極東は今日も地獄です   作:てんぞー

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二十四喰目

「前々から思ってたんだけどさ、終末捕喰って結局は地球のシステムの一環なんだよな? 人が増えすぎちゃったり汚染されすぎたりで地球が危機を感じているから綺麗にしなきゃいけないサムシング的な。だったら直接この地球意思? 輝けと叫んでくるガイア? を殴り殺しちまえばオール解決なんじゃねぇかなぁ」

 

「それができねぇからこんな事してるんだろ」

 

「それもそっか」

 

 エイジス島中央施設”エイジス”。その最上階へと向かう為には二回、エレベーターに乗らなくてはならない。故に一回、エレベーターから降りてエレベーターホールを抜けて、別のエレベーターに乗り換える必要が存在する。その為上へと向かう誰かと会いたい場合は、エレベーターホールで待ち構えてさえいれば問題なく接触する事が出来る。何故ならそこは絶対に通らなくてはならない場所なのだから。

 

 そのエレベーターホールの端にはパイプ椅子を持ち込んだバンダナに白衣姿の男―――大車ダイゴの姿が存在し、その対面側の壁に寄り掛かる様に自分がいる。既に昼に深く食い込んだ時間であり、ガラス張りの壁からは夕日が差し込んでいる。それを鎧や白衣に浴びさせながら、特に意味のない話題で盛り上がる、という程でもない会話を続ける。大車自身は暇らしく、煙草を吸っている。

 

「しっかしアーク計画もいよいよ実行か……思えば何人洗脳してきたか解ったもんじゃないな……クッソくだらない。研究して結局得たのは絶望へのフリーパスだ。今頃世界の各地で月へと向かう為のシャトルの搭乗が始まっているだろう―――それに乗れると思って手を貸していたのに結局乗れなかった」

 

「”悪は栄えず”とは言ったもんだろ。俺やお前の様な純粋悪はどう足掻いても最後は死んでエンディングを迎えるもんさ」

 

「かもしれないな。そうじゃないかもしれない。どっちにしろここまで来てしまっては興味もない事だ」

 

 口から煙を吐いた大車はめんどくさそうにその煙を吐いていた。少し前までは見えていた執着心も今の彼には全く見えなかった。ぬけがら、と表現するのが正しいような状態になっていた。終末捕喰。人間という存在では絶対に抗う事の出来ない節理の前に、心を覆っていたあらゆるものがはがされているのかもしれない。あまり興味のない男だから今までは数える程しか会っていなかったが―――もう少し接し方を変えれば、何か違っていたかもしれない。

 

「結局なんだ、必死こいて研究したことが認められなかった結果闇落ちしてフェンリル暗部で活躍しだしたんだっけ? すっげぇ馬鹿な人生送ったよなぁ、お前。自分で予算確保して実証するぐらいの事はやれよ」

 

「まったくもってその通りだ。おかげで数えきれないほど洗脳したり薬漬けにするハメになった。知ってるか? 面倒だぞアレは? 一々メンタルコンディションを管理しなくてはならないからな……まぁ、もう関係ない事だ。今更な話、何の実りのない事だって気づいたしな……」

 

 そう言いながら大車は煙草を投げ捨てる。まさしく審判の時を迎える罪人の姿そのもの―――しかし死を前に多くの我執がそぎ落とされていた。執着の亡くなった男はただ空虚で、そして同時に満たされているようにも思えた。きっと、かつてない程の身軽さを彼は感じているのだろう。実に羨ましい話だ。自分は終ぞ、そういう風に捨てる事ができなかった。

 

 大車でさえ我執を捨てられたのに、自分は時が近づけば近づく程固執している。

 

 自分を縛っているものはなんだ。ラケルへの執着心。どうしようもない絶望への肯定。そして自分が化け物であるという事への自覚。もう人として戻ってくる事の出来るラインは超えてしまった。故に、戻る事は出来ない。あとは飛び降りたこの崖を滑り、転がりながら落ちて行くだけ。それしか自分には残されていない。

 

 と、そこでエレベーターのランプが付く。それを見て、シオ奪還―――終末捕喰を止める為にゴッドイーター達がやってくる。大車が立ち上がり、近くのガラス窓を開け始める。

 

「確か来るのはソーマ、アリサ、コウタ、そしてユウの四人だっけか」

 

「あぁ、アナグラに濃縮挑発フェロモンを爆発させておいたからな、今頃アラガミパニック中でそれ以上誰かを寄越す余裕がないだろう……っと」

 

 そう言っている間に扉サイズの窓を開けた大車は風をその顔に浴びつつ、外へと踏み出し、懐から銃を取り出し、それを自分のこめかみに当てる。風が吹き荒れる施設の外で数秒間大車はそのまま動きを静止させ、チン、と音を立てながら扉の開くエレベーターへと視線を向ける。そこから第一部隊が姿を表すのと同時に、

 

 自分の頭を撃ち抜いて落下した。

 

「え―――」

 

 アリサがそれを見て動きを止めた瞬間、口を開くよりも早く跳躍し、エレベーターの扉の頭上、その壁を足場に着地する。移動の衝撃でエレベーターホールのガラス壁が全て粉砕されるが、それを一切気にする事無くそのまま頭上から潰す様に拳を繰り出す。

 

 それを切り払われた。

 

「余所見してんじゃねぇ―――!!」

 

 ソーマだった。誰よりも早く奇襲を察知し、神機で拳を切り払う事でアリサへの攻撃を流す。その動きでソーマは動きが加速し、返しの刃を放ってくる。それに合わせる様に、逆側から挟み込む様に、狭い空間を縫う様にユウが刃を穿ちに来る。ソーマの様な経験からの復帰ではない為、その動きは荒くても芯が存在した―――鍛錬された動きだ。

 

 それを―――回避する。

 

 おそらく回避という行動に似つかわしくはない男であると自覚している。イメージからして似合わないだろう。それだけ真面目であるという事の証明。何時もの様に余裕を見せて攻撃を喰らって殴り返す事なんてはしない。

 

 敵であると認め認識し、確実に倒す為に動く。

 

 ユウの攻撃を体を捻りながら回避するのと同時に、アリサによる射撃が発生する。事実がどうであれ、様々なショックから復帰できる程度には心が強くなっているらしい。純粋にそれを心の中で祝福しつつ、即座に空中を全力で蹴り、衝撃波を発生させつつ自分の体を吹き飛ばし、集団から逃れる。それを狙ったようにコウタが合間を縫う射撃を放つ。

 

 体を丸めて重心を移動しつつ、飛距離を変動させる事で射撃を回避する。そのまま手が届きそうな距離にある天井に足を伸ばし、抉るように蹴りを放ち、天井からその材質の塊を抉り出してボールの様な蹴りをソーマへと向かって繰り出す。それを切り払う事でソーマに迎撃の時間がコンマ数秒生まれる。その間にユウが素早く接近して来る。

 

 ―――ユウとソーマが前衛で、残り二人が後衛だけど―――。

 

 神機の事を考えれば役割のスイッチぐらいは簡単にやってのけるだろう、というか出来る。それぐらいの能力があるのはいっしょに戦ってきた自分が何よりも知っている。そして此方が出来る事を向こうも良く知っている。だからこそ連携を重視した、攻撃をさせない陣形を組んでいる。純粋な暴力、破壊力であればトップである自分を封殺する為の戦術―――。

 

「ガチメタ張ってるじゃねぇーかァ!!」

 

「敵に対しては容赦なくガチメタで封殺! これぞ世紀末ガチスタイル!」

 

「良く言った!」

 

 接近したユウが攻撃するのを待ち、それを迎撃する様に拳を神機に叩きつける。それをユウは上手く受け流しながら此方の体の滞空を強制し、後ろへと押し下げる。追随する様に発生する二人の射撃を天井を蹴る事による方向転換と重心移動を交えた体の動きによって捻り、鎧を抉りながらも体に当てない様に回避し、後ろへと押し下げられて行く。

 

 それは破壊されたガラス窓の方だ。

 

 まともに戦うのが馬鹿らしい相手はどうすればいい?

 

 まともに戦わず、お帰り願えばいい。

 

 つまり、最初から最後まで、この四人はまともに戦う事を考えず、封殺したまま落とす事によって除外しようと考えているのだ―――おそらく戦いの場がエイジスである事を知っている誰かが口を滑らせた。というよりも、一人ぐらいしかチクリそうな人物を知らない。

 

「ラケル裏切ったなァ! 裏切ったなァ―――!!」

 

「こっちの方が燃えるだろうからって本人は言ってましたよ!」

 

 ―――当たってる……!

 

 流石に地上数百メートルという距離から落ちたらミンチになってしまう。それは間違いがない。実に賢いやり方であり―――劣勢、逆境へと追い込まれている。しかもメタ張られてガチの戦術に良く訓練された連携が相手である。

 

 これは燃えるしかない。

 

「敵はエイジスにあり!」

 

「炎上させるつもりはないからやめろ」

 

 ははは、と笑い声を上げながら全力で打撃する。音速をこえる拳が衝撃波をまき散らしながらそれ自体を凶器にユウ達に襲い掛かる。それをユウとソーマが正面から切り込む。風の流れを見きているかのように、流れが一番脆い所へと刃を突き刺し、二人で広げる事によって衝撃波を分散させる。無傷とまではいかないが、それでも即死は回避でき、

 

「待っていました―――!」

 

 アリサが衝撃波発生直後の隙を縫う様に刃を伸ばす。攻撃後の硬直を狙ったそれは戦術的に正しい。故に対応する為に筋力を無理やりに稼働させ、硬直した体を意思と合わせて無理やり曲げ、回避する。

 

 そして射撃される。

 

「忘れて貰っちゃ困るっすよ」

 

 コウタの神機から放たれた射撃が胸を貫通する。それに押し出される様に体が窓の外へと飛び出す。体が落下するのを感じながら、

 

「まだまだこれからが本番だろうがぁ!」

 

 空を蹴り、体を一つ下のフロアへと着地させる様に叩き込む。窓を突き破り、転がりながらも受け身を取りながら着地する事に成功したのはエレベーターホールの1個下のフロアでありまだ何も置かれていないオフィスの様な部屋だった。その中心で立つのと同時に、全身に重さを感じる。片膝を床に付きながら立ち上がろうとし、

 

「―――榊博士が開発した専用の抗アラガミ弾ですよ。効果はP73偏食因子によるアラガミ化の効果を一時的に弱めるという代物です、よっと」

 

 上のフロアから窓を通って四人が降りてくる。それに対応する為に立ち上がるが、体が重い。なるほど、榊の発明であるというのなら納得できる。こんな面倒な物を作っていたのは予想外だったが、だがそれでもいい。まだ動けるというのなら戦えるという事だ。重り以上の邪魔となった鎧を引き千切る様に脱ぎ捨て、その中から自分の肉体を出す。四人が神機を構えるのを見つつ、両手足に装着してある神機を軽く確かめ、そして戦うために拳を作る。

 

 さて、と声を置く。

 

 ―――観察終了。

 

「―――本気で行くぞ」

 

 踏み込みと同時に前へと出る。対応するのはユウとソーマ。だがその意識を掻い潜る様に二歩目を踏み込む。それに対応するのはソーマだ。同じ技術を持っている、故に同じ技術を使って潜り込み、対応した。

 

 だから、それに対して更に、深度を深めて潜り込んだ。

 

 呼吸から意識から知覚へ、見ているが見えていないというレベルへ変化する。その状態で右手で掌底をソーマの胸へと叩き込みつつ、全力の左拳をユウの腹へと叩き込み、天井を粉砕する様に殴りあげる。そのまま動きを止める事無くアリサとコウタの背後へと回り込む。弱体化していようが、鎧を脱げば本来の速度が取り戻せる―――つまりは鎧を脱ぐ前とそう状況は変わらない。という事だ。

 

 あとは全力で殴り殺すのみ。

 

「―――」

 

 背後から殴り殺そうと拳を繰り出し、アリサが反応する。振り返る事なく神機を背に回し、バックラーを出現させる。轟音を響かせながら拳は止められ、それによって守られたコウタが再び射撃する―――おそらくはあの抗アラガミ弾、等という代物だろう。再び撃たれれば戦えなくなるレベルまで弱体化するに違いない。故に容赦なくヘッドショットを狙ってきた一撃を頭をズラす事で回避し、

 

 自分の胸に指を突っ込んで傷口を広げ、打ち込まれた弾丸を引き抜いて、指で後ろへと弾きだす。

 

 背後から感じる気配が風を切るのを感じる。回避されたのだろう。ダッキングしつつ横へ体をスライドし、そのまま後ろへと下がる。それに追従する様に前にソーマが出現する。振るわれる神機を蹴る事で相殺しつつ、その衝撃に体を乗せて浮く。跳躍する様に後転しつつ後ろ回し蹴りを回避し、背後から迫るユウの神機を蹴り上げ、そのまま上がった足を踵落としとして繰り出す。

 

 その動きを阻害する様に射撃が入る。

 

 飛んでくる弾丸を蹴りの軌道を変える事で蹴り払いつつも、体の重心を捻る事で変え、打撃出来る様に拳の位置を調整し、放つ。音速のストレートが再生力の低下した体を傷つけながら体勢を崩したユウに衝突し、部屋の奥へとその姿を吹き飛ばす。

 

 そしてその衝撃波、

 

「使いすぎだぜ、それ」

 

 風に乗ってソーマが接近した。曲芸としか表現できず、風に乗ったとしか表現ができない。ただソーマは衝撃波を利用する事で滞空し、加速し、そして接近した。対応するにもそれよりも早くし接近したソーマが無拍子で神機を叩きつけ、

 

 全力で振り抜く。

 

 体が深く斬撃され、天井に叩きつけられながら反動で吹き飛び、次は床へ叩きつけられながら転がり、

 

「ホームランチャァ―――ンス!」

 

 既に復帰を終えていたユウが野球のスイングで追撃の一撃を繰り出した。

 

 高速で体が吹き飛び、壁に衝突し、全身の骨を砕きながら陥没させる。その痛みを感じながら思考する。

 

 ―――そう、こうじゃないと。

 

 この蹂躙される側の気持ち。これが自分には足りていなかった。絶望しているからこそ感じ取れなかったこの全力、本気で挑める境地。

 

 まだだ、まだ戦える。

 

 修羅は死ぬまで戦い続ける。

 

「くくく……ひひひひ……ははは……」

 

 壁から体を引きはがしつつも、右腕を壁に突き刺し、その中に感じる鉄骨の感触を確かめ、

 

 それを力づくで引き抜きながら武器として握る。

 

「もっと楽しもうぜぇ! この時をよぉ! 終末前の無礼講だぞ、オイ!」

 

「弱体化させてる筈なのに何であんなに元気なんですかアレ」

 

「アレが世紀末DQNって生き物だからだ。ああいうのにだけはなりたくないぜ」

 

「俺達、大体似たようなジャンルなんだけどね」

 

 第一部隊全員で揃って黙る。そんなに不名誉かなぁ、なんてことを思いつつも、戦闘を続行する為に鉄骨を振りあげようとしたところで、

 

 ―――異音が耳に響く。

 

 金属が悲鳴を上げる様な、燃える様な、そして誰かが叫んでいるような、そんな異音が響く。その音源を求め、視線を第一部隊から外し、右側の割れたガラス壁の方へと向ける。

 

 そこには戦闘機の上に立ち、超スピードで接近して来る第一部隊隊長雨宮リンドウの姿があった。

 

「―――雨宮パクった戦闘機ストライクッ!」

 

 そして―――突撃してきた戦闘機が衝突した。




 ホムラくん
  楽しい。バフデバフは許容派。本気と全力はまた違う話だよね。

 第一部隊
  責任追及や言い訳はぶっ殺して大人しくなってから。その途中で死んじゃったら事故扱いで。

 リンドウくん
  盗んだ戦闘機で飛び出す26歳児。

 一撃必殺を2発ぐらい喰らっているのになぜか死なないアラガミスレイヤーアイエェェ。

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