曹操たちが消えてから暫くすると京都を模した擬似空間が砕けて元の世界へと戻り、気付くと宿泊しているサーゼクスホテルの屋上にいた。
他のメンツもアーシアちゃんによる必死の治療のお陰で無事の様だし、ひたすらに感謝である。
八坂さんは裏京都にあるという自分たちの施設へ運ばれていき、九重も俺たちに礼を言った後にそれについていった。
みんなが検査の為に搬送されていると、俺とイッセーの元に初代さんがやってきた。
イッセーは『覇龍』とは別の力を求め、そして手に入れた事を褒められていた。
なんでもイッセーは、夢と女で強くなるタイプだそうだ。
流石はおっぱいドラゴン、ぶっ飛んでいらっしゃる。
「カズキよ。お前さん足腰はしっかりしとるし、基礎はそれなりの様じゃが最近鍛錬をサボっとるな?」
おおぅ、俺に流れ弾が飛んできた。
確かに最近は修学旅行が楽しみ過ぎて、走り込みと筋トレくらいしかやってないです。
「あの仙術も殆ど我流じゃろ? 本格的に学びたくなったら堕天使の総督を通して連絡してきなさい。あのバカの分まで、キッチリ鍛えてやるからの」
「あはは……考えときます……」
絶対ゴメンだ、美猴さんからこの人の修行内容は聞いている。
あんなん美猴さんだから耐えられるんであって、俺には無理!
「お主らはまだ若い。それぞれが精進して切磋琢磨し、高みを目指すとええ。さて、天帝のおつかいが済んだら白龍皇とやんちゃしとるバカを探して、二人にキツめの仕置きをせねばのぅ」
初代さんは俺とイッセーの頭を撫でた後、肩を竦める。
ヴァーリさんと美猴さん、逃げて、超逃げて!
「–––では達者での。玉龍、九尾の元に行くぞ」
『あいよ、じゃあなドライグ! それからクソガキ、テメェはいつか泣かす!』
「だってよ、イッセー」
『テメェだ、ボケ!』
それだけ言うと、初代さんと玉龍さんは行ってしまった。
次に会う時までに、『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』の武器を用意しなくては。
さて、もう夜も遅い。
今日は疲れたし、明日の為にも早く寝てしまおう。
朝起きると、ロスヴァイセさんに土下座されてしまった。
自分が酒に酔っている間に誘拐され、オマケにその実行犯に敗れてしまっては眷属失格だと落ち込んでいた。
俺がヘラクレスをボコったのもイッセーから聞いていたらしく、仇を討ってくれて嬉しい反面情けなくてその倍凹んでいるとゼノヴィアが教えてくれた。
「つーかゼノヴィア、お前をボコった奴シバけなかったわ。ゴメンね?」
「あの男へのリベンジは自分で果たすよ、それこそ気にしないでくれ。まぁ、私よりも木場の方が燃えている様だがね」
俺の謝罪をゼノヴィアは笑いながら流す。
へぇ、あいつってそういうキャラだっけ?
イッセーの熱血がうつったのかね?
変態はうつらないといいな、強力すぎるから。
「ほらロスヴァイセさん、何時までもそんな事をしていたらカズキが困ってしまう。カズキも『失敗しても、次に活かせばいい』といつも言っているじゃないか」
「ゼノヴィアさん……うぅ、これではどっちが年上かわかりませんね……カズキくん! この件は、いつか挽回してみせますね!」
おぉ、ロスヴァイセが復活した。
やっぱ美人は笑顔がいいよね、リアス先輩や朱乃さんみたいな怖い笑顔じゃなければ。
さぁ、朝食を食べたら最後の自由時間だ。
時間は少ないけど、朱乃さんたちのお土産を買わな……ん?
知らない番号から着信が……誰だろ?
「合言葉を言え」
『ふぇ!? あ、合言葉なんて知らないのじゃ!』
「そらそんなモンないからな、知ってたら怖いわ」
『フンガーッ!』
この打てば鳴る反応、どうやら九重からの様だ。
「で、どうしたの?」
『なにもなかった様に……まぁよい。実は母上が直接皆に礼を言いたいそうでな、案内ついでに出向いても良いか?』
昨日の今日でもう出歩ける様になったのか。流石は京都の御大将、回復力も凄まじい。
短い時間だけどいいかと聞くと構わないと言うので、俺たちは待ち合わせして案内して貰う事にした。
「此度はえろう世話になりましたなぁ、あんさんらにはなんとお礼を言っていいものか……」
「イッセーたちが頑張ったんであって、俺なんて敵に捕まってただけの役立たずですから気にしないで下さい。そして腕を絡めてこないで下さい」
「それでも敵の術式に蝕まれ暴れ狂ったわらわを諌めてくれたのはカズキはんやろ? あの時走った衝撃、忘れたくても忘れられんわぁ……」
「そりゃ全身殴られれば衝撃も走るでしょうよ、物理的に。だから胸を押し付けてこないで下さい」
「何か礼をと思っとったんやけど……実は九重が弟や妹を欲しがっとってなぁ? 良ければそこの建物で休憩なんて……どうかえ?」
「タダでさえ少ないお土産を買う時間が無くなっちゃ……って顔近い顔近い顔近いぃぃぃッ!?」
もうヤダこの人怖いよ!?
なんでこんないい匂いすんの?
なんでこんなに艶っぽいの?
普通なら嬉しいのに、時々眼が狩人のソレになってて変な汗が止まらないんだけど!?
そもそも、なんでこんなに俺の事構ってくるのさ!
一人立ち向かってきた男らしさがうんたらかんたらって言ってたけど、俺よりも前に匙が戦ってたの忘れないであげて!?
てか八坂さんは朱乃さんと真逆のドMなの?
女を殴る奴の何処が男らしいのよ、あんたのダンナはDVだったのか?
これがダメンズウォーカーって奴か……あれ、つまり俺ってダメンズ?
割と自覚あるけど、なんか凹む……ってそんな事気にしてる暇はない!
「く、九重! 頼むから助けてくれ……!」
「嫌じゃ、邪魔したら後で私が母上に叱られる」
俺が隣にいた九重に小声でSOSを発信するも、速攻ではたき落とされる。
一緒に拉致された仲なのに冷たくね?
いや、九重を巻き込んだの俺だけど。
「お前がお尻ペンペンされようが何されようが、俺は困んないからいいじゃん。ホラ、このモグラさんが食べるの飽きて余った八つ橋あげるから」
「あ、イッセー! それよりこっちのお菓子の方がオススメじゃ!」
「見捨てないでぇぇぇ!?」
赤龍帝でなくイッセーと呼ぶ事にしたようで、笑顔を浮かべながら向こうに駆け寄っていってしまった。
懐柔失敗、賄賂も試したのに何が気にくわないんだ!
九重の向かった先にいたイッセー、松田、元浜の三人が此方を見つめてくる。
ま、まさか助け舟を出してくれたり……!
(死ね)
(くたばれ)
(もげろ)
三人同時に親指を下に向けてくれやがった。
ダメだ、奴らは敵だ。
ゼノヴィアは不機嫌だし、アーシアちゃんとイリナは困った様に笑みを浮かべてゼノヴィアとお土産を見て回っている。
桐生? 奴は俺が困っているのを楽しげに見てやがるから論外だ。
「あぁん、わらわを無視せんといてぇ? 泣いてまうよぉ?」
「俺が泣きそうなんだよぉ!」
そのまま逆セクハラされつつも時間ギリギリまでお土産屋を回り、満足するまで買い物をした。
案内してくれたお店はどれも素晴らしかったので、何とも複雑な心境である。
そして、いよいよ京都を離れる時が来た。
九重と八坂さんは、駅の新幹線ホームまで見送りに来てくれた。
「……イッセー。ま、また京都に来てくれるか?」
おーおー顔真っ赤にして可愛いな、マセガキめ。
「みんなもまた来て欲しいのじゃ。あ、カズキはこんでもいいぞ、モグちゃんだけなら大歓迎じゃ♪」
泣かす。
「これこれ九重、未来の父上をそない邪険にするもんやないよ? 今度はゆっくり出来る日程で来て欲しいなぁ、その方がわらわとしても色々と都合がえぇし」
「俺の方が良くないんで、次来る時は日帰りにします」
「またそないな事言うて……ほんに照れ屋やねぇ♪」
おい、誰か通訳連れてこいよ。
会話のドッヂボールとかいう次元じゃないんだけど、この人。
「カズキはん卒業したらこっちにこぉへん? 流石にわらわがそっちについて行く訳には行かへんからなぁ」
「お断りします」
なんかもう龍王二匹相手にするより疲れた。
俺が溜め息を吐いていると、今まで大人しくしていたゼノヴィアが急に俺の頭を両手で抱え込んだ。
「八坂姫さま! 言っておくが、この男は私のだ!」
いつお前のになったよ。
疲れ切ってるので無抵抗でゼノヴィアのおっぱいに埋もれていると、八坂さんは顎に手をあて何か納得した様に一人頷く。
「ふむ、つまりわらわは現地妻ってことやね? ほんなら、京都で大人しく待っとるよ」
「おい九重、お前の母ちゃんと会話できないんだけど」
「私は知らん」
こんなやり取りをしていると、発車の音がホームに鳴り響く。
「ありがとう、イッセー! みんな! 九重はいつだって待っておるぞ! また会おう!」
九重はそう言いながら、見えなくなるまで力いっぱい手を振り続けてくれた。
九重の見送りを受けた後、電車の中でようやく一息つくとイッセーが何やら騒いでいたけど……まぁどうでもいいよね。
八坂さんにはああ言ったが、今度はもっとゆっくり京都を回りたいな。
あぁ、もっと色々と見たかったのに……ちくしょう、やはりテロリストは悪だ。
今度会ったら『ココまでやられたら死んだ方がマシじゃね?』な目に合わせてやる!
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連れ去られた母上は五体満足で救出され、京の都も無事守られた。
これもイッセーやカズキたちが力を貸してくれたおかげじゃ。
いくら感謝してもしきれない程の恩を感じている。
話も聞かずに無礼を働いた私たちを、イッセーたちは快く許してくれた。
カズキも最初は渋っていたが、それでも協力してくれた。
私もよく学び、よく鍛え、母上の様に強くなってみんなと並べる様になりたい。
その母上はどうもカズキに惚れたそうで、何やら言動がおかしくなっていた。
でもやたらと楽しそうで、その笑顔を見ていると私も笑顔になってしまう。
でもカズキを父上とは呼びたくない、彼とはあくまで友達として対等でありたいのじゃ。
どうすればいいんじゃろうか?
誰も教えてくれないので、冥界に繋がっているという機械で調べてみる事にした。
えっと、カ、ズ、キ……お? 何でかモグちゃんの絵が出てきたのじゃ。
モグちゃんぬいぐるみ……じゃと……?
他にもモグちゃんグッズがいっぱい……は、母上ーッ!
これ欲しいのじゃ〜!
……はて、何か調べようとしていた様な……?
まぁ忘れるくらいじゃから大した事ないじゃろ!
それよりも今はモグちゃんぬいぐるみの確保が優先じゃ!
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「サーゼクス、こちらで得た英雄派のデータを送るぞ」
『あぁ、上位の神滅具を三つも保有している上に禁手のお祭り状態。アンチモンスターが厄介だな』
「しかし『英雄』ねぇ……俺たちは討伐される予定のラスボスか何かか? –––っとそうだ。イッセーたちは更に戦果を挙げた、これで昇格は確実か?」
『これだけやれればもう十分だろう、次のゲームの結果次第で私からするよ。既にグレモリーの関係者には、リアスだけでなくイッセーくんのゲームプレイを期待している者も少なくない。義兄として鼻が高くなるね–––しかし』
「あん? どうした?」
『……アザゼル。リアスは、リアスの乳はいったい何なのだろうか?』
「……深く考えるな。リアスの乳は限界を超えて、スイッチ姫から『超(スーパー)スイッチ姫』になっただけだよ」
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「京都での計画は失敗したけど、もうひとつの計画は調整がまた進んだよ。近いうちにお披露目出来そうだね、曹操」
「そうか、それは何よりだジークフリート。お前もひとつ持っていけ。俺はこの槍があればいい」
「それじゃあ貰っていくよ–––で、赤龍帝にやられた眼はどうだい? フェニックスの涙を使わなかったから、厳しいんじゃないか?」
「ダメだな、もう使い物にならない。何か代わりの眼を用意しなくちゃな」
「君も物好きだね……そうだ、曹操が手に入れてきた彼の血液の解析が済んだ様だよ。これで【神秘の豊穣土竜】の加護を抜けるってさ。血液なんて何処で手に入れてきたのさ?」
「なに、作戦前に気まぐれで立ち寄ったラーメン屋でちょっとね。役に立つかもと回収しておいて良かったよ、これで彼に対する切り札も手に入れた。後は……」
今回で京都編は終了です。
次回はライザー回です。
彼は復活出来るのか、それとも新たにトラウマを刻まれるのか……後者かな?