極東は今日も地獄です   作:てんぞー

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十四喰目

「いやぁ……二ヶ月で使い物になるとはホントこの超大物大先輩でも驚きだったわ。今までは超小者後輩だったけど、超小者後輩から小者後輩ぐらいへはランクアップを認めてやろうこのゾウリムシ共め」

 

「先輩、ランクアップしたのになぜか人外へランクダウンしてるっす」

 

 アナグラロビーのエレベーター前にある小さなラウンジ、そこに設置してあるソファとテーブルに自分と、ソーマと、ユウと、コウタ、そしてサクヤと、リンドウを除いた第一部隊の面子全員が揃っていた。昔は全員が座るには少々小さくもあったラウンジのソファとテーブルだが、ヨハネスに改善案と予算を確保したらその意見を反映してくれ、今では八人座っても余裕のある広さになっている。

 

 そこに人妻属性、褐色属性、鎧属性と凄まじく濃い属性の三人組がいるのだから、極東の属性濃度は高い。

 

「まぁ、でも本当に誇ってもいいのよ? ここまで早く馴染むというか、ついてこれる子ってのは割と珍しいし。あのカノンちゃんでさえ基本的には世紀末女帝モードに入らないと駄目だし。というか今でも思うけどあのモードって何だろう。雨が降っていると”天が泣いておるわ”とか偶に意味不明すぎる事を呟いているんだけど。アレって神機に意識乗っ取られてない?」

 

「新説”神機に人格はある”、か。そういえば榊のオッサンがそこらへん、昔にちと研究してたな。神機はアラガミのコアを使っている、そしてアラガミも人格をちゃんと保有している事は確認済み。アラガミの命や思考の起点がコアだとしたら、それを使用している神機にも人格、あるいは精神と呼べるものが存在する筈だ、って奴か。その検証はカノンちゃん様解剖しなくちゃいけないから不可能って決まったし」

 

「私の事をちゃん様って言うのやーめーまーしょうよー!」

 

 ラウンジの下、ロビー部分の方へと向けるとカノンが両手を振りながら抗議の声を上げていた。そちらへと向けてソーマがしっしっ、と手を振るとカノンが怒った様に手を振ってくるが、全員でそれの無視を決め込む。しかしユウとコウタの成長に関しては実際驚いている所がある。暗殺を教えたところでコンゴウ殺せるようになったし、今ではソロでシユウを、ユウとコウタのコンビで限定するなら最高クアドリガやサリエル、ボルグ・カムランを狩れるようになっている。

 

 比喩でも何でもなく大型の新人になっている。流石にここまでのスピードで成長するゴッドイーターというのはソーマを除いて見た事がない。そのソーマにしたって半分アラガミの様な生物だ。コウタとユウの成長に関してはハッキリ言って驚異的なものがある。いや、あえて言うならユウの成長だ。コウタはあくまでもユウの成長のオマケでしかない。

 

 ユウとセットで育てているから、ユウと同じぐらい能力が、技量が、引き上げられている。そんな感じがする。

 

 正しくこの世界の”バグ”という感じがするが―――まぁ、生き残ってアラガミを殺せるようになっているならそれ以上は興味がない話だ。難しい事は研究者や偉い人間の考える事だ。

 

 ともあれ、

 

 今日は割と平和な時間を過ごせている。

 

「俺、ゴッドイーターになったら毎日朝から晩まで出動してアラガミ殺しまくっているってイメージだったんだけどなぁ……」

 

「そんな時間かけてアラガミ殺している様な奴は出来損ないよねー。殺しまくるのは間違っていないけど、パパっと数時間以内に終わらせられないと無能もいいところよ」

 

「もう慣れたけど衛生兵でこんなだから極東だけジャンル違い、世紀末、モヒカンがアラガミを駆逐する国、三歩も歩けばアラガミを食べる人間と出会えるワンダーランドとかって言われるんだろうなぁ」

 

 ユウのその言葉に頷く。割とほかの地域、他の国は極東の事をボッコボコに言っている。しかもそれがもはやジャンルが違うと言ってしまえるレベルで、現代伝記モノの小説の中に異世界ファンタジーで近未来ロボを魚のフルスイングでミンチにする、的な理解不能な別世界として認識されている。もうなにがなんだか解らない。

 

 外から見た極東がそれなのだ。そりゃあ変な評判や評価ばっかり付け回る。実際餓えのあまりにアラガミを食べようとする人間はいるし、モヒカンヘアーの人間は世紀末エンジョイ勢として存在する。割とバイクなんかも貴重なんだが、外へとでてバイクに乗ってモヒカンがヒャッハーと言ってアラガミに追いかけられている姿を見るとどこか心が和んでくる、癒しを感じさえしてくる。人間、というよりも極東人の世界が滅んでも趣味とネタからは絶対に離れないスタイルは尊敬する。

 

「あ、皆さんいましたね」

 

「んあ」

 

 エレベーターが開き、その向こう側から車椅子に乗ったラケルの姿が見える。もはや一緒にいるのが二ヶ月目に突入するとその姿を見た程度で殺意を抱く事はなくなった―――というか慣れた。いや、慣れてはいけないのかもしれないが、それでもずっと敵対しているのも大人げない、という意見もあって細胞を全てねじ伏せて反応しない様にする事にした。その結果、表面上は穏やかに過ごせるようになった。

 

 ともあれ、そんな事もあってラケルとの接し方は普通になっている。そんなラケルが膝の上にお皿、そして既に剥かれて切り分けられたリンゴを乗せてやって来てた。

 

「実は姉のいるフライアの方から天然モノのリンゴを送ってもらったので、冷やしたのを切り分けたんですよ。一緒に食べませんか?」

 

「ゴチになりまぁーす!」

 

「ラケルさんありがとうねー」

 

「いただきますー」

 

 ラケルがラウンジのテーブルに皿を置き、ソーマが視線を此方へと向ける。それを無視して鋼鉄に包まれた腕でリンゴのピースを手に取り、普通にリンゴを食べる。普通に美味しいので特に文句も何もない。そのままテーブルの上に置かれたリンゴを全員で無言のままにシャキシャキと音を立てながら食べる。何だかんだで天然モノの野菜やフルーツは珍しく、そして高価だ。食べる事の出来る機会は限られているので食べる時は割と真剣になる。

 

「ホムラが私と結婚してくれればいつでも食べれるのですが……」

 

「おい、結婚してやれよ」

 

「結婚しない理由がないなぁ……」

 

「お前らまたリンゴが食いたいだけだろ。顔に出てるぞ」

 

 意外とエグイ手を使うラケルに戦々恐々としつつも、パトロールは非番であり、朝に遠出から帰ってきたこともあり、アラガミを殺しに行く気分ではなかった。そういう事もあって安全なラウンジはだらけきった雰囲気に包まれていた。強いて言うならば新人たちのコツの伝授とかの話をしてもいいが、既に基本と基礎は叩き込みきった、というか二ヶ月もあればそれぐらいは余裕で出来る時間になる。あとは自分で腐らない様にトレーニングしつつ出撃して経験を溜め、それを自分の動きと能力に反映し続ける作業だ。使わないコツを伝授した所でそこまで意味はない。

 

 完全に緩みきった空気の中、何かをするまでもなくソファに沈んでいると、再びエレベーターが動き出す。視線をそちらの方へと向けるとエレベーターがこのフロアへと向かって起動しているのがエレベーター上の点灯ランプで解る。そのまま無言でエレベーターの方へ視線を向けていると数秒後、エレベーターの扉が開き、その中から二つの姿を出す。

 

 一人はロングコート姿の第一部隊隊長、リンドウ。何時も通りの馬鹿面だと思いながらその横を見ると、

 

 その横にはドン引きするしかない姿の少女がいた。一目で外国人だと解る白い肌と色の薄いブロンド髪。赤いベレー帽に赤いチェックのミニスカート、黒のロングブーツ、そしてボタン一つで止められている大きく胸の開いたスリーブレストップ。というかそのトップスが問題だった。首元のボタン一つだけで止めており、それ以外はジッパーがほぼ全開になっている。その下の胸は豊満なものにブラをつけている様子はなく、完全に下乳が見えている状態だった。

 

 ドン引きだった。ユウとコウタとソーマが気にしない様な姿をしていながらガン見するぐらいには眼福だけど、ドン引きだった。そんな反応を知ってか知らずか、リンドウが笑いながら片手で挨拶をしてくる。

 

「よお、お前ら。今日から俺達の隊で一緒に戦ってくれるロシア支部からの出向、アリサちゃんだ。軽く服装に関してドン引きだったかもしれないが俺もドン引きだわ。だけどロシアでこういうファッションが流行っていると思うと人類の明日は明るいかもしれないと思えてちょっと嫌だわ。まぁ、何はともあれ、このドン引きちゃんを今日から宜しくな。ついでにムサイおっさんが医務室に増えたけどそっちはスルーで」

 

「その説明にドン引きです。もっとマシな説明はないんですか」

 

「下乳が印象の九割を占めてるしなぁ、お前……」

 

 リンドウのその発言にアリサ、と呼ばれた少女がギロリ、と視線をリンドウへと向ける。その視線には少しだけだが、見下す様な視線が混じっているのを察知する。それを見て内心ほうほう、と呟きながらアリサの方を見る。アリサは

 

「なんですかそれは……。まぁ、いいです。新型神機使いのアリサ・イリーニチナ・アミエーラです。今言った通り、新型神機使いとなります。この極東に配備されている新型の次にゴッドイーターになったので二番目の新型神機使いとなりますが、旧式には一切劣るとは思っていません。宜しくお願いします」

 

 そう言いつつアリサが見ているのは新型神機使いのユウだ。それを見て若いなぁ、と思いリンドウと視線を合わせる。それを見てリンドウも生温かい視線をアリサへと向けている為、考えている事は大体一緒なのだろう。こういういきがった若いゴッドイーターが極東へ来るのは物凄い久しぶりだ。大体極東へ来る理由は休暇、あるいは左遷の場合のみだ。休暇に関しては常にアラガミが狩られ続けているという理由で、他の地域よりも遥かに安全だったりする。

 

 出現した次の瞬間には殺しているから被害が発生しないというのもあるが。

 

「ハイ、という事でリンドウくんはここで提案がありまーす! ―――歓迎会しない?」

 

 リンドウの出した提案におぉ、という声が漏れる。それに反応する様にロビーにいた他のゴッドイーターも視線を向けてくる。その視線を良く知っている。獲物を見つけたハンターの視線だ。これからリンドウが何を提案するのか、大体理解しているのだろう、全員、神機保管庫の方へと歩き始める。ここで食堂ではなく神機保管庫へと向かうという時点で大体の予想はつくだろう。

 

「歓迎会とか別にいいですから。では―――」

 

「あぁ、ちょい待ち待ち。これは隊長命令で強制参加だから」

 

「では私は厨房の方へと……」

 

「一体何を勘違いしてるんだ」

 

 去ろうとするアリサの首の裏をリンドウが掴み、そして厨房へと向かおうとするラケルの車椅子を片手で止める。頭の上に疑問符を浮かべているのはアリサをはじめとする新人神機使い三人、そしてラケルの存在だ。それとは打って変わって極東支部にいる他の者はおそらく全員何をするか理解している。だからソーマもサクヤもよいしょ、なんて言葉を呟きながら完全武装をする為にロビーの露天商の下へと向かったり、神機保管庫へと足を向ける。その間に自分もソファから身を出す様に、その裏にある出撃カウンターへと視線を向ける。

 

「ヒッバりーんちゃーん、これから歓迎会を始めるから支部長に報告と許可をお願いー」

 

「はいはい、了解しました。では回収班と研究班にも通達を行いますね。久しぶりの歓迎会ですから色々と根回しが大変そうですね。リッカさん達整備班にも連絡を入れて、っと……」

 

 ヒバリがそのまま仕事に没頭し始める。だからよいしょ、と呟きながら立ち上がる。ラケルをここに置いていくわけにもいかないし、車椅子を肩に担ぐようにラケルごと持ち上げて、神機保管庫の方へと運んで行く。完全に置いてきぼりの三人に関してはリンドウに一任するとし、この毒婦は適当な所で捨てておこうと思っていると、ラケルが車椅子の上から視線を向けてくる。

 

「結局何をするんです?」

 

「アナグラ式歓迎会、”マラソン大会”」

 

「それって歓迎会とは言いませんよね?」

 

「極東文化ってバイオレンスでジェノサイドなんで、これぐらいついてこれないならお前帰れって意味もあるから」

 

「あぁ、成程」

 

 マラソン大会、それで大体ラケルが察した辺り、極東に関してはちゃんと情報を集めているらしい。まぁ、どうでもいい事だが。

 

 そう思いつつ神機保管庫へと向かって歩いていると、車椅子の上から声が来る。

 

「ところでホムラ、もしかしてああいう大きさが好みですか? でしたら体を貴方の好きな形へと組み替えますよ?」

 

「最近人間っぽくなってきたなぁ、と思ってた俺が馬鹿だったよ……どこまで行ってもそういうキャラだったよな……」

 

 このイライラは歓迎会にぶつけるとして、

 

 しばらくアナグラは荒れそうだと、そう思った。




 次回、マラソン大会(隠語)します。

 GE2の大型ラウンジがないのにまともな歓迎会が出来るわけないだろ! いい加減にしろ!! 現在は原作ロビーのエレベーター前のあの空間が少し広くなった程度の快適さ。

 果たしてアリサは極東適性検査を、マラソン大会(隠語)を乗り越えられるか。

 完全武装という時点で大体察せる内容。

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