「誰よあんた」
「そちらこそ、どちら様で候」
釣りから帰って来たが、ノジコはみかんの収穫のためにいなかったので、一人寂しくズンドコ節を熱唱していたところ、オレンジ髪の女がノックもなく入り込んできた。しかもかなり機嫌が悪いと見える。
「ここ、あたしん家なんだけど」
「把握。なるほど、あなたがベルメールさんですね、お邪魔してます。しかしまさか化けて出るとは。これはノジコに知らせてやらねば」
「誰が幽霊か! 私はナミよ! ベルメールさんの事まで聞いてんのなら予想つくでしょ!」
「あいにくだが、おれのログには何もない。おれからすれば空き巣に入った怪しい人物でしかない。シチュから見て襲われるのは明らかにおれ。お巡りさん、こいつです」
「私からしたらあんたの方がよっぽど怪しいんだけど!?」
「そうカッカすんなって。体に悪いぞ?」
「あんたのせいでしょうが! ああ、イライラする……何でこの私がこんな奴に振り回されてるのよ……」
「坊やだからさ」
「あんたの方がガキでしょ!」
「そう言う奴ほど中身がガキなのがテンプレ。ほれ、飴ちゃんあげようか?」
「子供に殺意を覚えたのはこれが初めてだわ……」
殺されるのは勘弁なのでローリング土下座で謝罪する。怒りは収まったようだが、おれのローリング土下座が引かれていたのは何故だ。
「あらナミ。あんた帰ってきてたの?」
「ノジコ……」
落ち着いたところでノジコが帰宅。みかんの収穫が一段落して戻ってきたとのこと。
「で、結局こいつ誰なの?」
少し落ち着いたところで改めてナミがノジコに尋ねた。
「ちょっと前に魚人に追われてたところを拾ったのよ。名前は……何だったっけ」
「知らないの!?」
「本名を教えた覚えはないな」
「特に必要性も感じなかったしねぇ」
ハハハ、と笑い合っているおれたちに、ナミはついていけねえとばかりに頭を抱えて蹲る。
「そんな訳で、ちょっと前からこの家でお世話になってます、モブ太です。よろしく」
「モブ太? 変な名前ね」
「それ偽名でしょ」
「よく分かったな」
ナミは偽名に気づいてなかったが、ノジコは普通に見破ってた。おのれ、腕をあげたなノジコ。そしてナミは青筋を立てている。短気なやっちゃ。
「毎日あんたの相手してれば嫌でも分かるわよ」
「なるほど、おれの言動に慣れてきたと。ならばもっとはっちゃけても構いませんねっ」
「構うわドアホ。これ以上はさすがに対応しきれんわ」
「はっ、それくらいで音を上げるとは。You still have lots more to work on(まだまだだね)」
「生意気なことを言うのはこの口か」
ほっぺを縦縦横横に引っ張られた。痛いでござる。てかよく伸びるなおれの頬。それを呆れた様子で見つめるナミ。
「ずいぶん仲良いわね……」
「そう? まあ確かにこいつが来てから退屈はしてないけどね」
「おれはわりと暇してるけど。でもここの食事に餌付けされて離れられないでござる。あ、メシと言えば忘れてた。ノジコ、これさっき釣ってきたやつ」
お仕置きから逃れ、バケツに入った本日の戦果をノジコに渡す。
「へえ、結構釣ってきたじゃない。あんた釣りの才能あるかもね」
「中々釣れる穴場見っけた。ただ、少し惜しいの逃がしたんだよな。海で釣れる牛なんて珍しかったのに」
「牛?」
「なんかでっかい牛が釣れたんだ。鼻に輪っかあったから誰かのペットだと思ってそのまま泣く泣くリリースしたけど」
「それ……アーロンとこの海牛のモームじゃ……」
「何ですと!? それならおれが食っちまっても誰も文句言わないよな? よし、早速釣ってくるっぜ! 今夜はステーキだ!」
「「やめい!」」
釣竿片手に張り切って出かけようとしたらノジコとナミに揃って止められた。解せぬ。
とりあえず、これで打ち止めです。続くかどうかは評判次第。