って嘲笑ってるけど、頭に入ってこない。
でもヴァーリさんの声だけが、やたらとハッキリ聞こえた。
「カズキ、お前は今の生活が大切なんだろう?なら、自分の力で守ってみせろ」
あー……よし、切り替える。
「アザゼルさん」
「あん? なんだよ」
「そのおばさん、任せていいんですよね?」
「当然だ、チョロいぜ」
俺の言葉に女性の顔つきが変わる。
アザゼルさんはそんなの気にせず答えてくれる。
「じゃあ俺は、アホな事言ってるあの人に鉄拳制裁してきます」
「お前ヴァーリに勝てた事無いだろう、やれんのか?」
「舐めんな」
拳を胸の前でカチ合わせ、アザゼルさんの言葉に乱暴に答える。
「バカな兄貴が間違えたなら、正してやるのが弟の役目だろうがっ!!」
多分勝てない。
でも、それでもいい。
勝てなくてもいいから、とにかく一発ぶん殴る!
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
カズキが白龍皇に連れられて行ってしまった。
先程も堕天使の総督であるアザゼルにやけに突っかかっていたけれど、もしかして堕天使側と面識があるのか?
部長とイッセーはギャスパー奪還の為に行動を開始したが、その直後に襲撃を受けた。
旧レヴィアタンの末裔を名乗るカテレア。
こいつが主犯の様だ。
カテレアの相手はアザゼルがしてくれるらしい。
私と木場は動けないアーシア達を守る為にこの場に残ることにした。
魔法使い達は白龍皇が殆ど倒して、カズキが撃ち漏らしを潰していたので掃討はほぼ完了している。
白龍皇がカズキに近づいていき、カズキもそちらに振り向いたその時。
カズキが白龍皇に殴りかかられた。
カズキはそれを躱すと何かを話しかけたが、白龍皇はそのままアザゼルの元に突撃し、先程襲撃してきたカテレアと共に攻撃を加え始める。
カズキはその攻撃に割って入り、白龍皇の拳を止めてから彼を諭す様に問い掛ける。
声色が、もはや願う様ですらあった。
しかし、アザゼルはそんなカズキに対してハッキリと断言する。
「いい加減認めろカズキ、ヴァーリは『向こう側』だ」
『向こう側』。
つまり、白龍皇は敵側に付いたのか。
カズキは何も答えず、困惑した様に立ち尽くしている。
もしかして、白龍皇はカズキの友なのかもしれない。
コカビエルの時も、奴はカズキの命を救っていた。
友の裏切り。
私はイリナを裏切った側だが、少し共感してしまう。
一人思案していると、遠目にイッセーと部長が見えた。
イッセーの背中にはギャスパーもいる。
どうやら救出に成功したようだ。
アーシア達も動ける様になった。
カテレアは宙に浮いたまま、カズキを文字通り見下しながら嘲笑い始めた。
「それにしても滑稽ね。白龍皇を勝手に信じて無惨に裏切られた気分はどう? たかが人間の癖に、本当に仲間になった気にでも–––」
『黙れ』
しかし、それは二つの声に遮られた。
アザゼルと白龍皇の声が重なる。
決して大きな声ではなかった。
だがこの場にいる全員の耳に届く、そんな声だった。
カテレアはその重圧に何も喋れなくなり、萎縮した。
白龍皇、いやヴァーリは視線をカズキに移し、その眼をしっかりと見詰めながら呟いた。
「カズキ、お前は今の生活が大切なんだろう?なら、自分の力で守ってみせろ」
その一言が届いたのか、カズキの眼に戸惑いが消え、力が戻った。
カズキはアザゼルと顔も見ずに幾つか話した後、胸の前で自身の拳を打ち合わせて言い放った。
「バカな兄貴が間違えたなら、正してやるのが弟の役目だろうがっ!!」
兄貴? 白龍皇が?
聞いた話では、カズキは幼い頃から孤児院で育って肉親はいないはず。
一体どういう……?
「おや? 君たちは彼から聞いていないのか?」
困惑している私達に、サーゼクス様が声を掛けてきた。
一体なんの話だ?
朱乃さんは何かを悟ったのか、青い顔をしている。
「サーゼクス様、もしかして彼は……カズキくんは……」
「朱乃くん、それは彼の口から直接聞きなさい。それを君達に話す権利は、私にはない」
朱乃さんの言葉を遮り、サーゼクス様は首を横に振った。
朱乃さんはそれ以上何も言わず、視線をカズキに戻した。
カズキ、お前は一体何を抱えている?
それは、私達に話せない様な事なのか?
何故だろう、お前が凄く遠くに感じる。
それを嫌だと、哀しいと感じる自分がいる。
カズキ、カズキ……。
明日は投稿できるか怪しいです。
出来たら明日、無理だったら明後日の更新になります。