モグラだってドラゴン名乗っていいじゃない!   作:すこっぷ

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まさかの一万字越え。
遅くなって申し訳ないです。


間話7

部長のお義姉さん、グレイフィアさんが休日を利用して我が家にやって来た。

オフの時のグレイフィアさんは部長の義姉として接する事になるので大変厳しいらしい。

部長はすっかり怯えており、フォローして貰う為にカズキの家にいる朱乃さんを呼び出すほどだ。

それだけだったらよかったのだが、その後に怒涛の展開が待っていた。

 

魔王サーゼクスさま襲来、残りの四大魔王さまとの謁見、そして何故か魔王さま方と一緒にいるカズキ。

なんでもカズキはサーゼクスさまに会議の方へ呼ばれていたらしい、朱乃さんがサーゼクスさまを見た時に一際驚いていたのはこれが原因か。

何も言わずに立っているカズキが少し怖い。

 

それから数日後、何故か俺と部長はグレモリー家に伝わるという儀式を行う事になりグレモリー領のとある山岳地域にある遺跡へとやってきた。

そこで待っていたのは、日曜日の朝からやっている様な赤、青、黄色、緑、ピンクの戦隊モノの衣装に身を包んだ五人の集団だった。

ていうか、四大魔王+グレイフィアさんだった。

何してるんですかあなた方は!?

 

「ふははははは! 我らは魔王戦隊サタンレンジャー! この遺跡で君たちに試練を与える為にやってきた!」

 

そう言いながら、いちいちポージングする赤い人。

部長は気づいてくれないけど、あなたどう見てもサーゼクスさまですよね?

声とかそのままだし。

 

「 試練までの道のりは、我らの仲間である『グランモール』が導いてくれる。さぁ、二人の絆で見事試練を突破してみせろ!」

 

そう言うと五人の姿は消え、地面からモグラの着ぐるみが現れた。

あのメンツに加えてモグラ……もしかしてカズキ、か?

 

「どうぞ、着いてきて下さいモグ〜……」

 

地面から出てきたのに身体に汚れ一つ付けていないそいつは、のそのそと俺たちの前を歩いていく。

なんかさっきの連中と比べてテンション低いな……ますますカズキっぽい。

まぁ部長は乗り気だから仕方ない、さっさと試練とやらを突破してみせるぜ!

 

試練は三つあり、それぞれ『ダンス』、『テーブルマナー』、そして『ペーパーテスト』だった。

ダンスやテーブルマナーは部長の実家でみっちり特訓したし、冥界の一般知識なんかも木場たちに教えて貰って勉強してる。

完璧ではなかったけどなんとか全ての試練を突破する事ができ、部長はご褒美に沢山ほっぺにキスしてくれた。

これだけで頑張った甲斐があったってもんだ!

 

最後の試練を担当していたブルーに促され、レッドことサーゼクスさまが待っているという最後の部屋へとやってきた俺と部長。

そこはまるでコロシアムの様になっており、中央ではレッドとイエロー、つまりサーゼクスさまとグレイフィアさんが佇んでいる。

 

「二人とも、よくぞ試練を突破した! しかーし、これで終わるほどグレモリー家の儀式は甘くない! 最終試練としてこのサタンレッドと戦ってもらおう、見事私を倒して見せろッ!」

 

「……無理だけはしないで下さいね?」

 

レッドはポージングを取りながらそう宣言し、イエローは申し訳なさそうにこちらに頭を下げてくる。

……いやいやいや、相手は魔王さまだよ!?

勝てる訳ないじゃん!?

 

動揺している俺に、レッドは容赦なく襲い掛かってくる。

く、くそ!

とにかく禁手にならなきゃ、ドライグ!!

 

『応ッ!!』

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!!』

 

「ふふふ、ようやく本気になったか! ゆくぞ赤龍帝、いやおっぱいドラゴン! 冥界の真のヒーローはどちらか、雌雄を決しようではないかッ!」

 

「くそ、サタンレッド! こうなったら、容赦しませんよ!」

 

こうして、俺は魔王サーゼクス・ルシファーさまと戦う事になった。

 

 

 

 

 

「どうしたおっぱいドラゴン! こんなものか!? リアスへの想いはこの程度なのか!?」

 

–––が、まるで歯が立たない。

俺は息も絶えだえなのに、サタンレッドは啖呵を切りながら余裕でポージングを繰り返している。

クソ、格上なんてわかっちゃいたが……強過ぎる!

 

ドラゴンショットを撃っても滅びの魔力に消滅させられ、打撃合戦をしようと突っ込んでも簡単に受け流される。

これじゃあ勝負にもなりゃしない。

こうなりゃ奥の手だ、タンニーンのおっさんとの修行で身に付けたこいつを喰らえ!

 

息を目一杯吸い込み、腹の中に魔力で火種を作る。

それにドライグの力を譲渡して、マスクの口部分を開いてから一気に吐き出す!

俺の口から放たれた大火力の炎の息!

おっさんほどじゃないが、これだけ広範囲なら簡単には簡単には消滅出来ないはず!!

 

「見事なドラゴンの息だ。だが、まだまだ甘いぞ!」

 

サタンレッドは俺の攻撃を見てうんうんと頷いた後、なんとそのまま炎の中に突っ込んで来た!

範囲を広げすぎて、炎の密度が薄くなってたのか!?

サタンレッドは炎を突き破りながら拳を振り上げ、俺は咄嗟に腕を交差させて防御の態勢をとる。

が、来るはずの衝撃が何時までも来ない……?

 

「何ィッ!?」

 

「……」

 

そう、俺に降りかかるはずだった拳を止めてくれた存在がいた。

ここまで俺たちを案内してくれたモグラの着ぐるみ、『グランモール』だ!

サタンレッド、いやサーゼクスさんの攻撃を受け止めるなんて……やっぱりこいつは!

 

「待っていたよ、この時を……あんたを、殴り飛ばせる瞬間を!」

 

次の瞬間着ぐるみが内側から弾け飛ぶ。

機械の駆動音を辺りに響かせ、銀色の装甲を身に纏った戦士が現れる。

というか、禁手化したカズキだった!

やっぱあれの中身はお前だったのか!?

 

「これ以上あんたの好きにはさせない! 赤龍帝、いやおっぱいドラゴン! 俺も一緒に戦う、協力してサタンレッドを倒すんだ!」

 

……えぇ〜?

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

「はい? 冥界に来てくれ?」

 

とある休みの前日の夜。

ようやく調子が戻ったモグラさんと遊んでいると、サーゼクスさんから連絡が来た。

というか以前渡された宝玉が輝き、そこからサーゼクスさんの姿がいきなり浮かび上がったのだ。

立体映像ってやつかね?

 

しかし朱乃さんの言う通り、貰った物を押入れからリビングに移動させといてよかった。

前の《悪魔の駒》みたいに、必要な時に何処にあるのかわかりませんじゃ大変だしね。

 

『あぁ、少々マズイ事になってね。是非君の力を借りたいんだ』

 

サーゼクスさんが真剣な顔で言い放つ。

……なんか胡散臭い。

この人の持ってくる話の時点で、怪しさがそれはもうハンパじゃないが。

 

「でも俺、明日はちょっと予定が……」

 

『そう言わずに頼むよ、来てくれたならそれ相応の礼はする。どうしても君でなければダメなんだ』

 

俺が渋っても、サーゼクスさんは諦めずに食い下がってくる。

何時もなら割と簡単に引き下がるのに、これだけしつこいのも珍しい。

もしかして相当な重要案件なのか?

この人も魔王って言う重役なんだ、何でもないのに呼び出したりなんてしないか。

 

「わかりました、行きますよ。それで、俺はどうすればいいんですか?」

 

『おぉ来てくれるか、ありがとう! では明日の朝に迎えを寄越すから、その者について行ってくれ』

 

「了解です、じゃあまた明日という事で」

 

『面倒を掛けてすまないが、よろしく頼むよ』

 

サーゼクスさんの言葉を最後に、映像と共に宝玉から光が消えた。

魔王業が大変なんだろうが、せわしないなぁ。

 

「あの、カズキくんってどういう立ち位置なんですか? 魔王さまから直々に勅命を受けるって、相当凄い事ですよね……?」

 

「カズキくんは魔王サーゼクスさまのご友人ですから。時々頼み事をされてるようですわ」

 

「カズキも文句を言いながら、なんだかんだで頼みを聞いてるしな。仲がいいのは良い事だ」

 

そこ、好き勝手言ってんな。

にしても明日か、一体何をやらされるんだか……。

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

支度を整えてリビングで待っていると、インターホンが鳴る。

どうやら迎えとやらが来たらしい。

ロスヴァイセさんが出迎えに行ってくれた。

 

「んじゃ行ってくる。夕飯も適当に済ませるから、みんなで食べちゃって」

 

「私も今日はリアスの所に行ってきますわ。何やら向こうも大変だそうで……」

 

俺が立ち上がると、朱乃さんも魔法陣を展開してイッセーの家に転移していった。

ありゃ、リアス先輩も何かあるのか?

……これ、やっぱりしょうもない展開なんではなかろうか。

 

「やっぱり迎えの人に言って断ろうかな……」

 

「それをされると俺がみんなから虐められるんで、勘弁して下さい」

 

俺の呟きに返事が返ってきて驚き振り向くと、何やら黒いスーツを着た体格の良い茶髪の男性が立っていた。

髪の色以外はいかにも『SP』って感じの人だな、悪魔の社会でも要人警護の人ってこんな感じなのか。

 

「という訳ですみません、悪いですけど問答無用で連れてかせて貰いますね」

 

「へ?」

 

SP風の男性が頭を下げると同時に床が光り、俺が間の抜けた声をあげると自宅から一瞬で見知らぬ場所に飛ばされた。

外を覗くと空が一面紫色、って事はここはもう冥界なのか?

 

「いやぁ、申し訳ない。サーゼクスさまの命令で、逃がす訳に行かなかったもんで。あ、俺はサーゼクスさまの《兵士》やってるベオウルフってもんです」

 

「はぁ、どうも。瀬尾一輝です」

 

先ほどと変わらず俺の前に立っていた男性、ベオウルフさんが自己紹介しつつニコニコと手を差し出してきたので、反射的に此方も手を出して握手する。

すると少し驚いた様な顔をした後に、先ほどとは違うニンマリと獰猛な笑みを浮かべる。

 

「へぇ、最近まで人間だったって聞いてたけどその割にはなかなか……流石にサーゼクスさまが気に入ってるだけあるね?」

 

ちょ、この人もバトルジャンキーかよ!

なんでこの手の人たちって握手で実力わかるの!?

ジャンキーになるとそういう変態的な能力が身につくもんなんですか!?

 

まさか、この人とやり合えってのが依頼とか言うんじゃないだろうな?

この人明らかに俺より何段も格上じゃんか!

逃げ……って手が振りほどけねぇ!?

 

「か、勘弁して下さいよ……俺みたいな弱っちい奴を虐めたって楽しくないですよ?」

 

「自分の事を弱いって言う奴は、大抵厄介なもんなんだよねぇ。まぁそんなに怯えないで、手荒な真似はしないから」

 

ベオウルフさんは笑いながら握っていた手を離してくれた。

何をやっても解けないのに手は痛くないってなんだよ、どんな技術なの?

 

「本当ですか? 信じますよ? 嘘ついたらグレイフィアさんにあることないこと言いふらしますからね?」

 

「そっちの方こそ勘弁して。とにかく、着いてきて貰っていいかな?」

 

離してもらった手を摩りながら言うと、ベオウルフさんは苦笑いを浮かべてから前を歩き始めた。

あ、なんか今ので眷属内のヒエラルキーがわかった気がする。

多分サーゼクスさんよりグレイフィアさんの方が上なんだろうな。

 

そんでこのベオウルフって人は眷属の中でも相当下の方だな。

駒的にも、性格的にも。

そう考えるとこの人も苦労してるんだろうな、サーゼクスさんのパシリとか想像しただけで嫌気がさす。

そんな事を考えながら歩いていると、何やら大きな扉の前までやって来た。

 

「んじゃ、この中に入って貰っていいかい? 俺に任された仕事は、君をここまで連れてくる事だから」

 

「そうですか、ここまでありがとうございました。サーゼクスさんのパシリとか大変でしょうが、めげずに頑張って下さいね?」

 

「なんか少し話しただけで俺の立ち位置バレちゃってる!? やめて、優しくされると泣きたくなるから!」

 

ベオウルフさんは扉を開くと、俺に中へ入る様に促す。

もうここまで来たら抵抗するのも無駄なんだ、素直に従って早く帰ろう。

お礼を言いながら部屋に入ったら何やらベオウルフさんが後ろで騒いでいたが、まぁ気にしなくてもいいだろう。

なんかあの人弄られ体質っぽいし。

 

中に入ると通路の先にまた扉があり、そこが部屋になっている様だ。

なんで扉を開けた先がまた扉なんだよ、なんだこのゲームみたいな無駄な空間。

いや、魔王が所有してる建物なんだからこれが正しいのか?

 

あぁもういいや、とにかく用事を済ませてさっさと帰ろう。

溜め息と共に力を込めて扉を開くと、そこには見覚えのある三人の人物が丸いテーブルを囲む様に座っている。

こういうテーブルを円卓って言うんだっけ?

その三人は部屋に入ってきた俺に視線を送り、その中の一人が手を振りながら話しかけて来た。

 

「あれ? カズキくんじゃない、久しぶり〜☆ なんでここにいるの?」

 

そう、会長さんのお姉さんであるセラフォルーさんその人である。

今日は何時もの魔王少女の格好ではなく、落ち着いた色の大人っぽい服を着ている。

何時もこうして真面目にしてれば、会長さんからあんなに怒られないだろうに。

 

「どうもセラフォルーさん。サーゼクスさんに呼ばれたんですけど……居ないみたいですね?」

 

「あら、サーゼクスちゃんたらカズキくんに何の用かしら? でもじきに会議だから、直ぐにくると思うわよ?」

 

セラフォルーさんは人差し指を頬に当てながら首を傾げる。

普通ならあざとすぎるのに、この人がやると似合いすぎててそういう感情が湧いてこない。

 

「以前一度だけ会った事があったかな? サーゼクスからよく話は聞いている、ロキをほぼ単独で倒した有望株だそうじゃないか。私はアジュカ・ベルゼブブ、魔王なんてものをやっている」

 

「……あ〜そう言えば会った事あるような、ないような。僕はファルビウム、魔王だよ〜……」

 

俺がセラフォルーさんと話していると、緑の髪をオールバック気味にセットしているアジュカさんと、なんとも気怠げな雰囲気を醸し出しているファルビウムさんも挨拶してくれた。

なんかどの魔王も独特だな、アジュカさんはマトモっぽく見えるけど。

 

「どうも、瀬尾一輝です。初めてマトモそうな魔王に会えて嬉しいです」

 

「……いやぁ〜、照れるよ〜……」

 

違うファルビウムさん、あんたじゃない。

 

「ねぇねぇ私は? 私はマトモじゃないの?」

 

自分を指差しながら、黒い笑みを浮かべるセラフォルーさん。

あかん、誤魔化そう。

 

「あ、フルーツ美味しかったです。セラフォルーさんが会長さんに送ってくれたそうで、ありがとうございました」

 

「あら、ソーナちゃんたら私からって言っちゃったの? そんな事言ったらポイント稼ぎにならないのに……」

 

やはりこの人には会長さんの話を振るのが一番だな、簡単に思考が飛んでいく。

しかしポイントってなんの話よ?

 

「はは、サーゼクスはマトモじゃなかったか?」

 

「悪い人じゃないですけど、あんな妹狂いがマトモとかありえません」

 

「ククッ、確かにそうだな」

 

アジュカさんはえらく楽しそうに笑う。

見た目クールっぽいのに、意外と取っ付き易いのかも?

 

「妹で思い出したが君には謝っておかないといけない。愚弟が迷惑を掛けた」

 

「愚弟?」

 

「カズキくん、アジュカちゃんはアスタロト家の出身なの。だから……」

 

ベルゼブブなんて人、他にいたっけ?

俺が悩んでいると、セラフォルーさんが隣で耳打ちしてくれた。

なるほど、この人アーシアちゃんにちょっかい出したストーカー野郎のお兄さんなのか。

 

「言っときますけど、謝罪なんてしませんよ?」

 

「当然だ、あいつは道を踏み外した上に君の仲間に手を出した。どのような結末だろうと、それがあいつに相応しい最後だ」

 

ふむ、かなりドライなお言葉だ。

公私を分けて考えられる人なのか、それとも単純に兄弟仲がよくなかったのか……なんとなくだけど前者かな?

 

「そうだ、君の中にある《御使い》のカードを見せてくれないか? 《悪魔の駒》と似たシステムなら、私にも調整が出来る筈だ」

 

なんかよくわからないが、悪い事はされないだろうし了承する。

それを確認してからアジュカさんが俺の胸に人差し指を突きつけると、魔方陣が幾重にも展開され見た事のない文字やら数字やらがすごい勢いで飛び回っていく。

うおぉ、これは見てるだけで眼が痛くなる!

 

アジュカさんは飛び交う文字群を捉えながら、一人で納得する様に頷いている。

あのスピードで動きまくる文字や数字を、全部正確に把握してるのか。

やっぱ魔王って凄いんだなぁ。

 

「ミョルニルのオーラが《御使い》のカードと併せて細胞単位で作用して、肉体に働きかけている様だが……詳しくはわからないな。しかしこのままでは君の負担が大き過ぎる、出力の微調整だけはしておくよ」

 

何を言ってるのかさっぱりわからないが、馬鹿なのがバレない様に取り敢えず頷いておいた。

アジュカさんも調整とやらが終わった様で、いくつもあった魔方陣が次々に消えていく。

 

「君の神器はかなり特殊な進化を続けている様だ。しかし急激な変化は何処かしらで綻びが生まれる、気をつけるといい」

 

「……頭に入れときます」

 

アジュカさんの言葉に、真面目に答える。

俺だけならまだしもモグラさんにも関係してくる事だ、きちんとしよう。

 

「にしてもサーゼクスちゃんたら遅すぎよね? いつも時間には厳格なのに、何かあったのかしら?」

 

セラフォルーさんが時計を見つつ呟く。

そういやサーゼクスさんに会いに来てたの忘れてたわ。

 

「……え〜、面倒ごとはごめんだなぁ……」

 

「サーゼクスの事だ、またなにかやらかすつもりなんだろう? 俺は『ゲーム』の運営で忙しいから、早く戻りたいんだがな」

 

ファルビムさんとアジュカさんも愚痴り始める。

人を呼び出しといて本人はいないし、会議はすっぽかして遅刻するし……やっぱあの人ロクでもないな。

 

その少し後にこの部屋に小さな魔方陣が現れ、そこからサーゼクスさんの姿が映し出された。

なんでもイッセーの家に行っていて、そこから会議に出席するつもりだったそうだ。

 

「ねぇ、だったらなんで俺をここに呼んだの?」

 

そこで待ってりゃ会えたじゃん。

 

「カズキくんをビックリさせようと思ってね。どうだい、残りの四大魔王と謁見した感想は?」

 

「……カンドーデコトバガデテコナイヨー」

 

「そうかそうか、そんなに喜んでもらえると嬉しい限りだ。特にアジュカとは気が合うと思ってたんだよ」

 

この天然魔王、嫌味が通じねぇ。

見ろ、横でアジュカさんが笑いを堪えてプルプルしてるだろうが。

 

 

サーゼクスさんがイッセーの家を離れた後、俺を呼び出した理由を再度尋ねた。

なんでも、リアス先輩とイッセーの仲を認めさせる儀式の手伝いをして欲しいという事だった。

 

なに? そんな事で俺ここまで呼び出されたの?

いや、めでたい事なんだろうけどさ。

俺、今日ここに来る必要なかったよね?

 

どうしよう、『サーゼクスさん〆る』って感情しか湧いてこない。

でも相手は腐りきっていても魔王、俺単体だと殴る事さえ出来ない気がする。

 

ならどうするか、答えは決まってる。

【一人でダメなら複数で】、だ。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

状況について行けず混乱している俺を置いてけぼりにし、話はどんどん進んでいく。

 

「何故だ、何故君が邪魔をする!」

 

「アンタが何をやろうが勝手だがな、俺を面倒ごとに巻き込むんじゃねぇ! そこんとこ解らせる為にも、今日アンタをブン殴る!」

 

「……いいだろう、君とも一度戦ってみたかったんだ。さぁ未来ある勇敢な若き悪魔と、神を打倒せしめた人の子よ! 二人で力を合わせ、私を越えて見せるがいい!」

 

サタンレッドが再びポージングをすると、背後が爆発してカラフルなスモークが焚かれる。

無駄に凝ってるなぁ……これ、他の魔王さまたちがやってるのかな?

 

だが、カズキが助けに来てくれたのはありがたい!

一人じゃ手詰まりだったが、カズキと一緒なら!

 

「カズキ、作戦を–––」

 

「……ふたりぃ?」

 

作戦を練ろうとカズキに近づくと、なんかすごい悪い顔をしていた。

うん、もう経験でわかる。

こいつもう既になんか仕込んでる。

でも、生半可な罠でこの人をどうにか出来るなんて思えないんだが……?

 

「おいおい、何を勘違いしてるんだ? 誰が【俺たち二人で】なんて言った?」

 

「……? 何を言って–––」

 

「こっちは二人じゃない、【三人】だ!」

 

サタンレッドが不審がっていると、背後に何者かが降り立った。

レッドが振り向くよりも先に、その身体を幾つもの魔力の鎖が縛り上げる。

そこにいたのはレッドと同じ格好をした戦士、サタンブルーことベルゼブブさまだった!

 

「な、何をするんだブルー!?」

 

「悪いなレッド、そこの少年に話を持ちかけられてね。面白そうだったから、私は向こうに付く事にしたよ」

 

レッドの訴えに、ブルーは実に楽しそうな声音で答える。

せ、戦隊モノの仲間が裏切った!?

いいのかこれ!?

俺が驚愕しているとカズキは俺の肩に手を置き、もう片方の手の親指でサタンレッドを指差す。

 

「さぁ今の内だ赤龍帝! 限界まで力を上げて、最大威力の攻撃をあいつにブチかますぞ!」

 

最低だ!

こいつ、本当に最低だ!

 

「ちょ、あの人一応魔王さまだぞ! そんなとんでもない事していいのかよ!?」

 

「構わん、俺が許す。そもそもあの人は『サタンレッド』であって、俺たちが知ってる魔王さまなんかじゃないんだよ? なんの問題もないだろう」

 

いや、構えよ!

お前だって中身が誰だか知ってる癖に!

 

「それにドライグ、いいのか? あの人はお前が『おっぱいドラゴン』と広く呼ばれる事になった元凶の一人だ、今なら無抵抗のそいつを思いっきり攻撃出来るんだぞ?」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

「ドライグさん!?」

 

カズキの一言で、籠手から音声が鳴り続ける!

そんなにストレス溜まってたんですか!?

そんなに『おっぱいドラゴン』嫌ですか!?

うおぉ、ドライグがどんどん倍加するから力が溢れてくるぅ!

 

『あいつの、あいつの所為で俺は……! うおぉぉぉん!』

 

「くそ、こうなりゃヤケだ! 全力のドラゴンショットをお見舞いしてやる!!」

 

「そうだ、それでいい! 俺たちも全力でいくぞモグラさん!」

 

『キュイ!!』

 

俺が攻撃の為に魔力を掌に集め始めると、カズキも胸部装甲を開いて攻撃の準備を始めた。

コカビエルを倒した時の技か?

あの時は捨て身技だったけど、使いこなせる様になったのか!

 

「イ、イエロー! この術式を破壊してくれ!」

 

「嫌です」

 

「イエロー!?」

 

「お二人の攻撃で、少しは反省するのが宜しいかと」

 

レッドの必死の訴えを、イエローは冷たく突き放す。

なんかもう、向こうのチームワークがボロボロだ。

グリーンのアスモデウスさまなんか、既にスーツを脱いでくつろいでるし。

 

「クッ、だが簡単にはやられん! 友と義弟の攻撃、見事受け切ってみせよう!」

 

レッドはブルーに拘束されつつも、消滅の魔力を球状にして展開する。

なら、あれよりもデカい奴を喰らわせてやるだけだ!

 

『うおぉぉぉあぁぁッ!!』

 

俺のドラゴンショットとカズキのビームは一直線にレッドに向かっていき、着弾と同時に大爆発!

コロシアムが轟音を立てながら崩壊していき、俺も衝撃でぶっ飛ばされてしまった。

地面に伏す俺を部長は駆け寄って身体を支えてくれ、土煙が晴れるとそこにいたのは禁手が解けて仰向けに倒れてモグさんに顔をペチペチ叩かれているカズキだけ。

レッドの姿どころか、他の魔王さま方の姿も消えていた。

 

「ぶ、部長。あいつらは?」

 

「消えたわ。貴方とカズキくんの攻撃を受けて無傷とは思えないけど……」

 

『相棒、あの男今のを全て掻き消したぞ。強いのはわかっていたが、あれは規格外にも程がある』

 

マジでか。

勝てるなんて思っちゃいなかったが、ダメージすら通らなかったのはちょっとショックだ。

やっぱサーゼクスさまってすごいんだなぁ。

 

「やぁ二人とも、よくやったね」

 

「お兄さま! いまここへ?」

 

「あぁ、そろそろ試練が終わった頃かと思ってね」

 

部長、まだレッドの中身に気付いてないんですね……サーゼクスさまもネタばらしを……ん?

サーゼクスさま、脚が……?

 

『あの撃ち合いの時、カズキが奴のスネに石柱をぶつけているのが見えた。流石に身動きが取れない中でのあれは、躱すことが出来なかったらしい』

 

あぁ、ライザーと戦った時にやったって言う嫌がらせ……よくあんな状態でそんな事出来るなこいつ。

というかサーゼクスさま、カズキに何をしてここまで怒らせたんだ?

 

 

 

 

あの後サーゼクスさまがベルゼブブさまにどうしてあんな事をと問い詰めたり、そんなサーゼクスさまを無視してベルゼブブさまが俺の中の悪魔の駒を調整してくれたり等色々とあったが、今は屋敷で試練突破のパーティーを楽しんでいる。

カズキも目を覚まして参加しており、会場の端にいたのでなんであんな事をしたのか聞いてみた。

 

「……休みの日に、家のみんなで出掛けるつもりだったんだよ。それ邪魔されたもんだから……つい」

 

一発入れられたし、謝ってくれたからもういいんだけどさ?

カズキはそう言いながら、グラスの中身を一気に喉へと流し込んだ。

少し顔が赤い気がする。

 

……カズキ、初めて会った時と少し変わったかな。

なんていうか、表情がわかりやすくなった。

いい変化って奴だと思う。

 

「カズキ、そんなところにいないでこっちにこい!」

 

「うふふ、カズキくんも一緒に食べましょう?」

 

「ハイ、カズキくんの食べる物も取ってきましたよ〜」

 

カズキはゼノヴィア、朱乃さん、ロスヴァイセさんの三人に呼ばれてそそくさと俺から離れていった。

あんな話をして、照れ臭かったのかも知れない。

俺もいつかもっともっと強くなって、部長の事『リアス』って呼んでみたいなぁ……




サーゼクスさんはあの後、グレイフィアさんからもはしゃぎ過ぎたオシオキをされてダウンしました。

アジュカさんはカズキくんを気に入ったようです。

セラフォルーさんはカズキと楽しそうに話す三人を見て、ソーナ会長とどうくっつけるか模索しています。

ファルビウムさんは大あくびをかいています。

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