極東は今日も地獄です   作:てんぞー

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十七喰目

「ヒィィ、ヤッホォ―――!!」

 

 右脇の下にアリサを抱え、左脇にコウタを抱える。背中には首からぶら下がるようにユウが存在する。その状態でパルクールを駆使して移動する。ただパルクールと言っても普通に移動する訳ではない。その体を持って新人には教えなくてはならない。

 

 人間が一体どこまでを足場として利用して移動できるのかを。

 

 という事もあり、かつては教会があったであろう廃墟、その手前のエリアを三人を運ぶようにして移動する。一番簡単なのは廃墟だからだ。壁はぼろぼろになっている為足をかけやすい。跳躍して足の端を乗せ、体重が乗る前に体を上へと引っ張ればいい。着地、重心移動、衝撃緩和、重量を消す事、この基本程度であればツバキが基礎訓練を通して叩き込んでいる。だから見ればこの三人でも理解できる筈。出来なければその程度の生徒であったと切り捨てるのみ。丁寧にやるほど優しいつもりはない。

 

 だから速度を乗せて移動する。前転をする様に足を着地させながら屋根が崩壊する前に前へと飛び、壁を蹴って斜め、前へと向かって加速する。そのまま壁を左へ、右へ、左へ、と窓のふちや崩れた壁の端を蹴る事で徐々に高度を上げながら加速、前進する。両手がふさがっている為に動作は完全に足だけで、前方の壁を逆さまになって足を引っ掛け、体を蹴って引っ張り上げる。曲芸の領域にしか見えないかもしれないが、そんなことはない。重心の移動と柔軟な発想、あとは移動できる領域さえ見えていれば、誰でもできる事だ。

 

 鎧の重量というデメリットも、長年装着し続けていれば自分の体の様なものになる。その重量はほかの者が服を着る程度の重さとして感じない。だからそのまま屋根の上へと移動し、重量や衝撃を足場に通さない事を気にしつつも走って前へと移動、そのまま二つの建造物の間の隙間を飛び越える。隣の建造物へと飛び移った所で、そのまま動きを止める事なく更に奥へ、奥へ、かつては住宅街と呼ばれていたであろうエリアを突破する。

 

 空しいものだ、かつては人が住んでいたであろう何百という家は今、全てが空っぽになっている。とてもだが人の住める場所ではない。所々屋根もなくなっているが、慣れたものだ。移動し、オウガテイルを見つけたらその頭をコアごと踏み潰して足場にし、移動し、ザイゴートもオウガテイルと同様に踏み殺して処理する。移動に加速を乗せた速度は十分な凶器になる。そもそも一発でコアをぶち抜けるのであれば神機は必要ない。

 

 ヴァジュラやコンゴウ等の中型のアラガミとなると神機がないとコアまで攻撃が届かなくなる。だからこそ神機が対アラガミに必要とされるのだ。だからこの程度の小型アラガミ、神機がなくても殺せる。

 

 だから移動しながら、拳を振るう事もなく殺す。返り血は浴びる前に移動する事で回避する。だからそのまま、離脱する様な素早い速度で移動し、

 

 そしてそのまま、贖罪の街、と呼ばれるエリアへ到着する。

 

 旧横浜市であるこのエリアはアラガミが出現した直後は多くの人々が集まり、身を寄せ合っていた場所の一つになる。今の荒廃具合を見れば、どういう結果になったのかを語る必要はない。今、このエリアにはアラガミが合計で四体存在している。

 

 その四体を新人三人、そして自分で狩りに来た。

 

『交戦エリアへの接近を確認! ゴッドイーター各員は戦闘態勢への移行をお願いします!』

 

 今回は新人が三人いる為、ヒバリのオペレーションが入ってくる。それを聞き流しながら、贖罪の街中央の教会、その屋根の上へと着地し、東側に両手のコウタとアリサを投げ捨てる。

 

「このクソ先輩がぁ―――!!」

 

「マラソンで大抵慣れたと思いましたけどドン引きです―――!」

 

「ハァーハッハッハァ―――!」

 

「俺も行きます!」

 

 背中に乗っていたユウが肩を足場に跳躍し、コウタとアリサと合流する様に大地の上へと着地する。下からコウタとアリサが振り上げる様に抗議の声を叩きつけてくる。え、聞こえない、と右手で耳を寄せる様なアクションを取る事が更に新人達の怒りを注ぎ、アリサが神機で照準して来るのをコウタが横から蹴って止め、ユウがその光景を見て苦笑する。その間に東、住居エリアからゆっくりと大地に足音を立てないようにしながら近づいてくる気配がある。

 

『少尉の非道は何時もの事なのでスルーしてください。エリア東からアラガミの接近反応! 一……二……ハガンコンゴウ三体がエリアへと侵入しています! ただちに迎撃体勢への移行を!』

 

「さぁ、頑張ってくれたまえ新人諸君。証明して見せろ。貴様らにならそれができる筈だ」

 

「クッソォ! やぁってやる……! アラガミもろとも……!」

 

「殺す。殺す。アラガミ殺して少尉を殺す」

 

「二人とも人間性を失いつつあるんで少尉、ちょっと手心加えませんか?」

 

「はっはっはっは! それじゃあ頑張ってねぇ!」

 

 廃墟を飛び越えて出現して来るハガンコンゴウ三体。それに対してユウ達三人が散開する様に回避に入る。慣れればこの回避動作を逆に攻撃動作にしてカウンターで殺すのだが、それを新人に求めるのは辛いだろう。三人の実力を理解している自分からすればハガンコンゴウ程度余裕だろう、と油断と慢心さえしなければいけると思っている。

 

 故にハガンコンゴウの相手は完全に三人に任せながら、

 

『エリアにアラガミの接近反応―――ハンニバルです!』

 

 屋根から高速で蹴りを叩き込む様に飛び降りる。その動作がエリアへと飛び込むハンニバルの姿へとジャストミートし、その白い巨体を横へ吹き飛ばし廃墟の中へと叩き込む。姿が廃墟の中へと叩き込まれるのを確認しつつ大地に着地し、視線をまっすぐ廃墟の中のハンニバルへと向ける。道中、パルクールを華麗に決めながらアラガミを殺してきているから多少派手に暴れても増援はあまり来ないだろう。

 

「ヒバりん、俺は無視して新人たちのオペだけしていればいいから」

 

『給料泥棒にはなりたくないので』

 

「ヒバりんも言う様になったなぁ……さて。後輩たちにちょっと大物先輩のカッコいい所を見せるとしますか」

 

 廃墟そのものを吹き飛ばしながらハンニバルが両手に炎の剣を持って突撃して来る。バックステップで回避しつつ回し蹴りをハンニバルの顔面へと叩き込む。その衝撃を無視しながらもハンニバルが剣を乱舞、大地が燃えながら溶けて行く。触れればアラガミ鋼の鎧が問答無用で蒸発するのは目に見えている事だ。だからこそ踏み込む。ハンニバルが握っていない炎、既に放たれて大地に燃え移った炎はハンニバルの制御から外れ、通常の炎程度の熱量しか持たない。

 

 だからこそ、炎の中を通って接近する。

 

 掌底を胸へ叩き込んで胴体に穴を開け、真っ先にコアを破壊する。また同時に逆の拳を振るってハンニバルの左腕をその根元から殴って砕き飛ばす。残った腕で攻撃して来るハンニバルの一撃をバックステップで回避し、同時に跳躍する。次の瞬間ハンニバルの背中から炎が溢れ出し、その周囲の地面を狩り取るように炎が波紋状に広がり、焼き尽くす。

 

 それを既に飛び越えてある体は殴り飛ばしたハンニバルを掴み、侵食、同化、

 

 ハンニバルの腕と自分の腕を一体化させ、捕食しつつ炎の剣を握る。

 

「俺が狩って、お前が狩られる。っつーわけでお前のもんだし受け取れぇ!」

 

 炎の起点となっているハンニバルの背中に炎剣を突き刺し、同化させていた腕を丸ごと捕喰して体内へ取り込み、神機解放状態へと突入する。炎へと強い耐性を持つハンニバルである故、突き刺しても効果はあまりない。だが一秒程度は時間が停止する。そうなれば後は身体能力任せのゴリ押しでどうとでもなる。

 

 落下し、重量と速度を乗せた蹴りで背中を抉って破壊する。そのまま堕ちる様に拳を繰り出して逆の腕を粉砕、ハンニバルの両腕を破壊する。そのままハンニバルが動く前に呼吸の間に潜り込み、顎の下から蹴りを繰り出し、ハンニバルの頭を蹴り上げる。

 

 ハンニバルの相手が面倒なのは、コアが消滅しても再生するという特異性にある。コアを真っ先にぶち抜いて殺す極東で生み出されたのだから、それに対する進化としてハンニバルは生み出されたのかもしれない。だが、それに対する答えは簡単だ。

 

 死ぬまで殺して全部喰えばいい。

 

 だから逆の腕を掴んで侵食、同化、捕喰のプロセスを一瞬で行い、そのまま吹き飛ぶハンニバルの尻尾を掴んで引き戻し、鎖の様に振り回して大地へと叩きつける。再びハンニバルの体を上へと投げ捨て、落ちてくるハンニバルの顔面を砕く様に殴り、穴の開いた顔から首へと手を入れ、中の肉を引きちぎるほどの力で掴み、そして捕喰を始める。

 

「俺がお前でお前が俺? 冗談言うな。俺は俺だ」

 

 捕喰を通して触れるハンニバルの精神を食い殺し、ハンニバルの完全殺害が完了する。両手も背中も頭もない憐れな姿を大地に転がし、完全殺害を裏付ける為に更に体を万遍なく踏み潰してミンチと表現できる肉塊へと変形させて行く。そうやって最初に掌底でコアを破壊した事を含め、ハンニバルに再生の余地を残さず、何処からどう見ても生物として再生、蘇生、生存不可能な状況を生み出す。

 

『ハンニバルの討伐を確認! 引き続き各員は戦闘を―――ハガンコンゴウ一体の討伐を確認しました! 残り二体です!』

 

『嘘はっやっ!?』

 

『コンゴウとあんまり変わらないからそこまで苦労しなかったかなぁ』

 

 新人達も頑張っているな、と通信機を通してその声や連携の音を聞きつつ臭い消しをハンニバルだった肉塊と自分に使う為に取り出す。

 

 ―――次の世代は明るいなぁ。

 

 ユウが若干才能で突出しているが、それにしてもコウタとアリサも優秀だ。それを考えると極東の未来は明るい。そう思えた。

 

 

                           ◆

 

 

「―――アリサを動かす事なら出来るが一回のみだ。それ以上は暗示が解ける。今でも割とヤバイから薬の類を使っているが、環境のせいで精神が健全化されていっている。イヤミか。アレを操れるようにするために一体どれだけの時間をかけたと思ってるんだ……まぁ、そういう事だ」

 

「ふむ、そうか」

 

 黄色いバンダナを付けている男―――大車ダイゴが煙草を咥えながら悪態を吐く。その気持ちも解らなくはない。とはいえ、ダイゴは此方の計画の為に要請し、そして支給してもらった人材なのだ。悪態を吐いても仕事はしてもらわないと困る。

 

「アーク計画の手伝いの為にこっちへ来てるんだ。結果を―――」

 

「危惧している事は解る。だが焦った所では駄目だ。重要なのはコアの確保だ。邪魔ものの排除に関してはその後で問題ない。ノヴァの育成も助っ人のおかげで捗っている。だが我が支部の精鋭たちは君の所の無能達と一緒にされると困る。ウチの飼い犬たちは陰謀だとか、後ろ暗い事に対しては殺意を抱く程に敏感なんだ。そこで君に焦られると尻尾を掴まれる」

 

「……相変わらず判断基準がおかしいな、ここは。……で、どう排除するんだ?」

 

 その時点で間違っている、とダイゴに言う。

 

「排除なんて物騒な事を考えてはならないよ。彼らはその言葉に込められた殺意から陰謀へとたどり着く。誰か一人でも被害に遭えば首謀者を見つけて殺すまで動くのを止めない。だから重要なのは傷つけない事であり、悟らせない事だ」

 

「無茶を言ってないか?」

 

「いや、そうじゃない。簡単に言えば”殺せば悟られる”という話なだけだ。殺意や死、敵意に関して敏感なだけだからぶっちゃければそれ以外の手段を使って無力化すればいいだけの話だ。少なくともリンドウは出張で極東から追い出す事で殺さずに追い出せる。アリサを利用して排除するのも最終手段か、或いは囮としてのバックアッププランだ」

 

 そう、殺意を生み出してはならない。それが一番重要なのだ。そういう殺意や焦り、敵意を食い殺してくるのが極東のゴッドイーター。誰よりもそういうものと対峙し続けているからこそ彼ら、彼女たちはそれを敏感に殺しに行く。

 

 ダイゴはそれを聞いて興味なさそうにへぇ、と呟く。

 

「で? 厄介な二人のもう片方は?」

 

「―――彼についてはもう対策を用意している」

 

 キキキ、と音を鳴らしながらゆっくりと部屋の扉が開く。それを抜けて、ゆっくりと車椅子に乗った黒い服装の女が入ってくる。その姿は可憐であり、そして笑みを浮かべている姿は実に可愛らしいものだろう。しかし実際は違う。彼女は此方に対して笑みを向けていない。笑みを浮かべているのは此方がそう見えているだけで、彼女自身笑みを浮かべているとさえ思っていないだろう。そういう雌の顔を見せるのは一人だけ、なのだろう。

 

「RPGゲームでボスへ挑むとき、君はどうするかね? ―――私は情報を集めてメタ編成で勝率を百パーセントにするタイプだよ。毒婦を抱え込むのはいただけないけどね」

 

「あらあら、そういう風に語られちゃいますと、まるで悪い事をしているかのようですね。私はフライアの正式な命令で此方に来ていますのに」

 

 ラケル・クラウディウスと視線を合わせ、互いに小さく笑う。

 

 文字通り化け物。悪魔の女。アラガミの女。あの男が殺したくても殺す事が出来ないアキレス腱。

 

 利用するのはこっちだ。勝つのもこっちだ。

 

 人間の意地というものを見せ、証明しようではないか―――アーク計画で。




 ハンニバルくん(三日歳)
  極東が「こいつらヤバイ」という危機感から生まれてきたアラガミ。コアがなくても生きてるし、動けるし、コアも再生する上に動きが早くて武術の流れを組むハイブリッドアラガミ。しかし極東での認識は”ちょっと死に難いアラガミ”程度であった。コアを破壊したら徹底的にミンチにして殺すのが対処法。

 ヨハネスくん
  なんだかんだ極東のワルガキ共と一番付き合いの長い人。長年の付き合いから弱点とか対処法とかしっかり理解している人でもある。ボス戦時はガンメタ張った上にオーバーキルする方針。

 大車ダイゴ(50歳)
  アーク計画の為の手ごまその1。極東の実態にドン引きしている。ただ仕事は仕事だからアリサの洗脳状態は維持している。最近北斗七星のそばにある綺麗な星を眺めるのが趣味になった。

 ラケルたん
  出勤開始。実はアーク計画の為にフライアからこっちに来てた。


 ハンニバルたんの他にも色々と原作後出現アラガミが出現しますよ。アラガミマラソンしてりゃあそりゃあ生まれるわ。

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