モグラだってドラゴン名乗っていいじゃない!   作:すこっぷ

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リクエスト作品、完成しました。
正直こういう企画やるなら区切りのいい10でやればよかったと思わないでもないですが、気にせず投稿させて頂きます!


間話11

文化祭が終わってから数日経った、とある休日。

空は快晴、暑過ぎず寒過ぎない素晴らしい天気。

そんな出掛けるのに最適な環境で私ゼノヴィアは、一緒に生活をしている朱乃さん、ロスヴァイセさんと一緒に近くの駅へとやってきている。

 

休日だけあって駅前には多くの人で賑わっていて、人それぞれが思い思いの休日を楽しんでいる。

でもなぜだろう、私たちの周りだけ人が少ない。

以前アーシアやイリナと遠出した時は、軟弱な男がやたらと声を掛けてきたりと鬱陶しかったものなのだが……まぁ邪魔がないのはいい事だ。

なぜか遠巻きに見られている気もするが、きっと気のせいだろう。

 

「あの、ゼノヴィアさん? この格好はかえって目立つと思うんですが……」

 

「何を言うんだロスヴァイセさん、この格好はリアス部長がアドバイスしてくれたものだぞ? きっと間違いはない」

 

「リアスったら……いえ、あの子時々抜けてるから、これも本気なのかも」

 

ロスヴァイセさんと朱乃さんが何やら呟いているが、今はそんな事を気にしている時ではない。

何せ今日は、重大な任務に臨まなければならない。

 

任務内容はターゲットである男性の監視、及び行動目的を探る事。

この男、凄まじい手練の上に恐ろしく勘が鋭い。

わたし一人では荷が重いと判断し、朱乃さんとロスヴァイセさんに同行を求めた次第だ。

ターゲットが立ち止まってからそろそろ一時間経つ。

私の情報が間違いなければ、間も無くとある人物と接触する筈なんだが……

 

「あら? カズキくん、もう着いていたんですか?」

 

「あぁ会長さん、こんにちは」

 

どうやら接触した様だ。

そう、今回のターゲットとはカズキ。

そして接触対象は駒王学園生徒会所属、ソーナ・シトリー会長だ。

 

あろう事かあの男、私たちという物がありながら今日はソーナ会長とデートするつもりなのだ。

先日カズキが風呂に入っている時に、カズキの携帯画面に会長の名前が出た時はどうしようかと慌てた物だ。

最初はメールを開いて確認しようかと思ったのだが、桐生が貸してくれた雑誌に『勝手に携帯を見るのは×!』と書いてあったのを思い出し伸ばした手を引っ込めた。

その後すぐにこの事を朱乃さんとロスヴァイセさんに相談した結果、当日カズキが出掛けてから尾行する事になったのだ。

 

「早いですねカズキくん、まだ待ち合わせまで三十分はありますよ?」

 

「待ち合わせしてるのに女性より後に来る男はクズだと、ベネムネさんに叩き込まれたもので」

 

ソーナ会長は腕時計を確認しながら尋ね、カズキはそれに肩を竦めながら答える。

なんだろう。

その光景が妙に様になっていて、なんだかとっても面白くない。

 

「それは、デートの時の話では?」

 

「男と女が二人で出掛けりゃ理由は何であれデートみたいなもんでしょう? まぁ取り敢えず揃ったんですし、ちょっと早いけど移動しますか?」

 

「ふふ、そうですね。行きましょうか」

 

カズキとソーナ会長はいくつか言葉を交わした後、二人並んで駅へと歩いて行った。

 

「ぐぬぬ……なんだあれは! 私と出掛ける時は、早く出たりなんてした事ないくせに!」

 

「あの……いつも同じ家から出発するんですから、待ち合わせのしようがないのでは……?」

 

「それよりも急ぎましょう、このままでは二人を見失ってしまうわ」

 

む、それはいかん!

私たちは隠れていた物陰から飛び出し、駅の中へ消えた二人の後を追おうとする。

すると、私たちと同時に別の物陰から誰かが飛び出してきた。

お互いにビックリして動きを止めてしまったが、その顔に見覚えがあった。

 

「うぉ!? っと、あれ? あなた達は……!」

 

「お前は確か……匙元士郎?」

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

やぁ、みんな!

俺の名前は匙元士郎!

駒王学園生徒会書記にして、そこの会長である上級悪魔ソーナ・シトリー様の《兵士》をやらせてもらってる高校二年の新人悪魔だ!

会長は厳しくて厳しくて時々厳しいけど、いつかこの人に頼られる男になるのが俺の夢なんだ!

 

「嘘つけ、お前こないだ『会長とできちゃった結婚するのが夢』って言ってたじゃねぇか」

 

「やめろぉ! 爽やかな感じでいこうとしてる時に、そう言う事言うのはやめろぉ! 俺にはちゃんと『教師になる』って夢もあるッ!!」

 

「でき婚の所を否定しないのは評価してやろう。ホレ、腕立て三百追加な」

 

「なんでだよ!?」

 

「え、なに? 冥界に行かされる前にわざわざ特訓付き合ってあげてるこの優しい俺に、なんか文句があるのかね?」

 

「うぐ……ない、です」

 

「素直でよろしい、追加は二百にまけてやろう」

 

「ドチクショウッ!!」

 

俺は泣き言を漏らしつつ、カズキの飼ってるフェンリル二匹を背に乗せたまま腕立て伏せを続ける。

この傍若無人で唯我独尊な男の名前は、瀬尾カズキ。

今は堕天使になったけど、人間の頃からアホみたいに強い変態じみた奴。

色々と世話をかけたりかけられたりしていて、最近よく一緒につるんでる友達でもあり、当面の俺の目標だ。

 

カズキは本当に強い。

俺と同期の悪魔である兵藤は赤龍帝の力を使いこなしパワーや破壊力で群を抜いてるが、カズキの強さは少し違うと思う。

何と言うかこう地の力を鍛えるというか、鍛錬の賜物って感じの『練り上げられた強さ』っていうか……上手く言えないけど、なんかそんな感じだ。

 

もちろん兵藤が赤龍帝の力にあぐらをかいてるなんて言う気はない。

あいつの気合いと根性は素直に尊敬してるし、成長スピードや自分の夢に対する想いは凄まじい物があると思う。

以前レーティングゲームした時はギリギリ勝てた(殆ど引き分けだったけど)が、今やったら多分勝てない。

というか、ほぼ間違いなく力に押し潰されてボロ負けするだろう。

 

そんな兵藤すら、カズキには模擬戦でボロカスにされる。

肉弾戦ではどんなにフェイントを織り交ぜて攻撃しても、先を読みきられてカウンターで倍返しにされるからだ。

もちろん何でもアリなら勝負はわからないかも知れないが、それでも勝てる気がしないと兵藤とドライグは言っていた。

 

そんなカズキだが、天才かと言うとそうでもないらしい。

堕天使の総督であるアザゼル先生は、カズキの強さは『積み上げられた経験による強さ』だと言っていた。

カズキは十歳の頃からグリゴリの施設で育ち、そこで堕天使の幹部や白龍皇、孫悟空なんかと訓練しながら五年間生活した。

そこで自分よりも速い相手を捉える感覚と、自分よりも力の強い相手を翻弄できる技術と駆け引きを身につけたのだと言う。

 

アザゼル先生曰く、カズキは『鍛錬次第で誰もが到達出来うる極地の一つ』なんだそうだ。

だったら、俺にだって近づく事は出来るはずだ!

追い越せないまでも、追いつける様に頑張る事は出来るはずなんだ!

努力して努力して努力し続けて、いつかこいつに並んで見せる!!

そしたらいつか会長も振り向いて……!

 

「あぁそうだ、言ってなかったけど明日は用事あるから、お前の訓練付き合ってやれない」

 

俺が必死に腕立て伏せをやっていると、カズキが突然思い出した様にそんな事を言ってくる。

なんだろう、なんだか何時もと様子が違う気がする。

 

「へ? 明日って日曜だろ? また新しい仕事でも入ったのか?」

 

「んぁ〜……まぁ、そんなトコ」

 

「……? まぁいいや、気にせず頑張ってこいよ」

 

違和感を覚えつつも、その時の俺は体力的にキツかった事もありその場はそれで終わった。

だがその後、俺は見てしまったんだ。

カズキに頼まれてタオルをとってやる時に、たまたま目に入ってしまった携帯の液晶。

そこに表示された名前は、『会長さん』。

 

それだけだったらなんの問題ない、メールのやり取りなんて今どき誰だってする。

だが次の瞬間、俺は頭を鈍器で殴られた様な衝撃を受けた。

書かれていた件名は『明日の待ち合わせについて』。

 

冥界の番組?

いや、明日は収録はないと会長自身がいっていた。

単に用事があった?

それならなんでカズキはさっき俺が聞いた時にはぐらかした。

 

……ははは。

そうか、そういう事か。

用事ってのはつまり、二人でこっそりデートって事なんだな。

わかったわかった、全て把握した。

 

 

 

 

 

一人で簡単に幸せに、なんて……なれると思っていないよな……?

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

「なるほど、それでそちらも後を追っていたのですね?」

 

「カズキは以前『男友達が幸せになろうとしたら全力で妨害する、そういう友情もある』って言いながら、クラスの男子のラブレター強奪に加担していた。なら当然、自分がそういう目に遭う覚悟は出来てる筈だ」

 

「あぁ、それなら私も見ていた。最後はカズキも『お前もモテてムカつくんじゃ!』と言われて、クラス中の男子から狙われていたな」

 

「学校で何をしてるんですか、カズキくんは……」

 

只今電車で移動中。

カズキくんたちに見つからない様に、一つ隣の車両に乗っています。

朱乃さんは目が虚ろな匙くんの話を聞いて納得した様に頷き、ゼノヴィアさんの話を聞いた私は頭が痛くなりこめかみを指で押さえながら深く溜息を吐く。

まったくもう、そんな事ばかりしているのに成績はいいからイマイチ怒りにくい。

……っと、結構揺れますね。

 

「ふふふ、なんですかそれ……きゃ!?」

 

「っと、会長さん大丈夫ですか? この電車結構揺れますから、ちゃんと手すり握った方がいいですよ」

 

「ご、ごめんなさいカズキくん」

 

「いえいえ。女性一人くらいなら支えられますよ、鍛えてますから」

 

突然の揺れで態勢を崩したソーナさんを、カズキくんが抱き留め支えてあげている。

やっぱり男の子ですね、頼りになります。

でもなんでしょう、二人を見ると少しばかり胸がざわつきます。

むぅ……ちょっとソーナさんが羨ましい。

 

「カ、カズキの野郎! ドサクサに紛れて会長に抱き着きやがった!?」

 

「あれが『セクハラ』という奴か、現行犯だなよし斬ろう」

 

「あらあらうふふ、カズキくんたら大胆なんだから……」

 

「いえあの、今のは電車の揺れで倒れかけたソーナさんを支えてあげただけですから……」

 

取り敢えず私が今日やらなきゃいけない事は、この三人がヒトの道を外れない様にする事でしょうか。

はぁ……マネージャーって、こんな事にも気を使わなければならない物なのでしょうか?

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

「あら、このパスタ美味しい」

 

「でしょ? クラスの奴に教えてもらってから何回か来てるんですけど、ここの凄い美味しいんですよ」

 

ケッ、何がパスタだ!

ラーメンのが美味いってんだよ、ちくしょうめ!

 

「うぉ、冷たッ!?」

 

「ふふ、お昼のお返しです。冷えてて美味しいですよ?」

 

「こりゃドーモ。うはぁ〜、身体に染み渡るぅ〜……」

 

会長にジュースを奢ってもらうだと!?

俺だって頑張りに頑張り抜いた時にしか貰えない上に、ほっぺに缶をくっつけるなんていう青春っぽいサービスまで……ちくしょうっ!!

 

「これなんてどうでしょう? 機能性や利便性に優れていると思うのですが……」

 

「ん〜……使うかなぁ? こっちなんてどうです?」

 

「なるほど、そういう物もあるのですね……やはりカズキくんと一緒に来て正解でした」

 

商品を一つずつ手に取っては、顔を寄せ合ってあれこれ相談しあってる……いいなぁ、羨ましいなぁ……ぢぐじょう゛ッ!!

 

「なぁ二人とも、匙の奴が血の涙を流していて怖いんだが……」

 

「想いが目から溢れているのよ、そっとしておいてあげましょう?」

 

「匙くんのおかげで、二人が冷静になってる……よかった、でいいのでしょうか? ひぃ、こっち見た!?」

 

なんだ、なんなんだあの光景は!?

なんで俺は想い人と友人の仲睦まじい姿を、こんなにもまじまじと見せ付けられなければいけないんだ!?

しかもその二人の姿がやけに絵になっていて、つい自分でもお似合いだなと思っちまうのが更に悔しい!

 

なんか会長もすごい楽しそうだし……何やってんだろう、俺。

そうだ、ここは想い人の幸せを願って大人しく身を引くのが男ってもんじゃないか。

カズキならきっと会長を幸せにしてくれる、なら俺はもう……。

 

「む、移動を始めたぞ。あっちの方角は……なに!?」

 

「そんな、あそこは……」

 

「ホ、ホテル街ぃぃぃ!?」

 

「追うぞオラァ!!」

 

なんて簡単に諦めきれるわけねぇだろうが!

何のために今まで頑張ってきたと思ってんだ!?

ふざけんな、会長の処女は俺のもんだぁ!!

 

 

 

 

 

 

「さて、四人とも。簡単に釣り上げられた気分はどうだ?」

 

「「「「スミマセンデシタ……」」」」

 

はい、罠でした。

俺たちがついて来ているのを初めから分かっていたカズキが、俺たちをおびき出す為の行動にみんなして喰いついてしまった。

当然カズキはホテル街なんかに行く気はなく、今いるのはその手前にあるそれなりに大きな公園。

そこで俺たち四人は纏めてとっ捕まり、ベンチに座る会長とその横に仁王立ちしているカズキの前で正座させられている。

 

聞けば朝からずっと気付いていたというじゃないか。

ちくしょう、思いっきりカズキの掌の上で踊らされてた……!

 

「全く、あんなバレバレの尾行しやがって。やるならもっと上手くやれ。俺たちが近付くたびにアタフタするのが面白くて、笑いを堪えるのが大変だったんだぞ?」

 

え、そこなの?

怒るポイントそこなの?

 

「あの、もうそのくらいで……みなさん反省してるでしょうし」

 

うぅ、流石は会長だ!

何時もは厳しくて厳しいけど、俺にとっては天使です!

 

「まぁ会長がいいならいいですけど……」

 

「それなら、その話はこれでおしまいです。それにせっかく匙もいますから、この場で渡しちゃいますね?」

 

渡すって何を……?

俺がマヌケ面を浮かべていると、会長はカズキが持っていた紙袋を受け取り俺の前に差し出してきた。

 

「匙、いつも生徒会や悪魔の仕事を頑張ってくれてありがとう。先日のレーティングゲームでも、貴方の存在にとても助けられました。これはその御礼です」

 

俺は思考が纏まらないまま、ゆっくりと手を伸ばしてその紙袋を受け取る。

それを暫く見つめた後、俺はゆっくりと口を開いた。

 

「御礼って……もしかして、今日はこれを買う為に?」

 

「ええ、そうですよ。何を送ればいいのか悩んでいたら、カズキくんが声を掛けてくれたんです。『自分も家の人たちに贈る物に悩んでるんで相談に乗ってください』って」

 

そうか……そうだったのか。

だから色んな店を回って二人で相談してたのか……。

 

「あら? ということは……」

 

「私たちにも、贈り物が?」

 

「おう、もちろんあるぞ。俺のセンスだけだと怪しいからな、会長さんと相談しながら俺が選んだスペシャルな奴だ」

 

「おおぉ、カズキ! 私は信じていたぞ、お前が浮気なんてする筈ないと!!」

 

「嘘こけ、うっかり剣士。どうせお前が騒ぎの元凶だろ?」

 

「なぜわかった!? いや、その件についてはちゃんと謝るから、早くプレゼントとやらを見せてくれ!」

 

「やかましい、家まで我慢しなさい」

 

『ブーブーッ!!』

 

「朱乃さんとロスヴァイセさんまでなにやってんですか……」

 

カズキが紙袋を見せつけるように掲げるとゼノヴィアさんが飛び掛るように抱きつき、それをカズキが頭を押さえつけながらなだめていた。

そしてプレゼントを確認しようと、三人ともカズキに群がり……って、そうだ!

 

「ありがとうございます、会長! その、中身見てもいいですか!?」

 

「構いませんが……その、生憎と男性に贈り物なんてしたことがなかったので、気に入らなかったらごめんなさい」

 

「何言ってんですか! 会長から貰ったものなら、何だって大切に……うおぉ、タオルだーッ!!」

 

包装紙を傷付けない様に丁寧に剥がし中身を拝見すると、有名なメーカーのロゴが入ったスポーツタオルだった。

嬉しさのあまり、タオルを頭上に掲げながら広げてしまった。

 

「カズキくんが『コレだったら、きっと擦り切れるまで使い切りますよ』といっていたので、デザインは私が選んだのですが……どうです?」

 

会長は少し不安そうな顔で聞いてくるが、不満なんてある筈がない!

会長が俺の為に、俺だけの為に選んでくれたものなんだから!

 

「最高です! 本当にありがとうございます、一生大切にします!!」

 

「ふふ、匙は大袈裟ですね」

 

俺の返事を聞いて、会長は口元を手で隠しながら笑っていた。

あぁ、今日はなんて最高なんだ!

俺、これからも会長についていきますッ!!

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

今日はカズキくんと一緒に、遠くのデパートまで買い物に出掛けました。

ずっと尾行さられていたのは少し恥ずかしかったですが、プレゼントも無事に選べたしそれをあげた匙はすごく喜んでくれた。

今日一日、歩き回った甲斐があったというものです。

他の眷属の子たちに渡す物も用意できたし、今日は大変充実した一日でした。

 

自宅に着いた後椿姫から電話があったので、今日の出来事を話してみた。

すると椿姫はやたらと興奮しながら、どうだったのかと尋ねてきた。

楽しかったと答えたら、そういう事じゃないと叱られてしまった。

私にどうしろと言うのでしょうか。

 

カズキくんをどう思っているのか、ですか?

私の数少ない男性の友人、でしょうか?

ですが、それだとどうにも他人行儀な感じがしますね。

彼には色々と助けられてますし、もう少しこう……うぅ、上手く言葉に出来ません。

 

はい? 好きなんじゃないのか?

そういったものではないと思いますが……生憎と、未だに恋というものをした事のない私には難しい話です。

確かに彼と話したりするのは楽しいですが、それが恋愛感情なのかと言われると首を傾げてしまう。

 

今日あった事を思い浮かべろ、ですか。

今日は……そうですね、電車に乗った時に態勢を崩してしまったのですが、支えて貰いました。

抱きつく様な態勢にはなりましたが、そもそも事故ですし彼も動揺した様子はありませんでしたよ?

男性はそういう時嬉しくてもなんでもない様な顔をするもの……なるほど、勉強になります。

 

あとはお昼をご馳走になったり、お礼にジュースを渡したり……あぁ、最後に今日のお礼だと言われてヘアピンを貰いました。

そのくらいでしょうか……っなんですか、いきなりそんな声を出して。

それはもう完全にデート?

そう、なのでしょうか?

そういえば、カズキくんも最初にそんな事を言っていた様な……だから大きな声を出さないで。

 

いえ、別に告白などはしてもいないしされてもないです。

というか、何故そんな話になるんですか?

私たちはただのお友達ですよ、それじゃあ切りますね?

 

私は電話越しで騒ぐ椿姫の声を無視して、通話の終了ボタンを押す。

全く、そんなに興奮する様な話ではないでしょうに。

他人事なら、私も似た様な反応をするのでしょうか?

リアスは兵藤くんとの事を全て話してくるので、余り参考になりませんし。

 

でも、そうですね。

電車で抱きとめられた時は、照れというか恥ずかしさというか……胸の中で、よくわからない感覚が湧いてきました。

あれはなんだったのか……今考えても、よく分からないです。

今日はもうお風呂に入ったら寝てしまいましょう、なんだか無性にシャワーを浴びたくなりました。

 

私は鞄を机に置き、メガネとヘアピンを外す。

そしてカズキくんから貰ったヘアピンを袋から取り出して少し見つめた後、机の引き出しにしまった。

使わないのも失礼だと思いますが、これはもう少し大切に取っておくとしましょう。

私は一人そう思った後、シャワーを浴びるべく浴室へと向かった。




別にカズキと会長さんが主役だなんて言ってない。
匙くんが主役っぽい気がしないでもないが、カズキと会長さんが一緒に出掛けたから嘘は言ってない!
理論武装と言う名の言い訳ですね、はい。

最初はタイトル詐欺とばかりに全員暴走させて大乱闘させようとしたのですが、それを見せた友人に全力で反対され全文消去という残虐ファイトの餌食になりました。

ちなみに朱乃さんたちへのプレゼントは、帰宅後に無事手渡されました。
朱乃さんには新しいエプロン、ゼノヴィアにはオシャレなベレー帽、ロスヴァイセさんにはちょっと高価なタイピンが贈られました。
概ね好評でしたが、朱乃さんが貰ったエプロンで裸エプロンを披露したせいで一騒動起きました。

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