俺の名前はゲオルク、偉大なる英雄を祖先に持つ魔法使いだ。
今はテロリスト組織『禍の団』の派閥の一つ、英雄派に所属し日々研鑽を続けている。
ここには様々な偉業を成し遂げた英雄の子孫たちが多数在籍しており、『人間のまま、どこまで高みに昇り詰める事が出来るか』という理念の元に集っている。
今回は我らの派閥の長、曹操が以前から語っていた『無限の存在は倒し得るのか?』という疑問に答えを出すべく無限の龍神に挑む事になった。
人間の身であの様なバケモノに挑むなど自殺行為にも程があるが、それを成してこそ偉大な祖先に僅かでも近付けるというものだ。
準備にかなりの時間と労力を費やしてきたこの計画だが、白龍皇であるヴァーリや赤龍帝の仲間たちに妨害されつつもなんとかオーフィスの無力化に成功した。
あれだけの面々を相手にこれといった傷も受けずに目標を達成する辺り、彼も大概常軌を逸した存在だと思う。
今回の計画でサマエルを貸し出し助力してくれた冥府の神ハーデスの要望により、力を絞り切ったオーフィスを死神たちに引き渡す手筈となっている。
あの骸骨神が絞りカスのオーフィスを使って何を考えているか知った事ではないが、碌なことでないのは確かだ。
何はともあれすぐに片付く楽な取引だった筈なんだが、ここで曹操の悪癖である『遊び癖』が出てしまい少々面倒な事になった。
撃破した赤龍帝たちに敢えてトドメを刺さず、『死神が蠢くこのフィールドからオーフィスを庇いつつ、見事逃げきって見せろ』と言い出したのだ。
オマケに自分と入れ替わりでジークフリートをここに呼び、俺と共に死神たちに協力しろとまで言ってくる始末。
不合理にも程があるが上司の指示では仕方ない、それに気になる者も残っている。
元は人間の身でありながら数多の強敵を屠り、死の際すら神の雷を取り込む事で乗り越え堕天使へ転生した男。
曹操とは違う意味での規格外、瀬尾一輝。
先程の曹操との戦闘ではつまらない敗れ方を晒したが、激情に流され力任せに暴れたあれは彼の本来の戦い方ではない。
彼はもっと狡猾に罠を張り、相手を術中に陥れる等の搦め手を好む人間だ。
一度仕切り直した事によりどんな策を弄してくるのかと、懸念と期待が入り混じった様な複雑な感情を自分の中に感じていた。
一体どんな事をしてくるのか、どの様な策でこの圧倒的に不利な状況に挑むのかと。
しかしその実態は、私の予想など実に容易く飛び越えていた……!
「そらオーフィス、次はあそこら辺だ。イッセーたちに当てない様にぶっ放せ」
「了解。我、死神に、ぶっ放す」
彼が死神たちの固まってる辺りを指差すと、肩に跨っているオーフィスが掌からとんでもない波動を放っていく。
オーフィスの手元が輝く度に死神が纏めて消し飛び、そこに赤龍帝が放つ攻撃も合わさり俺の張ったフィールドを形成する結界が悲鳴をあげている。
相変わらず赤龍帝の攻撃力は馬鹿げているが、何故力を搾り取られたオーフィスまであの様な力が残っているんだ!
確かにオーフィスの力の大半を抜き出した筈なのに……またあの男に、何かしてやられたのか!?
「いやぁこれ楽しいし楽でいいわ、正にサテ○イトキャ○ン。オーフィス、次はあっちの集団だ。イッセーが近くにいるから気を付けてね、最悪死ななきゃいいけど」
「ちょっと待って!? 龍神さまの攻撃なんて受けたら、いくらこの鎧着てても蒸発しちゃうから!」
「わざわざ近付いて肩を揺さぶるな、オーフィスが落ちる。大丈夫やれるって、その訳分かんない乳パワーでなんとかしろよ……ってほら、遊んでるから敵さんが近寄って–––」
「我、死神に、ぶっ放す」
「「ちょっ、オーフィスさん!?」」
何やら揉めているかと思ったら、彼らを中心に物凄い爆発が起きた。
辺りに響き渡る轟音がようやく静まり、周囲に舞い上がった土埃も晴れてくる。
視界が開けて目に入ってきたのは一面荒地に成り果てたフィールドと、ほぼ無傷の赤龍帝の仲間たち。
そして身体から煙を立ち昇らせつつ地面に伏している赤龍帝と瀬尾一輝に、そんな黒焦げの二人の背中に座っているオーフィス。
……なるほど。
仲間と己を囮にして敵を引きつけ、釣れたと同時に自分たちごと爆破したのか。
全くとんでもない策略だ、とても真似出来ないな。
やはり彼を–––
「……なぁゲオルク。前から思ってたんだが、君は少し瀬尾一輝に対しての評価がおかしくないかな?」
俺が感心していると、避難していたジークフリートが何やら気まずそうに話しかけてきた。
「おかしい? どのように?」
「何というかこう、良い方に捉えすぎてないかな? 今のなんてどう見ても内輪揉めした挙句、勝手に自滅しただけにしか見えないんだが……」
「それは彼がそう見えるように仕向けているのさ、そこが彼の恐ろしい所だ」
「いや、それは……うん、それならそういう事にしておこうか」
ジークフリートはまだ何か言いたげだったが、それっきり黙ってしまった。
私は一度彼を軽く見て状況をひっくり返されたのだ、二度と同じ過ちを犯すつもりはない。
しかし賞賛ばかりもしていられないのも確かだ。
赤龍帝とリアス・グレモリーの新たな力とオーフィスにより、死神の大半が敗れ去ってしまった。
さて、これからどうしたものか……ん?
なんだ、結界に異常が……これは!?
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うう、酷い目にあった。
イッセーのせいで俺までオーフィスの爆撃喰らったじゃないか、後でシメる。
だいたいさ、なんなんだよ乳(ニュー)パワーって。
アザゼルさんが提唱してるとかどうでもいいわ、そんないかがわしい力なんてポイしちゃいなさい。
しかもそれでキッチリ強くなるからタチが悪い。
なんでリアス先輩の乳からビーム出てんの?
なんでそのビームを受けたお前は強くなってんの?
正確にはビームを浴びると、消費したオーラが回復して砲撃打ち放題になるって事なんだけど。
ただしその力を使う時、リアス先輩にはある代償が伴われる。
ビームを出した分だけ、胸が縮むのだ。
うん、何を言ってるのか自分でもわからないけども。
とにかく出した分だけ縮むんですよ、だからなんだって話ですが。
まぁそんなイッセーの活躍もあり、辺りにあった建物やら舗装された道は全て破壊され辺り一帯荒地でございます。
周りの空間もミシミシ音立ててるし、ドライグはリアス先輩のおっぱいビームの影響か『おっぱい、たのちーなぁ』とか言い出すしでまさに地獄絵図って奴だ。
イッセーはいっぺんドライグにぶん殴られればいいと思う、無理なら俺が代わりに殴ってあげるから。
しかし英雄派の二人、陰険メガネことゲオルクとジークフリートはなんやかんやで追い詰めた。
いつの間にか現れてた最上級死神とかいうのもアザゼルさんが相手してくれてるし、これで詰みだな。
「グレモリー眷属……いや、赤龍帝とリアス・グレモリーはなんて恐ろしいんだ。召喚に応じるばかりか、赤龍帝のオーラを回復させる胸とは」
「全くだね。このまま放置していたら、いったいどんな機能があの胸に搭載されるか分かったものじゃない」
敵さんからも酷い言われようだ、まぁ味方のアザゼルさんからも『おっぱいバッテリー』とか言われてたしね。
ビームの出し過ぎでぺったんこになった胸を見てイッセーは号泣し、リアス先輩は敵からのあんまりな言葉を受けて赤くなった顔を両手で覆っている。
アザゼルさんが投降を促そうとしたその時、バチバチという放電音の様なものが辺りに響き渡った。
音のする方を見上げると、空間にポッカリと穴が……俺が京都でやったのと同じ現象かな?
つまり敵さんのおかわり?
でもゲオルクたちも驚いた様子で出現した穴を見つめてるし、向こうにとっても予想外の事態って事か。
暫くすると穴の中から軽鎧にマントを羽織った男が現れ、イッセーたちにどよめきが起こる。
「久しいな、赤龍帝。そしてヴァーリよ」
その男はイッセーを睨みつけた後、後方で黒歌さんたちと待機しているヴァーリさんに対しても同様の視線を送る。
「アザゼルさん、あの人どなた?」
「シャルバ・ベルゼブブ……旧魔王派のトップだ」
えっと……ああ、イッセーが『覇龍』でフルボッコにした人か。
つまりあの時アーシアちゃんを殺そうとして、オマケに俺の腕をぶった切ったのがこいつか。
オーケーわかった、ヌッコロス。
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「行くぞオーフィス、標的はあの厨二感漂うオサレマントだ。遠慮なんてしなくていい、消し炭にしておあげなさい」
「だ〜待て待て! まだ向こうの狙いがわかってねぇんだ、もう少し様子を見ろ!」
カズキが憤りながらオーフィスをシャルバへけしかけようとするのを、先生が羽交い締めにして止めている。
そういやカズキはあいつが現れる前に気絶しちゃったから、顔をちゃんと見てなかったっけ。
こっちが少しばかり揉めている間に、あちらでも何やら揉めているようだ。
いつの間にかシャルバの隣に小さな男の子が現れて、それを見たゲオルクとジークフリートが激昂している様だ。
あの少年は見覚えがある、京都の時に影からモンスターを生み出していた子だ。
どうやら別働隊として動いていた彼を、シャルバが同行していた構成員を皆殺しにして誘拐してきたらしい。
シャルバが男の子、確かレオナルドとか言ったっけ?
そのレオナルドに手元で発生させた魔方陣を近付けると、レオナルドが苦悶の表情と共に絶叫した!
それと同時に彼の影が蠢きながら広がっていき、そこから何かが這い出てきた!
「ふはははははッ! 『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』、とても素晴らしく理想的な能力ではないか! しかも彼はアンチモンスターを作る事に特化した存在、必ず現悪魔どもを滅せる怪物を生み出せる!」
蠢いていた影が一際大きく波打つと、段々とその姿を現していく!
規格外の頭部、デカすぎる胴体、太すぎる腕、そしてそれら全てを支える圧倒的な脚!
俺たちの眼前に、以前見たグレートレッドすら超えるとんでもない巨体のバケモノが出現した!
『ゴガァァァァアアアアアッ!』
そのバケモノは鼓膜が張り裂けそうな程の声量で咆哮をあげ、それに呼応する様に一回り小さいモンスターが複数出現し始めた。
最後のモンスターが出現し終わると、突然奴らの足下に魔方陣が出現する。
あれは何回も見ている、転移の魔方陣だ!
「今からこの魔獣たちを冥界に転移させて、存分に暴れてもらう! これだけの規模のアンチモンスターだ、さぞかし冥界の悪魔どもを蹂躙してくれることだろう!」
シャルバが興奮しながら叫び、モンスターたちは段々と転移の光に包まれていった!
このままじゃマズい、なんとか食い止めないと!
そう思い攻撃を仕掛けようとしたその時、一際大きな爆撃が一番大きなモンスター目掛けて放たれた!
「くそ、俺のだけならまだしもオーフィスのまで効き目薄いってどういう事だ? やっぱ出力安定してないとキツイか」
鎧の胸部装甲を解放したカズキが舌打ちまじりに毒突き、続けて石柱をモンスターたちに手当たり次第ぶつけていく!
ゼノヴィアといいこいつといい、不意打ち先制大好きだね!
俺たちも後に続いて攻撃を繰り出すが、アンチモンスターを名乗るだけあってビクともしない!
諦めずに攻撃を続ける俺たちをよそに、別方向から爆音が鳴り響く。
今度はシャルバが後衛が控えている場所に向けて、魔力を放ち続けている!
ヴァーリは自分が狙われていると知ると、後衛のみんなから離れて一人防御の魔方陣を展開させて防戦一方だ!
「どうしたんだヴァーリィィィイイッ!? ご自慢の魔力と、白龍皇の力で反撃しないのかね!? フハハハハ、所詮人と混じった雑種が真の魔王に勝てる道理がないのだよッ!」
「ぐ……他者の力を借りて魔王を語るお前に、言われたくはないな……!」
「それがどうした!? 最後に勝てればそれでいいのだ–––むっ!」
魔力弾を撃ち続けるシャルバに、カズキが突然殴りかかった。
しかし何故かシャルバに察知されてしまい、すんでの所で躱されてしまう。
シャルバは攻撃してきたのがカズキだとわかると、憎々しげにその顔と肩にいるオーフィスを睨みつける。
「また貴様か瀬尾一輝、オーフィスを懐柔するとは目障りな男だ! 二天龍と共に、貴様も葬ってやろう!」
「俺みたいな小物相手に吠えてんなよ、没落したなんちゃって魔王が! そんなに魔王やりたきゃ、城に篭って勇者が来るのを一人寂しく待ってろ!」
カズキは煽りつつ指先からドリルを飛ばし、シャルバの背後からも石柱を伸ばして強襲する。
しかしその攻撃もドリルは弾かれ、背後から迫る石柱も全て躱されてしまった。
なんだ、なんでカズキの攻撃があんなに簡単に……今のなんて、間違いなく死角からの攻撃だったぞ?
カズキも訝しんでか、一旦攻撃を止めた。
それと同時にモンスターたちは転移の光に包まれ、俺たちの攻撃も虚しく転移してしまった。
くそ、早くこいつをなんとかしてあのモンスターたちを食い止めないと……!
そんな俺たちの焦りをよそに、シャルバとカズキは会話を続ける。
「ふん、なかなかやるではないか。曹操たちが警戒するだけはある。だが、お前は私には勝てないよ」
「そういうお前は大した事ないな。魔王を名乗るなら俺みたいなザコ、一瞬で殺せなくてどうするよ?」
「口の減らないガキだ、しかしそれもここまでだ。貴様は私に指一本触れる事なく、地面に這い蹲る事になる」
「何を言って–––ッ!!」
カズキが何時もの様に相手を罵っている途中で、言葉が止まった。
突然表情を曇らせたかと思うと、その場で膝をついて座り込んでしまう。
そして先程までは何もなかった筈のその背中には、見覚えのない無骨なナイフが鎧の隙間に深々と突き刺さっていた。
さて、どうやってカズキくんの背中にナイフが突き刺さったのでしょうか?
もし見事当てられたなら、北斗の拳イチゴ味を買う権利を与えてやろう!
だがDD、テメーはダメだ。