モグラだってドラゴン名乗っていいじゃない!   作:すこっぷ

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五巻 冥界合宿のヘルキャット
23話


「冥界に行く?」

 

「あぁ、リアス部長の帰省について行くことになった」

 

夏休みもまだ始まったばかりの夜。

肉じゃがになる筈だったコロッケを突きながらそんな話を聞いた。

何故皮剥きをお願いしたジャガイモがマッシュになったのかはもう聞かない。

ちなみにモグラさんは爪を使って器用に剥いてくれるぞ。

 

「部長が、カズキも一緒に来るか聞いて見てくれと言っていた。来るだろう?」

 

いやいや、何を当然みたいに言ってるのか。

 

「どうせアザゼルさんもついてくんだろ? 向こうにはサーゼクスさんもいるし、こっちに残れば俺を面倒に巻き込む人いなくなるじゃん。行く訳がない」

 

聞けば夏休みはほぼ向こうで過ごすそうじゃないか。

今年も宿題を手早く済ませてしまえば、去年と同じくダラダラ出来る!

 

「本当に来ないのか? こんな機会滅多にないだろう」

 

「いいや、モグラさんと留守番してる。お前は気にせず、みんなと楽しんでこいよ?」

 

「むぅ……」

 

あら、なんかご不満っぽい?

まぁ楽しそうではあるけどね。

今回は遠慮しとく。

 

 

 

 

「おら、出掛ける準備出来たか? そろそろ出発するぞ」

 

次の日の朝。

インターホンを連打されて玄関へ向かうと、そこにはアザゼルさん。

すぐにドアを閉めようとしたが、素早く足を挟み込まれて失敗した。

 

「俺、行かないってリアス先輩に連絡した筈ですけど」

 

「バカめ、俺様が来た時点でお前に拒否権なんて上等なモンないんだよ」

 

アザゼルさんの義手の指先が光を放つ。

咄嗟の事に反応出来ず、まともに見てしまった。

次の瞬間、強烈な眠気が襲ってくる。

 

「この理不尽大王めっ……!」

 

 

 

 

……むぁ、なんだこれ。

ガタゴトうるさい。

あ、電車か。

ん? 何で電車?

 

「あら? 目が覚めたようですわね」

 

声が上から降ってきた。

あれ? 何で朱乃さんに膝枕されて……

 

「あぁ、アザゼルさんに拉致されたんだった」

 

その本人は少し離れた所で爆睡中。

にゃろう。

 

「随分とあっさり拉致って言うね、キミ」

 

木場が呆れた様に呟く。

仕方ないじゃん。

昔も突然ジャングルっぽい所に放り込まれた事あったけど、それよりは多分マシだよね。

 

あれ?

ねぇ、なんで頰が引きつってるの?

普通だよね? ねぇ? 目を見て答えようよ。

 

「てか、俺の荷物もあるけどどうやって用意したんだ?」

 

「ん」

 

ゼノヴィアがお菓子を咥えながら俺の鞄を指差す。

そこには鞄からお菓子の袋を引きずり出しているモグラさん。

 

へぇ、モグラさんが荷物の場所教えたんだ。

あぁ、そうね。

モグラさんもお出掛け大好きだったもんね。

 

というか、用意したのアザゼルさんだよね?

もしゼノヴィアにパンツとか詰められてたんなら、今すぐ車窓から飛び降りなきゃならないんどけど。

 

「そうだ、朱乃さん膝枕ありがとう。痛くなかった?」

 

「うふふ、構いませんわ。寝顔を近くで見れて楽しかったですもの」

 

頰に手を当てながらニコニコしている。

そんなもん見て何が楽しいのか。

まぁ最近ちょっと避けられ気味だったから、良いってんだからいいや。

 

今は平気みたいだが、最近朱乃さんがおかしい。

普段は何時も通り笑顔でみんなに接しているが、ふと元気が無くなる時がある。

多分バラキエルさん関係なんだろうけど。

少し聞いた方がいいのかな。

 

元気がないと言えば小猫ちゃんもだ。

何かを思い詰めてるみたいで、最近よく溜め息をついていた。

モグラさんと遊んでいる時も上の空になる時があるみたいで、モグラさんが心配してた。

 

ふと窓から景色を覗く。

大きな山に木々が生い茂り、遠くには街も見えた。

ぱっと見は人間界のものだが、空は紫一色。

グリゴリにいた頃にヴァーリさんや美猴さんに連れられてきた、冥界だ。

今年の夏休みはここで過ごす事になりそうだ。

 

 

 

 

「カズキ、お前は俺と一緒に魔王領まで行くぞ。荷物はイッセーに預けとけ」

 

「え〜……絶対サーゼクスさんに会うじゃん。拒否します」

 

「今朝も言ったがおまえに拒否権なんざねぇ」

 

この人本当に泣かせたい。

今やったら泣かされるの俺だけど。

片手の時でも勝てなかったし。

しょうがないので荷物はイッセーに預け、アザゼルさんと共に魔王領へ向かった。

 

「で、ここが魔王領か。思ったより普通だった」

 

「当たり前だ、組織の中枢部分だぞ?」

 

魔王の根城を案内の人について二人で歩いていく。

だってゲームで言ったらラスダンでしょ、ここ。

 

「あら? アザゼルにカズキくん?」

 

中ボス、ではなくセラフォルーさんと遭遇した。

 

「よぉ、セラフォルー。サーゼクスとの会議はいいのか?」

 

「もう終わったからこれから家に帰るの、ソーナちゃんが帰ってきてるからね!」

 

アザゼルさんの質問にご機嫌に答えるセラフォルーさん。

そうか。

リアス先輩だって帰ってきてるんだから、そりゃ会長さんも帰るよね。

 

「そうだ! カズキくんも一緒に行こうよ! ソーナちゃんもビックリして喜んでくれると思うの!」

 

え?

 

「おい、ちょっと待ってセラフォルー。カズキは俺と一緒にサーゼクスに呼ばれて……」

 

「さぁ、そうと決まれば急ぐよカズキくん! しゅっぱぁ〜つ!!」

 

今のやりとりで何が決まったの?

セラフォルーさんは俺の腕を掴むと凄いスピードで俺を引っ張って行く。

もうアザゼルさんの姿は見えない。

 

あ〜……最近こういうので動揺しなくなった自分が嫌だなぁ。

 

 

 

 

「と言う訳でやっほ〜。貴方のカズキです」

 

「俺はお前なんぞいらん」

 

「奇遇だな、俺もだよ」

 

アザゼルさんの次はセラフォルーさんに拉致され、俺はシトリー家の屋敷へと訪れてます。

セラフォルーさんは会長さんを連れてくると言って、俺を客間に押し込めた後に何処かに消えた。

 

もう慌てても仕方ないので、大人しくしてたら匙と遭遇。

挨拶もそこそこに、ここにいる経緯を説明したら凄い憐れみの目で見られた。

お前はいい奴だな、匙。

 

何でもシトリー眷属もここに来ていて、今度開かれる若手悪魔の会合に出席するそうだ。

悪魔って自由そうでいて大変なんだな。

やっぱ人間は楽でいい。

そう言うと匙も苦笑していた。

 

「お待たせ〜! ソーナちゃん連れてきたよ!」

 

「ですからお姉様! お客様がいらっしゃるのにその様な……って、カズキくん?」

 

快音を響かせながらドアが開かれ、そこからセラフォルーさんと会長さんが現れた。

会長さんは手を引かれながら慌てていたが、俺を見ると目をパチクリしながらビックリしている。

 

「やっほ〜。貴方のカズキです」

 

「なんでカズキくんがここに?」

 

華麗にスルーされた。

まぁ、同じ事されたら俺もそうするけど。

しかし匙、なんでそんなに怒ってるの?

 

「いや〜私の前でソーナちゃんを口説くとか勇気あるね、カズキくん★」

 

口説いてません、挨拶です。

 

 

 

 

匙の神器で簀巻きにされた。

悪魔は人間を簀巻きにするのが趣味なのか?

すぐに会長さんが助けてくれたけど。

事情を説明したら、セラフォルーさんが正座で説教されてた。

ざまぁ。

 

「ごめんなさいカズキくん、お姉さまが失礼な事をしたみたいで」

 

会長さんが頭を深く下げてきた。

 

「いや、どうせあのままでもアザゼルさんとサーゼクスさんに無茶振りされてただけだろうし。あまり気にしないで下さい」

 

「おまっ!? 魔王様にさん付けとか!?」

 

だって本人にそうしてってお願いされたし。

いや、なんだその顔。

あんな人のお願い断れないだろ、おっかなくて。

 

取り敢えず、その日は匙の部屋に厄介になることになった。

個室もあると言われたが、匙が何やら相談があるらしいし、部屋が広すぎて一人だと何か不安になるから丁度いい。

 

ちなみに恋愛相談だった。

木場の件で世話になったから力になりたかったが、これは無理だ。

ちなみに会長さんが好きらしい。

 

確かに美人だもんな、会長さん。

お前に好きな人はいないのかと聞かれたが、よくわからない。

でもイチャついてるイッセーには腹が立つといったら、激しく同意してくれた。

 

昔の話も聞かれたので簡単に答えると、匙は号泣してしまい、ティッシュが空になるまで鼻をかみ続けていた。

何故かズッ友宣言されたが、こういう奴は嫌いじゃない。

そのあとに涙と鼻水まみれの顔で抱きついて来なければ、だけど。

 

この日はそんな馬鹿話を遅くまでしながら楽しい夜を過ごせ、冥界に来て良かったと思えた。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

全くお姉さまには本当に困ったものだ。

カズキくんを本人の了承も得ずにここに連れてくるだなんて。

しかもサーゼクス様にお呼ばれされていたのに、それもすっぽかさせて!

 

リアスに連絡したら特に用があった訳ではないみたいだからよかったけれど、何かあったらどうする気だったのか。

彼は人間であって悪魔ではないのだから、こちらの都合で振り回すなど以ての外だ。

姉のしでかした事とはいえ、シトリー家次期当主として明日またしっかりと謝罪しなければ。

 

カズキくんは、今日はサジと同じ部屋で休むらしい。

最初は少し溝があった様だが、今はそれなりに仲良くやっていると聞いている。

リアスの所の兵藤くんや木場くんともいい関係を結べているし、サジのコミュニケーション能力は存外高いのかもしれない。

 

サジはかわいい弟の様な存在だ。

実力的には同期の兵藤くんや人間としては規格外のカズキくんには劣るが、あの子もいずれ立派な悪魔になってくれることだろう。

今は要訓練であるが。

 

さて、私もそろそろ休むしよう。

自室に戻る為に廊下を歩いていると、サジの部屋の前に人影が。

あれは……桃に、留流子(るるこ)?

二人してドアの前で一体何を……まさか盗み聞き?

 

全く、ちょっと注意しておこう。

二人に近づき肩に手を置くと、小さく悲鳴をあげてこちらに振り向く。

怯えるなら盗み聞きなんてするんじゃありません。

 

お説教しようとした時、部屋から話し声が聞こえてきた。

 

「10歳の頃に攫われて改造人間にされた上に堕天使の巣窟で育ったって……また人生ハードモードやってんな」

 

「最近周りが悪魔ばっかだから、自分が改造されてるとか忘れ気味になるけどな」

 

これは……カズキくんの話?

 

「そういや、お前の親は?」

 

「父親に孤児院に預けられてそれっきりだな、小さすぎて覚えてない。母親は知らん」

 

「あ……悪い」

 

「謝る必要あったか?」

 

サジの質問に笑いながら何でも無い様に軽く答えているが、重い。

つい注意する立場を忘れて部屋を覗き込んでしまった。

サジはベッドにあぐらをかいて座り、カズキくんは膝に彼の神器であるモグラさんを乗せて、優しく撫でてあげている。

 

「しかしグリゴリで育った、か……自分を改造した奴の仲間なのに、よく一緒にいれたな」

 

そう、彼を助けたのは確かに堕天使だ。

でも、彼を改造して人生を狂わせたのもまた堕天使だった。

子供だったのに、よく恨みをぶつけなかったものだ。

 

「アザゼルさんとかみんなして謝ってくれたしね。別に気にする程の事じゃないだろ」

 

「大物すぎるだろお前……」

 

サジが頬を引き攣りながら突っ込む。

自分の身体を弄られて気にする事じゃないって、どれだけ心が広いんでしょう?

 

「まぁ改造されたばっかは日常生活が厳しかったけどな。スプーンとかドアノブがさ、潰れるんだよ」

 

壊れるんじゃなくて、握力で潰れるんだ。

彼はそう言いながら手を握ったり開いたりしている。

 

「最初の頃はとにかく物壊しまくってさ、もうスッゲー謝ってばっかだったわ」

 

それはそうだろう。

自分は身体能力が上がったとはいえ、人間の子供と尋常ではない力を持つ堕天使。

恐ろしくてひたすら謝るしかないだろう。

相当神経を使ったに違いない。

私なら耐えられるだろうか?

 

「でもさ、次の日起きてみたら、施設のドアが全部自動ドアになってたんだよ」

 

あれは嬉しかった。

そう言った彼の表情が、物凄く明るいものになった。

本当にグリゴリの者達が大切なんだろう。

 

「ほかにも俺の為に色々やってくれたし、グリゴリのみんなはいい人たちだ。変人も多いけどね」

 

彼はそう言いながら膝のモグラさんを頭に乗せる。

サジも一緒にいる二人も涙を溢している。

私もだが。

 

「そういやお前以外の被験者は……?」

 

「ん? みんな死んだ」

 

あっさりと口から出てくる非常な現実。

これはリアスから聞いていた話で想像はしていた。

カズキくんの様なスペックの人間を量産できたらとんでも無いことになる。

 

「俺は木場と違って、ずっと一緒だったわけじゃないから」

 

そう言いながら、儚げに笑う。

でも、彼はコカビエルをほぼ単独で撃破した。

仇をきっちり討ち取り、死んだ者たちの手向けとした。

それを目標に、死に物狂いで努力をしてきたのだろう。

 

その結果が、人間の身でありながら堕天使の幹部の撃破である。

聖書にも載る伝説の堕天使を倒せる、人間。

ここまで出来るのに、人間。

 

「折角拾った命なんだ。きっちり寿命まで生き抜くよ、モグラさんと一緒にね」

 

「うぉぉあぁぁぁ! カズキぃ! カズクゥィー! 俺は、俺はずっとお前と友達だからなぁ〜!!」

 

「うぉ、やめろ気色悪い! ぐぁ、鼻水がぁ〜!」

 

我慢の限界だったのか、サジは涙やら鼻水やら顔から出るものを全部出しながらカズキくんに抱きついてました。

 

私も号泣している二人を連れて、静かに部屋から離れました。

私は号泣はしてません。

ちょっと、泣いちゃいましたけど。

 

今日はカズキくんの事が少し理解できて良かった。

しかし、明日は二人と一緒にちゃんとカズキくんに盗み聞きした事を謝罪しなければ。

でも、今日はもう休もう。

朝までに目の腫れを引かせなければ。




花戒桃(はなかいもも)《僧侶》
仁村留流子(にむらるるこ)《兵士》
それぞれソーナ会長の眷属です。

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