モグラだってドラゴン名乗っていいじゃない!   作:すこっぷ

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シリアスは帰って行ってしまいました……。



35話

力任せに突撃してくるイッセーを、残った腕と体捌きでなんとか躱し続ける。

さて、大見得切ったはいいけどどうするかね。

正直ギリギリ過ぎてやれる事があまりない。

 

それにさっきからモグラさんに話し掛けてるのに、返事がまったく返ってこない。

まだ片手にグローブが残ったままだし、能力は使えるみたいだから死んだりはしてないと思うんだけど……こっちも心配だ。

 

「ぐがぁぁぁぁアーシアァァァァ!!」

 

「ここにアーシアちゃんはいない。いい加減現実見やがれ、バカイッセー」

 

俺の言葉に反応したのか、攻撃が更に激しさを増した。

『アーシアちゃん』みたいな特定のワードには反応する、きっとこいつの中に『イッセー』は残ってる。

なら、それを刺激し続ければ何かしら反応があるかも知れない。

 

……それまで俺が持てばだけど。

 

「ぎゅがぁぁぁるぅぁぁぁッ!」

 

「何バケモノみたいな声出してんだ。お前はな、おっぱいおっぱい言ってる位がちょうどいいんだよ」

 

お、今度はおっぱいの言葉に反応した?

さっさと戻ってこいよ、おっぱいバカ。

俺にシリアスとかさせんな、似合わないんだから。

 

地面に手をつき、石柱を伸ばしたら宝玉から生えてきた腕に軽々と粉砕され。

足元に穴を作って落とそうとしたら、空を飛んで逃げられ。

口からはビームまで吐きやがった。

もうなんでもありだな、あいつ。

 

てかなんで宝玉から腕やら牙やら飛び出て来るんだ、意味わからん。

無くなった右腕の先端を牙で切りつけられたせいで、すげー痛い思いして焼き塞いだ傷口が開いて血が溢れ出してきたじゃんよ。

 

こっちは腕がないからバランス崩れて動きにくい事この上ないのに、向こうは元気に突進して噛み付こうとしてくるし……あれ、なんか段々ムカついてきたな。

 

それに血が流れすぎて頭がボーッと……。

取り敢えずあれだ、もう難しい事考えるのやめよう。

後でなら何されても文句言わないから、とにかく今は動けるうちにこいつを殴って正気に戻す!

 

「ぐぎがぁぁぁ!」

 

「だ〜もう、うっせぇ! 人が痛いの我慢して付き合ってやってたら調子乗りやがって!」

 

バカの一つ覚えで突っ込んできたイッセーの顎を左で蹴り上げ、浮いた上体に回し蹴り気味に右脚を減り込ませて瓦礫の山まで吹っ飛ばす。

 

「そもそも何だ、そのニョキニョキ生えてくるキモい腕は! こっちは一本無くなったってのに俺への当てつけか!? そんなにあるなら……」

 

瓦礫から這い出てきたイッセーに接近し、宝玉から何本も生えている腕の一つを握り締め–––

 

「俺にも一本寄越せボケェェェッ!!」

 

「ギュアァァァァ!?」

 

足も使ってムリヤリ引っこ抜いた。

痛みがあるのか、地面に転がりもんどりうっている。

今のうちに落とし穴にボッシュートしてやる!

 

俺が地面を殴ると地面に大きな穴が空き、そこに吸い込まれるようにイッセーは落ちていった。

ついでに近くにあった大きな瓦礫で穴を塞いでおこう。

これで少しは休めるかな。

 

さて、ノリで引き抜いたはいいがこの腕どうしよう。

ウロコがびっしり生えてて、まんまドラゴンって感じの腕だな。

 

『……ズキ、瀬尾カズキ! 聞こえるか!? 聞こえているなら、その腕を失った自分の腕に押しつけろ!』

 

うぉ!?

これって確かドライグの声……これを押し付けんの?

なんか変な病気になりそうだけど……しょうがない、我慢しよう。

 

「ふんっ!!」

 

その腕を、無くなった方の腕に押し付ける。

すると押し付けた先がみるみるうちに癒着していき、凄まじいスピードでくっついた。

お、すげぇちゃんと自由に動かせる!

 

『よし、なんとかなったようだな。ドラゴンを宿しているお前ならもしやとは思っていたが、これで会話が出来る』

 

ドライグの声が腕を通して直接頭に響いてくる。

なんだこれ、どういう事?

 

『お前が無茶をして相棒に声をかけ続けたおかげで、向こうに少し余裕が出来た。これで腕を介してお前にも協力出来る』

 

ドライグはいい奴だな、イッセーに酷いことばかりされてるのにこんなに頑張ってやるなんて。

でも頼ってくれるのは嬉しいが、俺ももう限界ギリギリなんだよね。

あんま期待しないで。

 

『フッ、【いい奴】だなんて言われたのは初めてだ。相棒もそうだが、お前も相当変わっているな』

 

そうかね?

自分では一般人代表だと思っているが。

 

『まずは状況説明だ。相棒は大切な者を失った哀しみで、中途半端に【覇龍(ジャガーノート・ドライブ)】となってしまった。このままだと命が危ない』

 

【覇龍】?

ニュアンス的にとっておきって奴か。

しかも命って……使いこなせてないから?

 

『大体そんな感じだ。だがあの中途半端な状態からなら、まだ元に戻せるかもしれない』

 

マジで!?

どうすりゃいいの?

 

『相棒の深層心理を大きく揺さぶる何かが起これば……』

 

イッセーを大きく揺さぶる何か……ダメだ、おっぱいしか出てこない。

いっそリアス先輩を裸にひん剥いてイッセーに投げつけてみるか?

案外それで簡単に戻りそうな気もする。

 

『相棒の為に考えてくれているのだろうが……お前、色々と酷いな』

 

お前の相棒ほどじゃない。

おっぱいドラゴンなんだし問題ないだろ?

 

『おぉぉぉん! あれは相棒がそうなのであって、赤龍帝であるオレは……おぉぉぉん!』

 

む、ドライグを泣かせてしまった。

まぁこれが終わってから慰めてやろう。

さて、早速リアス先輩の所へ……。

 

「グオォォォォンッ!!」

 

うぉ!?

また口からビーム出して瓦礫ぶっ飛ばしやがった!

あぁもう、少しは休ませろよバカ野郎!

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

カズキとイッセーの戦いは今なお続いている。

私も加勢に加わりたいが、下手に大人数で向かうとシャルバに放った大質量のオーラによる攻撃を使われかねない。

私ではイッセーの攻撃を捌ききれず、木場はみんなを守る為に動けない。

傷付いた仲間に頼るしかない……自分の不甲斐なさに嫌気がする!

 

カズキは激しい攻防の中にあっても、ずっとイッセーに語り掛けている。

戻ってこい、お前はそんな奴じゃないだろう、と。

一発でも受ければ致命傷になる様な攻撃に晒されながら、反撃もせず、優しく諭す様に。

 

カズキはイッセーと戦う前に、『こうなったのは自分のせいでもある』と言っていた。

アーシアを失ったのは、自分の所為だと思っているのだろう。

あの時シャルバの攻撃に反応出来ていたのはカズキ一人だけだった。

それでもアーシアを救えず、自身も片腕を失ってしまった。

 

武道を心得ている者が、自分の腕を失って平気な筈がない。

にも関わらず、カズキは自分の腕など気にもしないでアーシアの死を自分の所為だと悔やみ続けている。

 

あいつは自分より他者を優先する。

過去の事で自分を責めているのかと思っていたが、コカビエルを倒した今でもカズキの行動は変わらない。

いつでも仲間の為に己を削り続ける。

そんな事を続けていたら、いつかお前は磨り減って消えてしまいそうな気さえして……。

 

カズキ、何がお前をそこまでさせるんだ?

私たちではお前の助けになれないのか?

お願いだから、私たちに頼ってくれ……!

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

くっそ、そろそろ本気でヤバい……!

膝が震えてきやがったよ!

 

『また右から来るぞ、瀬尾カズキ!』

 

あいよ、生意気にさっきから怪我してる方から攻撃してきやがって!

てかカズキでいいよ。

苗字で呼ばれるの久々すぎて違和感しかない。

 

『それだけあいつも警戒してるのさ。ではカズキ、このままではジリ貧だ。何か奥の手とかないのか?』

 

半分死んでる様な奴に無茶言うな。

イッセーたちと違って、俺ってばか弱い人間様だよ?

モグラさんとも連絡取れないし、今の俺は攻撃躱すので精一杯だ!

ドライグの指示がなきゃとっくに挽肉になってるからね?

 

『さっきは反撃していたじゃないか。【覇龍】を蹴り飛ばせる様な奴を、人間と呼ばんだろ?』

 

さっきのはムカついたからアドレナリン出てたんだよ、もう無理。

つーか、勝手に人外カテゴリに入れるな。

うぉ、掠った!?

これ以上血ぃ流させんなよ、マジで倒れるってば。

 

『【豊穣土竜】の能力もそろそろ限界の様だ、あいつの加護が消えたらもう勝ち目が無くなるぞ』

 

だから必死に取り押さえようと、さっきからおっかない接近戦してるんだろうが!

もう俺には関節決めるぐらいしか思いつかないん–––

 

『また右から……カズキ!?』

 

あ、ヤバい。

膝が崩れた、これは喰らう。

イッセーの拳が俺の顔に向かって飛んでくる。

 

殴られたら死ぬよな、やっぱり。

イッセー気にしないといいんだけど……無理だろうな、あいつバカだけどいい奴だし。

朱乃さんとゼノヴィアにも怒られるかな、約束破ったから……怒られるのは、嫌だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんぬぅあぁぁッ!!」

 

なら、もうちょい頑張るしかない!

崩れた体制のまま身体ごと回転させ、顔を殴られる前に首を捻ってダメージを最小限に。

殴られた勢いも使って、地面に倒れこみながら顔面を思いっきり殴りつける!

 

「……やっぱダメか」

 

……が、イッセーは僅かによろけただけ。

足の踏ん張りも効かず、体重は乗せたが芯に響かない触れただけの様な拳打。

効くはずもない。

 

地面に仰向けに横たわる俺に、イッセーの拳が迫る。

ドライグが逃げる様に言ってくるけど、ちょっと動けそうにない。

 

「……ごめん」

 

約束、守れなかった。

俺は襲ってくるだろう衝撃に覚悟を決め、目を瞑った。

 

……おかしい、拳が何時までも落ちて来ない。

 

「誰に謝っているのか知らないが、どうせなら直接言うといい」

 

聞き慣れた声が聞こえ、ゆっくりと目を開ける。

そこにはイッセーの拳を止めている、白い鎧に包まれたよく知っている姿があった。

イケメンってのは、助けに入るタイミングまで完璧なのか。

 

「……ヴァーリさん」

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

相変わらず、彼はとんでもない事をあっさりとやる。

最初はひたすらに攻撃を捌き続けながら説得していたのに、突然蹴りを見舞った上に宝玉から生えていた腕を引っこ抜いてしまった。

イッセーくんが痛みに悶えているうちに作り出した穴に落とし込み、その上に巨大な瓦礫を乗せて閉じ込めてしまった。

すぐに這い上がってくるだろうが、気休め程度にはなるかもしれない。

 

おまけに引き抜いたそれを失った自分の右腕に押し付け、ドラゴンの腕を自分の物にしてしまった!?

再生能力が飛び抜けて高いのはアザゼル先生から聞いてはいたが、それにしてもあれは異常だ!

 

「これはまた、とんでもない事になっているな」

 

カズキくんに驚愕していると突然空間に裂け目が生まれ、そこから白龍皇ヴァーリとその仲間たちが現れた。

僕らはすぐに攻撃の体制に入ったが、向こうに攻撃の意思はないようだ。

彼らはイッセーくん、赤龍帝の『覇龍』を見に来たのだという。

ヴァーリが言うにはあれは不完全な状態らしく、もしかしたら元に戻せるかもしれないらしい。

 

話を聞いていた僕らに中国風の鎧を着た男、恐らく孫悟空の美猴が僕の元に歩み寄ってきた。

その腕の中には、もう会えないと思っていた少女の姿があった。

 

「ほらよ、お前らの仲間だろ? この嬢ちゃん」

 

美猴はそう言いながらその少女–––アーシアさんを預けてきた。

 

「アーシアさん!」

 

「アーシア!?」

 

それを見て部長や朱乃さんたちもアーシアさんの元に集まる。

怪我をして座り込んでいたゼノヴィアも、慌てて駆け寄ってきた。

アーシアさんは気を失ってはいるが、しっかりと呼吸もしている。

無事だ!

 

「よかった、生きてる!」

 

僕がそう言ってアーシアさんをゼノヴィアに預けると、彼女を大事そうに抱え込み『よかった、よかった』と何度も呟きながら笑顔で涙を流し続けた。

 

でも、何故彼女は無事だったのだろう?

疑問に思っていると、背広の男が答えてくれた。

……腰に神々しいオーラを放つ剣を携えている、彼がイッセーくんの言っていた聖王剣コールブランドの所持者か。

 

なんでも彼らがこの辺りの次元の狭間を探索していたら妙な反応を感知し、向かってみたら彼女がエネルギーの球体の中で保護されていたそうだ。

ヴァーリが見覚えがあると言うので、ここまで連れてきてくれたらしい。

しかしそのエネルギーとは一体……?

 

「これだ」

 

ヴァーリは僕に向かって何かを投げ渡してくる。

投げられたのは氷の塊で、その中に何かが入って……これは!?

 

「カズキの腕だ。切断された後も、神器である『神秘の豊穣土竜』の力で彼女を守り続けていたのだろう。相変わらず無茶をする」

 

「まぁ過保護な兄貴がすぐに冷凍保存したから、多分元通りにくっつけるんじゃねぇかぃ?」

 

ヴァーリは嘆息しながらそう言って腕を組み直し、美猴はそれを見てからかうように笑っている。

敵対しても、彼らはカズキくんを大切に思っているのだろうか?

 

しかし、腕を切り離してまでアーシアさんを守ったのか……感謝するしすごい事だと思うのだけど、やはりカズキくんは自分を大切にしてくれない。

腕は朱乃さんが異空間に収納してくれたので、後でアザゼル先生に渡しておけばどうにかなるだろう。

 

「む、まずいな。美猴、先に行くぞ。これ以上は厳しそうだ」

 

『Vanishing Dragon Balance Braeker!!!!!!!!」

 

「流石に片腕であの状態の赤龍帝はキツかったかねぃ。了解だ、俺っちもすぐに行く」

 

ヴァーリはそう言うと、禁手化してカズキくんの元へ飛んで行った。

美猴も少し遅れて追いかけていく。

アーシアさんも無事だった、もう誰も欠けずにこの騒動を終わらせるんだ!

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

ヴァーリさんがイッセーの攻撃を止めたすぐ後美猴さんもやってきて、俺をリアス先輩たちの所まで運んでくれた。

そこにいたアーシアちゃんを見て顔から出る物全部流して喜んでいると、みんなから美猴さん達が助けてくれた事を聞かされた。

何から何まで世話になりっぱなしだな。

 

「二人が来てくれて助かった、流石に死ぬかと思ったわ」

 

「まぁ片腕にしちゃ頑張った方だろ、今はなんか生えてっけど。後はヴァーリに任せとけよぃ」

 

美猴さんがカカと笑いながら言ってくる。

そういやドライグも大丈夫か?

 

『俺は問題ない、傷ついているのはお前だろうに』

 

そんな呆れるように言わないでよ、頑張ったんだから。

 

「今のはドライグの声? その腕、ドライグと繋がっているの?」

 

「みたいですよ。そうだ、ドライグが深層心理を大きく揺さぶれば何とかなるかもって言ってるんですけど、なんかいい案あります?」

 

リアス先輩が尋ねてきたので、ついでにこっちもみんなに問い掛ける。

 

「おっぱい見せればいいんじゃね?」

 

「リアス先輩ひん剥いて、イッセーに与える方が早くない?」

 

「二人とももう少し真面目に……」

 

『え? マジメだけど?』

 

「なお悪いわよ!」

 

俺と美猴さんのアイデアがリアス先輩の一言で却下された。

酷い。

 

『ドラゴンを鎮めるのはいつだって歌声だったが……赤龍帝や白龍皇の歌なんてものは–––』

 

「あるわよぉぉぉ!」

 

俺たちが悩んでいると、上から元気そうな声を響かせながら背中に白い羽根を生やした女の子が何かを持ってやってきた。

 

何あれ?

へぇ、映像を映す機械……おっぱいドラゴンの歌?




別の世界線では
カズキ「戦闘なんてくだらねぇぜ!」
と言いながら、スピーカーを背負って歌い出してるカズキくんがいるかもしれません。

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