咲夜「レンジャー!!レンジャー!!!」
富士レンジャー訓練場のグラウンドでは、咲夜を含む24名の訓練生がレンジャー訓練を受けていた。さすがの咲夜も、表情に余裕が無かった。全身から汗をびっしょりと掻いており、まるで服のまま、川に入ったように濡れていた。他の訓練性も同様だった。
早苗「大丈夫でしょうか?」
富士学校の校長室のブラインド越しから、早苗は心配そうな表情を浮かべながら咲夜の姿を見守っていた。
神奈子「咲夜なら、耐え抜くでしょう」
早苗「でも・・・あんなに・・・」
川治「随分と心配しているのですね」
神奈子「川治学校長」
富士学校長の川治が、ゆっくりと扉を開けて入って来た。今年で61らしいが、黄金色に焼けた肌で40代のように見えた。
川治「幕僚長でもあろうお方が、こんなところに何の用で?」
神奈子「いえ、貴方なら知っているでしょう?記録をお借りしたいのですよ」
川治「記録?あぁ、影涼のですね。少々お待ちを・・・」
川治は、本棚の中から影涼の記録をつづったファイルを取り出して、神奈子に渡した。
早苗「神奈子様、それは?」
神奈子「レンジャー訓練を受けていた時の影涼の記録よ」
神奈子は、川治に敬礼をしてから早苗と共に部屋を後にした。校門の前には、高機動車が待機していた。運転席には霊夢が座っていた。神奈子と早苗が、高機動車に乗り込むのを確認した霊夢は、アクセルをゆっくりと踏み、車を出した。
霊夢「そんなもの、何の役に立つのかしら?」
ミラー越しに神奈子が手に取っているファイルを見ながら霊夢は言った。
神奈子「・・・」
神奈子は、黙っていた。霊夢は察したのか、詮索するのをやめた。神奈子は、影涼のファイルを黙って見ていた。
早苗「そういえば、霊夢さんは無事に帰っていたのですね」
霊夢「ん?あぁ、チェグエフカからは、特に問題なく日本に帰れたわよ。まぁ、やることが無くて暇だったわ」
早苗は苦笑した。突然、早苗の携帯が鳴り始めた。確認をすると、幽香からの電話だった。
幽香(早苗?急いで、松本駐屯地に来てくれないかしら?)
早苗「何かあったのですか?」
幽香(えぇ、ただ、どこかで傍受されているかもしれないから、来てから説明するわ)
幽香は焦った声で話していた。
神奈子「何かあったのか?」
早苗が、電話を切るのと同時に神奈子が目線だけを早苗に向けて言った。早苗は頷き、霊夢に急いで松本駐屯地に向かうようにと言った。
霊夢「いや・・・私の方が階級は上なんですけど・・・まぁいいわ」
霊夢は、ハンドルを切りながら松本駐屯地に向かった。
早苗(幽香さん・・・一体何を焦っていたのでしょうか・・・)
出店の店主「そこのアジア美人のお嬢さん!どうだい?」
黄金色に日焼けした60代の男性が、黒い布切れを羽織った若い女性に、青色に光る宝石が埋め込まれた指輪を売ろうとしていた。
若い女性「あら、綺麗ね・・・いくらかしら?」
出店の店主「綺麗な女性だからタダでいいよ」
若い女性「あら、ありがとう・・・それにしても、日本語が上手なのですね」
若い女性は、青い宝石の指輪を左手の指に着けて、町を歩いていた。ガソリンスタンドで、廃車寸前で汚れが目立つ白い車種の分からない車にガソリンを入れている若い男に近づいて行った。
若い女性「綺麗でしょう?」
若い男性「それは、ガラスでしょうが・・・」
若い女性「夢が無いのね・・・影涼」
影涼は、腕で汗を拭ってガソリンのホースを片づけていた。
影涼「夢も何も、ガラスですからね・・・慧音さん」
慧音は、にこにこと笑いながら助手席に乗り込んだ。影涼は、ガソリンスタンドの店員に料金を払って、運転席に乗り込みエンジンを掛けて走りだした。中国のミサイル基地から、すぐに離れて、一週間掛けて中国を脱出してインドに現在はいるのだ。初めは、中国を脱出して、インドで日本に向って連絡をしようとしたが、中国軍の追手があるため、傍受されて位置を特定されれば、助けが来るまでに排除される可能性があるからだ。そして民間の飛行機や船舶を利用することは不可能なのだ。影涼達は、何回か、空港や港から日本に向おうとしたが、中国の工作員たちがすでに警戒網を敷いていた。影涼と慧音が捕まれば日本の自衛隊が海外で、軍事作戦を実行した事を証明してしまいかねないのだ。
慧音「ここから、ジプチに向かうのね」
影涼「第一空挺団がジプチにある基地に常駐していますし、もうすぐ海上自衛隊の護衛艦が停泊する予定のはずです。うまくいけば、すぐにでも日本に帰れますよ」
影涼達の目標は、ジプチにある自衛隊の基地に向かう事だった。民間海路・航空が使えない為、陸路でジプチに向かうのだ。もちろん、かなりの時間を有するのだ。インドに来る前に、装備品はUSPとナイフ・携帯用の食料と、黒い小型のポーチが2つだけを取り出し、後は焼却処理をした。適当なところで服は調達した。影涼の服装は、カジュアルな青いジーンズに白のTシャツである。慧音の服装は、黒いロングスカートに、白いYシャツで、黒の布きれを羽織っている。どこからどう見ても、日本人観光人に見えなくはないが、影涼と慧音の身体には、銃弾がかすった傷跡らしきものや、影涼に関しては、腕や首筋から大きな切り傷が服から見え隠れしていた。
慧音「私達はどんな扱いになっているのかしらね?」
影涼「行方不明者もしくは、殉職者として処理されていたりね。神奈子幕僚長の事だからそんなことは無いと思うけどな・・・ただ、無事に早苗さん達は日本に帰ったのかな?」
慧音「きっと無事に帰ったと思うわ・・・ちなみに」
慧音は、世界地図を広げて見ながら影涼に対して聞いた。
慧音「今私達はインドにいるわよね?そして、パキスタン・イランを横断するけど・・・イランからどこに向かうのかしら?まさか、イラクを通るなんて言わないわよね?」
影涼「さすがに、イラクは通りませんよ。例のテロ集団がシリアとイラクの国境線上にいるのに、もしも巻き込まれたら、確実に生きて帰れませんよ・・・カタール?オマーン?でしたっけ?イランから最も近い場所があるじゃないですか?そこから、船で横断できれば、サウジアラビア・イエメンで、船でジプチというルートで行きたいと思います」
さすがの、影涼もイラクを通りたくないようだ。慧音は、ほっとした表情で胸をなでおろした。現在、影涼がいるのは、コルカタである。インド西ベンガル州の州都であり、平均気温はほぼ30度近く、とても暑い。廃車寸前の車である為、空調が壊れており、窓を開けないと蒸し暑かった。コルカタを抜けて、ラーンチー・ラクナウ・ジャイブルそして、パキスタンに入る予定だ。ただ、言語が分からない為、地図に頼って進む予定だった。
影涼「ラーンチーに着くまで、寝ていてもいいですよ?」
影涼は、笑いながら慧音の方を軽く見て言った。
慧音「そうね、野宿ばっかしで休めてないのよね・・・はぁ・・・お風呂に入って綺麗なお布団で休みたいわ」
影涼「日本に帰るまでは、難しかったりな」
影涼と慧音が乗っている白い車は、砂煙を上げながらコルカタの町を走っていた。その姿を、1人の青い帽子をかぶった男が携帯を取り出して電話を掛けた。
???「饕餮・・・幽霊を発見した。行先はラーンチーと思われる」
???(そのまま、追跡を開始しろ、10分置きの定時連絡を怠るな)
饕餮と呼ばれる男は、洋上迷彩のバンダナを口元に巻いてバイクにまたがり、影涼の車の後を追った。
???「饕餮が幽霊を発見した。現在、追跡をしている」
中国のとある作戦指令室に、4人の男が椅子に座っていた。1人は190センチの大男、1人はがっちりした体格の男、1人は冷酷な目をしていた。指令官らしき男が、影涼と慧音の写真を握り絞めながら言った。写真には、それぞれ「死なない幽霊」「歴史喰い」と赤文字で書かれていた。
???「この二人にはなんだよ・・・」
190センチの大男は、司令官を睨みつけながら言った。
???「この女・・・中々いいな・・・おい!俺に殺さしてくれ!!殺した後に・・・」
???「渾沌!余計な事を言うな!!」
冷酷な目をした男は、渾沌と呼ばれる男を怒鳴った。
???「司令官、誰が向かうんだ?」
四凶指令官「窮奇・・・お前が迎え、渾沌・檮杌はインドに現地入りしていつでも動けるように待機しておけ・・・言っておくぞ、我々四凶は失敗は無い・・・この二人を殺し首を持ち帰れ・・・以上」
指令官の指示で3人の男は部屋を後にした。
影涼「とりあえず、まともな武器がほしいですね・・・粗悪品のデッドコピー品のAKでもいいから」
ハンドルを切りながら影涼はぼやいた。
慧音「英語もできない私達が武器を調達なんて危ないわよ・・・日本人だといろいろと厄介だからね」
影涼「ロシア語じゃあ駄目ですかね」
ニヤニヤと笑う影涼だったが、目が笑って居なかった。慧音も同じだった。2人はバックミラーを見ていた。
影涼「慧音さん・・・どこで嗅ぎ付けられましたかね?」
慧音「分からないわ・・・ただ・・・」
影涼「特殊部隊ですかね?バイクの運転技術もすごい・・・とりあえず、撒いた方が良さそうですね・・・」
影涼は、国道を避けて、狭い道に入った。一方通行の為、車一台しか入らなかった。左右は長屋のような建物が連なっていた。影涼は、アイコンタクトで慧音に合図を出した。慧音は、USPを抜いて窓から上半身を出した。バイクに乗った男は、すぐに回避行動に出た。慧音は、バイクのタイヤに向かって一発撃った。タイヤに命中して、バイクは豪快にスリップした。
影涼「ナイスです」
影涼は、狭い道を抜けて国道に戻った。
饕餮「・・・何者だ・・・あいつらは・・・」
破壊されたバイクの中から、通信機取り出し通信を始めた。
饕餮「やられた・・・いや、正体はまだ掴まれていません・・・はい・・・すぐにでも、追跡をします」
通信機を切った後、後ろから、警察車両が1台やって来た。地元警察だろう。
警官1「おい!ここで、銃声がしたと通報があった!お前か!?」
警察車両から2名の警官が出てきた。さっきまで、パトロールに出ていたのだろう、すぐに駆けつけれた理由がついた。警官は、拳銃を握ろうとしていた。
警官2「おい!手を上げて、壁に手を付けろ!」
饕餮「・・・」
饕餮は、壁に手を付けると見せかけて、懐からサプレッサーを装着した92式手槍を抜いて、警官2人の頭を撃ち抜いた。そして、警官の死体を、近くのごみ収集用のボックスに隠して、警察車両に乗り込み影涼達を追った。
長期休み中に、出せれるだけ出そうと思います。気長に待っていただけるとありがたいです