ちょっと不安になってきました。
「あ〜……眠い」
ホテルを出発して京都駅へと向かう途中、大きな欠伸と共に伸びをする。
流石に二日間碌に寝てないと、若干眠気が出てくる。
まぁ興奮して寝れない俺が悪いんだけど。
「俺が言うのも何だけど……その、大丈夫か?」
「ホントにな。言っとくけど、また覗きを実行したら次は本気でシバくからな?」
「う、うす……」
結局あの後アザゼルさんと一緒に踊り場をなんとか修復し、腹が減ったのでこっそりホテルを抜け出し外でラーメンを食べてきた。
やっぱ豪華な食事より、俺はこういうのが好きだな。
ラーメン屋だったからヴァーリさんに遭遇するかと思ったけど、変なにいちゃんがいただけで流石に会わなかったわ。
腹を満たして部屋に戻ると、イッセーがアーシアちゃんとイリナさんに性的な意味で襲われていた。
そういう事は他所でやれとイッセーを窓から外に放り出し、アーシアちゃんたちに説教。
その最中にゼノヴィアも襲撃してきたので、布団で丸めてから紐で縛りイリナさんに手渡して部屋に帰って貰った。
しかも二人をイッセーにけしかけたのはゼノヴィアだそうで、家に帰ってからお仕置きする事を心に決めた。
子どもを作るだの何だのと……いくら修学旅行で気分が盛り上がっても、そういうのは俺のいない所でやってくれ。
「にしてもいきなり窓から外に捨てるなよ。怪我はしなくても、誰かに見られたらどうするんだ」
「俺は困らないから問題ない。何とかして誤魔化せ」
「やだもうこの友達、暴君すぎる……」
イッセーが肩を大きく落とす。
ざまぁ。
「イッセー、どうやらその様子だとそっちも失敗したようだな」
「まあな……って、お前と元浜もすげぇ顔になってんぞ」
「なに、名誉の負傷だ」
そんなイッセーに声を掛けてくる松田と元浜。
二人もシトリー眷属にやられたようで、顔の至る所に絆創膏が貼られている。
どうやらあちらも首尾よく迎撃出来たようだ。
まぁ表情を見る限り反省はしてないようで、イッセーから話を聞いた二人が俺に襲いかかってきたのは言うまでもない。
「ホラあんた達、ふざけてないで早く行くわよ! 今日も九重ちゃんが待ってくれてるんでしょ?」
おぉ、そうだった。
今日は嵐山方面を観光する事になっている、早く電車に乗って九重と合流しなければ!
電車を降り、暫く歩くと最初の目的地である天龍寺に到着。
そこの大きな門の前に、昨日と同じ巫女服少女が待ち構えていた。
今日も元気にふんぞり返り、腰に手を当てない胸を精一杯張っている。
「うむ、みんな来たようじゃな! 今日もバッチリ案内してやろう!」
「きゃ〜! 九重ちゃ〜ん!」
「うひぃ、昨日の眼鏡娘!? た、助けろ赤龍帝!」
しかしそんな態度は続かず、桐生に抱き着かれるのを恐れた九重はイッセーの元に駆け寄りズボンにしがみ付いた。
昨日で大分イッセーに懐いたようだ。
「しかしまぁ、偉そうなガキンチョだ」
「なんじゃとこの犬!」
「誰が犬だチミっ子」
「お主がそう呼べと言ったのではないか!」
「そうだっけ? 忘れた」
「理不尽じゃ!?」
俺の言葉を受けた九重は、驚愕の表情を浮かべたまま頭を抱える。
有能なガイドに拗ねられても困るので、今日も肩車して逃げられないように確保する。
ついでに俺の頭の上にいるモグラさんと遊ばせてやろう。
「まぁ許せ。ほら、モグラさんを抱かせてやろう」
「キュイ!」
「ふぉぉぉぉッ! モグちゃんは今日も可愛いのじゃ〜♪」
チョロい。
だがあまりふざけて時間を消費するのも勿体無いので、そろそろ寺の中に入る事にした。
俺、九重、モグラさんのトーテムポール状態のまま歩を進め、九重はみんなに『大方丈裏の庭園』の説明をしてくれる。
「ここの景色は絶景じゃ。何せ世界遺産じゃからな」
なるほど、確かにこの風景は素晴らしい。
難しい事はわからないが、凄い京都っぽさを感じる。
……なんか頭悪い説明しか出来ないな。
みんながその景色を写真に納めた後、今度は堂内へと進んでいく。
その天井には、身体の長いドラゴンが描かれた大迫力の絵が描かれている。
何というか、東洋の龍って感じの絵だな。
「これは龍雲図。どこから見ても睨んでいるように見える『八方睨み』じゃな」
イッセーがドライグから聞いた話では、龍王の『玉龍(ウーロン)』という奴がこの姿にそっくりなのだとか。
こんなおっかない眼をしたドラゴンとは会いたくないなぁ。
ここは撮影禁止だそうで、満足するまで見てから天龍寺を後にした。
「さて、次は何処に向かう? 二尊院、竹林の道、常寂光寺! 何処でも案内するぞ!」
俺の肩から降り、イッセーと手を繋いだ九重は元気一杯に宣言する。
そんな九重を見たみんなも、笑いながら次の目的地へと歩き始めた。
さぁ、今日も京都を堪能させて貰おうか!
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俺たちは九重の案内の元、嵐山の様々な場所へと赴き存分に観光を堪能させて貰ったわ、
流石にみんな疲れてきたので、今は九重のお薦めである湯豆腐屋で昼食をとる事になった。
いつも食べている豆腐とは風味が違う気がする、これが京都の豆腐って奴なのかな?
教会トリオやカズキ達も美味しそうに食べている。
そんな俺たちに、九重は笑顔を浮かべながら俺たちに湯豆腐を掬って配ってくれる。
ふと頭に、悲痛な顔で母親を助けて欲しいと頼んできた時の九重の顔が浮かぶ。
早く八坂姫さんが見つかるといいんだけどな……。
「あ、イッセーくん」
突然隣から声を掛けられ振り向くと、そこには木場の姿が。
違うクラスなので別行動中の木場も、この店に昼食を食べに訪れたそうだ。
なんか会えたのがえらく久し振りな気がするのは、俺の気のせいだろうか?
「そういえばお前も今日は嵐山を回るって言ってたな。俺たちは天龍寺に行ってきたぞ」
「天龍寺なら僕たちもここで昼食を食べて、渡月橋を見学してから向かう予定だよ」
「渡月橋か、俺たちもここを出たら行くぜ」
そんな事を話していると、少し離れた席に見覚えのある人たちが眼に入った。
風流だと言いながら酒を飲んでいるアザゼル先生と、それを窘めているロスヴァイセさんだ。
「よぉ、お前ら。嵐山を楽しんでるか?」
「先生も来てたんですか? って、それお酒じゃ……昼酒は不味くないですか?」
「もっと言ってやってください。この人、私が何度言ってもお酒を止めないんですよ」
俺の疑問にロスヴァイセさんが嘆息混じりに促してもなんのその、我らが堕天使総督さまは全く気にせず笑っている。
どうしたものかと思っていると、対アザゼル先生最終兵器がやってくる。
「おいおっさん、仮にも教師が昼間っから酒飲むとか何考えてんの? あんたの所為で修学旅行がオジャンになったら埋めるぞコラ」
「そんな怒んなよ、ちゃんとバレないようにやるから。今だって嵐山方面を調査した後のちょっとした休憩なんだぜ?」
「……そか、悪い。でも酒は必要ないだろ? あんまロスヴァイセさんに迷惑かけんなよ」
そうか、先生たちは『禍の団』の調査をしてくれてたのか。
カズキも納得したようで、素直に謝罪する。
飲酒については認めてないようだけどな。
「ホントにもう! この人といいオーディンさまといい、なんで私はこういう不真面目な人たちとばかり仕事をしなければいけないんでしょうか……」
ロスヴァイセさんはブツブツと呟き、手元のコップの中身を喉を鳴らしながら飲み干していく。
せっかくオーディンの爺さんの所を辞めたのに、この人は別口でもストレス溜めてるみたいだなぁ。
その時、何かに気付いたアザゼル先生が口を開いた。
「……ん? ロスヴァイセ、それ俺の酒–––」
「プハーッ! このおみずおいひいれすね〜♪ てんいんは〜ん、おかわひ〜!」
既に呂律が回っていない。
え、もしかして一杯で酔っ払ったのか!?
アザゼル先生が驚いている隙に、二杯めの酒を勢い良くあおっていく。
顔も赤くなって、目も座っている。
「おやおやぁ〜? そこにいるのはカジュキくんじゃないれすか〜♪ いっしょにのみまひょ〜!」
ロスヴァイセさんはそう言うと、近くに立っていたカズキを素早く確保して隣に座らせた。
は、速い!?
カズキがなんの抵抗も出来ずに捕まってしまった!
ロスヴァイセさんはニコニコ顔でカズキの前に空のコップを突き出す。
注げって事かな?
「ん」
「あの……ロスヴァイセさん? お酒慣れてないみたいだし、その位にした方が……」
「ん!」
「いや、ん! じゃなくてですね?」
「ん〜ッ!!」
「……はい」
折れた!? カズキが折れてしまった!
諦めた顔をした後中身の残っている酒瓶を掴み、ロスヴァイセさんの持っているコップにゆっくりと注いでいく。
ロスヴァイセさんは満足げにその光景を眺め、いっぱいになったコップの中身を再び胃に流し込む。
「んふ〜♪ カジュキくんにちゅいでもあったおみずおいひ〜♪」
飲み干して空になったコップをテーブルに置き、楽しそうにケラケラと笑っている。
ロ、ロスヴァイセさんってこんなに酒癖悪かったのか……。
「……イッセー、ゼノヴィア。これ以上この人が醜態さらす前に、みんなを連れて行ってくれ」
「え? でもお前は……」
「大丈夫、寝かしつけたらアザゼルさんに押し付けてすぐに追いつくから。というか、ロスヴァイセさんを見るみんなの視線に俺が耐えられない」
「了解だ、すぐに追いついてくるんだぞ」
カズキの儚げな顔を見たら、首を縦に降る以外の選択肢はなかった。
俺とゼノヴィアはみんなを店の外に連れ出し、カズキを置いて渡月橋へと向かった。
あいつも楽しみにしてたろうに……まぁすぐに追いつくって言ってたし、大丈夫かな。
「ロスヴァイセちゃん、酒癖悪かったんだな」
「きっとロスヴァイセちゃんも若いながらに苦労してんのよ。いろいろ溜まってたもんがお酒で一気に出ちゃったんじゃない?」
松田と桐生が苦笑いしながらさっきの惨状について話し合っている。
まぁオーディンの爺さんに続いてアザゼル先生の相手までしてたら、そりゃストレスも溜まるよな。
主であるカズキもかなり無茶苦茶するし、気苦労が絶えないんだろうなぁ。
「俺としては、なぜカズキがロスヴァイセちゃんとあんなに親しげだったかの方が重要だと思うんだが……」
「あぁ、それは私た–––」
元浜が眼鏡を押し上げながら面倒な事を言い出す。
ちょ、ゼノヴィアさん!?
お前そんな事言うとまたカズキに怒られ……!
「ゼ、ゼノヴィアさ〜ん? 少しお話が〜!」
「そ、そうそう、ちょっとこっちに来てちょうだい!」
「モゴモガ?」
ゼノヴィアがまた余計な事を言い掛けたので、慌てて止めに入ろうとしたらそれよりも早くアーシアとイリナがゼノヴィアの口を塞いでくれた。
どうやらカズキが先に手を打っていたようだ。
相変わらず抜け目がない、というかゼノヴィアは少し考えてから発言しようね?
その後は何事もなく、無事に渡月橋へ到着。
歴史を感じさせる木造の橋で、辺りの景色と相まって素晴らしいの一言に尽きる。
橋を渡っている途中、九重と桐生が橋にまつわる話を聞かせてくれた。
「この橋を渡っている途中に振り返ると、授かった知恵がすべて返ってしまうという言い伝えがあるのじゃ」
「振り返った男女は別れるってのもあるわね。まぁこっちはジンクスみたいなものだけどね?」
この話を聞いたアーシアが怯えてしまい、俺の腕にしがみついてきた。
大丈夫だと言ってもアーシアは首をブンブンと横に振り、より力を込めて抱きついてくる。
かわいいなぁ、もう!
流石アーシアちゃん、俺ってば幸せ者だな!
松田と元浜の怨念めいた視線を背後に感じながらも、橋を渡りきる。
アーシアは大きく息を吐き、それを見た九重はそこまで噂話を気にするアーシアを不思議そうに見つめていた。
ここでカズキを待つか、それとも先に辺りを見て回るか。
みんなに聞いてみようとした時、突然ぬるりと生暖かい感触が全身を包み込んでいった。
今のは何だろうと辺りを見渡すと、松田たちの姿がない。
というか俺、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、九重、そして少し離れた場所にいた木場しか周りに人がいない。
松田たちや周りにいた観光客がマルッといなくなってしまったぞ!?
この異常事態に、九重を護るように囲んで身構える。
周囲に怪しい人影はなく、少しすると足下に霧の様な物が立ちこめてきた。
–––この霧、もしかして。
「絶霧(ディメンション・ロスト)、神滅具の一つだった筈だよ」
木場が此方に歩み寄りながらそう言い、足下の霧に触れようとしていた。
確か先生やディオドラが言っていた、俺やヴァーリのより上位の神滅具だっけ。
それがここで発生してるのか?
「お前ら無事か?」
空から声が降ってきて、見上げるとそこには黒い翼を羽ばたかせたアザゼル先生がいた。
「俺たち以外の存在はこの周辺からキレイさっぱり消えちまってる。どうにも渡月橋周辺を模した別空間に、強制転移されて閉じ込められたっぽいな」
先生は翼をしまいながら頭を掻きつつぼやく。
マジかよ、転移させられたなんて全く分からなかったぞ?
「別空間っていうのは、レーティングゲームの時の空間と似た様な物なんですか?」
「恐らくな、三大勢力の技術はあちらさんにも流れてるだろう。それの応用で作ったフィールドに、『絶霧』の能力で転移させられた。ほぼアクションなしで俺らを纏めて転移とか、これだから神滅具はおっかな……ん?」
先生は溜め息を吐いた後、何かに気付いて辺りを見渡す。
「お前ら、カズキは何処行った?」
「え、先生たちと一緒だったんじゃないんですか?」
「いや、あいつは先にお前らの所に向かった筈だぞ。それから少ししてここに飛ばされて、俺は酔い潰れたロスヴァイセに結界張ってから来たんだ」
どういう事だ?
先生が嘘を付いてるようにも見えないし、つく必要もない。
てっきりアザゼル先生の指示で別行動なのかと思ってたけど……カズキは何処に行ったんだ?
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「ぐっ!? こいつ……!」
「暴れんなよデカブツ、静かにしてないとその無駄に太い腕へし折るかんな?」
おかしい。
俺は京都で修学旅行を楽しんでいる筈だったのに、なんでこんな筋肉ダルマを拘束せねばならんのか。
「え〜と……それで何だっけ?」
「勧誘に来た、と言ったのだが……取り敢えずそいつを放してやってくれないかな?」
俺の前に立つローブを羽織ったメガネ男と、顔は綺麗だけど性格の悪そうな金髪女。
三人とも同じ制服着てるし、多分仲間だよね?
……何でこうなった?
と言うわけで、一人離れたカズキの所に現れたのは残りの英雄派幹部であるゲオルグ、ジャンヌ、そして出落ちのヘラクレスさんです。
彼らは無事勧誘できるのか!?
……なにこの無理ゲー。