「さて、もうよいかのう」
時がたち、太公望は三人を見渡す。三人の目尻は赤くなっていた。それを見て太公望は満足そうに頷く。
「さて、この先問題になること。それはあと少しすればインデックス、おぬしが倒れてしまうということだ」
神裂が頷く。
「記憶による脳の圧迫が原因でないということは……」
「うむ。おそらくインデックスに何らかの魔術的なものが施されていると考えてよかろう。インデックス、なにか感じぬか?」
ふるふるとインデックスは首を横に振る。
「ふむ。早い段階から施されたものであれば、それが違和感にはならないのかもしれぬ
し、施した者が凄腕であれば悟られぬようにすることもできるであろうのう」
「その施されたものとは一体……」
「……さあのう。いずれにしてもうまいことそれをとっぱらわねば、インデックスは死んでしまう」
すくっと太公望は立ち上がり三人に向けて指を立てる。
「方法はいくつかある。一つは、実はおぬしらには内緒にしておるがわしには奥の手があってのう、おぬしらが知らぬところで何回か試したが、どうやらこいつはうまいこと効きそうなのだ」
「え!? その打神鞭以外にもなにかあるの!?」
「かかか、そうゆうことになるのう」
「先に言ってよたいこーぼー!」
なんだか仲が良さげな二人を見てステイルは少しむくれる。
「……それで? 二つ目は何なんだい?」
「うむ。二つ目は、インデックス、おぬしの衣を破った者。そやつであれば、おぬしの『歩く教会』を破ったのと同じく、施術されたものも解けるだろう」
「……やはり『歩く教会』を破った者がいるのか……」
「まあともかく、わしは二つ目のほうがよいとおもってたりするのだがのう。あまり無関係な者を巻き込みたくはないのだが……」
「? そのたいこーぼーの奥の手じゃダメなの?」
「ダメとは言えないが、わしのは使い終わったあとに、そのおぬしの施されたものが復活する恐れがあるのだ。わしのは常時発動しておらんと効力が消えた状態にはならないからのう」
太公望は懐の打神鞭を取り出す。
「この先っちょについとるのが奥の手だ。あんまり使いすぎるとわしも疲れるのでのう。翻って二つ目だ。のう神裂、『歩く教会』はかなり強力な魔術が施されておったのだろう?」
太公望が尋ねると神裂はこくりと頷く。
「『歩く教会』は法王級の防御力を誇ります。物理魔術双方、並大抵の攻撃ではびくともしません」
そしてステイルも続ける。
「聖ジョージのドラゴンでも再来でもない限り、破られることはないだろうね」
「せんとじょーじ?」
「ゲオルギウスのことさ。悪竜退治で有名だろう?」
「いや知らぬが……。まあよい、ともかくその防御力は凄まじいのだろう。しかしインデックスのそれは破られておる。インデックスよ、すまぬがその時のことを聞かせてくれまいか?」
「え、えっと……その、言わないとダメかな?」
「うむ、それを訊かんといかんともしがたいのう」
「…………」
インデックスは少しの間黙りこくっていたが、顔を上げた。
「……神様の奇跡だって打ち消せる右手……。そう言っていたんだよ。その右手が私の『歩く教会』に触れたあと……その」
「よし、もう良い!」
ふるふると手を突き出して太公望は制止させる。
「なるほどのう、その『右手』が『歩く教会』を壊したのか……」
「ん? どういうことだい。触れたあとどうなって……痛っ!」
「ステイルは少し黙っていてください」
鞘で頭を叩かれたステイルは痛そうにさすっている。
「ふむ、その力はかなり強力と見てよいのう。よし、インデックスが倒れてしまう前に、その右手の持ち主に会うことにしよう! おぬしらも来い!」
「……しかし……」
神裂は申し訳なさそうにインデックスの方を見ている。
「だー!! おぬしらがいたほうが心強いのだ! 施されたものを解除したあと、何が出てくるか分からんしのう。それにおぬしらは見届ける責任があろう」
インデックスはすこしうつむいたあと、しっかりとした声で二人の魔術師に呼びかける。
「……二人共、一緒に来てほしいんだよ。なにも覚えてないけど、あなたたちは私の仲間だったんでしょう?」
「……ああ」
「だったら一緒に来てほしいんだよ! 忘れたことはもう思い出せないけど……でも、できればまた思い出を作っていきたいんだよ!」
その言葉に、ステイルと神裂は救われた。二人共目元を手で覆い、嗚咽を上げる。
「……やはり、おぬしは、いやおぬしらは、幸せ者よのう」
三人の様子を眺めながら太公望はひとりごちた。
その後インデックスの提案で朝食を一緒に食べようということになり、太公望は引きつった顔になったが、神裂の方が金を貸してくれたので、安心してバカ食いに専念することができた。その後、しばらくステイル、神裂、インデックスの三人で、昔のことを語り合ったりなどしていた。
その夜、ところ変わってとある高校の学生寮前。今だ焼けたあとの残るその部屋の前に四人は立っていた。
太公望がノックする。
「おーい、上条とやら。少し用があるので開けてくれまいか?」
太公望がドアに向かって声をかけると、奥から返事が返ってくる。
「あーはいはい。誰ですかこんな夜更けに上条さんは訪ねてくる物好きな方は?」
ガチャりとドアが開き、中から学生が出てきた。ツンツンした黒髪が特徴的な少年。身長は太公望よりも高く、太公望は少し見上げる形となる。
「おお、おぬしが上条か。なんというか、意外と普通の男だのう、そのウニ頭以外は」
「確かに俺が上条当麻だけど……。君いくつだ? こんな夜更けに出歩いちゃ危ないだろ? って初対面でウニ頭ですか!?」
「うむ、そのくらいしか特徴という特徴がないしのう」
「いきなり貶してきやがりますか!? ……つーか俺に何か用でせうか?」
「うむ、まあのう」
太公望が手招きすると三人がぞろぞろと太公望の後ろに現れる。上条はインデックスを見つけると頬をほころばせる。
「インデックス! 無事だったのか!」
「うん! メモに書いたとおりちゃんと大丈夫!」
そして上条は残りの二人に目をやる。
「……なんか、いろいろと個性的な方々を連れていらっしゃいますね……特に服装が」
「うむ、まあそれはその通りだのう」
太公望も同意するように頷いた。
(まあお前もそうなんだけど)
心の中で上条はそう呟くと、何やら神裂が慌て始める。
「ちょ、ちょっと待ってください! ステイルのはともかく、私のはこの方が動きやすいですし、左右非対称のバランスが魔術をくむ上で有効だからであってですね、決して趣味だとかそういうものでは……」
「おい! 僕のはともかくってなんだ!」
なんか二人共言い訳を言っているが太公望は気にせず話を進める。
「それでのう、インデックス絡みでおぬしも少し関わったようだからのう。少し中で話さぬか?」
「いいけど……もしかしてあんたら魔術師か!?」
「いや、後ろはそうだが、わしは魔術師ではない。まあそれも含めて一度中に入れてくれ」
「ボロいのう……」
部屋に座って最初に出た印象はそれだった。太公望の寮よりもはるかにボロっちく、また狭い。五人も人がいると狭く感じる。
「へーへーすみませんねえ。俺の学校じゃこんなぐらいの寮がちょうどいいってことなんだろ」
「ふうむ。やはりそういうものなのかのう。よし、では説明を始めるぞ」
「えっと、つまり、俺の右手でインデックスに施されている魔術かなにかをぶち壊せばいいわけだな」
「うむ、盛大にぶち壊してくれてかまわぬ」
「ええと……」
事情を知って、話に乗ることにした上条。しかし上条がインデックスの方を見ると、インデックスは警戒の色を強めていた。キラリと彼女の歯が光った。
「げ……あの、インデックスさん? この間のことはぜひ水に流して欲しいんですが?」
「……」
インデックスはジト目で上条を睨んだままだ。
「ん? この間のこと? 一体なんのこと……痛ッ!」
「ステイルは黙っていてください」
今度も鞘で頭を叩かれるステイル。一体なんなんだ、とつぶやきながら彼は懐からダンヒルを取り出し口に咥える。
「……まあインデックス。ここは恥を忍んで世話になるしかあるまい」
「……分かったんだよ……」
「うむ、では上条」
ぽん、と太公望は上条の肩を叩く。
「その右手でインデックスを隅々まで触ってみよ」