腹たつのでちょっとビンタしてきます。
「それじゃあ行きましょうか、忘れ物ないですか?」
「えぇ大丈夫、昨日のうちに用意しておきましたから」
文化祭が終わってから初めての休日、俺と朱乃さんはバラキエルさんに会う為にグリゴリの研究施設に向かう事になった。
この施設は関東の山奥に新しく作った場所だそうで、アザゼルさんが『関東圏にも研究所が欲しい』とほざいた所為で造られたらしい。
シェムハザさんから愚痴が飛んでくるのは俺なんだから、もう少し自重してくれないかなあのおっさん。
スコルとハティも来たがっていたが、今日はお留守番だ。
今日はゼノヴィアが遠くまで散歩に付き合ってくれるそうだから、それで勘弁して欲しい。
モグラさんは当然の様に頭の上に居座り、絶対着いて行くとばかりにしがみついている。
そんなに爪たてなくても置いてかないってば、血が出るからやめて下さい。
「なぁカズキ、本当に俺たちも一緒に行って良かったのか? 別に今日じゃなくてもいいんだぞ?」
「そ、そうですよぅ! せっかく朱乃先輩とのお出かけなのに、邪魔したくないですぅ……」
俺が考え事をしていると、イッセーとギャスパーくんがそんな事を言い出した。
実はこの二人も一緒に行く事になっている。
なんでもギャスパーくんは自分の神器をより使いこなす為に、グリゴリの研究施設で能力について相談したいそうだ。
イッセーはその付き添いとして、半ベソのギャスパーくんに頼まれたらしい。
「気にしないでいいのよ、別にデートじゃないもの。それに出掛けたいのならいつでも出来ますから、ねぇカズキくん?」
「だそうだ、朱乃さんがいいってんだから気にしなくていいじゃね?」
「それならまぁ……いいのか、なぁ?」
イッセーは首を傾げていたが、ゴチャゴチャ言ってないでさっさと行くぞ。
事前に貰っていた転移装置で施設に移動すると、いかにもグリゴリのみんなが好きそうな近未来的な雰囲気を醸し出す部屋に出た。
扉は当然自動ドア。
空気の抜ける音と共に施設へ繋がる扉が開き、俺たちは先へと進んだ。
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「おぉ、カズキくんじゃないか! 戻ってきたのかい、おかえり」
「なんだ、とうとう女の子達から追い出されたのか? ざまぁ、ようこそ《モテない男(コチラ)の世界》へ」
「あ、聞いたよカズキくん。いくら家に綺麗な女の子が一杯いるからって、取っ替え引っ替えするなんてダメだよ?」
「あんたら揃って俺に恨みでもあるのか。てか誰だそのデマ流した奴は、大体見当つくけども」
カズキの案内に従って進んでいくと、この施設の研究員の人とすれ違う。
その度にカズキは絡まれ、頭を乱暴に撫でられたり何かと説教されたりと揉みくちゃにされている。
カズキも面倒そうな顔をしているが、なんだかんだ満更でもなさそうだ。
「カズキ先輩、なんだか嬉しそうですねぇ」
「ふふ、本当に皆さんと仲がいいのね」
ギャスパーと朱乃さんもその光景を微笑ましく見守っていて、なんだか俺まで嬉しくなってくる。
話には聞いてたけど、カズキは本当にグリゴリの人たちに大切にされてるんだな。
「あら? カズキに朱乃じゃねぇか、イッセーとギャスパーもいんのか。なんでお前らこんなトコにいるんだ?」
さっき出会った職員さんがバラキエルさんのいるという区画を教えてくれたので、そこに向けて歩いていると書類っぽい紙の束を抱えたアザゼル先生が現れた。
そういやこの人は堕天使の総督だもんな、新しい施設が出来たら視察やら何やらの仕事でここにもいるか。
「いきなりラスボスの出現か、倒したら伝説のアイテムとか手に入るかな?」
「出会い頭になんなんだお前は……」
「そうだね、この人なんちゃって総督様だからラスボスはシェムハザさんか。裏ボスはベネムネさんだな、間違いない」
「ぶっ飛ばすぞテメェ」
突然現れたかと思ったら、カズキと取っ組み合う俺らの先生。
ていうかカズキ、お前そんな事言っていいの?
「結局お前さんらは何しに来たんだ? この施設は出来たばっかで、カズキにも教えてなかった筈なんだが」
「朱乃さんがバラキエルさんに用事があるんだよ、シェムハザさんに聞いたらここに幹部が集合してるって言ってたから。ギャスパーくんは神器についての相談で、イッセーはその付き添い」
カズキが答えると先生は少し驚いた様に朱乃さんの方を見た後、ニタニタといやらしく笑い始めた。
「へ〜、バラキエルにね〜」
「……何か問題でもありますか? 変な目で見ないでください」
あ、朱乃さんがぷりぷり怒り始めてしまった。
でも本当に怒ってるわけじゃなく、照れて誤魔化してるだけだな。
朱乃さん、カズキと一緒にいるようになってからこういう年相応の反応が増えた気がする。
これが本当の朱乃さんって奴なのかもしれないな。
「おらおっさん、部下の娘にやらしい視線を向けてんな。シェムハザさんに言いつけんぞ」
「だからトップの俺より組織の人材を自由に使ってんじゃねぇよ、このクソガキ」
「久しぶりに帰ってきたと思ったら、廊下で二人して何をやっているのだ?」
カズキと先生がお互いの襟を握り込みなから至近距離でガンの飛ばし合いをしていると、先生が来た方の廊下から白衣に瓶底メガネというあからさまに研究者っぽい人が話しかけて来た。
「あ、サハリエルさん。お久しぶり」
「久しぶりなのだカズ坊、モグラさんも元気にしてたのだ? それとアザゼル、例の資料が集まったからサインをくれなのだ」
「あ〜はいはい、サンキューなサハリエル」
二人はサハリエルさんに気付くと互いに手を離し、カズキは挨拶先生は渡された紙にサインを記入していく。
「え〜とカズキ、こちらはどなた……?」
「この人は幹部の一人であるサハリエルさん、月に関わる術式とか月そのものを研究してる。サハリエルさん、こいつが赤龍帝の兵藤一誠。こっちの小さいのがギャスパー・ヴラディ、吸血鬼で男の娘だ」
「赤龍帝は知っているのだ。はじめまして兵藤一誠氏、御武勇は聞いておりますのだ。それとギャスパー……くん、でいいのだ? 君にはちょっと実験に付き合って貰いたいのだ……!」
「ひ、ひいぃぃぃ! ぼ、僕改造されちゃうんですかぁ……!?」
サハリエルさんは俺に挨拶した後ギャスパーの手を取りながら何処かへ拉致しようとしたが、前もって察知していたカズキがそれを止める。
な、なんか堕天使幹部ってこんな変わった人もいるんだなぁ。
「まだ全員の紹介終わってないんだからギャスパーくん連れてこうとしないの。そんでもって–––」
「初めまして、あのヒト……父が、お世話になっております。バラキエルの娘の姫島朱乃と申します」
「あー、バラさんの。噂では聞いてたけど、こりゃ美人さんなのだねー。そりゃ溺愛しちまうのだよ、今日はバラさんに娘さんを貰いにきたのだ?」
朱乃さんが挨拶した途端、サハリエルさんがとんでもない事を言い出した。
でもそうか、もしカズキが朱乃さんと付き合うなら、バラキエルさんに許可を貰いに行くのか。
堕天使幹部から娘さんを貰う、想像しただけで大変だな。
まぁ俺もぶちょ……リ、リアスをお嫁に貰うなら、グレモリー家に挨拶しに行かなきゃ行けないんだから同じかも。
というか、未だにカズキが誰が好きなのかわからない。
朱乃さんともいい感じだけど、ゼノヴィアやロスヴァイセさんともそんな感じだ。
それにソーナ会長とも噂があったし……あいつそういう話したがらないから、よくわかんないんだよなぁ。
「なんでそうなんのさ。朱乃さんが用事があるっていうから、一緒に来ただけ……あの、朱乃さん? 気付いてないかもしれないけど、俺の足踵で思いっきり踏んでるよ?」
「あら、ごめんなさい。気付きませんでした、大丈夫?」
「い、いえ……気にしないで下さい」
カズキは踏みつけられた足をプルプルとさせながら、朱乃さんから少しだけ距離を取った。
俺には朱乃さんがカズキの足目掛けて踵で踏みつけた様にしか見えなかったんだが……ワザとじゃないらしい。
あ、朱乃さんの愛が怖い。
「ほいよ、サインしたから後はお前の好きな様に進めていいぜ」
「しっしっし! 助かるのだ、これで色々と研究が捗るのだ。ギャスパーくんも一緒に来るのだ、カズ坊の友人ならキッチリお悩み解決してあげるのだ」
「は、はい! カズキ先輩、朱乃さん、連れてきてくれてありがとうございました! イッセー先輩も、ここからは僕一人で頑張ります!」
「おう、気張れよギャスパー!」
ギャスパーはカズキと朱乃さんに頭を下げた後、俺に手を振りながらサハリエルさんの後ろについて行った。
あいつも強くなろうと頑張ってるんだ、俺ももっと頼れる先輩にならないと。
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「暫く見ない間に、随分と立派になったんじゃないか?」
「そういう事言ってくれるの、タミエルさんとシェムハザさんだけですよ」
「それで今日は赤龍帝ちゃんと朱乃ちゃんまで連れてどうしたの? 遂にバラキエルに『お嬢さんを下さい』って言いに来たわけ? バラキエル泣いちゃうわね!」
「やめて下さい、その質問は俺の足に効く。つうかそれならイッセー連れてくる訳ないでしょ? あと無闇矢鱈に頭を撫でないでくださいってば!」
ギャスパーくんと別れた後、先生が幹部用の会議室に案内してくれました。
しかしそこにいたのは父ではなく、以前会った事のあるベネムネさんと綺麗なブロンドで頭部にサークレットを装着した長身の男性だった。
その方も幹部の一人で、名前はタミエルさん。
やはりカズキくんとは知り合いで、嬉しそうにカズキくんの肩をポンポンと叩きながら再会の挨拶をしている。
ベネムネさんは相変わらずカズキくんを猫可愛がりしていて、頭をしこたま撫でてはカズキくんに不満顔されている。
ここを訪ねて来てからずっと感じている事ですが、誰もが彼の事を受け入れ歓迎している。
ここは、彼の帰ってこられる場所なんでしょう。
私たちの住んでいるあの家も、彼の帰る場所になれているんだろうか?
ついそんな事を考えていると、ベネムネさんが私に対して手招きをしてくる。
「朱乃ちゃん、ちょっとこっちにいらっしゃい。バラキエルについて、というかあの夫婦についてちょっとお話ししてあげるわ♪ 」
「夫婦について、ですか?」
なんでしょう、夫婦というのだから母さまの事も含まれているのでしょうけど……検討がつきません。
ベネムネさんの表情と性格から考えて、この方が面白い事なのでしょうが。
カズキくんとイッセーくんが離れた所で先生と話をしている間、私はベネムネさんの元でお話しをする事にしました。
……なるほど。
大変興味深い、素晴らしいお話しを聞く事が出来ました。
向こうの話も終わったらしく、父がいるというトレーニングルームに行く事に。
何故かカズキくんとイッセーくんが私の顔を見て怯えているように感じますが、きっと気のせいでしょう。
うふふ……ちょっと、父の元へ行く楽しみが増えてしまいました。
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おかしい。
こんなのは間違っている。
なんでこんな事になったんだ。
色々あってようやくバラキエルさんに会う事は出来た。
朱乃さんが持ってきたお弁当を、涙を流しながらがっつく姿に心打たれて。
この親子もようやく打ち解けてきたんだなと、安心していたのに。
それなのに……!
「うふふふふ! まさか父さまが生前の母さまとこんな遊びをしていたなんて! さすがは堕天使といった所かしら! 今日は私が母さまに代わって、思う存分ベシベシしてさしあげますわ!」
「ああ、朱乃! 料理だけでなく、鞭捌きまで朱璃に似てくるなんて! 私は、私はなんて幸せ者なんだ! いい、とてもいいぞぉぉぉっ!」
なんで俺は恩人と同居人のSMプレイを見せられなきゃならんのだ!
朱乃さんがドSなのは知ってたけど、バラキエルさんがあんなのとか信じたくねぇ!
なんの罰ゲームだドチクショウ!!
確かに昔から『バラキエルさんってすごい真面目なのに、なんで堕天したんだろうな〜』って思っちゃいたよ?
何かあったのかな〜って子供ながらに思ってましたよ?
でもさ、まさかドMだから堕天したなんて思う訳ないじゃん!?
一生知りたくなかったわこんな真実ッ!!
「ちょ、カズキ! ショック受けてるのは見てりゃわかるけど、頼むから俺を助けてくれ! このままじゃ俺、アルマロスさんに改造されちゃうよ!?」
『フフフ……とうとう俺は戦車と合体してしまうのか……おっぱいドラゴン戦車とか涙が止まらん……なぁ白いの、俺は何処に向かって行くんだろうな……?』
「なんだか僕、生まれ変わった気分です! これからは段ボールミサイルヴァンパイアとして、日々精進していきたいと–––」
なんだか周りが騒がしいけど、今の俺にはどうでもいい事だ。
友達の悲鳴や苦悩の言葉も、後輩のよく分からない宣言も聞こえない。
小さい頃からの恩人の痴態や、親しい女性の愉しむ姿なんかも当然見える訳がない。
そして何も感じたくなくなったので–––そのうち俺は、考えるのをやめた。
活動報告にて、間話でやるお題を募集します。
こんな話が見たい、〜と〜がメインの話を等々ご希望をお書き込み下さい。
例:鉄鍋のカズキ〜料理は勝負だ〜
モグラさんとフェンリル′sのはじめてのおつかいetc……
後日希望の中からどれがいいかのアンケートを取るので、出来ればご協力下さい。