全ロストの悲劇を乗り越えなんとか投稿。
涙で前がなんも見えねぇ……!
「祐斗、大丈夫!?」
力を使い過ぎて倒れた僕の元に、部長たちが駆け寄ってくる。
部長は僕の身体を抱き起こし、朱乃さんは切り落とされた腕を持って来てくれた。
そしてレイヴェルさんがその腕をあてがい、アーシアさんは涙で目を濡らしながら治療をしてくれる。
「ごめんなさい木場さん……私がしっかりしてないから、もう少しで木場さんまで……!」
「……大丈夫だよ。いつも助かってるし、今だってだいぶ楽になってきたよ」
とは言っても、やはりアーシアさんの治癒の力は安定していない。
何時もならすぐに塞がる傷もなかなか完治しない様だが、今はとにかく腕を治すのが先決か。
後輩が懸命に戦っているのに、戦いに加わる事すら出来ないなんて……。
こうしている間にも、モグラさんを装着した小猫ちゃんは【業魔人】と化したジークフリートと相対しているのに……!
「小猫さん、凄いですわ……」
小猫ちゃんの戦いぶりを見て、レイヴェルさんがぼそりと呟く。
僕も視線をそちらに向け、小猫ちゃんの戦いを見つめる。
そこには、素早い動きでジークフリートを翻弄している小猫ちゃんの姿があった。
『くそ! いきなり手にした力を、何故手足の如くこうも自在に使いこなせる!?』
「モグさんが色々助けてくれますから。そしてなにより、あの人の動きなら私の目に完璧に焼き付いてます!」
ジークフリートは小猫ちゃん目掛けて駆け出し、六つの腕を力任せに振り回す。
しかし小猫ちゃんは脚のタービンをタイヤの様に使い、滑る様に移動し全て躱していく。
そして隙を見つけては仙術の気が籠められた掌打を鈍い音と共に打ち込み、石柱を自在に操り至る所から追撃を行う。
敵の攻撃をいなし戦うその姿は、まさにカズキくんを彷彿とさせた。
だが、一人ではいつか限界がくる。
連中は独自のルートで『フェニックスの涙』を調達できると聞いたし、どんなにダメージを与えてもそれを使われたら無駄になる。
畳み掛けるなら今なんだ。
突然の出来事に動揺し、小猫ちゃんの攻撃に反応しきれていない今しかない。
「……アーシアさん、腕より先に脚を動かせる様にしてくれるかい?」
「そんな……ダメです! こんな身体で戦ったりしたら、今度こそ木場さんが死んでしまいます!」
「心配ないよ……これくらいで寝ていたら、イッセーくんに合わせる顔がない……!」
アーシアさんは大粒の涙を零しながら止めてくれるが、そうも言っていられない。
僕はイッセーくんと約束したんだ、みんなを守る為に全力で戦うと!
誰が相手だろうと、彼の様に臆せず立ち向かうとッ!
「後輩に戦わせて自分が休んでるなんて、グレモリー眷属男子のする事じゃない……ここで立ち上がらなければ、赤龍帝の友だと名乗る事すら出来はしない!」
彼を裏切りたくない、情けない所を見せたくない!
動け、僕の身体!
まだ休んでいい時じゃない!
「片腕がなんだ!? 脚に穴が空いているのがなんだ!? 僕は、彼の帰ってくるこの場所を! 守らなくちゃいけないんだッ!!」
自分でも驚く程の声を張り上げ、僕はムリヤリその場で立ち上がる。
いま満足に動かせるのは口だけなんだ、全力で吠えてやる!
剣が握れないなら脚で掴め、口に咥えろ!
惨めでもいい、みっともなくてもいい。
兵藤一誠を突き動かしていた意地と気合いよ!
瀬尾一輝の強さを支えた知恵と気迫よ!
少しでいい、僕に力を貸してくれ!
剣も握らず飛び出そうとしたその時、部長の手にしていた《兵士》の駒が突然宙に浮かんだ。
そしてその駒は強く、とても強く輝き出す。
僕の主人と親友を象徴する様な、紅く赤い光を帯びながら……!
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『残っている特記戦力は木場祐斗だけではなかったのか!? これ以上訳のわからない事が起きる前に、速く仕留めなければ!』
腕を振り回しながら吠えるジークフリート。
全身に痛みは走っているけど、動きを止める訳にはいかない。
私はそんな相手を無視して、今度は防御の薄そうな顔目掛けて指先からドリルを飛ばす。
しかし単調なその攻撃は簡単に薙ぎ払われ、反撃しようとジークフリートが大きく一歩を踏み込んできた。
『こんな攻撃が……ぐわっ!?』
でも、それは私が張った罠。
踏み込もうとした瞬間、モグさんが地面を窪ませる。
そこを踏み抜いたジークフリートは、勢いよく前のめりに体制を崩した。
さすがモグさん、いい仕事っぷりです!
「確かにあなたは硬い、でもカズキ先輩が言ってました。自分の力が足りないのなら……他から力を持って来ればいいって!」
私は一気に加速し、ジークフリートの懐に飛び込む!
前のめりに倒れこむ勢いと加速の力も加えて、掌に出したドリルと一緒に掌打を腹部へ捩じ込んだ!
その一撃はジークフリートの身体をくの字に曲げ、硬質化した外皮を抉り深々とドリルが突き刺さる!
『ガフッ! せ、聖魔剣すら拒んだこの身体を穿つとは……だが、捕らえたぞ!』
口から血を吐き出したジークフリートだが、腹部に打ち込まれた私の腕を自前の腕でしっかりと捕らえていた!
マズい、調子が良すぎて油断してしまった!
カズキ先輩にも、打ち込んだらすぐに離れろと言われていたのに……!
私の腕が万力の様な力で締め上げられ、腕部装甲がミシミシと悲鳴を上げる!
「うぐ……ッ!」
『もう逃がしはしない! このまま腕をへし折ったら、次は首を–––』
ジークフリートが力を加えようとしたその時、一筋の銀閃が走る。
そして数瞬後にら鮮血が飛び散り、私を掴むジークフリートの腕が宙に舞っていた。
それと同時に腹部を穿ったドリルを引き抜き、私も大きく飛び退く。
『ぐあぁぁぁッ!?』
「僕の後輩に汚い手で触れるな、僕が後でカズキくんに怒られてしまうじゃないか」
ジークフリートの腕を斬り飛ばしたのは、やっぱり祐斗先輩だった。
肩から斬られた腕も繋がっていて、いつもの様な俊敏さで私をジークフリートから引き離す。
そしてその手には、ここにはないはずの物が握られていた。
「祐斗先輩、その剣……イッセー先輩の?」
「そう、『アスカロン』……イッセーくんの駒が輝いたと思ったら、突然アスカロンに変化した。きっと情けない僕へ喝を入れる為に、イッセーくんが貸してくれたんだ」
そう言ってはにかむ祐斗先輩。
アスカロンはイッセー先輩が持っていた聖剣だ、『龍殺し』の特性があると聞いている。
でもきっとそれだけが理由じゃない、それなら祐斗先輩の龍殺しを付与した聖魔剣でも対抗出来たはずだ。
きっとイッセー先輩が、あの剣を通して祐斗先輩に力を貸してくれてるんだと思う。
「そしてこの剣を通して、イッセーくんの声が聞こえてきた。『負けるな、一緒に行こうぜ』って……そんな事を言われたら、やるしかないじゃないかッ!」
『ぐ、僕の腕を……! だが一人増えたところで–––』
「あら、誰が一人だなんて言いました?」
ジークフリートの言葉を遮り、稲光と雷鳴を轟かせながら極大の雷が襲い掛かった!
夜空にそびえ立つ光の柱は、ジークフリートを中心に轟音を撒き散らして奴の身体を焦がしていく!
そして空には雷撃を操っている朱乃さんが佇んでいて、その背中には闇に溶ける様な六枚の黒い翼が広がっていた!
『〜〜ッ!?』
「『堕天使化』、私の奥の手ですわ。守りに気を使わなくて良くなった今なら、思う存分力が振るえます!」
朱乃さんがつけているブレスレットが輝いている、どうやらあれが朱乃さんの堕天使の力を跳ね上げているみたいだ。
朱乃さんを見上げていると私の身体が暖かい光に包まれ、先程まで感じていた身体の痛みが引いていく。
横に視線をやるとアーシアさんが私に寄り添い治療をしてくれていて、レイヴェルも側に立って私たちを庇うように炎の翼を広げている。
二人の手には、イッセー先輩の悪魔の駒が握られていた。
「……イッセーさんの声が聞こえてきたんです。『みんなを助けてやってくれ』って……『何時までも、泣いてるだけじゃいけない』って!」
「眷属ですらない、私にまで聞こえてきましたもの……『皆を支えてやってくれ』と……本当に、優しすぎますわよ……っ!」
二人は目に涙を蓄えながら、しかし力強い眼差しでそう言い放つ。
イッセー先輩の言葉が、駒を通して皆に伝わり鼓舞していく。
そんな私たちの横を、部長がゆっくりとした足取りで通り過ぎていった。
その手には当然、イッセー先輩の駒が握られている。
『ま、まだだ! それでも僕は、英雄の子孫として……!』
全身を黒焦げにし至る所から煙をあげているジークフリートだが、未だ倒れることなく今度は近づいてくる部長目掛けて背中の腕を振り下ろす。
しかし部長はその攻撃を避けようとせず、迫り来る腕へ魔力を込めた手を払う様に一薙ぎする。
するとジークフリートの腕は部長の触れた部分が消滅し、振り回された腕は千切れ回転しながら宙に舞った。
ジークフリートから切り離されたことにより、肉に覆われていた魔剣が姿を現し地面に突き刺さる。
思わず引き下がるジークフリートを他所に部長は駒を両手で強く握り締めた後、敵を睨み付けた。
涙に濡れながらも、その瞳には今までなかった火が灯っている!
「『立ち上がって。皆と共に戦って下さい』、か。そうよね、イッセーならそう言うに決まってる……待たせてごめんなさい、私のかわいい下僕悪魔たち! グレモリー眷属として、目の前の敵を消し飛ばしてやりましょうッ!」
部長は目元を拭った後、高らかに宣言する。
……戻った!
私の知っている、いつもの皆の姿に!
これで戦える、どんな相手だろうと……絶対に勝てる!
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立ち直った部長の指揮の元、攻撃を繰り返す僕たちグレモリー眷属。
それほど時間を掛ける事もなく、ジークフリートの背中に生えた腕を全て刈り取ることに成功した。
自前の左腕も肘から先を失い、満身創痍となり肩で息をするジークフリート。
こちらの勝利が揺らぐ事はもうないだろう。
『なんなんだ、グレモリー眷属とは!? 赤龍帝は死してなお戦い続け、その仲間はいくら傷つこうとも立ち上がる! 一体なん……ッグラム!? 』
ジークフリートが咆哮をあげたその時、彼の手にする魔剣が突然輝きだした。
何か仕掛けてくるのかと身構えたが、その現象はジークフリートにとっても予想外のものらしく焦り仰天している。
この光……僕を呼んでいる?
『魔帝剣が、木場祐斗に呼応しているだと!? 馬鹿な、ありえない! まさかこれが【業魔人】の弊害なのか!?』
輝きは一層激しくなり、持ち主であるジークフリートを拒絶するかの様に手を焦がす。
しかし、ジークフリートは決してその剣を放そうとはしなかった。
どんなに手を焼かれようとも、逃しはしないとばかりに残った右手で強く握りしめる。
『認めない……! 僕は英雄の子孫なんだ、こんな所で死ぬ様な人間じゃない!』
「……今のキミに、英雄がどうのと語られたくはない。『人間のまま高みを目指す』という己の信念を捨てた時点で、キミは詰んでいたんだ」
必死の形相で騒ぐジークフリートに対して、僕はアスカロンの切っ先を突き付ける。
その異形の姿を見て、一体誰が人間を連想すると言うのか。
ジークフリートにトドメを刺そうとアスカロンを振り上げたその時、小猫ちゃんが割り込む様にゆっくりと前に出た。
既に鎧は解除され、疲れたのかグッタリしているモグラさんを掌に乗せている。
「……貴方は、『英雄』になりたかったんですか?」
小猫ちゃんの呟いた言葉に、ピクリと肩を揺らして反応するジークフリート。
そしてゆっくりと自分の身体を見渡し始めると、彼は嗄れた声で嘲笑する様に呟いた。
『–––そうだ。僕は憧れたんだ、偉大な祖先に。その背に追いつくと、追い越してみせると意気込んで……それが最後はこのザマか、我ながら情けない』
彼は依然として自らの手を焼き続けるグラムをしばし見つめると、その切っ先を自らの下腹部に突き付け一息に貫いた!
ただでさえ限界だった肉体にグラムの龍殺しの波動を受け、身体中に裂傷が走り節々が粒子となり崩れ去っていく!
「何を……!?」
『ガフッ……僕は、君たちに敗れたんじゃない。自分の手で消えるのさ……グラムも自分の意思で手放す、決して僕が見限られた訳じゃない……!』
薄い笑みを浮かべ、顔にも裂傷が走っていく。
くそ、まだ色々と情報を聞き出せていないのに!
アーシアさんの力も効果が薄く、貴重な『フェニックスの涙』まで使ったがまるで変化がない。
もしかして、この状態になると回復を受け付けなくなるのか?
全身がバラバラになりとうとう仰向けに倒れたジークフリートは、小猫ちゃんを見つめながら口を開いた。
『君の、君たちの探している彼なら、きっと近いうちに会えるよ』
「ッどういう意味ですか!? 」
ジークフリートの言葉を聞き、彼の側に駆け寄る小猫ちゃん。
カズキくんの事を言っているのか?
だが既に目の焦点は合っておらず、命の灯火も消えかけている。
『僕がここに向かう時には、既に最終調整の段階だった……絶望に苛まれるだろうが、せいぜい足掻くといい……』
「待って、まだ聞きたい事が……ッ!」
朱乃さんの呼びかけに応える前にジークフリートは完全に崩壊し、その粒子は風に乗って消えてしまった。
その場に残ったのは、地面に突き刺さり鳴動を続けるグラムのみだった。
グラムの新たな所持者となった僕だが、無駄に大きいこの剣は持ち歩くのは不便なので格納空間に保管することにした。
しかしジークフリートが言っていた最終調整とは一体……だが、あの口ぶりだときっと生きてはいるのだろう。
それがわかった途端『彼ならきっと大丈夫だ』と僅かに安心できてしまうのは、人徳と言って良いのだろうか?
カズキくんの希望は繋がった、次はイッセーくんの番だ。
アスカロンはジークフリートが消えたと同時に駒の状態に戻り、みんなの持っていた駒も全てアジュカ・ベルゼブブさまに診てもらった。
結論から言って、彼は生きていた。
駒に記録されている最後の情報は『死』ではなく、駒も機能を完全には失っていないのだとか。
肉体は滅びているだろうが、魂は次元の狭間に漂っている可能性が高いそうだ。
魂さえこちらに呼び出されば身体はイッセーくんのご両親か、彼の部屋に落ちている体毛からDNAを抽出してクローンを作成出来るらしい。
拒絶反応や神器が上手く馴染むのか等色々と問題はあるそうだが、彼が生きているとい事が何よりも嬉しい情報だ!
この話を聞いてレイヴェルさんは小猫ちゃんに抱きつき、アーシアさんは大声で泣いて部長は笑顔のまま涙を流してそれを拭っていた。
やっぱり彼は死んでなどいなかった!
イッセーくんは生きていて、カズキくんの情報も得た。
後はこちらが動くだけ、僕たちの反撃はここからだ!
気持ち新たに意気込んでいたその時、僕らをここに案内してくれた女性悪魔の方がこのフロアに駆け込んできた。
「アジュカさま、お耳に入れたい事が……」
「構わないよ、彼らにも聞かせてやってくれ」
アジュカ・ベルゼブブさまが話を促すと、女性悪魔は頷き手元の資料に目を落としながら喋り出した。
「はい。冥界某所にてテロリストの殲滅に当たっていたバアル家次期当主、サイラオーグ・バアルが黒色の鎧を身に纏った戦士に襲われ意識不明の重体との報せが入りました」
あのサイラオーグ・バアルが敗れた!?
彼の並外れた強さをレーティングゲームで体感している僕たちには、到底信じられない情報だ!
一体誰が……その疑問は、最悪の結果と共に解消することになった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「なかなか粘ったね、サイラオーグ・バアル。だがその様子だともう限界のようだ、我々は引き上げさせて貰おう」
「ぐぅ……! この男、敵に回すとここまで厄介だとは……」
「神滅具を纏ったバアル家次期当主を単騎で撃破、想像以上のスペックだ。レオナルドの事は残念だったが、有用な戦力が手に入った事を素直に喜ぶとしよう」
「待て……お前達を逃す訳には……ッ!」
「テストは終わった、もうキミに用はないよ。バアル眷属の《女王》も彼を連れ帰るといい、主の死を望みはしないだろう?」
「くそ、意識が……なんと情けない……! クイーシャ、何としてもこの事をサーゼクスさまとリアスたちに伝えろ……! 『瀬尾一輝が、敵の手に堕ちた』と……!」
サイラオーグさん、敗北。
試合の描写はカットされお次は知らぬ間に敗北、この作品で一番割を食ってるのは彼かもしれない。
先日スーパーの前を歩いていたら、後ろから小学生くらいの男の子に自転車で激突されました。
母親も一緒にいてめちゃくちゃ謝ってくれたんですが、母親の必死さに驚いたのか男の子は大泣きしてしまいまして。
周りに人だかりが出来始めてしまい、警備員さんまで出張ってくるプチ修羅場に。
事情を知らない周りの人からしたら、俺の事は因縁つけて親子泣かしてる最低野郎にしか見えないんだろうなと思いました。
もう嫌だ、お外怖い。