シリアスじゃないとメチャクチャ早くかけるな。
「カズキ、デートに行こう!」
夕飯をみんなで食べていると、ゼノヴィアが突然そんな事を言い出した。
ちなみに本日の夕飯は、ロスヴァイセさんお手製の北欧の郷土料理。
ニシンの酢漬け、日本でいう南蛮漬けみたいなのがめちゃくちゃ美味い。
アザゼルさん曰く、スコルとハティは何でも食べていいそうなので俺たちと同じメニューです。
「急に何言いだしてんの? というか食事中に立つんじゃありません」
「む、すまん。なぁ朱乃さんとだってこの間デートしてたじゃないか、いいだろう?」
俺に注意されると、素直に椅子に座りなおすゼノヴィア。
しかしなんだって急にそんな事を。
「あぁ、そういえばその時は私たちが邪魔してしまったんでしたね。今更ですがあれは悪い事をしました、すみません」
「いいえ、もう気にしないで下さい。ちゃんと埋め合わせはして貰えましたから」
ロスヴァイセさんが頭を下げると、朱乃さんは何時もの笑顔で答える。
埋め合わせって、一緒に作った肉じゃがをバラキエルさんに渡した事か?
バラキエルさんってば朱乃さんから渡された肉じゃが、『朱璃の味だ……』って呟いて泣きながらかっこんでたな。
姫島朱璃、亡くなった朱乃さんのお母さんか……ちょっともらい泣きしそうになった。
「でもなぁ、俺ってばこないだお前らに虐められて傷心中なんだよなぁ」
「女になった時の事か? 別に女同士だったんだからいいじゃないか、減るもんじゃない。それにちゃんと謝っただろう? なんなら今から私のも触るか?」
「ごっそり減ったわ、俺の中の大切な何が。というか女の子が軽々しくそんな事言うんじゃない」
「でも本当に可愛かったですよ?」
「うふふ、お肌はスベスベで髪は腰まで伸びて……とっても綺麗でしたわ♪」
ゼノヴィアだけじゃなく、朱乃さんにロスヴァイセさんまでそんな事を言い出す。
みんなして俺の身体弄り回しやがって……。
特に朱乃さんはどこからともなく縄を出してきて、俺の事縛ろうとして来たからな。
そっちのケがあるのかと、しばらく近づけなくなった位だ。
「うぐぐ……えぇいこの話は終わりだ!」
「自分から振ってきた癖に……まぁいい、それよりもいいだろ? 私とデートしよう!」
俺がムリヤリ話を断ち切ると、ゼノヴィアが背中から抱きつきながら話掛けてくる。
怒られないように、食事は終わらせ食器も片付け済みだ。
「こら、いくら家の中でも男女がむやみにくっつくんじゃありません!」
まぁロスヴァイセさんには当然怒られるけどな。
うちの『僧侶』は男女間の風紀に厳しいのだ。
「まぁ出掛けるのはいいけど、お前とは散歩でここら辺は大体行ったからなぁ。どこか行きたい場所あるのか?」
「実は今日の昼にアーシアやイリナと話をしてな。アーシアがイッセーに渡すプレゼントを買う為に今度三人で東京まで出掛けるんだが少々不安でね、下見ついでにカズキとデートしたいんだ」
なるほど、ここからだと電車を乗り継ぐから初めてだとわかり難いかも知れない。
最近は遠出もしてなかったし、修学旅行の買い物もついでに済ませるか。
「じゃあ今度の休みにでも行くか、それでいい?」
「うん! 楽しみだ!!」
……ちくしょう、ゼノヴィアの『うん!』に動揺してしまった。
いい笑顔で言いやがって、ちょっとときめいちゃったろうが。
そして次の休日。
一時間ほど電車に揺られ、俺とゼノヴィアは東京の『秋葉原』までやって来た。
なんでも、イッセーの欲しいものはここにしか売ってないんだそうだ。
なんて言うか、既に嫌な予感しかしない。
「さぁカズキ、まずはどこから行こうか」
「お前は何時でも元気だなぁ」
「当然だ、今日はカズキを独り占め出来るからな!」
「……さいで」
ゼノヴィアに手を引かれながら、そこら辺を適当に散策する。
大手チェーンの家電量販店や、漫画だけじゃなくCDやアニメのDVDまで置いてある大きな本屋など。
特に電化製品に興味津々な様で、ホームベーカリーを見て目を輝かせていた。
ゼノヴィアはシスターとして質素な生活を心掛けていた事もあり、色々と面食らっている様ではあったが実に楽しそうだ。
俺も話には聞いていたが来るのは初めてだったので、その賑やかさに少し驚いたし人混みに疲れてしまった。
修学旅行で必要な物を買おうかと思ったが、疲れたしまた今度でいいや。
「う〜んこの街は凄いな、活気に溢れている。それにまさか日本の戦士に会えるとは思わなかった」
「いや、あれはコスプレって言ってな?」
街の一角で行われていたコスプレの撮影会で見た『ビキニアーマー』に興味津々なゼノヴィアを引っ張り、近くの公園で休憩中。
お願いだから、あんなの着て出歩こうとしないでね?
身内から逮捕者が出たら泣くに泣けない。
「さて、それじゃあそろそろイッセーのプレゼントが売ってる場所に行ってみるか。何処に売ってるんだ?」
「えっとな、桐生から貰ったメモによると……」
ゼノヴィアがメモを見つめているのを脇から覗くと、何とも怪しげな字面が並んでいた。
「なぁゼノヴィア、アーシアちゃんはイッセーに何を渡す気なの?」
「確か、『えろげ』という映像作品だとか言っていた気がする」
今日帰ったらすぐにイッセーの家に行って、アーシアちゃんを説得せねば。
多分桐生辺りの入れ知恵何だろうが、取り敢えずイッセーをしばく。
ゼノヴィアに今日は帰ろうといったら渋ったので、先程欲しがっていたホームベーカリーを買う事を提案。
喜び抱き着いて来て、そのまま家電量販店に戻りそれを購入。
今は電車で座席に座りながら、ニコニコ顔でホームベーカリーを抱き締めている。
「そんなに欲しかったのか、それ?」
「普通の料理はまだ朱乃さんに手伝って貰わないと出来ないからな。これなら私も、カズキに手料理をご馳走出来る! 」
……こいつは時々可愛い事を言うから困る。
ゼノヴィアはホームベーカリーを頭上に掲げながら喋り続ける。
「最後に行きたい場所があったが、それはまたの機会にしよう」
「なんだ、まだ行きたい場所があったの?」
「あぁ。若者はデートの最後に『らぶほ』と言う所で仲を深めあうと桐生から聞い、あぅ!?」
ゼノヴィアの言葉を頭をはたきて事で中断させる。
公共の場で何を言い出すんだこいつは。
ていうか桐生、やっぱあいつも締める。
「ゴホッ、ゴホッ! あ゛〜づらい……」
どうもみなさん、カズキです。
この度、ものすごい久しぶりに風邪をひいてしまいました。
ゼノヴィアと出掛けた後にイッセーの家に突撃すると、イッセーが風邪を拗らせていた。
その風邪が、あいつの家に行った俺にうつったらしい。
何でもドラゴンがひく風邪だそうで、リアス先輩の紹介で冥界の医者に診てもらった。
バカでかい注射を持ち出して来たので、点滴にしてもらう様に頼んだらあっさり変えてくれた。
『君はつまらない』と医者に文句を言われたが、調子の悪い人間にそんな物を求めないで欲しい。
とにかくそこで薬も貰い、今は自宅で大人しく寝ていると言う訳だ。
最後に風邪ひいたのいつだったっけ……グリゴリのみんなが心配してくれて、やたらと慌ててたのが面白かったのは憶えてる。
ヴァーリさんが微妙に焦ったり、美猴さんが笑いながらおかゆを作ってくれたり。
これがいい思い出ってヤツなんだろうなぁ。
「ゼノヴィアちゃん、カズキくんの看病は私に任せてくれていいのよ?」
「何を言うんだ朱乃さん。カズキのピンチを救うのは、あいつに背中を任されたこの私だ」
「どちらでもいいですから、早く看病させて下さい。カズキくんが寝込んでいるのに、二人して何をやっているんですか」
朱乃さん、ゼノヴィア、ロスヴァイセさんの三人は、部屋の外から聞こえるほど大きな声で互いを牽制しあっている。
なんで飲み物頼んだだけでこんな事になるのか。
「あらあらロスヴァイセさん、そうやってカズキくんのポイントを稼ぐ気なんですね?」
「な!? べ、別に私はカズキくんの事をどうこう思っている訳では……!」
「そうなのか? てっきり私はロスヴァイセさんもカズキの事もがもが……」
「そんなんじゃないです! 確かに優しいし頼れるけど、そんな……うぅ、違います。本当に違うんですぅぅぅッ!!」
頭がクラクラするから全部は聞き取れないが、要所要所は聞こえてくる。
こんだけ全力で否定されると、心に響くものがあるな。
水分が欲しいのに、逆に目から垂れ流されていく。
「お〜い、誰でもいいから早く水くれ〜」
「はい、どうぞ。こういう時はスポーツ飲料の方が良いですよ、塩分も取れますから」
「あ、ありがとう会長さ……ん?」
手渡された飲み物を飲もうと身体を起こしたが、すぐに違和感に気付く。
「……何で会長さんがここに?」
「お見舞いで来たんですが、何やら部屋の前が混み合っていたので転移して。ほら、気にせず横になって下さい。あ、フルーツ食べますか?」
会長さんはそう言いながら、持ってきてくれたであろう袋を持ち上げる。
何やら色々と入っている様だ。
「じゃあ、お願いします」
「ふふ、お願いされました♪」
俺がそう言うと、会長さんは微笑みながら了承してくれた。
何だろう、凄い癒されるんだけど。
「サジも来たがっていたのですがドラゴンがかかる風邪と聞いたし、他の眷属の子達がやけに止めるので念のためあの子は置いてきました」
何ででしょうね?
会長さんはそう言いながら、フルーツと一緒に持参した果物ナイフで器用に皮を剥いていく。
包丁さばきは凄いんだよな、料理も出来るし。
それでなぜお菓子だけがダメなんだろう?
「はい、出来ました。リアスからグレモリー領の果物を喜んで食べていたと聞いたので、お姉さまに頼んでシトリー領で採れた旬の物を送って貰ったんですが……」
会長さんはそう言いながら、皿に盛られたフルーツを差し出してくれた。
桃に似ているそれは、瑞々しくて実に美味そうだ。
「美味しそうですね、いただきます」
「寝たままで良いですよ? はい、どうぞ」
会長さんは身体を起こそうとする俺を制止すると、口元まで果物を運んでくれる。
あ〜んって言わないんだなとか思った俺はこのまま死ねばいいと思う。
されるがままに剥かれたフルーツを口にする。
噛む度に果汁が口の中に広がり、優しい甘みが身体に染み渡る。
「美味しいですね、これ」
「口に合って良かったです、もう一つどうですか?」
「あ、いただきます」
「じゃあどうぞ」
そしてまた口元に運ばれてくる果物。
もう役得として、素直に食べさせて貰おう。
綺麗な笑みを浮かべながら、果物を食べさせてくれる会長。
あれ?
この人実は天使じゃね?
むしろ女神様じゃね?
こんな優しい人が、悪魔は訳がない。
「何て言うかあれです、結婚して下さい」
「私にチェスの10本勝負で勝ち越せたら良いですよ?」
「マジですか、風邪が治ったらチェスの勉強しなきゃ」
「ふふ、頑張って下さいね」
だから、こんな事を口走っても仕方がないと思う。
会長さんもあっさり流してくれたし、問題ないよね?
そんな軽口を言い合っていると、大きな音を立てながらドアから見知った三人が雪崩れ込んできた。
「……何やってんの、三人揃って」
「い、いえ、それぞれ分担して世話をしようと決めて部屋に入ろうとしたら……」
「何時の間にか会長がいたので、入るのを躊躇ってしまって……」
「何だか入りにくい雰囲気を醸し出されていたのでつい聞き耳を……」
俺が尋ねると、三人はしどろもどろに言い訳を始める。
「ふぅ……カズキくん、貴方は早く身体を休めて下さい。私はこの三人と、少しお話しする事があるので」
「了解です。お見舞いありがとうございました、お見送りできなくてすみません」
「気にしないで下さい。ではまた」
会長さんはそう言うと、三人を引き連れて部屋から出て行った。
俺がそれを見送ってから目を瞑り、三人の言い訳する声とそれを論破する会長さんの声を聞きながら眠りについた。
次の日には体調は回復した。
会長さんに怒られたからか、シュンとしている三人はちょっと可愛かった。
ゼノヴィアは書いてて楽しくて、会長さんはほっこりする。
そろそろ朱乃さんのいい所を書かないと、雷に打たれそうで怖い。
ロスヴァイセ? オチ要員でしょ?