夜が明けて、今日は決戦当日。
ゼノヴィアはあれから何も言ってこない。
本当に単なるお礼のつもりだったのか?
そういや前も胸を揉んでいいとか言い出した事が……あ〜もう訳分からん。
乙女か、俺は。
「そんでこっちで観戦か……俺ってば場違いじゃね?」
「気にすんな、今更だ」
今日はイッセー達は部室から直接試合会場に向かうそうなので、今日はアザゼルさんと二人で冥界入りだ。
アザゼルさんに誘われてここまで来たが、何やら偉そうな連中ばっかりいるんだけど。
ここってVIP席って奴なのでは?
「よぉ帝釈天。カズキの奴、連れてきてやったぜ?」
アザゼルさんは、髪を五分刈りにしてアロハシャツを着たやけにファンキーな人に話し掛ける。
この人も偉い人か、やけにはっちゃけた恰好だな。
「お、こないだ爆走してたガキじゃねぇか! ここに来やがったのか」
「えっと……?」
「なんだよアザゼル、頼んだのにちゃんと伝えてくれなかったのか? 俺様は帝釈天、素敵で無敵な神様だZE!」
帝釈天さんは、親指と小指だけ伸ばしたポーズの手をこちらに突きつけながら自己紹介してくれた。
なにこれラッパーさんですか?
うっわぁ……絡みずれぇ……。
取り敢えず挨拶はちゃんとしておいた。
アザゼルさんの紹介みたいだし、挨拶は大事だからね。
「おぉ、何時ぞやの小僧か。元気にしとったか?」
こないだの廊下で話したお爺さんにも話しかけられた。
爺さん、やっぱあんたもお偉いさんだったのか。
例の美人さんも一緒にいる。
「どうも、ご無沙汰してます。そういえばお名前聞いてなかったですね?」
「硬いのぅ、もっと軽くて良いぞ? 儂はオーディン、ただの田舎のジジィじゃよ」
ただのジジィがこんなトコにいる訳ねぇだろ。
なんかこの人、アザゼルさんと同種の面倒くささを感じるぞ。
「おら、あんたらみたいな規格外が一辺に話し掛けたらこいつも混乱するだろうが」
「おぉ、アザゼルさんが頼もしい。伊達にお偉いさんやってない」
「そこら辺に捨てて帰るぞテメェ」
しまった、口に出てた。
それを聞いてた帝釈天さんとオーディンさんが爆笑してるから、まぁいいか。
「で、どっちが勝つと思うよ?」
帝釈天さんがソファーに深く腰掛け、脚を組みながら尋ねてきた。
「俺はストーカーの戦闘見てないから何とも。リアス先輩たちに勝って欲しいですけどね」
俺が答えると、何故か二人して笑い出した。
なんか変な事言ったかね?
「周りが悪魔だらけのこの場で貴族の小僧をストーカー呼ばわりか、肝が座っとるのかただのバカか……」
オーディンさんが髭を摩りながら楽しそうに言ってくる。
そういやみんないいトコのお坊ちゃんお嬢ちゃんだっけ、忘れてたわ。
「あ、ちなみにバカの方だぜ?」
「ケンカ売ってんなら買うぞコラ」
アザゼルさんと互いに襟首を掴んで睨み合っていると、ドアがけたたましい音と共に蹴破られた。
何あの人たち、SPには見えないけど。
俺がボケっとしていると、そこからなだれ込んで来た連中と此方の護衛さんが急にドンパチし始めた。
うぉ、こっちにも流れ弾飛んできた!?
「うーむ、どうやらテロリストの襲撃のようじゃのぅ……こりゃグレモリーの嬢ちゃん達も何かされとるかもしれんな。どれ、このジジィが救援に行ってやるかね……お前さんも来るか?」
こんなドンパチの現場にいて余裕ですねオーディンさん。
何? あいつらまた襲われてんの?
どうせこっちは強い人集まってんだし、俺もそっちに行った方がいいかな。
俺が頷くと、オーディンさんの左目が怪しく輝き始める。
「まてジィさん! カズキ、これも持ってけ!」
アザゼルさんがこっちに何かの袋を投げ渡してきた。
中身を見ると、通信機みたいな物が八個入っていた。
俺がそれを受け取ったのを確認すると、オーディンさんは魔法陣を何やら弄って俺も一緒に転移した。
あ、護衛の美人さん置いて来ちゃったけどいいのかな?
転移した先が、なんか凄い事になってる。
神殿みたいな建物の前に出たのはいいが、見渡す限り敵だらけなんですけど。
お、みんな発見。
「オーディンさん、急ぎま……っていねぇ!?」
横に居たはずのオーディンさんが何時の間にか消えている。
焦って辺りを見渡すと、朱乃さんのスカートをめくってパンツを見ていた。
それを確認した途端、俺はそこまでダッシュしてオーディンさんの頭を全力ではたいていた。
「堂々とセクハラしてんじゃねぇ!」
「ぐぉ!? お、お主、主神の頭をはたくとはトンデモない奴じゃのぅ」
大して痛くもないくせに、頭を摩りながらこちらに文句を言ってくる。
「やかましい! よりによって朱乃さんにしやがってッ!」
俺が後で説教されるだろうが!
「カズキくん!? 助けに来てくれたの?」
「俺とセクハラジジィだけですけどね」
スカートを直しながら聞いてくる朱乃さんに、ぞんざいに答える。
二人だけとか、どんだけ貧相な援軍だよ。
まぁオーディンさんは強いんだろうから問題ないけど。
敵さんを牽制しながら簡単に説明して貰うと、どうやらあのストーカーはテロリストとグルだった様だ。
で、現在はアーシアちゃんを人質に神殿の奥に引っ込んだと。
「どれ、ここはこのジジィに任せて行ってこい。年寄りもたまには運動せんとのぅ。小僧、ちょっと付き合え」
「いいですよ、セクハラオヤジだけじゃ心配ですから。みんな、悪いけどアーシアちゃんを頼む」
オーディンさんはそう言いながらイッセー達の前に立ち、俺もアザゼルさんから預かった通信機の入った袋をリアス先輩に渡して、オーディンさんの隣に立つ。
リアス先輩は俺たちにお礼を言ってから、みんなを連れて神殿まで走っていった。
「お主、仮にも主神にセクハラオヤジはないじゃろう。そんなにあの娘が大事か?」
「そりゃ朱乃さんは大切だけど、セクハラを放置してたら俺の命が危険に晒される」
美人の目が笑ってない笑顔って怖いんだぞ。
「まぁええわい。お前さんも早く向こうに行きたいじゃろ? ちと張り切ってやってやるわ–––『グングニル』」
オーディンさんが手元に槍を出現させて、それを敵が固まってる所目掛けて突き出す。
次の瞬間、槍から光が放たれ敵の一団が纏めて吹っ飛んだ。
……おい、なんだその反則ビーム。
俺の『胸からドーン』の何倍強いんだよ。
もうこの人に逆らうのやめよ、物理的に消される。
「ほれ、お前さんも手伝わんか。なんの為に残ったんじゃ」
おっといかん。
さっさとこいつら片付けて、俺もアーシアちゃんの救出に向かわねば!
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テロリスト共をある程度掃除してから、ファーブニルが宿る宝玉の反応にしたがって飛んでいくと、そこには黒いワンピースを着た小さな少女が座っていた。
「アザゼル、久しい」
「前は老人の姿だったが今は美少女かよ。いったい何考えてんだ、オーフィス?」
オーフィス。
『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』、『禍の団』のトップがこいつだ。
どんなに姿を変えても、こいつの不気味で言い様のないオーラは間違えようがない。
「見学。ヴァーリと美猴の弟と、もう一つ」
カズキを?
いったい何のためにそんな事を。
それに『もう一つ』ってのは……?
「あの無限の龍神が、わざわざ一人の人間を観察する為にお出ましか。毎度驚かせてくれるな、あの男」
俺が悩んでいると、一体の巨大なドラゴンが羽ばたきながら舞い降りてきた。
元龍王、タンニーンか。
「世界に興味を示さなかった貴様が、今更何を望む?」
タンニーンがその巨大な瞳で睨みつけると、オーフィスはなんでもない様にこちらを見つめて答えた。
「故郷の次元の狭間に戻り、静寂を得たい」
っ! ナルホド、な。
ようやくわかった。
お前が『禍の団』に協力している理由。
「グレートレッド。次元の狭間にいるあいつをどうにかするのを条件に、あいつらに協力したのか」
俺の質問に、オーフィスは黙って頷いた。
だが、あいつらにどうこう出来る存在じゃ……そうか、ヴァーリ。
お前がそっちに行った理由は、これか。
そんでもってオーフィスが見学来た『もう一つ』ってのもそれか。
マズイな、それが来る様な何かがこれから起こるってのか?
面倒な事になりそうだ……!
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ゼノヴィアも木場もスゲェ!
カズキから受け取った通信機でアザゼル先生の説明を受けた俺たちは、アーシアを人質に取られディオドラの提案した
『一度戦った駒はディオドラの所までは使うのは禁止』
というルールでの戦闘を行う事になった。
初めは《戦車》二名と《兵士》八名の合わせて十人と戦う事になり、ゼノヴィアが《戦車》、俺とギャスパー、小猫ちゃんが残りの《兵士》の相手をする事に。
「カズキに言われた、私はバカだから難しく考えるなと。それなら私はデュランダルを抑えようとせずに、むしろその破壊力を突き詰めていく!」
ゼノヴィアは自身の持つデュランダルと、事前に渡しておいたアスカロンを高く掲げながら言葉を続ける。
「私はアーシアを失いたくないッ! デュランダル、アスカロン! 私の親友を助ける為、私の想いに応えてくれッ!!」
ゼノヴィアはそう言うと、二本の聖剣のパワーを解放して敵を瞬殺。
残りは俺の『乳翻訳』とギャスパーの神器で相手を翻弄して、小猫ちゃんがトドメを刺す連携で難なく突破。
次に出てきたのは《女王》と《僧侶》二名の三人組。
残りの《騎士》二名は木場に任せ、こちらは部長と朱乃さんの『二大お姉様』コンビで迎え撃つ。
序盤から圧倒していたが、小猫ちゃんの
「カズキ先輩からご褒美あるかも」
の一言により、朱乃さんの雷光が輝きを一気に増して敵を三人纏めて丸焦げにした。
キラキラした笑顔で戻ってきた朱乃さんを見て、こんな時だがカズキが爆発すればいいなと少し思った。
最後は《騎士》なんだけど……なんとそこにはイカれた神父、フリード・ゼルセンの姿が!?
フリードは『禍の団』に拾われて改造されたらしく、異形の化け物になっていた。
ディオドラの《騎士》も、コイツが食べてしまったそうだ。
「俺ちゃんが力を望んだら、こんな素敵面白い身体にされちまったのよ! カズキとかいうお前らのお仲間と一緒よん? そのデータが元に使われてるんだとさ!」
「君みたいな下衆と、僕たちの仲間を一緒にするな」
キメラとなり力を増したフリードだったが、以前とは比較にならない程鍛え上げた木場の前にあえなく瞬殺。
文字通り細切れになってしまった。
こいつとは何度も敵として相対してきたが、最後は呆気なく終わってしまったな……。
こいつも、ある意味では被害者だったのかもしれない。
戦闘前、フリードはペラペラと色々な事を話してきた。
ディオドラの目的や、今までしてきた事。
そして、アーシアとディオドラの出会いの真実。
ディオドラ、あいつだけは絶対に許さない!
二度とアーシアに近付けないようにぶん殴ってやるッ!!
俺たちは気合を改めて入れ直し突き進んでいきようやく今、最後の部屋に辿り着いた。
そこは何かの機械や宝玉が壁に埋め込まれ、何かの魔法陣の様に配置されている異様な部屋だった。
しかし何よりも異様だったのは–––。
「だ、大丈夫ですか……?」
「くっそ、ドリルで削ってもビクともしねぇ。なにこれ、カッチン鋼で出来てるの?」
機械に貼り付けになっているアーシアの枷を外そうと、高速回転するドリルを押し付けているカズキとそれを心配そうに見つめるアーシア。
そして……。
「くそッ! ただの土の筈なのに出られない!? オイッ、僕に一体何をした!!」
頭だけ残して身体が地面に埋まり、カズキに向かって騒ぎ立てているディオドラの姿だった。
……何がどうしてそうなった!?
主人公の必殺技は今の所二種類。
胸からビームを出す『胸からドーン』。
胸からモグラさん型のエネルギーの塊を大量に生み出す『モグさん大行進』。
ヒドイな、色々と。