朝起きたら会長さんと、眷属の二人と一緒に頭を下げられた。
なんだこの新手のイジメは。
会長さんに聞いてみたら、どうも匙との会話を三人で聞いていたらしい。
俺の昔の話なんて大したことないから気にしないでと言ったら、眷属の人が泣き出してしまった。
た、助けて元ちゃん!?
「誰が元ちゃんだ、誰が」
匙も一緒にフォローしてくれて、泣いた人も何とか落ち着いてくれた。
会長さんはまた頭を下げている。
「えっと、そうだ! 匙から聞きましたけど、会長さんお菓子作るの趣味なんですよね? 今度それ作って下さい! これでチャラ、ね!?」
会長さんはポカンとした後、慌てる俺が面白かったのか笑いながら了承してくれた。
この場はこれで終わったが、会長がいなくなってから副会長さんがコッソリと耳打ちしてきた。
なんでも、会長のお菓子は『趣味』であって『特技』ではないとの事。
何、大抵の物は食える。
特にお菓子なんて分量をきっちり計れば、そうそう失敗などしない物だ。
眷属の人たちの憐れみの目を向けられても、大して気にならなかった。
今は、まだ。
今日は若手悪魔が集まる会合があるそうだ。
セラフォルーさんから昨日のお詫びとして招待された。
会長さんと匙にも誘われたし、予定もないので行ってみることにした。
リアス先輩たちも来る予定との事なので、そこで合流すればいいや。
そしてその会合の待合室に着いてみると、壁の一部が破壊され、その近くにはヤンキーらしき死体が一つ。
なるほど。
「随分と個性的だけど、悪魔らしいインテリアだね」
「いや、流石にねぇから」
やっぱ? 俺もそう思った。
匙と軽口を叩きつつ辺りを見渡すと、何やら体格のいい人とリアス先輩達が一緒にいるのを発見。
向こうもこっちに気付いた様だ。
「あら、ソーナ。カズキくんも来たのね」
「おぉ、シトリー家の……ん? カズキ、と言ったか。お前、人間か?」
男性は不思議そうにこちらに視線を向けてきた。
「えぇ、彼は瀬尾一輝くん。人間ですが、私たちの友人で、セラフォルー様からの招待でいらっしゃいました」
「レヴィアタン様のご友人でもあるのか! 俺はサイラオーグ・バアル、大王バアル家の次期当主だ」
会長さんの紹介を受け、朗らかに笑いながら手を差し出してきた。
大王? 魔王とはまた違う何かなのか。
「ご丁寧にどうも、瀬尾一輝です。ただの人間やってます」
握手に応えて手を握り返す。
「ふむ、この手でただの人間って事はないだろう。これは鍛え抜かれた者の手だ」
握手しただけでそんなんわかるのか。
あれ? このサイラオーグさんってヤバくね?
なんかヴァーリさんと同じ匂いがする。
「そりゃそうだよな。コカビエルをボロボロにするくらいだし」
イッセーがボソッと呟く。
あ、バカ。
この手の人に余計な事言うな。
「ほぅ、どれ試しに」
イッセーの呟きを聞いたサイラオーグさんの腕がブレる。
いきなり凄い速さの突きが、顔面目掛けて飛んできた。
モグラさんを出す余裕がないので、腕を擦り付けて威力を殺しながら受け流す。
それだけで腕の皮がずり剥けた。
「おぉ、本当に凄いな! これで人間なのか、何故悪魔にならないんだ?」
「興味ないです。というか、人に怪我させといて何を笑ってるのかねこのマッチョは」
あ、控えてる人達が怖い顔してる。
しまった、悪魔の有名どころが来るんだっけ。
この人もいいトコの坊ちゃんなのか。
「む、すまん。ゼファードルと同じ感覚で打ってしまった、大丈夫か?」
「謝ってくれたんでいいです、後ろの人たちが怖いですし」
それにもう治った。
痛いのは変わらないけど。
「惜しいな、俺の眷属になって欲しいくらいだ。どうだ、よかったら訓練に付き合ってくれないか?」
「やだよ。か弱い人間相手に、なんて拷問を提案するんだこの人」
いかん、ついタメ口になってしまった。
「ハッハッハ! 悪魔相手に物怖じしないこの態度。リアス、お前の友人は本当に面白いな」
「もう勘弁してちょうだい……」
俺とサイラオーグさんのやり取りにリアス先輩が頭を抱えてしまった。
今回は俺悪くなくね?
その後もイッセーや朱乃さん達と話をしていたが、スタッフの人に呼ばれて一足先に会場に行くことになった。
会場につくと、何やら偉そうな悪魔の方々が三段になっている席にそれぞれ座っている。
一番上にサーゼクスさんとセラフォルーさんがいるので、上から偉い順になってるのかな。
なんかお偉い方がめっちゃ睨んでくるな。
やっぱ人間が来るのは不味かったか。
俺にはまた別の席が用意されていて、サーゼクスさんにそこに座る様に促されてから、皆さんに頭を下げて其処に座る。
サーゼクスさんとセラフォルーさんの隣にもう二人男の人が一緒に座ってるけど、あの人達も魔王なの?
そんな事を考えていると、後からリアス先輩達も会場にやってきた。
サーゼクスさんの話から始まり、何やら難しい話のオンパレードだった。
今はそれぞれの目標や夢ついて質問されている。
サイラオーグさんは『魔王になる』。
リアス先輩は『レーティングゲームで優勝する』。
そして会長さんの夢は『冥界に、誰でも通えるレーティングゲームの学校を建てる』事。
会長さんがそう言うと、お偉いさん方は突然大声で笑いだした。
え? 今の何処に笑いどころが?
悪魔の笑いのツボがわからない。
それは無理だ、傑作だと言葉が続き、会長さんが本気だと伝えてもそれは変わらない。
会長の眷属の人達が、と言うか匙がピリピリしだしているのを感じる。
席に座る悪魔達は口々に語り出した。
「下級悪魔や転生悪魔は主に仕えて才能を見出されるのが常。その様な物をつくっては伝統と誇りある旧家の顔を潰すことになる」
「幾ら変革の時代と言っても、変えて良いものと悪いものがある」
「たかが下級悪魔に教育など」
「シトリー家の次期当主は夢見る乙女か、現実が見えていないとみえる」
あ、もう無理。
ごめん匙、俺のが我慢できない。
「大切なお話しの中大変申し訳ありませんが、サーゼクス様。質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」
手を挙げてから声を発する。
サーゼクスさんは様付けした事で色々と察してくれたのか、応えてくれる。
「あぁ、もちろん構わない。その前に紹介しておこう。彼は瀬尾一輝。私やセラフォルーの友人で、和平の切っ掛けとなった事件の折、コカビエルを単独で撃破した人間だ」
サーゼクスさんの発言に若手悪魔達にざわめきが起きる。
今はどうでもいいので、話を進める。
「御紹介に預かりました。私、瀬尾一輝と申します。魔王様からのお許しも得たので質問させて頂きますが、先程のソーナ殿のお話。何か問題でもあるのですか?」
「たかが人間が我らの会話に口を挟むなど……!」
「私は先程、魔王であらせられるサーゼクス様より発言の許可を得ております。魔王様に歯向かわれるおつもりで?」
「ぐ……」
俺の発言に押し黙る。
最初から考えて物を言え、老害め。
「伝統や誇り、確かにそれらは大切な物でしょう。私の様な者には想像も出来ない、長い永い年月から先祖より受け継ぎ培ってきたのですから」
俺の発言に当然だとばかりに頷いたり、フンと鼻を鳴らす。
「ですが、今のシトリー殿の話と関係ないでしょう? 下級悪魔が知恵をつけるのを禁止する伝統に何の価値がありますか? こんな事が変えてはいけないものなのですか? 教えて頂きたい」
「それは–––」
「ないですよね? このような馬鹿げた事に合理的な理由など」
俺は相手の言葉を遮り、ゆっくりとお偉方の前まで歩を進める。
「子供はその種の大切な宝だ、サーゼクス様も先程そう仰られた。その宝を磨きあげ、より輝かせようと努力する後進を蔑ろにするなど、愚かとしか言いようがない」
「貴様っ! 我ら悪魔を愚弄するか!?」
そら、さっきのバカが喰いついてきた。
「悪魔を愚弄してるんじゃない、あなたを愚弄してるんだ。合理的な考えのできる他の方達やソーナ殿を、あなたと一緒にして欲しくない」
さっきからこいつしか反論してこない。
他の連中はマズい流れになっているのに気付いて黙ったというのに。
「人間にもいましたよ、そういう事をする輩が。でも、みんな勝手に潰れるんですよ。敵に滅ぼされるんじゃなく、内側から自滅して」
「悪魔を脆弱な人間と同等に扱う気かっ!!」
「人間と悪魔、何が違うのです? 悪魔は優れた魔力を持ち、人間は優れた科学力を持つ。互いの長所が違うだけで、大した違いなどないでしょう」
一つ咳払いをして、今度はサーゼクスさんに視線を移す。
「話が逸れました。私が言いたいのは、ソーナ殿のやろうとしている事は悪魔の未来を明るいものにする、とても素晴らしい物だと言う事です」
「成る程、筋の通った最もな意見だったな。して、君はどうしたい?」
「私はソーナ殿の成そうとしている事について、皆様方にもう少し熟慮して頂きたいだけです」
話終わった後に、もう一度頭を下げてから自分の席に戻る。
おぉ、老害の顔が真っ赤だ。
やっぱりこの手の奴は、口で言い負かした方がスッキリする。
人の本気の夢を馬鹿にして何が楽しいのか。
「そうよ! うちのソーナちゃんがゲームで勝ち進んでいけば文句もないわよね?」
ちょ、セラフォルーさん!?
お願い、今余計なこと言わないで!
「みんなしてソーナちゃんの事いじめて! あんまりひどいと、カズキくんと違って私は暴力で訴えちゃうわよ!?」
何やらプンスカしながら、セラフォルーさんは手をブンブン振り回している。
それを見て、さっきの老害が口を開いた。
「なるほど、では実際にゲームで白黒つけてはいかがかな? 若手同士での非公式の交流試合と言うことで。そこの人間はソーナ殿側の勢力に着けばいい」
ほれみろ面倒な事にぃ……!
くそ、めっちゃ楽しそうな顔しやがって。
「私はソーナ殿と、サイラオーグ殿との試合を提案いたし–––」
「いや、ソーナにはリアスと戦ってもらおう」
老害の発言をサーゼクスさんが遮る。
「元々、近日中にリアスのゲームをする予定だった。アザゼルが各勢力のゲームファンを集めて若手の試合を観戦させる名目もあったし、ちょうどいい。貴殿もよろしいかな?」
「……は、それがよろしいかと」
サーゼクスさんの言葉に従い、老害が頭を垂れる。
その間に、リアス先輩と会長さんが言葉を交わす。
「何だか妙な流れになってしまったけれど……やる以上手加減しないわよ、ソーナ」
「当たり前よ。公式ではないとはいえ、私の初のレーティングゲーム。手加減なんかしたら許さないわ、リアス」
「では詳細は追って伝える。君達もそれで構わないかな?」
『魔王様の仰せの通りに』
くそが、老害と言葉が被った。
気分悪い。
話も終わったので、俺は会長さんのところに戻って頭を下げた。
「会長さんすみません。我慢出来ずに好き勝手したら、思いっきり会長さん達まで巻き込んじゃいました」
「いや、カズキが言わなかったら俺が言ってた。まぁ言い負かされてただろうけど」
「やってしまった事は仕方ありません。それに庇ってくれたのは嬉しかったですよ、ありがとうございます。匙もよく我慢しましたね、偉いですよ」
「か、会長……!」
俺の謝罪に、匙が続けてフォローしてくれる。
そんな俺たちに、会長さんが慰めの言葉をかけてくれた。
匙はそれだけで感動して泣きそうだ。
サーゼクスさんの先程の発言の後にこの場は解散となり、みんなゾロゾロと会場を後にしていく。
しかしあのジジィもふざけた事をしてくれる。
後から聞いたら、サイラオーグさんって若手最強らしいじゃねぇか。
わざわざそんなのぶつけようとしてくるとか、意外と抜け目ない。
リアス先輩達には、このまま会長さんの家で過ごさせて貰うことを伝えた。
流石に試合相手の所にお世話になるわけにもいかないし。
「でも意外だったわ。カズキくんって、教育についてあんなにしっかりとした考えを持ってたのね?」
「えぇ、とてもカッコよかったですわ♪」
リアス先輩と朱乃さんが俺を褒めちぎる。
「はい、感動しました! もしかしてカズキさんって教職を目指してるんですか?」
「おお、いいんじゃないか?」
「結構似合ってるかも知れません」
アーシアちゃんにイッセー、小猫ちゃんまで。
どうしよう、なんか本当の事言えない。
「うーん……」
「どうしたんだい、ゼノヴィア?」
何かを考え込むゼノヴィアに、木場が問い掛ける。
あ、ヤバイ。
「いや、カズキの言葉。何処かで聞いた事がある様な……」
「まぁ、どうでもいいじゃないですか! さぁ、会長さん。早く帰って特訓しましょう、特訓」
こういう時はゴリ押しだ、早々に退散しよう。
「え? あ、そうですね。ではリアス、次はゲームで」
「えぇ、ソーナ。お互いに恥じない戦いをしましょう」
こうしてリアス先輩たちと別れ、会長さん達と帰路に着いた。
「なぁ、カズキ。なんであんなに慌ててたんだ?」
「……聞いても怒るなよ」
帰り道に匙が小声で聞いてきたので、こっそり答えた。
「いや、あの言葉……実は俺の持ってる、漫画とか小説のセリフを切り貼りしたもんなんだよねぇ」
今時の漫画読んでる高校生なら、あの程度の事誰でも言えると思う。
「……おい、お前の言葉に感動した俺の気持ちを返せ」
「だから怒らないでって言ったじゃん……」
「なぁ、今度その漫画……俺にも貸してくれ」
「別にいいけど、なんだよ急に」
匙が照れ臭そうに頬をポリポリと掻きながら呟く。
「お前の言葉聞いて、会長が嬉しそうだったのが悔しいんだよ……将来役立つかもしれないし」
「……青春してるなぁ」
「うるせぇ!」
匙が殴り掛かってきて、騒いだから二人して会長さんに怒られた。
さて、後でサーゼクスさんかセラフォルーさんに連絡だ。
ゲームでも当然頑張るが、『お願い』もきっちりこなさなきゃ。
え? モグラさんが出てない?
お偉方の前で武器を見せびらかせないでしょう?
決して書き忘れてなんていませんよ、はい。