8話
「は? 鍛えてくれって……イッセーを? 」
アーシアちゃんの事件から約一ヶ月。
いつもの呪いのランニング中。
公園に入ると、へとへとになりながら腕立て伏せをするイッセーと、物理的にイッセーを尻に敷いているジャージ姿のリアス先輩に出会った。
イッセーの神器は、自身の力を時間経過で倍加していく。
基礎能力が大切になってくるから、イッセーを鍛えているそうだ。
自分の下僕が弱いのは許せないのだとか。
やっぱこの人、美人なのにおっかない。
いや、もちろんイッセーの為でもあるんだろうが。
「えぇ、貴方なら効率的な鍛え方とか知ってるかと思って」
「頼む、カズキ! 俺はどうしても強くならないといけないんだ! 」
何やらイッセーは真剣だ。
だが、腕をプルプルさせながらカッコいいセリフを言うな。
なんか笑えてくる。
「え、なんか目標があるの? 」
まぁ最近はランニングやら筋トレしかやってないけど、理由によっては……。
「ハーレム王に、俺はなるっ!! 」
ふぁっきん。
「くたばれリア充、首をへし折るぞ」
足で腕を払って、そのままランニングを再開する。
後ろから、イッセーが顔面を地面にぶつけて呻く声が聞こえてくる。
ざまぁ。
アーシアちゃんと同棲までしといてまだ足らんと抜かすのか。
小猫ちゃんに預かってもらったモグラさんを引き取りに、オカ研に向かっている。
……俺は正直、朱乃先輩は少し苦手だ。
というか怖い。
簀巻きになってる俺への視線が怖かったので、それとなくイッセーに聞いてみた。
なんと彼女、Sなんだそうです。
頭にドの付く筋金入りの。
あぁ、わかってたよ。
聞こえない振りしてたけど、簀巻きにされてる時も
「カズキ君って昨日の戦いを見る限り、絶対にS……そういう人があんな風になってるのってなんか……いいですわぁ」
とか聞こえてきてたもん。
聞き間違いじゃなかったよ、クソが。
普段はお淑やかな完璧美人なのに……。
バラキエルさん、どんな教育したんだ。
オカ研の先輩は、なんで残念美人しかいないのか。
言ったら殺されそうだから言えないけど。
小猫ちゃんはウチのモグラさんがお気に入りらしく、よくお菓子をあげてくれる。
前に膝に乗せて、アーシアちゃんと一緒にモグラさんと遊んでくれてたし。
あの光景を見る度に心が癒される。
年上組で荒れる心を、年下組で癒す。(アーシアちゃんは同い年だけど)
なるほど、世の中は良く出来ている。
そんな事を考えながら部室のドアを開けると、そこには見知らぬ男性が。
「ん? 何このホスト崩れのヤンキー? 」
咄嗟に思ってる事を口にしてしまった。
よく見ると、その男の側には沢山の女性が控えていて、奥では何故かイッセーが倒れている。
てか人口密度高いな。
「貴様! ライザー様に無礼だろうっ!! 」
「いや、無礼って……誰なのこの人? 」
頭に布を巻いた、鎧を着てる女の子に怒られた。
偉い人なの? ただのちょいワル兄ちゃんにしか見えない。
「この方はフェニックス家のーーー」
「あぁ、あの焼き鳥屋か」
フェニックスってあれだろ?
有名な焼き鳥屋のチェーン店。
安くて味もそれなりだから、俺もよくお世話になってる。
そこの経営者の家族か何か?
あれ、何でオカ研の皆が噴き出してるの?
「もう許さんっ! 」
怒りが収まらなかったらしく、先程とは別の女の子が木の棒を振り回しながら飛びかかってきた。
取り敢えず、棒を掴んで改造パワーにより強引に奪って、怪我をしない様に拘束。
周りを見ると、他の女の子たちまで身構えている。
え、そんなに怒らせちゃったの?
そんなに凄い重役には見えないんだけど。
顔にスッゲェキレてますって出てるし。
キレやすい若者、やっぱヤンキーじゃん。
「そこまでです、これ以上は許しません」
もう土下座でもしようかと思ったら、銀髪メイドさんがみんなを止めてくれた。
どうやらここで一番偉いのは、あのメイドさんの様だ。
「人間の癖に赤龍帝よりはマシな動きをするじゃないか。リアス、なんならこいつも数に入れて構わないぞ? 駒の数も質も、いささか差があるしな」
なんの話?
赤龍帝って何だっけ?
「あら、この子はただの人間じゃないわよ? 後悔しても知らないから。」
ねぇ、なんの話なの?
「ではその様に致しましょう。10日の猶予期間の後、【レーティングゲーム】にて決着を付けることにします」
レーティングゲームってなにさ?
「おい人間、お前もせいぜい楽しませてくれよ? 」
何をどうして楽しませればいいんだよ。
モグラさんと一緒に芸でもすればいいの?
言いたい事だけ言ったら、ヤンキーは床が光ると同時にどっか行っちゃうし。
オカ研の人達はイッセーの治療して説明してくれないし。
銀髪メイドさんも、リアス先輩と何かを話した後、こっちに向かって微笑むと軽く頭を下げて消えてしまった。
今気付いたけど、ヤンキーもメイドさんも悪魔だったのか。
いや、今はそんな事どうでもいい。
モグラさん、こっちきてちょっと説明して。
……つまり、あのヤンキーはリアス先輩の婚約者で、銀髪メイドさんは義理のお姉さん。
リアス先輩はあいつと結婚したくないから、今度ゲームで決着つけて婚約を白紙に戻そうとしてる。
で、レーティングゲームってのが、大概殴り合い。
相手との戦力差が凄いから、俺にも特別に先輩側での参加権が与えられた、と……。
「俺、関係なくない? 」
戦闘とか興味ないんですけど。
布団でぬくぬくするのが至上の喜びな、一般人なんですけど。
「私、絶対にあんな男と結婚したくないのよ。何でもするから、お願い! 」
リアス先輩が顔の前で手を合わせながら頭を下げてくる。
何でも、の部分に男としてつい反応してしまうのはしょうがないと思うの。
「先輩、私モグさんにお菓子あげたり、預かったりしてあげましたよね……? 」
いやそれは小猫ちゃんが好きでやってたんじゃ……。
お世話になったのは事実だけども。
「お願いします、カズキさん! このままじゃ部長さんが可哀想です……! 」
涙目で見つめないでアーシアちゃん、それは卑怯だ。
「御礼はちゃんとしますから……ね? 」
腕を胸に挟みながら組みつかないでください。
普通なら大興奮なのに、この後何されるかわからないから、冷や汗が止まりません。
「分かった、分かりましたから離して下さいぃ! 」
ニコニコしながら俺を解放してくれる朱乃先輩。
笑顔が怖いのよ年上女性陣。
不本意ではあるが、これで巻き込まれる事は決定らしい。
なんでも、明日から山籠りして特訓するんだとか。
取り敢えず……新しい服やら下着やら買いに行かないと。
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瀬尾カズキ先輩。
人間なのに、堕天使より強い変な人。
でも、私達と一緒にアーシアさんを助けてくれた優しい人。
小さい頃に誘拐されて。
無理矢理身体を弄られて。
助かったのは自分一人。
そんな過去を感じさせない、凄い心の強い先輩です。
腕相撲でも私と張り合える位力も強いです。
流石に私が勝ちましたが。
そんな先輩の神器である『モグラさん』。
本当の名前が思い出せないそうなので、私はモグさんと呼んでいます。
この子にお菓子をあげるのが、私の最近の趣味。
顔の前にお菓子を出すと、小さな手を使ってしっかり掴んで食べ始めます。
ヤバイです。
かわいいです。
普段は先輩の頭に乗ったり、ポケットに潜り込んだりしてますが、アーシアさんが呼ぶとスグに肩や膝に来てくれます。
私にはまだ来てくれません。
ズルいです。
羨ましいです。
なので、仲良くなる為に今日も先輩からモグさんを預かって、一緒に部室で遊びます。
そう思っていたのに、空気を読まずに部室に来客。
部長の婚約者と名乗る、ライザー・フェニックス。
グレイフィア様が紹介してくれたけど、何だかチャラチャラしてて印象が悪い。
部長も冷たくあしらっていた。
婚約を破談にするために、レーティングゲームで決着を付けることになった。
私も、部長がこんな人と一緒になるのは嫌だ。
ライザーが自分の下僕を部室に呼び寄せる。
全員女性だった。
予想はしてたけど、やっぱり最低だ。
イッセー先輩がそれを見て、羨ましそうに泣いていた。
こっちも最低だった。恥ずかしい。
イッセー先輩がライザーを馬鹿にしながら突っかかっていったが、棒を持った下僕悪魔に瞬殺されてしまった。
先輩の神器は強化に時間が掛かるから、今はまだ弱くても仕方ない。
アーシア先輩が駆け寄り、治療してあげている。
空気がピリピリし始めた所に、更に来客。
「ん? 何このホスト崩れのヤンキー? 」
カズキ先輩だった。
入ってきていきなり暴言を吐いた先輩に、下僕悪魔の一人が怒りをぶつける。
「貴様! ライザー様に無礼だろうっ!! 」
「いや、無礼って……誰なのこの人? 」
「この方はフェニックス家のーーー」
「あぁ、あの焼き鳥屋か」
あの名家であるフェニックス家を、焼き鳥屋呼ばわり。
みんなが同時に噴き出してしまったのはしょうがないと思う。
「もう許さんっ! 」
先程イッセー先輩を倒した悪魔が、棒を振り回しながらカズキ先輩に飛びかかったが、簡単に棒を奪われた上に、押さえつけられて拘束されてしまう。
怪我をさせないように抑え込んだのかな?
やっぱり先輩は強いんだと再確認した。
そのまま乱闘かと思ったけど、グレイフィア様が制止してくれたので、その場は何とか収まった。
その後の話の流れで、カズキ先輩も一緒に戦うことになった。
最初は渋っていたが、私やアーシア先輩の説得。
そして朱乃先輩のお願いで了解を得た。
何だか私達と朱乃先輩で反応に差があった気がするが、此方はお願いしている立場なので何も言わない。
何も思わない訳ではないが。
とにかく、明日から十日間。
山籠りして特訓する事になりました。
部長の為にも、全力で取り組みます!
……モグさんとも、もう少し仲良くなりたいな。
カズキ「しかし泊まりって何を持っていけばいいんだ? 」
モグラさん「キュッ!! 」
カズキ「うん、お菓子はそんなに要らないかな。やめて、服とか押し出してまでお菓子を詰めないで! 」