モグラだってドラゴン名乗っていいじゃない!   作:すこっぷ

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7話

そこから話は早かった。

 

レイナーレを叩き起こして、グレモリー先輩が自己紹介。

兵藤の神器が実は《神滅具》だった事が判明。

グレモリー先輩がトドメを刺そうとして、兵藤に命乞い。

兵藤は取り合わず、グレモリー先輩の怒りに触れて消滅、神器を取り返す。

アーシアちゃんを《悪魔の駒》(イービル・ピース)で、悪魔に転生させて復活させた。

 

兵藤はあの女に騙されて付き合っていた事があり、初デートの最後に殺されかけて、悪魔として転生したそうだ。

命乞いの時の姿は、その元カノの時の姿なんだとか。

……本気で胸糞悪いな、あの女。

 

前に俺等を襲ってきたドーナツおじさんやその仲間も、先輩たちが消してきたそうだ。

エンゼルフレンチとポンデライオンの姿は少し見たかった気がする。

 

しかし《悪魔の駒》って凄いな、本当に生き返った。

某ゲームの葉っぱみたいだ、悪魔になる副作用付きだけど。

兵藤は生き返ったアーシアちゃんを抱き締め、泣いて喜んでいた。

アーシアちゃんが生き返って本当に良かった。

あれを見れただけで、頑張った甲斐があると言うものだ。

さぁ戦いは終わった。

家に帰ろう。

 

そう思っていた時期が、私にもありました。

 

現在、何故かオカルト研究部の部室に、簀巻きの状態で拘束されています。

謎の悪魔プァワ〜により縄が切れないし、何より姫島先輩が怪しげな目でこちらを見ながらハァハァ言ってて怖い。

 

頑張ったよ?

俺、珍しくシリアスに頑張ったんだよっ!?

この仕打ちはあんまりだと思うの!!

 

抗議しても

 

「だって帰したらまた逃げちゃうもの。なら、このままお持ち帰りしましょ♪ 」

 

である。

こんなに心に響かないお持ち帰り宣言、俺は聞いたことがない。

 

おまけに自分たちは家に帰るのに、俺はソファーにポイして放置である。

怒ってないって言ったくせに、やっぱり怒ってるじゃないか。

モグラさんに切れないか試してもらったけど、無理だったから諦めてそのまま寝る。

悪魔とは、やはりそのままの意味で悪魔だったようだ。

 

 

 

 

ようやく放課後になり、俺の皆勤賞と共に授業も終わった。

モグラさんを頭に乗せ、簀巻きのままソファーに座って部員が来るのを待つ。

 

ぞろぞろと部室に集まってきて、最後に入って来た兵藤とアーシアちゃんが、俺の姿に驚いた所で全員揃った。

 

アーシアちゃんがこの間あげたハンカチを返してくれた。

捨てても良かったのに、やっぱり良い子だ。

簀巻き状態じゃなかったらもっと嬉しかったな。

 

ちなみに、モグラさんはアーシアちゃんの膝に乗り、塔城さんと一緒に遊んでいる。

モグラさん大人気である。

あれがモテ期か。

羨ましい。

 

グレモリー先輩が指を振ると、縄に掛けられていた悪魔プァワ〜が解除され、縄から解放される。

姫島先輩の残念そうな顔なんて視線に入らない。

入っていない。

 

「さて、カズキくん。まず、昨日は私の下僕であるイッセーを助けてくれてどうもありがとう」

 

グレモリー先輩が頭を下げ、笑顔でお礼を言ってくれた。

だったら簀巻きにするなよ。

昨日の事がなかったら、素直な気持ちでその笑顔も受け取れたのに。

 

「で、貴方何者? 悪魔や堕天使じゃないのは分かるんだけど、一般人にしては身体能力や神器の扱いが普通じゃないわ」

 

グレモリー先輩の視線が鋭くなり、アーシアちゃん以外のその場にいる全員が頭を縦に振る。

そういや見てないよね、アーシアちゃん。

 

「そんなこと言われても……俺は神器持ってるだけの人間ですよ?身体は改造されてますけど」

 

『改造!? 』

 

みんながハモる中、

「あれって冗談じゃなかったんだ」

と呟く兵藤。

冗談じゃないって言ったじゃないか。

 

自分が理解している部分だけ話したが、なにやら空気が重くなってしまった。

特に木場の雰囲気が重すぎる。

何故?

 

あ、アザゼルさんとかバラキエルさんの事は伏せたよ?

バラキエルさんからのお願いの件があるし。

 

実はバラキエルさんから

【朱乃の事をそれとなく気に掛けてくれ。ただし、バレたくないから無理はしない程度で】

とお願いされているのだ。

 

なんと姫島先輩は、バラキエルさんの実の娘さんなんだとか。

仲があまりよろしくないので、表立ってなにかを出来ないらしい。

反抗期を迎えた娘さんを持つお父さんは大変だなと思って引き受けーーー。

 

「……君、カズキ君ってば! 」

 

ふぇ?

 

「もう、急に黙るから心配したじゃない。話聞いてた? 」

 

「あ、すみません。姫島先輩の事考えて聞いてませんでした」

 

……ん? 今なんか凄いこと言わなかった俺?

 

「あらあら、まぁまぁ♪ 」

 

笑ってるからいい事にしよう。

このまま勢いで誤魔化す。

 

「で、お話ってなんですか? 」

 

「え? あ、あぁそうね。カズキ君、もし良かったら貴方も悪魔になってみない? 」

 

今なら色々とお得よ?

なんて続けて言ってくる。

悪魔……悪魔ねぇ。

 

「今は……遠慮しておきます、ちょっと怖いですし。また機会があったら誘って下さい」

 

アザゼルさんやヴァーリさん達に内緒で悪魔になったらイジメられそうで、とは言えなかった。

 

「そう……しょうがないわよね。ごめんなさい、私の思慮不足だったわ」

 

え? なんでそこで謝るの?

いや、なんで皆暗くなるの!?

アーシアちゃんなんて泣き出しちゃうし。

ほら、さっき返してくれたけどこれ使って。

いや返さなくていいよ、貰ってお願いだから!

 

「そ、そうだカズキ! 俺、お前の神器ちゃんと見てみたいんだけどっ! 」

 

兵藤が空気を変えるために提案してくれた。

でもさぁ……。

 

「もうそこにいるじゃん」

 

「は? だってお前の神器って……え? 」

 

指を差しながら言うと、全員の視線が一点に注がれる。

そこにいるのは、塔城さんの膝の上で腹を見せながらタレているモグラさん。

 

撫でられるのに満足したのか、空気を読んだのか。

てけてけと動きながら、俺の頭の上に戻ってくる。

そして指を差しながら一言。

 

「この子が俺の神器、モグラさんです」

 

俺の頭の上で、ペコリと頭を下げながら何かをサクサク食べてるモグラさん。

2人に貰ったのか知らないが、頭の上で菓子を食うんじゃない。

食べカスで凄いことになってる。

 

「かわいい……じゃなくて、言葉もちゃんと理解するのね。しかも武器に変化するなんて……こんな神器初めて見たわ」

 

グレモリー先輩にモグラさんを手渡し、食べカスを頭から払う。

先輩はその間、モグラさんを興味深げに見つめていた。

 

「え〜と……申し訳ないですけど、今日はこれで失礼しますね」

 

俺が空気に耐えきれずに立ち上がると、モグラさんがグレモリー先輩の手から飛び降り、胸ポケットに潜り込う。

 

「あら、これからパーティーするのよ? 本当は朝やるつもりだったのだけれど、予定がずれ混んじゃってね」

 

「グレモリー先輩のご厚意は嬉しいんですけど、ちょっと用事があるので」

 

「リアスで良いわよ。これからはみんなの事も名前で呼んであげてちょうだい」

 

「そうですか? ではリアス先輩。皆さんも、失礼します」

 

頭を下げて部室を出る。

パーティは惜しいが、これからタイムセールだ。

今日は牛乳とバターが安い。

久々に菓子でも作るかな。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

瀬尾カズキさん。

 

私と初めてお友達になってくれた人で、モグちゃんの飼い主さん。

イッセーさんとは、また違う。

同い年ですけど、お兄ちゃんみたいな人。

イッセーさんと一緒に私を助けてくれた、とても大切な人です。

 

私がこの町に来て、イッセーさんと出会って教会に案内して貰った後。

教会に居づらくて、近くの公園まで出かけた時に出会いました。

 

男の子を治療した私に驚くでもなく、気味悪がって避けることなく。

私がモグちゃんを見ている事に気付くと、笑顔で触らせてくれました。

 

その時話した内容を、私は絶対に忘れません。

 

落ち込んでいる私に

『後悔していないなら、間違っていないと自分が思ったのなら、それは正しい事』

そう言ってくれました。

 

そして、お友達になってくれました。

 

その時は私が泣いてしまい、持っていたハンカチを下さるとそのままお礼もいえずにお別れになってしまいました。

それ以降は会う事は出来ませんでしたが、これからは皆さんのお陰で毎日会う事が出来ます。

借りていたハンカチも、今日お返しする事が出来ました。

 

 

 

今日の部室でのお話で、カズキさんの優しさがどこから来るのか、少し分かった気がします。

 

幼い頃に知らない土地に連れ去られ、いきなり身体中を改造された上に、その施設から保護された時にはカズキさんしか残っていなかったそうです。

 

他の子はみんな死んでしまった。

生き残ったのは自分だけ。

 

その時のカズキさんの顔は、笑ってはいましたが、何か悲痛なものを感じさせて。

皆さんもつい俯いてしまいました。

カズキさんに気を使わせてしまったかもしれません。

 

 

 

カズキさんは部長さんに悪魔にならないかと誘われた時に、悪魔になるのが『怖い』と言って断っていました。

カズキさんはもしかしたら、これ以上自分が【人間】から外れるのを怖れているのかもしれません。

 

そう考えたらまた涙が溢れてしまって、カズキさんが先ほどお返ししたハンカチをまた私に渡して、頼むから貰ってくれとお願いされてしまいました。

うぅ、恥ずかしい。

泣き虫だと思われたかも知れません。

 

あと、モグちゃんが実は神器だって知って驚かされちゃいました。

可愛だけじゃなかったんですね、凄いですモグちゃん!

 

カズキさんは用事があると帰ってしまいましたが、これから皆さんがパーティを開いてくれるそうです。

カズキさんがいなくて少し残念です。

これからは、部長さんのおかげでイッセーさんのお家に住めますし、学校にまで通えるようになりました。

こんなによくしてくれる部長さん達の為にも、これから頑張っていきたいと思います。

 

悪魔になって、神様にお祈りをすると頭痛がする様になってしまいましたが、感謝せずにはいられません。

私はお祈りの為に手を組もうと、ハンカチを握りしめました。

これは、あの人と出会った日の思い出。

初めて友達が出来た記念の品。

 

私の大切な、とても大切な宝物です。

 

 

 

 

 

……あれ? よく考えたらモグちゃんがいたからイッセーさんは三人目のお友達?




カズキ「え? パーティでケーキが食べたかった? 」

モグラさん「キュイ〜……」

カズキ「クッキーとかもっと簡単なのじゃ……ダメなのね。はい、作らせていただきます。今更だけどよくお腹壊さないな」


最後の一文を書いてる時に頭によぎった単語。

「モグラに先を越された男、スパイダーマッ!」

疲れているのかもしれない。

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