とある道士の学園来訪   作:朽木琴弓

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 一応これで終わりです。


風立ちぬ

 学園都市第七学区のとある病院。太公望は病室のベッドの上に座っていた。病室のドアは開きっぱなしになっているが、別段開放感は感じられない。

 

 彼はつい先ほどやってきた少女のことを反芻する。

 

 

 ――たいこーぼー、失礼するんだよ――

 

 ――おぬし、珍妙な格好をしておるのう。わしに何か用かのう――

 

 ――え……? たいこーぼー?――

 

 ――どこかであったかのう……? すまぬが名を教えて欲しい――

 

 ――……インデックス、だよ……?――

 

 ――インデックス……? これまた珍しい名前だのう。……う~む、いつ知り合ったかのう?――

 

 ――ここ、最近……だよ……?――

 

 ――ふ~む、わしも痴呆かのう。さっぱり覚えておらん――

 

 ――たいこーぼー、覚えてない? 私たち、最初ベンチで出会ったんだよ?――

 

 ――ベンチ? わしは昼寝でもしておったのかのう?――

 

 ――たいこーぼー、覚えてない? 布団がないからって、たいこーぼーは私にそこの道着を貸してくれたんだよ?

 

 ――布団がない? わし、今もしかしてものすごく貧乏なのかのう――

 

 ――たいこーぼー、覚えてない? 私は……――

 

 ――すまんが全く覚えがない。少しぐうたらしたいのでまた後にしてくれんかのう――

 

 

 インデックスという少女が目に涙をためながら病室を出て行った。それをベッドの上の男、太公望はぼんやりと眺めていた。

 

 左の腰掛けには青い道着の上と下、それに黒いTシャツがたたんで置いてあった。それを見て太公望はパタンとベッドの上に背中をつく。

 

「随分と安っぽい演技だな、ええ? 太公望さんよぉ」

 

 右に視線を移すと、そこには不健康そうな男が立っていた。尖った耳、小柄で太公望と同じくらいの身長、不健康に青白い、というより青い肌をもち、ジャラジャラとやたらシルバーアクセサリーを身につけている黒づくめの男。

 

「……王天君」

 

 その男は王天君。太公望の半身にして同一人物。かつて敵として仲間を殺し合った仲だが、最終的に目的のために和解、融合した。

 

「今まで何があった、なんてことは聞かねえよなぁ」

 

「……うむ」

 

 太公望はベッドから起き上がり、王天君とは反対の方向に立って、病院服を脱ぐ。

 

 この男が何かしてくれたことは明白なことだった。

 

 あの時、高出力の、自分の最大限の力を持ってインデックスの光線を受け止めた。あの最後、白く輝く羽の舞い降りたとき、太極図は確かに発動し、その羽たちを霧散させた。だが全てを消しきれたか自信はない。もしかするとこの男が助けてくれたのかもしれない。しかしそれを問いただすことは癪だったので、あえて追求はしない。

 

 あの羽、神裂の言葉から察するに、そして本能が訴えるように、とても危ない代物だったのだろう――。戦いのあと、自分がピンピンしてることがおかしいくらいには。太公望は、ちょうどいいタイミングだったので、最も都合のいい疾患を装ったのだった。

 

 あのあと自分は倒れてしまったが、おそらく王天君が工作をしてここまで運んだのだろう。自分の身体を調べられるとこの世界ではいろいろと面倒が起こりそうだ。仙人骨など人体解剖ものではないかと少し太公望は顔を青くするが、科学の発展したここならば何か他にやりようもあるだろうということで自分を落ち着かせる。

 

「ただ、一つ聞きたい。わしと一緒にいた者たちは全員『無事』だな?」

 

「あのガキ含めた四人だったらそのようだぜ。一人はここで腕に包帯巻いて寝てたけどよ」

 

「そうか……。ところでおぬし、今までどこに行っておったのだ? この世界におったのだろう?」

 

「それはこっちのセリフだぜ太公望よぉ。いきなりこんな変な世界に来ちまって。あんたは今まで何してたんだよ?」

 

「そうだのう、要らぬおせっかいを焼いておったのう」

 

「さっきのガキか?」

 

「そういうことだ」

 

 道士服を着ながら王天君の質問に答える。懐をまさぐってみるとアレがない。

 

「む? 打神鞭が……」

 

「ほらよ」

 

 王天君がヒュッと放り投げ、太公望が受け取る。先っちょに球体のついた杖、打神鞭であった。

 

「む? なぜおぬしが持っておるのだ?」

 

「派手にドンパチやってたからな。あの光の柱のおかげで見つけんのは楽だった。あんたらが起こしたやつさ。こいつがあると面倒なことになんだろ。もしかしてオレに見つけてほしくてやったのか?」

 

「ハッ! んなわけあるかい。……そうか、やっぱりおぬしか」

 

 手袋をし、頭に布をかぶり大きな靴を履く。やはり、後始末は王天君がしてくれたようだ。この男のことだ、手抜かりはないだろう。あとで何か奢ってやろうか、いや、融合すれば無問題(ノープロブレム)だからそれは置こう。

 

「で、お別れはあんなんで良かったのかよ。こっちに飛ばされて少し世話になったみたいだったがよ」

 

「かかか、世話に、か。……そうだのう、少し世話になった、かもしれんのう。だが、まあ十分であろう。そもそもは出会うべき存在ではないのだ、わしはのう」

 

 のびーっと伸びをしてコキコキと頭をまわす。

 

「……まあ泣くとは思わんかったが。出会って間もないのに、そんな気持ちになるものなのかのう」

 

「さあな。オレたち仙道にとっちゃ、数日なんてのは永い時の一瞬にすぎねえからそう思うのかもしれねえな。人間の寿命なんざたかが知れてるしよぉ。……ただ、あんたがそれを言うのかよ」

 

「……」

 

 王天君の言葉に太公望は答えない。フッと少し目を瞑る。

 

「もしかすると、ステイルや神裂はあんな気持ちだったのかのう……」

 

「あん?」

 

「いや、なんでもない。で、これでしまいかのう。元の星、いや世界に戻る算段はついておるのだろう?」

 

「ほらよ」

 

 ヴン! とウィンドウ化された王天君の空間が現れた。

 

「伏羲になりゃあ戻れるだろうさ。ここに連れてきた奴がだれだろうと、な」

 

「見当はついておるのか?」

 

「つける必要はねえだろ。これでおさらば、だしな」

 

「そうか。ではおぬしは先に入っとれ」

 

「なんだよ。やっぱまだ何かあんのかよ」

 

「いや、別に大したことではないが……覗くでないぞ。シッシ!」

 

「あーハイハイ。さっさとしろよな」

 

 青白い手をぶらぶらさせてそう答えた王天君はヴン、とウィンドウの中に入っていった。

 

 太公望はさっきまでインデックスの座っていたベッドの横の椅子を見た。そこにはインデックスの白いフードがちょこんとのっていた。どうやらまた置いていったらしい。

 

 太公望は入口の方に少し歩き、ゆっくりとドアを閉める。

 

「……すまぬインデックス。おぬしを縛った根源のところまでは至れなかった」

 

 太公望は踵を返し、反対側の窓の方に近づいていく。

 

「だが遅かれ早かれ解決される問題だ。おぬしの仲間は信頼に足る人物たちだ、安心して背中を預けよ。それにおぬしのために突っ走ってくれる男もおる。彼らはわしがおらずとも、その内から出た思いでおぬしを助けたであろうよ」

 

 ふう、と一息つく。これで最後。

 

 カーテンを引き、窓をガラリと開ける。スっと心地よい空気が入ってきた。

 

「おぬしにわしという(しるべ)は必要ない。おぬし自身で道を歩んで行ける。たとえどんな困難があろうとも、な」

 

 再び踵を返し、そして太公望はウィンドウに触れた。

 

 

「インデックス、息災であれよ」

 

 

 

 

 

 彼女は忘れたフードを取りに戻る、という建前でそのドアを再び開ける。期待と諦めを綯交ぜにした思いを秘めて。

 

 しかしそこには誰もいなかった。

 

 ただ一陣、風が吹き抜けフードを彼女の元に届け、その銀髪をなびかせていった。

 

 

 




 そんなわけでこのへんで一度終わります。このへんがキリが良さそうだったのでここで終わらせました。全然うまく書けず、グダグダで申し訳ありませんでした。見てくださった少ない方々、どうもありがとうございました。
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