モグラだってドラゴン名乗っていいじゃない!   作:すこっぷ

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前回の感想で皆さんが私の事をどう思っているのか、何となくわかりました。
畜生め、絶対に期待を裏切ってやる!


影使い?
知らない子ですね。


七巻 放課後のラグナロク
37話


体育祭から数日が過ぎたある日。

イッセーに呼ばれて兵藤家の豪邸に訪れると地下へと案内され、そこの大広間でとある作品の観賞会を行う事になった。

その名も『乳龍帝おっぱいドラゴン』。

このタイトルで子供向けのヒーロー番組なのだから冥界には恐れ入る。

 

『ふはははは! 遂に貴様の最後だ、乳龍帝よ!』

 

『何を! この乳龍帝が、貴様ら闇の軍団に負けるはずがない! 行くぞ、禁手化!』

 

画面の中では見るからに怪しい格好をした怪人と、イッセーそっくりの特撮ヒーローが激しい戦いを繰り広げている。

俳優にイッセーの顔をCGではめ込んでいるので、本当にイッセーが戦っている様に見える。

 

禁手の鎧も見事に再現していて、爆破なんかの演出もド派手でなかなかに見応えがある。

タイトルさえまともなら。

小猫ちゃんとギャスパーくんが楽しそうにこの番組を見ているのが、なんだか凄い悲しくなる。

 

『おっぱいドラゴン! 来たわよ!』

 

実はこの作品、リアス先輩も登場しているのだ。

その名も『スイッチ姫』。

凄いだろ?

イジメとかじゃないんだぜ?

 

当然俳優の顔には、CGで先輩の顔が入っている。

このスイッチ姫の胸にタッチする事で、乳龍帝がパワーアップするそうだ。

酷いなんてもんじゃない。

 

イッセーは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに見ていて、リアス先輩はアザゼルさんに顔を真っ赤にしながら抗議していた。

あれ、あんたの案かよ。

え、美猴さんが名付け親?

何してんだあの人は……。

 

まぁ怒るのが普通だよね、雑誌の特集名も

『リアス姫特集』から

『皆もスイッチ姫になろう!』

に変わったそうだ。

普通なら街中を歩けなくなる恥ずかしさだ。

 

『もう、何もかもどうでもいい……どうせ俺とお前は乳龍帝なんだ……』

 

まぁ一番ダメージ受けてるのはドライグなんだけどね。

ほら元気出せって、話なら幾らでも聞いてあげるからさ。

 

『カズキはいい奴だなぁ……俺はあのまま、お前の中に移っていた方が幸せだったんじゃないだろうか……』

 

「ちょ、ドライグさん!?」

 

ドライグの切なくなる声を聞き、イッセーが慌てて話しかけている。

イッセー、お前もっとドライグに優しくしろよ。

そのうちストレスで赤龍帝が倒れるぞ。

 

「にしてもこれが視聴率50%越えなのか、いろんな意味で凄いな」

 

俺が一人で頷いていると、ソファーに座る小猫ちゃんが顔だけを後ろにいる俺に向け見上げる様に見つめてくる。

 

「カズキ先輩も十分凄い事してますよ?」

 

「あ、小猫ちゃん! もうすぐ始まるよ?」

 

ギャスパーくんに言われ、小猫ちゃんは手元のリモコンでチャンネルを操作する。

 

『今日も始まってしまいました【シトリー家のお料理教室】の時間です。作らされるのはこの私、悪魔に拉致された可哀想な人間カズキと』

 

『アシスタントのソーナ・シトリーです……あ、あのカズキさん? 出来ればもう少しマジメに–––』

 

『はい、それから助手兼マスコットのモグラさんです』

 

『キュイ!』

 

『キャァァァア! モグちゃ〜んッ!』

 

『相変わらず大人気ですねモグラさん。もうモグラさんがいれば俺要らなくね? 帰っていい?』

 

『ですからもうちょっとやる気を出して下さい! 私を勝手に巻き込んでおいて、なんで貴方はそんなにやる気がないんですか!?』

 

『【カズキさん】と呼んでも照れなくなったのはいいんですが、本番中にそういう言葉使いしちゃいけませんよ? 小さい子もお母さんと一緒に見てるそうですから』

 

『なぁ!?』

 

そこには漫才のようなやり取りをする俺と会長さんの姿が。

自覚はあるのよ?

直す気が無いだけで。

 

「この料理番組、君とソーナ会長が出るようになってから視聴率がうなぎ登りだそうだよ?」

 

「そりゃシトリー家の次期当主が出れば人気にもなるだろうよ、にしても冥界って本当に娯楽が無いんだなと思い知ったわ」

 

木場がポップコーンを食べながら話しかけてくる。

会長さんが出てるにしても、なんでこれで人気が出るんだ?

俺が喋る度に笑われるし。

 

「ソーナ会長自身の人気も上がっているみたいです、頑張って料理する姿がいいんだとか」

 

「料理は普通に出来るんだよね、料理は。皮剥きの速度でモグラさんに負けるけど。お菓子は言わずもがな」

 

番組中に毎回モグラさんと会長さんの皮剥き勝負を行い、会長さんは毎回僅差で負け越している。

ずっと俺の手伝いをしてくれていたモグラさんは、かなりのスピードで野菜の皮を剥ける迄に上達しているのだ。

 

調理には自信があったからか、収録後に負けて凹んだ会長さんを慰めるのが大変なんで個人的にはあの企画無くして欲しいんだけど。

モグラさんにお願いしても手加減しないし。

 

しかし小猫ちゃん、さっきから冥界の番組に詳しいね?

意外とテレビ好きなのかね、前にも使い魔バトルとか見てるって言ってたし。

 

「そういや匙が悩んでたぞ? 週刊誌とかに【お似合いの二人】とか、【夫婦漫才】とか書かれてて、このままだと会長が盗られるとかって……」

 

「友達から好きな人を奪うほど俺は鬼畜じゃない。だから二人とも、その凶器を仕舞いなさい」

 

イッセーの余計な一言で朱乃さんに電気が走り、ゼノヴィアの手にはデュランダルが握られる。

そんなに怒らなくてもいいじゃない。

 

「でもソーナ会長がアシスタントで入ったのは、カズキ先輩の提案だって副会長さんから聞きましたけど……違うんですか?」

 

「セラフォルーさんがこの間のお詫びにお願い聞いてくれるって言うから、会長さんの夢の後押しにもなるかと思って言っただけだからね? 実際学校を建てる話も結構進んでるらしいし」

 

ギャスパーくんやめてくれ、二人を刺激する様な事を言うんじゃない。

最近仲良くなってきたし、この間ニンニク克服の為に料理を作ってあげたじゃないか。

 

「貴方がお兄様に進言した事もあって順調だそうよ? はたから見たら貴方、ソーナの気を引きたくて頑張ってる様にしか見えないわね」

 

「変な事言わんでください、ゼノヴィアが興奮して俺の首元に聖剣を突きつけてるじゃないですか」

 

リアス先輩が茶化すように言ってくる。

微笑みながら何言ってんだこの人。

やめてゼノヴィア。

聖剣でも人間は刃物に刺されたら死ぬんだよ?

小猫ちゃん、これ以上その番組見てると俺の命が危ないから別のチャンネルに変えて。

 

「……嫌です」

 

わぁい、小猫ちゃんが反抗期だ。

体育祭の借り物レースで抱き上げてから、時々小猫ちゃんが冷たくなる。

そんなに嫌がると思わなかったんだよ、ごめんなさい。

 

 

 

 

「そうだ、私カズキくんに渡す物があるのよ」

 

ようやく番組が終わって命の危機が去ると紫藤さん、いやイリナさんに13枚のトランプが入ったケースを渡された。

全部スペードで、そのうち一枚は表が白紙だ。

なにこれ?

 

「これは『御使い(ブレイブ・セイント)』を生み出す為のトランプ。ミカエル様から貴方に渡すように託されていたの」

 

「『御使い』……要は《悪魔の駒》の天使版って事?」

 

「大体そんな感じね、その白紙のカードを使う事で天使に転生できると仰っていたわ。本当は会ってすぐに渡すつもりだったけど、色々とあって渡せなかったのよね」

 

イリナさんが悪戯っぽく睨んでくるがスルー。

会長さんを指導している時に来たそっちが悪い。

 

「サーゼクスさんからも《悪魔の駒》貰ったけど、なんでみんなして俺に人間辞めさせようとするのかね?」

 

「貴方ね……魔王から直接駒を授かる事が、どれだけ凄い事かわかってないでしょう?」

 

「そのトランプだって、今は四大熾天使(セラフ)の方々しか持っておられない希少なものよ? ちなみにスペードはミカエル様の象徴ね」

 

マジか、そんな貴重なモン俺に渡すなよ。

あの駒もケースに入れたまま押入れに突っ込んじゃったよ。

……言わなきゃバレないよね?

 

 

 

 

 

 

「修学旅行か……班分けとかどうしよ」

 

昼休み、イッセーやゼノヴィアたちと飯を食いつつふと呟く。

ボッチになったら悲しくて死ぬ。

 

「私たちと組めばいいじゃないか。アーシアにイリナ、桐生もいるしきっと楽しいぞ?」

 

「やめろ。男子に混ぜて貰えなかったから、しょうがなく女子の班に混ぜて貰いました〜みたいな空気になる。俺の精神が擦り切れて暗黒面に堕ちてしまう」

 

ゼノヴィアが俺の作った特大の弁当を食べながら誘ってくれる。

気持ちは嬉しいが、その案は俺の精神衛生上よろしくない。

 

「カズキも俺たちと組もうぜ。どうせこっちは松田、元浜の嫌われ者トリオで一人余るしな」

 

「おう、来い来い。独りモンは大歓迎だ」

 

「女性の神秘について、夜通し語り合おうではないか」

 

イッセーの提案に、松田と元浜も快く迎えてくれる。

いい奴らだな、言葉はアレだったけど。

 

「だったらこのメンバーで組みましょうか。アーシアとイリナは兵藤と、ゼノヴィアは瀬尾と一緒の方がいいんでしょ?」

 

桐生さんの言葉に三人とも頷いている。

 

「貴様、敵だったのか!」

 

「モテる奴は惨たらしく死ねばいい……」

 

見事な手の平返しだな、俺も向こう側なら全く同じ事をするけども。

その後最近更に仲良くなったイッセーとアーシアちゃんのイチャイチャを見せつけられ、松田と元浜がイッセーに呪詛を囁きつつも修学旅行はこのメンバーで行動する事が決まった。

 

初めての修学旅行、今から楽しみだ。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

放課後の部室。

みんなでお茶を飲みながら修学旅行の話をしていると、カズキが遊びにやって来た。

 

「あらカズキくん、いらっしゃい。ソーナとの訓練はもういいの?」

 

「善かれと思ってとはいえ、無理矢理テレビの仕事押し付けちゃいましたからね。生徒会の仕事もあるので今日はお休みです」

 

「はい、お茶ですわ」

 

「どうも朱乃さん。みんなえらく楽しそうでしたけど、なんの話をしてたんですか?」

 

カズキが貰ったお茶をすすりながら尋ねてくる。

 

「部長たちが修学旅行に行った時の話を聞いてたんだ。しっかりルートを決めないと、色んな所は回れないなってさ」

 

「ほほぅ、リアス先輩。その話詳しく」

 

俺が喋った途端、カズキは目つきを変えメモを持ちながら部長に詰め寄る。

そういやカズキってこういうイベント大好きだったな。

ライザーとの合宿とかでもはしゃいでたし、普段は何かと凄すぎる奴だけど、こういう所は俺たちと同じ高校生だって思える。

部長と朱乃さんもそんな姿が面白いのか、苦笑して楽しそうにカズキの質問に答えている。

 

「やっぱネックは移動時間か……バスやら地下鉄のダイヤを把握しないとダメだな」

 

「そんなに大変なら、移動は魔法陣とか使えばいいんじゃないか?」

 

俺がそう言うと、カズキと部長が同時に溜息を吐きながら頭を振る。

 

「わかってない、わかってないぞイッセー。旅行ってのは、移動も含めて旅行なんだ」

 

「その通りよ、ましてや行くのは京都。景色やその場の空気を感じつつ移動するのがいいんじゃない」

 

二人はそう言うと固く握手を交わす。

な、なんだこの二人のシンクロっぷりは!?

ちょっと妬けちゃう位に意気投合していらっしゃる!?

カズキはその後も部長と京都の名所なんかの話をしつつ、買い物があると言って一足先に帰っていった。

 

「カズキくんって本当に不思議だわ、普段と戦ってる時の差が激しすぎね」

 

「実際は優しくて面白い奴だよ、私はどちらのカズキも好きだ」

 

「うふふ、もちろん私もですわ。さっきみたいな所もかわいいですし♪」

 

イリナが頬を掻きながら呟き、ゼノヴィアと朱乃さんが惚気つつ笑いながら答える。

俺も人の事言えないかもだけど、こんな美少女二人に惚れられてるカズキが羨ましい。

カズキは二人の事どう思ってるんだろう?

 

普段は少しいい加減な所もあるけど、いざ戦いになったらとんでもなく強い。

木場や匙と同じく、俺の越えたい壁の一つだ。

……ちょっぴり高すぎるけどな。

 

その後も学園祭でやる出し物の話をしていると、突然みんなの携帯が鳴り出した。

 

「–––行きましょう」

 

部長が真剣な声音で言う。

『禍の団』の、襲撃だ。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

「そんでその……『英雄派』? ってのと戦ったのか。みんな怪我とかなかった?」

 

夕飯を食べ終わり、お茶を飲みながら俺が帰った後に起きた出来事を聞く。

最近テロリストの襲撃が頻繁に起きているらしく、その度にリアス先輩たちが対処しているそうだ。

 

「あぁ、影使いが少々やっかいだったがそれだけだな」

 

「いくら敵が神器を持っていても、赤龍帝や聖魔剣使いにそうそう勝てる者もおりませんもの」

 

二人ともお茶を啜りながらのほほんと答える。

まぁこの人らに勝てるようなのが、そうポンポン襲ってきたら怖すぎるわな。

 

「たまには俺も手伝おうか?」

 

毎回は御免被るが、暇な時くらいなら手伝ってもいいのに全くお声が掛からない。

 

「私たちで十分対応できているのもあるが、イッセーがお前に負担を掛けるのを嫌がってな」

 

「前回の事、気にしてるみたいですわ」

 

「あ〜……やっぱりか」

 

なんか最近やけに親切だとは思った。

自分から俺のジュース買いにパシったりしてたし。

反省してるならそれでいいんだから、そんなに気にしなくても……。

まぁ今度直接言っておこう。

 

「前回といえばカズキくん。約束、覚えているかしら?」

 

「約束? ……あぁ、何でも言う事聞くってやつですか?」

 

危ない、思いっきり忘れてた。

 

「今、間がありましたわね……まぁいいです。カズキくんたちもうすぐ修学旅行でしょう? その買い物に二人で行きませんか?」

 

バレテーラ。

しかしそんなんでいいのかね?

まぁ本人が言ってるんだからいいのか。

 

「それじゃあ今度の休みにでも行きましょうか」

 

「うふふ、楽しみにしてますわ♪」

 

いつもの三割マシでニコニコしている朱乃さんに、指切りまでさせられた。

あれま、本当に嬉しそうだ。

こんなに喜んでもらえると、こちらとしても気持ちがいい。

どうせだから昼飯も外で食べるか。

 

「つー訳でゼノヴィア。今度の休みの昼飯は適当に済ませるか、イッセーの所でご馳走になってこい」

 

「む、ズルいぞ! 私もカズキと買い物に行きたい!」

 

そこで今まで此方を睨むだけだったゼノヴィアが文句を言いだした。

というかなんだ、その子供みたいな怒り方は。

しかし俺にはゼノヴィアを黙らせる魔法の言葉がある。

 

「お前こないだ駅前のバイキング行きたがってただろ? 今度そこ連れてってやるから今回は我慢しろ」

 

「車には気を付けろよ?」

 

チョロい。




この後何の解決もしていない事に気付いたゼノヴィアが、アーシアに電話で助けを求めたりしますが気にしないであげて下さい。

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