子供人気なら圧倒的におっぱいドラゴンが上です。
カズキのファンは主婦やモグラさんの事が好きな女の子層で、カズキとイッセーの単品ならカズキの方が女性支持が多いです。
「いやぁ、堪能した! お祭りって奴はサイコーだね!」
この付近をあらかた回った後、公園近くにあったベンチに座りながら一休み。
モグラさんは綿菓子の海に埋もれて夢見心地だし、スコルたちは射的の景品である骨っぽい犬のおやつに夢中だ。
しかしモグラさんよ、頭がベトベトで凄い事になるからいい加減俺の頭の上でお菓子を食わないでくれないか?
公園の水道で頭を洗った後、出店で買ったジュースを一気にあおる。
ハシャぎすぎて渇いた身体に染み込み、なんとも言えないくらい気持ちいい。
「ふふ、全力で楽しんでましたもんね。満足出来ましたか?」
そんな俺を見て、ロスヴァイセさんは微笑んでいる。
あ、マズい。
自分が楽しむばかりで、ロスヴァイセさんにあまり気を回してなかった。
「その、ごめんロスヴァイセさん。何も考えずにハシャぎすぎた、反省してます」
「いえ、私も楽しかったですよ? 胸に支えていた物もようやくスッキリしましたし」
おかしいな、ロスヴァイセさんはすごい笑顔の筈なのに。
ロスヴァイセさんから、黒い何かが滲み出てる気がする。
まぁあんだけ派手に魔法をぶっ放せば、そりゃスッキリもするよね。
偶然発見したオーディンさんはこちらに気付くと素早く踵を返し逃げ出そうとしたのだが、それよりも俺たち、というかロスヴァイセさんの行動が速かった。
取り敢えず俺は周囲に被害を出さないように、逃げるオーディンさんを力尽くで上空に投げ捨て。
そこにロスヴァイセさんが、自身が知る限りのありったけの魔法をぶち込んだ。
文字に起こせばこれだけの事なのだが、間近で見てた俺からすればその光景は恐ろしすぎた。
頭上いっぱいに広がる魔法陣と、そこから伸びていく光の帯の数々。
そして着弾と同時に鳴り響く、豪快な音と光。
周りの人たちは『派手な花火だなぁ』程度の認識だったのは、幸いだったと言っていいと思う。
……やりすぎじゃね?
というか、約束は『一発殴る』じゃなかったっけ?
スコルたちが遊んでいると勘違いして、俺が放り投げたオーディンさんを咥えて持ってきたのには笑ったけども。
まぁ腐っても主神だけあって大半はレジストされたが、一〜二発は顔面に直撃したらしく髭を僅かに焦がしていた。
直撃してもその程度なのか、主神パネェ。
大したダメージは与えられなかった物の、ロスヴァイセさんも多少はスッキリした様でオーディンさんからの謝罪を受け入れていた。
素直に謝るなら初めから逃げずにいればいいのにとも思ったが、あの形相のロスヴァイセさんに遭遇して逃げるなという方が酷か。
ちなみにその間、護衛のヴァルキリーさんは我関せずを決め込んでいた。
このヴァルキリーさんはロスヴァイセさんの顔見知りでこそなかったが、その経緯は知っていたらしくセクハラ被害を受けていた事もあり完全にこちら側。
『オーディンさまは危害なんて加えられていないし、私は今日ロスヴァイセさんに会っていない』との事だ。
オーディンさんを縄で縛り上げて渡してあげると、その背中をグリグリ踏みつけつつお礼を言ってきた。
この人も相当ストレス溜まってるんだろうなぁ。
その行為を喜んでいるオーディンさんを見て、直ぐに脚を退けてたけども。
ホントに懲りない爺さんだ。
「日も暮れてきましたし、そろそろみなさんと合流しますか?」
「そうしよっか。遊んでて応援遅れましたなんて言ったら、朱乃さんとゼノヴィアに全身の関節を逆に曲げられちゃう」
冗談の様であまり冗談になってない事を言いながら、俺たちはベンチから立ち上がる。
今は夕方だから、ゲームが始まるまであと二〜三時間ってところか。
それじゃあ激励ついでに冷やかしにでも–––
「んお? ありゃあ、カズキじゃねぇかぃ?」
「あらホント。それも美人さんと一緒、美猴の義弟くんもなかなかヤるニャア♪」
ゲーム会場に向かおうとしたその時、少し離れた人混みから聞き慣れた声が近付いてきた。
そちらに振り向くと、口にトウモロコシっぽい黄色い野菜を咥えつつ焼きそばを手にしている美猴さんと、りんご飴をやたらと意味深に舐めあげている小猫ちゃんのお姉さんの黒歌さん。
ロスヴァイセさんは二人に気付くと俺を庇うように前に立とうとしたが、手で制してやんわりと止めておく。
俺らに何かやらかす気なら、声掛けずに襲撃してるだろうし大丈夫だろ。
つーかテロリストが何でこんなトコでお祭り満喫してんだよ。
いやむしろテロリストだからこそ、こういうタイミングで何かやらかすもんなのかね?
「相変わらずのエロリストですね、チョコバナナじゃないだけまだマシと考えよう」
「フフン♪ そんな事言って、ホントはお姉さんの色香にドギマギしちゃったんじゃないかニャン? ホラホラ、私が舐めてたこのりんご飴も実は舐めたいんじゃニャい?」
「……ハッ」
「鼻で笑いやがったニャ!?」
俺に掴み掛かろうと暴れる黒歌さんを、後ろから美猴さんが羽交い締めにして止めている。
この二人も仲良いなぁ。
黒歌さんが持ってたりんご飴は一口で全部噛み砕いてやりました、ザマァ。
黒歌さんが落ち着いてから、美猴さんから簡単にここにいる経緯を教えてくれた。
なんでもサイラオーグさんとリアス先輩のゲームの観戦に集まる各界のお偉いさんを対象に、『禍の団』の連中がテロを画策しているらしい。
イッセーとサイラオーグさんが戦うのを楽しみにしてるヴァーリさんは、試合を妨害されないように美猴さんたちと一緒に襲撃してくる連中の牽制をしているそうだ。
「ヴァーリとアーサー兄妹は外、俺っちたちは中の様子を見て回ってたって訳だぜぃ」
「決して飽きてきたからサボってた訳じゃないのよん?」
語るに落ちてるじゃねぇかこの駄猫さんめ。
まぁそんな事はどうでもいい。
「なんで俺までそっちを手伝わなきゃならんのよ」
「どうせお前さん、グレモリー眷属じゃないんだから暇だろ? だったらこっちを手伝いな」
「拒否しま、うおぁ!?」
逃げようとしたら美猴さんに問答無用で担がれた上に、黒歌さんが口になんか貼り付けてきた!?
うおぉ、喋れない上になんかの術で身体も動かん!?
「つー訳でこいつは借りてくぜぃ? 不安ならお前さんも一緒に行くかい?」
嫌だ、俺はそんな危なそうな所に行きたくない!
ロスヴァイセさん助けて!?
「行きたいのは山々ですが……私にはやらなければならない事があるので。カズキくんもそれを望んでいる筈です」
望んでないよ!?
確かにゲーム開始前に会場入りして貰わないと困るけど、俺の事も連れてって!
「事前に言伝用の手紙を渡されていますし、きっとアザゼル総督からあなた達の話を聞いた時に、カズキくんはそちらに参加するつもりだったのでしょう」
え、そんな話いつしてたの?
ていうかその手紙だってアザゼルさんをおちょくる為の……。
「そうかい、そんなら遠慮なく連れてくぜぃ。行くぜ、黒歌」
「はいは〜い、それじゃあ行くわよ〜ん♪」
ちょ、転移魔方陣の展開速ぇ!?
お願い待っ……!
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
すっかり日も暮れ辺りは暗くなっても、この会場は眩いライトと興奮した人々の熱気で盛大に湧き上がっている。
先程一人と一匹で戻ってきたロスヴァイセの話では、偶然出会った美猴と黒歌に連行されてカズキは警備の方に行ったらしい。
あっちにはヴァーリもいるし、一人で行動されるよりは幾分かマシだな。
ついに先程、リアス対サイラオーグのレーティングゲームの火蓋が切って落とされた。
プロも注目するこの一戦、会場のボルテージはかなり高まってやがる。
まさにお祭り騒ぎって奴だな。
実際この二人は今すぐプロのリーグに参加したとしても、かなりの好成績を叩き出せる実力を持っている。
オマケにイッセーは冥界じゃあ『おっぱいドラゴン』として大層な人気を博しているし、サイラオーグも若手最強と名高くまた人気も同様に高い。
オマケに解説席には堕天使総督である俺様に、レーティングゲーム王者『帝王』(エンペラー)ディハウザー・ベリアルまで来ている豪華ぶり。
こりゃ絶好のテロの標的だな。
実際ヴァーリから連絡が来て助かったぜ、こんだけデカいイベントだと警備が幾らいても足りねぇし。
あいつらなら禍の団の襲撃でも完璧に受け持ってくれるだろ。
今回のレーティングゲームのルールは『ダイス・フィギュア』。
それぞれの《王》がダイスを振り、出た目に応じてその数字に合わせた駒価値の選手で戦っていくルール。
ちなみに駒価値とはチェスにおける盤上の活躍度合いをザックリと数値化したもので、《兵士》は一、《騎士》《僧侶》は三、《戦車》は五、《女王》は九となっている。
複数の駒を所持している場合はその個数分加算されていくので、イッセーの駒価値は八となる。
《王》の評価は事前に審査委員が判定して相応しい数値を弾き出すんだが、今回のリアスの価値は八、サイラオーグは最大値である十二となっている。
まぁ妥当だな、だがリアスの価値は単純な数値に出せない所にある。
試合の結果がこの評価通りに行くとは限らねぇ。
そして何より……
「–––はい。こうしてグレモリー・バアル両陣営共に並び立った訳ですが、特に目を引くのが……」
「ええ、バアル眷属にも仮面で素性を隠した選手がいるのですが……グレモリー眷属のこれは、なんとも」
リアス達の陣営にいる、全身布で覆われたあいつはなんだ!?
こんなの俺は聞いてねぇぞ!?
「アザゼル総督、あの人物は一体……?」
実況者が何とか場を持たせている間に、同じ解説席に座るディハウザーが俺に聞いてくる。
そんなモン俺だって聞きたいっての。
「いえ、実は私も知らないんですよ。リアス選手が用意した『隠し球』って奴ではないでしょうか?」
「なんと! アドバイサーであるアザゼル総督すら把握していない『隠し球』ですか!? これは期待が高まりますね!」
俺の答えに実況者が興奮気味に返し、観客席からもどよめきが起きる。
どう考えてもアレがカズキの言ってた『隠し球』だろ?
精々やらしい小技か小狡い駆け引きを吹き込んだだけかと思ってたが、まさかメンバーの増員とは。
ゲームに参加できるって事は《悪魔の駒》を使用した正式な眷属の筈、つまり《戦車》って事だな。
一体何処のどいつを連れて来やがった?
俺の疑問が解決する前に、ゲームは始まった。
初戦の出目は三。
互いに駒価値一の《兵士》はいない為、出てくるのは必然的に《騎士》か《僧侶》が一名ずつ。
グレモリー眷属からは木場が、バアル眷属からは巨大なランスを手にした甲冑姿の男が馬に乗りながら出場した。
バアル眷属の《騎士》、フールカスとか言ったか?
気性が荒く主人さえ蹴り殺す事がある高位の魔物、『青ざめた馬(ペイル・ホース)』を乗りこなす辺りなかなかの実力者だ。
だがイッセーとの命懸けの特訓を重ねた木場には、今一歩届かなかったな。
木場が目覚めた新たな力。
木場の本来の神器『魔剣創造(ソード・バース)』の他に後付けで手に入れた力、聖剣を操る『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』の禁手。
それも本来とは異なる亜種の能力。
聖剣を携えた甲冑騎士を創り従える『聖輝の騎士団(ブレード・ナイトマス)』の亜種、
龍をモチーフにした甲冑を身に纏う騎士たちが木場と同じ速度で襲い掛かる『聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』。
今はまだ速度しか反映できない様だが、訓練を積めば本体と全く同じ能力を付与する事も出来るだろう。
全くイッセーといい木場といいこいつらは本当にメチャクチャな進歩をしやがって、今後が楽しみで仕方ねぇ。
そんでもって今からやるのが二回戦。
出目は十、かなり大きめの数字だ。
この数字なら間違いなく複数名による戦闘になるな、となると……。
「おぉ〜っと! グレモリー眷属、どうやら次の試合で、あの布で覆われた選手を投入する様だぁ〜ッ!」
やっぱ来たな。
一緒にいるのは小猫、てことはリミット一杯の《戦車》二人って訳か。
対するバアルは《戦車》と《騎士》が一人ずつ。
はてさて、どんな試合になるのやら……。
「俺はサイラオーグさまの《騎士》の一人、リーバン・クロセル。こっちのデカいのは《戦車》のガンドマ・バラム。貴殿らの名を聞こう」
「リアスさまの《戦車》、塔城小猫。こっちは……あ、ダメ!」
小猫が名乗りに応えていると、何故か突然布まみれの男が覆っていた布を剥ぎ取った!
小猫が気付いた時には既に手遅れで、身体を包み隠していた布は全て捨て去られその下の素顔が衆目の元に晒され……っておい!?
「な、なんと! 謎と布に包まれていた人物の正体、それは……最近冥界に限らず様々な勢力でなにかと話題の問題児、瀬尾一輝だ〜ッ!!」
「これは驚きです。彼は堕天使になったと聞いていましたが、まさか悪魔に転生していたとは。アザゼル総督はこの事を……その様子では知らなかった様です、ね」
「会場が凄まじい歓声に包まれております! しかしそれもそのはず! 彼は人間時代から禍の団の行うテロ活動の防止などでも活躍、冥界の番組で共演しているソーナ・シトリーさまとの関係も囁かれるなど話題に事欠かない男性! そんなあの人が、本日グレモリー眷属としてこのゲームに堂々参戦です!」
……ハッ!?
イカンイカン、一瞬本気で開いた口がふさがらなかった!
なんだ、何がどうなってる!?
なんであのバカがあんなとこにいやがんだ!?
「もう、ダメだよ? 正体はギリギリまで内緒だって先輩に言われたんでしょう?」
……なんだ、小猫の口調がいつもと違う?
それにカズキの様子にも違和感がある。
背中の何かを、剥がそうにしている?
あの背中に貼られてるのは……術式が書き込まれた呪符、か?
つーかおい。
なんだそれ。
なんなんだその、尻についてる『毛玉』は。
……ああ、大体分かった。
成る程な、そうかそうか。
色々と納得した俺は軽く息を吹き出し、肺一杯に空気を流し込む。
限界まで溜め込んだら少しだけ息を止め、次の瞬間一気に吐き出した!
「誰でもいいから、この会場にいるロスヴァイセ呼んで来ぉい! 今すぐだぁッ!!」
この場にカズキがいない以上、お前から説明して貰うぞ!
あのバカがどういうつもりでこんな事したのかをな!
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「ヘックシ! う〜、誰かに噂されてんのかな……お、この焼きそば美味い」
「ちょ、それ俺っちの!? 何勝手に食ってやがんだよ!」
「ムシャムシャしてやった、今は満足している」
「うるせぇよ!」
偽カズキ、一体何コルなんだ……?
にしても相手方の《騎士》と《戦車》、完全に放置でかわいそう。