とある道士の学園来訪   作:朽木琴弓

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太公望・顔にケリを入れられる

 その時はもう完全下校時刻は過ぎていたが、もちろんやっている店などいくらでもある。コンビニ、レストランなどなど。

 

 それで太公望たちは現在レストランの中にいる。インデックスがコンビニばかりじゃ嫌だというのでレストランにしたわけだ。

 

 インデックスは幸せそうな顔でメニューを眺めている。しかし太公望の顔つきは思ったほど明るくない。

 

「ううむ、ここには怪しげなものばかりあって、トーフステーキもがんもどきもないのかのう……仕方あるまい、トマトスパゲッティにでもするかのう」

 

 生臭が食べられないとこういうときに選択肢はかなり限定される。

 

「たいこーぼー遅いんだよ! 早く早く!」

 

「わかったわかった! それでおぬしは何を食べるのだ?」

 

「えっとねー。ここからここまで全部!」

 

 メニューをまんべんなくなぞっていくインデックスがそこにいた。

 

「たわけ! そんなに食べられるわけなかろう!」

 

「ええー! これでもまだ足りないかも」

 

「……おぬしのお腹の中は四次元ポケットか! だいたいそんな金などないわ。もっとこれからのことを考えてだなー……」

 

「むー、たいこーぼーケチくさいんだよ」

 

 ピキッと太公望の方に青筋が立つ。

 

「まったく、そんなんでいいのかのー。おぬし清貧を重んじるシスターではなかったの

かのー。いいのかのーそんなに『暴食』をして」

 

「うぐ……確かにそれは大罪だけど……」

 

「ならばもっと厳選せい、一つにな」

 

「うう~……」

 

 ビシッと太公望は人差し指を突き上げる。今度はインデックスがメニューとにらめっこを始める。そこからは呻き声のようなものが聞こえてきた。

 

 どうやらこれは効いたようだのう――太公望はにやりと笑みを浮かべながらその苦闘ぶりを眺めていた。

 

「うう~……!」

 

「呻いてもダメだぞ。一つったら一つだ」

 

「うう~!」

 

「ならぬものはならぬ~」

 

 すると今度はインデックスはメニューの上から顔を覗かせ、上目遣いで太公望の方に視線を送る。その瞳は若干潤んでいた。

 

「な、なんだその目は。ダメったらダメだ!」

 

「うう~!!」

 

「ダメダメダメ!」

 

「ううう~!!」

 

 さらに強い視線が送られてきて太公望はうろたえてくる。

 

「くぅ……。はぁ……二品! これが限度だ!」

 

「…………」

 

「もうこれ以上は譲れんぞ……子供であっても時には我慢も必要だぞ?」

 

「……分かったんだよ」

 

 渋々了解するもまだ未練があるらしく、メニューの方を見ている。

 

「……ドリンクバーもつけるからそれで勘弁せい……」

 

「おお! たいこーぼーありがとう!」

 

 これから先果たして飢えずに生きていけるのか甚だ疑問になってくる太公望であった。

 

 

 

 運ばれてきた料理を並べてお祈りをしたあと、インデックスは猛烈な勢いでそれらを食べ始めた。

 

「これこれ、あんまり早く食べ過ぎると喉を詰まらせるぞ」

 

 太公望は注意するも向こうの方は聞いていないらしく、食べることに集中していた。

 

「はあ……ではわしも食すとするかのう」

 

 とりあえず太公望の方の料理も運ばれていたため、あらかじめ頼んでおいた小皿にスパゲッティを移してから食べ始めた。

 

「うむ! なかなかうまいではないか!」

 

 『なかなか』うまい。ただ、生命というものがあまり感じられない。なんというか、希薄だ。

 

 ともかく、太公望もインデックスに負けじとガツガツ食べ始めた――。

 

 のだが、太公望が三回目に小皿にスパゲッティを移そうとした時にはもはやインデックスのほうの皿の上のものは全てなくなっていた。

 

 そしてインデックスは太公望の方を物欲しそうに見ていた。

 

 そこではもはや太公望もため息をつくしかなかった。

 

 

 

 結局スパゲッティも半分こにして食べることになり、インデックスは帰り道とても満足そうな笑顔を浮かべていた。その笑顔には太公望も苦笑いで答えるほかなかった。

 

 

 

 てくてくと寮への帰り道を歩いている時。

 

 ――!

 

「インデックス!」

 

「うん! 人払いの術式だね。ルーンを使ったもの。聖人は普通の魔術を使えないから、あの赤髪の魔術師が刻んでいるね」

 

「しかし、登場するのは別の方のようだのう」

 

 打神鞭を構え、プレッシャーのかかってくる方向に構える。

 

「そのとおり。ステイルが人払いの術式を刻んでいます。ここは戦場になるかもしれませんからね」

 

 闇の中から声が聞こえてくる。

 

「一般人の被害を抑えたいと? 誰彼構わず、というわけではないようだのう。しかしのう、その刃を子供に向けるのはどうかと思うがのう」

 

 やがて姿が見えてきた。あの長身の奇抜ファッションの女魔術師である。

 

「……単刀直入に言います。禁書目録をこちらに渡していただきたい。あなたに危害は加えたくない」

 

「ふうむ、しかしのう。わしは既におぬしの仲間を結構痛めつけてしまってのう、おぬしらの組織にとってはいわば敵対者といっても過言ではあるまい。それはわしとて同様よ。そんな者が、危害を加えたくないとか言っても信用できんのう~」

 

「太公望……」

 

「わかるかインデックス。わしはもうこやつらに狙われとるのだ。共同戦線を張るしかなかろう」

 

 ビシッと打神鞭を神裂につきつける。

 

「……魔法名を名乗る前に保護したいのですが」

 

「ふむふむ。おぬし、『保護』というが具体的にどうする」

 

「しかるべき『処置』を施します」

 

 その言葉にインデックスは身構える。

 

「『処置』か……その言葉、少し頭に残しておくことにするかのう」

 

 ぶおっっと当たりに風が吹き荒れる。その時インデックスは太公望の方を向いたが太公望は片目を閉じただけだった。

 

「……わたしの七転七刀の斬撃は速度は、一瞬という時間で相手を七度殺すことができるレベルです。必殺といっても過言ではありません。」

 

「一瞬……コンマ何秒になるのかのう」

 

「私は禁書目録を保護しつつあなたを倒すことができます。それでもその杖を収めてはくれませんか」

 

「かかか、案外力量を見る目がないのう。そんなにわしが弱そうかのう……」

 

「……『七閃』」

 

 神裂が刀に触れた瞬間、地面のコンクリートが裂かれた。

 

 幸いまだ太公望たちに危害を加える攻撃ではなかったようだった。

 

「……確かに速いのう。おぬし歳は?」

 

「18ですが?」

 

「うそお!?」

 

 その声はインデックスの方から出てきた。

 

「私もあとちょっとであれくらい出るのかな……」

 

 などと自分の胸のあたりを見ながら少し嘆息する。トントンと太公望は軽くインデックスの頭を叩く。インデックスは太公望の方を見ると、太公望は口に指を当てている。

 

「……ふ、ふむ、18か。その歳でここまで練り上げるとは。おぬしにはやはり天賦の才があるようだのう。……しかし、たどれぬ程ではない」

 

 張っていたワイヤーが弾ける。

 

「なっ!?」

 

「この斬撃、その刀ではなくそこから伸びているワイヤーによるものだのう。そんなものを使うとはのう……」

 

「切断されている……そんな馬鹿な……」

 

「昔のう、お主よりもずっと速く、そしてずっと歳を経た者と戦ったことがあってのう。もっともそやつは鞭を使っておったが。そのおかげで目が慣れておるようだ」

 

 太公望の方を神裂が見ると、その周りに光輪のようなものが浮かんでいた。

 

「それにわしは動体視力も良い方でのう、すでに周りにワイヤーが張られてしまったようだ」

 

 インデックスはハッと周りを見渡す。そこには極細のワイヤーが闇の中、光に映し出されていた。

 

「このワイヤー、かなり硬質だのう。だが『打風輪』で切れないことはない」

 

 さらに太公望は風の輪を発生させる。

 

「疾ッ!」

 

 それらを一気に四方に飛ばす。

 

「七閃!」

 どーん。地を削るワイヤーの衝撃を太公望はモロに食らってぶっ倒れる。が、

 

「走れ!」

 

 その瞬間、インデックスはすたた、と走り出した。つまり逃亡である。

 

 

「へ?」

 

「『打風刃』!」

 

 倒れた状態から風の刃を発生させ、神裂へ向ける。同時に打風輪で下のコンクリートを砕き、粉塵を空気中に漂わせて視界を遮る。しかし神裂は瞬間飛び上がり、太公望の頭上から鞘を振り下ろしてくる。

 

「のおー!」

 

 間一髪避けることができたが、その鞘はコンクリートをくだいた。次の瞬間に太公望の顔にめりっと神裂のケリが入った。

 

「ぐは……!」

 

 ノーバウンドで5、6mほど吹き飛ばされ背中から太公望は叩きつけられた。

 

「……ぬう、凄まじいパワーよのう……」

 

「……なぜインデックスを開放したのですか。ステイルからの報告ではあなたは彼女を盾に使ったと聞いていますが」

 

「人聞きの悪いことを言うなっつーの!」

 

 よっこらせ、と太公望は立ち上がり、服の粉塵を払う。

 

「まあ、インデックスならば大丈夫であろう。さっき聞いたがインデックスには魔術を妨害する能力を持っておる。おぬしらもそれで何度も撒かれたのであろうのう。さらに今までのステイルとかいう男の魔術を見る限り、足を使っての追跡などについては不利であろう。おぬしがここにおれば捕まることはあるまい」

 

「しかし私があなたを倒してしまえば問題ないのでは?」

 

「まあ待て待て」

 

 ふるふると太公望は手を前に出して制止する。

 

「ここにはわしらの他には誰もおらぬ。少し話をせぬか?」

 

「話? 一体何を話そうというのです?」

 

「おぬしら、まだわしらの知らぬ情報を持っておるな? そう――、例えば、インデック

スの記憶をおぬしらが消した、とか」

 

 途端に神裂の顔つきがこわばっていく。

 

「なぜそれを……。ステイルから聞いたのですか?」

 

「ほうそうか……半分カマかけだったのだがのう。ということは。おぬしらは『必要悪の

教会』の者じゃな」

 

 顎に手を当てて太公望はうんうん、と一人で納得する。

 

「どういうことですか……?」

 

「インデックスは禁書目録という任があるのだろう? 世にも恐ろしい書を一手に引き受けるという、な。わしは一個の人間にそのようなことを押し付けるのは好かぬのだがのう。インデックスは『必要悪の教会』という組織に属していると言っておった。そやつらはインデックスに膨大な恐ろしい知識を叩き込んだらしくてのう」

 

 非道な奴らよのう、と言って言葉を一旦切った。

 

「そのような者たちが囲ったインデックス、あやつを危険にさらすようなことはしたくあるまい。いわばあやつは莫大な情報の塊だからのう。敵に渡したいはずがない」

 

 じろりと太公望が神裂の方を見ると彼女は唇をかんだままうつむいていた。

 

「そこでインデックスの記憶喪失だ。一般に記憶喪失は心身に対する何らかのショックで引き起こされる。が、記憶喪失はよくあること、とは言い切れぬ。しかもデリケートに管理するはずのそやつらが気を揉まないはずもない。宝は箱の中に、といったようにのう。つまりインデックスの記憶喪失は偶発的なものではなく人為的、しかも所属する『必要悪の教会』によって為されたものとの公算が大きいと推測される。どうかのう、間違っておるかのう?」

 

 神裂は何も反応をしない。

 

「ステイル=マグヌスはインデックスを『回収』すると言っておった。つまるところ、逃げ出したインデックスを取り戻しに来たと、まあそんなところかのう、お主らは。組織が何故記憶を消したのかは知らぬが、おそらく組織になにか利するところがあるのであろう。見た限りでは、インデックスがより道具として扱われていくように感じるがのう……」

 

 若干笑みを浮かべながら太公望は神裂に告げた。

 

「あなたに何が分かるんですか!? 何も知らないくせに!!」

 

 神裂は突如怒声をあげる。今にも爆発しそうなその怒気を揺らめかせ、刀の鞘を力の限り握り締めながら。顔を怒りと悔しさで歪めながら。

 

「……何も分からぬよ。だからこそ教えて欲しい。おぬしらとインデックスとの間には何があったのだ?」

 

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