モグラだってドラゴン名乗っていいじゃない!   作:すこっぷ

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なんかやたらと時間がかかって申し訳ありません。


41話

ロキとの戦いに俺たちグレモリー眷属とヴァーリチーム、オーディンの爺さんの御付きの戦女神であるロスヴァイセさん、タンニーンのおっさん、そしてバラキエルさんで迎撃に出た。

 

一度はグレイプニルで捕縛したフェンリルだったが、それよりも小柄な奴がもう二体現れる。

フェンリルに子供がいたなんて聞いてないぞ!?

オマケに龍王の一角、『終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)』ミドガルズオルムの模造品まで大量に出て来やがった!

 

みんな連携して戦っているが、一撃でも受けたら致命傷のフェンリルと模造品とはいえ龍王の一角が相手ではかなり厳しい。

せっかく爺さんが貸してくれた頼みの綱の『ミョルニル』のレプリカも、俺がエロエロで邪な心の持ち主だから雷が出てこないらしいし……くそ、攻め手が足りねぇ!

 

「仲間の心配かね? 余裕じゃないか、赤龍帝」

 

「ぐ!?」

 

俺が考え事をしていると、ロキから魔術の光が放出されこちらに襲い掛かってくる。

それをなんとか躱して反撃でドラゴンショットを打ち込むも、防御術式で後方に逸らされてしまった。

俺とヴァーリが相手をしている悪神ロキも伊達に神様やってない。

あのとんでもなく強いヴァーリ相手に、軽口を叩く余裕までありやがる。

 

「ふむ、高速で動き回る白龍皇よりも赤龍帝の方が捉えやすいか。力を譲渡されても面倒だ、まずは赤い方から殺すとしよう!」

 

ロキの手がこちらに向けられる。

捉えにくいヴァーリよりも、俺を先に取りに来たか!?

 

「無視は酷いんじゃないか?」

 

ロキの意識が俺に向いた瞬間、ヴァーリが奴の背後に回った。

既にヴァーリの手にはデカい魔力が込められている、あの至近距離なら流石のロキでも–––

 

「安心してくれ、無視なんてしないさ」

 

「ぐはっ!」

 

ヴァーリの攻撃が放たれる瞬間、横からフェンリルに噛み付かれた!

あのサイズは子供じゃなくて親の方か!?

よく見ると、親フェンリルの近くに鎖を加えた子フェンリルの姿が!

いつの間にか解放してたのか!?

 

「ふははは! まずは白龍皇を噛み砕いたぞ!」

 

「くそ、ヴァーリ!」

 

俺はヴァーリを助ける為に親フェンリルに突撃していく。

ここでお前に倒れられたら、ただでさえ薄い勝ち目が更に薄くなっちまう!

親フェンリルはヴァーリを咥えたまま、動かずにこちらを迎撃しようとしている。

俺くらい余裕って事か!?

 

「馬鹿にしやがって!」

 

「犬コロ相手にそんな事言ってるから馬鹿にされんじゃね?」

 

その時、突然声が聞こえてきた。

ここに居るはずのない、居てはいけない男の声が。

魔法陣が親フェンリルの前に展開され、そこから俺の友達が現れる。

 

「カズキ、何故ここに来た……!」

 

「あんたこそ下半身から犬生やした上に身体中に穴空けて何やってんですか、イメチェン?」

 

ヴァーリが睨みつけながら発する言葉に、至極ぞんざいに返すカズキ。

親フェンリルは咥えていたヴァーリを投げ捨て、突然現れたカズキを噛み砕こうと口を大きく開いて襲い掛かった。

 

「臭い口開いてんじゃねぇよ……おすわりぃぃぃぃッ!!」

 

カズキは親フェンリルの牙を上に跳んで軽々躱し、頭部を思いっきり殴り付けた。

殴られた親フェンリルは頭を地面に減り込ませ、それを引き抜こうともがいている。

なんで引き抜けないんだろ……あ、モグさんの力で周りの土を固めてるのか!

 

「それじゃあ伏せだろ、躾がなってない犬だな」

 

カズキはそう言いながらこちらに向かって歩いてくる。

カズキの奴、あれで本当に弱ってんのか!?

 

「ってそうじゃない! カズキ、お前なんでこんな所に来てんだッ! 来んなって言っただろうが!」

 

「あん? なんで俺がお前らの言う事聞かなきゃならん。あ、ヴァーリさんこれ前くれたからお返しね」

 

カズキはそう言うと、ヴァーリに何かを投げ渡した。

あれは……小瓶?

あ、『フェニックスの涙』か!

いやそれよりも、なんだその言い草は!

 

「俺らの思いやりを何だと思ってんだ!」

 

「お前らの気遣いは嬉しいけどな、俺は俺のやりたい様に……ッ!」

 

カズキは言葉の途中で、何かに気付いたようにブースターを吹かせて飛び出した。

急にどうしたん……朱乃さん!?

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

私はこんな所で死ねない。

ここで勝利し、生き延びてカズキくんに謝るまでは。

私の身勝手な行動で彼を苦しめてしまった。

傷付けてしまった。

 

許してもらえないかもしれない。

いや、彼はきっと笑いながら許すのだろう。

自分がどれ程傷付いても、周りが傷付く事を嫌がる人だから。

 

それでも私は、彼に謝罪する為に勝ち抜いてみせる。

そして、彼がもう戦う必要がないくらい強くなってみせる!

それが、私が彼に出来る数少ない事の一つだから!!

 

「はぁぁぁぁッ!!」

 

みんなの攻撃で弱っている所に私の雷光を浴びせ、ようやく量産型の龍王を一体沈めた。

次は–––

 

「朱乃!」

 

っ敵を倒して油断した!

フェンリルが既に目前まで迫って……躱せない!?

 

その時、私に何かが覆い被さった。

それを何処か懐かしく感じながら見上げると、そこにあったのは私が避け続けていた自分の父の顔。

腹部には牙が刺さり、血が滲み出ている。

どうみても致命傷だ。

 

「ど、どうして……」

 

我ながら酷い問い掛けだとは思ったが、父はそんな私に口の端から血を漏らしながら笑みを浮かべて答えた。

 

「カズキくんじゃなくて、すまないな……お前まで、失くす訳にはいかないんだ」

 

そう言うと、父は口から血の塊を吐き出した。

大きさから見て子供の方のフェンリルは一度父を口から離して距離を取り、今度こそ父にとどめを刺そうと再び襲ってきた。

 

「っ! やらせない!!」

 

私は咄嗟に父を振り払い、父とフェンリルとの間に身体を捻じ込んだ。

何故私は父を庇ったのか……多分、既に私は父の事を言葉にするほど憎んではいなかったのだろう。

だとしたら、本当に私の我儘に彼を付き合わせてしまったものだ。

 

フェンリルの牙が迫ってきたが、防ぐ手段がない。

これでは、カズキくんに謝る事が出来なくなってしまう。

自己満足ですが、一応口に出すだけ出しておこうかな……。

 

「ごめんね、カズキくん……」

 

「へ? ごめんって何が?」

 

目を閉じて呟いた瞬間、突然自分の前から声が聞こえてきた。

大好きな、彼の声が。

驚いて目を開くと、そこには銀色の鎧に身を包んだカズキくんと、遠くの岩山に頭から突っ込んでいるフェンリルの姿があった。

 

「謝るのは俺の方なんですけど、っとその前にハイこれ」

 

カズキくんは懐から小瓶を取り出し、私に手渡してきた。

 

「これは……『フェニックスの涙』?」

 

「それを薄めた非合法の品です、今それしかなくて。こないだ冥界に行った時、本物含めて幾つか買っといたんです。かなりの散財だったけど、役に立って良かった。これは本物より性能がかなり落ちるそうだけど、バラキエルさんに使ってあげて」

 

散財って……幾つ買ったのか知らないけれど、『涙』一つでもかなり高額の筈なのに。

でも今は助かった。

私は瓶の蓋を開け、中身を倒れている父に振りかける。

怪我がある程度消え、父はゆっくりと上体を起こした。

 

「大丈夫ですかバラキエルさん、動けます?」

 

「ぐ……カズキくん、か? 大分マシになった、ありがとう。だが駄目だ、君は戦っては……!」

 

「大丈夫です、何とかなります。いえ、させますから」

 

彼はそう言うと、私たちの前に立つ。

身体はこの戦場で一番ボロボロの筈なのに。

頼ってはいけないとわかっているのに。

その背中は、とても逞しく感じられた。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

『フェニックスの涙』によって回復したヴァーリにロキを任せ、俺はカズキの元に駆けつけた。

カズキに埋められた頭を地面から引きずり出した親フェンリルも、木場と小猫ちゃん、そしてロスヴァイセさんが足止めしてくれている。

 

「朱乃さん、カズキも無事か!?」

 

「イッセーの癖に俺の事心配してんな。ヨユーだヨユー」

 

死に掛けている癖に、朱乃さんとバラキエルさんの隣でいつも通り適当な態度で接してくるカズキ。

お前、本当に大人しくしてろよ!?

 

「貴方ね、自分の身体の事知っているんでしょう? 無茶はしないで、ここは私たちに任せて頂戴。私はこんな所で友人を失いたくないわ」

 

いつの間にか部長も近くにやって来ていて、カズキを気遣い止めようとしている。

だがカズキはそんな言葉も聞かず、首を横に振る。

 

「悪いですけど、何言われても止まる気はないです。それに、何も考えてない訳じゃない」

 

カズキはそう言うと、俺の方に顔を向ける。

……え? 俺?

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

俺は匙から受け取った転移装置を使って自宅に転移する為に、よくわからないグネグネした空間を通り抜けていた。

すぐにでも合流したいが、家とオカ研部室に取りに行く物がある。

盗りに、かもしれないが。

 

しかし全然着く気配がないんだけど。

何これ、簡易式とか壊れやすいとか言ってたけど、一発でぶっ壊れやがったの?

匙の奴あんなかっこつけて人の事送り出しといて、何不良品つかませてんだコラァ!

 

『……こえますか、聞こえますか?』

 

……え、なにこの声。

周りに誰もいないんだけど。

こういう所にも幽霊とかオバケって出るの?

半分死んでるようなモンだから、仲間だと思って寄ってきたの!?

 

『落ち着いて、私は幽霊でもオバケでもありません』

 

嘘つけ!

幽霊やオバケはみんなそう言うんだ、俺は騙されない!

 

『私は貴方の神器に宿る意志、正確にはそのドラゴンの額にある宝石に宿っていると言った方が正しいのですが』

 

は?

石の意志ってか?

つまんねーダジャレはいいんだよ!

今どき、そこら辺のオヤジでももう少し面白い事言えるぞ!

 

『貴方の尽きかけている生命、私なら救う事が出来ます』

 

……どういう意味だ?

 

『やっと話を聞いてくれましたね。そのままの意味です、私には貴方を救うすべがある』

 

どうしてそんな事すんの?

俺が死ぬと、あんたにも都合が悪いのか?

 

『貴方は私の宿主にいつも良くしてくれる。その恩返しとでも思って下さい』

 

宿主ってモグラさんの事?

そもそもあんたは何なんだ?

 

『時間がありません、貴方は人間を辞めるのです。今までは……が、貴……為なら私た……も受け……す……』

 

徐々に声が遠くなっていき、最後には雑音混じりでよく聞こえなかった。

言いたい事だけ言ってこっちの質問に答えないとか、ゲームの村人かあいつは。

偉そうだったから村長かな?

 

人間やめるって何?

石◯面なんて持ってないんだけど?

あ、もしかしてモグラさんのおデコの石ってエ◯ジャの赤石だったの?

オレンジ色だけど。

 

石◯面に赤石嵌め込んで、俺ってば究極生物になるのか。

胸が熱くなるな。

みんなに合流するまでに、波◯の呼吸を習得しなければ。

 

そんな事を考えていると、目の前が光りだし自宅のリビングに出る事が出来た。

まぁあいつの話はどうでもいい。

匙と話してから、俺はそうすると既に決めていたんだから。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

とまぁこんな事があったんです。

まぁ時間がないから簡単にしか説明しないけどね。

理解できずに混乱しているみんなをよそに、俺は朱乃さんの前に移動して頭を下げた。

 

「朱乃さん。バラキエルさんとの約束とか、俺の身体の事とか……今まで色々と黙っててすみませんでした」

 

「いえ、それはもう……私が悪かったんです。もっと早く私が自分と向き合っていれば、そして貴方の言葉を素直に受け入れていれば、父も貴方もこんな目には合わなかったのに……」

 

俺の謝罪に朱乃さんは目を伏せながら答え、朱乃さんもこちらに謝罪してくる。

朱乃さんは別に悪くないと思うんだけど、時間がないから今はいいや。

 

「バラキエルさんとの事は、詳しく知らない俺が口を出していい話じゃないですから何も言いません。二人で話し合ってくれると嬉しいですけどね」

 

「カズキくん……」

 

「正直、いつ死んでもいいかなって思ってました。でも、やっぱりみんなともっと一緒にいたいです。全然遊び足りないんです。だからどんな事しても、俺は生き延びてやるって決めました。だから、こいつを使う」

 

俺はそう言って、懐から一枚の無地のカードを取り出した。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

カズキくんはポケットから見覚えのある一枚のカードを取り出した。

イリナさんが渡していた、天使へと転生する『御使い』のカードだ。

もしかして、転生するつもりでしょうか?

けれど、彼は転生出来ないとアザゼルが言っていた筈だ。

 

「使い方知らないけど、まぁ何とかなるよね」

 

彼はそう言うと、その白紙のカードを胸に押し当てる。

カードが輝くと身体の中に消えていき、その背中には純白の美しい翼が辺りに羽根を撒き散らしながら現れた。

 

「なぜ転生が……? 転生は出来ないと、アザゼルが言っていた筈なのに……」

 

「へ? そうなの? ん〜、まぁ出来たんだからどうでもいいよね!」

 

リアスの言葉を軽く流して、カズキくんは自分の翼を不器用に動かしている。

こんな時だが、その様子はすこし可愛かった。

しかしその翼に、すぐさま変化が起きた。

 

「あ……!」

 

「翼が、黒く……」

 

私とリアスから声が漏れた。

その真っ白な翼は見る見るうちに暗く染まっていき、深い闇色へと変化してしまったのだ。

そう、堕天したのだ。

私や父と同じ、黒い翼を持つ堕天使に。

 

「予想してたけど我ながらあっという間に堕天したなぁ、どんだけ欲まみれなんだよ俺。ま、それでいいんだけど……で、どうです朱乃さん?」

 

カズキくんは自分の背に生えた翼を私に見せながら尋ねてきた。

どうって、一体何が–––

 

「ほら、前に朱乃さん自分だけ堕天使なの気にしてたでしょ? 似た様なのが近くにいれば、少しは気にならなくなるかなって」

 

彼はそう言ってまた、翼をパタパタと羽ばたかせる。

イタズラが成功した子どもの様な、そんな笑みを浮かべながら。

 

「まぁこの歳で堕天使とか厨二感満載でアレだけど、アザゼルさんやバラキエルさんなんて更にドンだし……ちょ、朱乃さんなんで泣いてんの!?」

 

「え?–––あ……」

 

気付くと涙が頬を伝っていた。

自分の命を削りながら、弱っていく自分を自覚しながら私を、私たちを助けてくれるカズキくん。

私は、尋ねずにはいられなかった。

 

「何で……何で私なんかの為に、そんなにしてくれるの……?」

 

貴方を拒絶してしまった。

貴方を信じられなかった。

そんな私に、こんな事をして貰う資格はないのに。

私の問いかけに、カズキくんは即答した。

 

「そんなの決まってるじゃないですか、俺がそうしたいからです」

 

なんでもない様に。

それが当然だとでも言う様に。

余りにも自然に言うので呆気に取られている私を余所に、照れているのか彼は口早に喋り続ける。

 

「そもそも俺は、基本やりたい事しかやらなんですよ」

 

「いくらバラキエルさんの頼みだからって、『この俺が』やりたくもない事やると思います?」

 

「それに前に約束したじゃないですか、『朱乃さんは俺が守りますよ』って」

 

心からそう思っているのが、伝わってくる。

答えてくれる。

応えてくれる。

言葉が心に沁みて、カズキくんが私の中に広がっていく。

 

「っと、そろそろ行ってきます。もう一人、言い訳しないといけないのがいるんで」

 

カズキくんはそう言うと、手に入れたばかりの翼を羽ばたかせフラつきながら飛んで行ってしまった。

おそらくゼノヴィアちゃんの所へ行ったのでしょう。

彼には私以外にも、守りたくて護りたい人たちがたくさんいるのだから。

 

–––私も、休んでいられない。

まだ敵は残っている。

私もリアスの《女王》として、そして彼の力になる為にも最後まで戦わなくては!

 

「ま、待って下さい朱乃さん!」

 

カズキくんの後を追おうと羽を広げると、後ろからイッセーくんが話しかけてきた。

何やら困惑しているようで、とても慌てている様に見える。

 

「どうしたの、イッセー?」

 

リアスが不思議そうに問いただすと、イッセーくんは大きな声で私たちに尋ねてきた。

 

「あの、皆さん。【乳神さま】ってどこの神話体系の神さまですか!?」

 

『……は?』




一応明言しておくと、カズキの症状は悪魔化や天使化では改善されません。

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