とある道士の学園来訪   作:朽木琴弓

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ちょっと北海道に行ってました。


太公望・図書館の主と再会する

 太公望はジロジロと視線を浴びつつ、地図と住所とを睨みながら目的地についた。小奇麗な学生寮であった。

 

「ふむ、扱いは思いのほか悪くないのう。建物も整っておるし環境も悪くない」

 

 指定されていた部屋には鍵なしで入ることができた。太公望は不審に思ったがひとまず入ってみることにした。

 

 中はなかなか広く一人で暮らすには若干広そうな感じだった。

 

 電気や水道設備は整っており、太公望が瞠目するには十分だった。

 

 置かれていた四角テーブルには鍵が置かれているのみであった。

 

「ひとまず、片っ端から開けてみるかのう……」

 

 かくして太公望は部屋の戸棚なり引き出しなりを片っ端から開けていった。その結果、紙幣と思しき10枚の紙が見つかった。丸の数は四つ。

 

 十万。飲料を出す機械を見たとき、およそ百前後でひとつのものが買うことができていた。それなりに価値のある額なのだろう。しかし使って良いのかどうかはわからない。ひとまず保留。

 

「……ふう、まったく。いつになったら戻れることやら」

 

 太公望はそう言ったが、実のところそんなに戻ることに執着はしていない。もとより不老者の仙道である。どのくらいここにいることになるのかは分からないが、寿命で死ぬことはない。時間制限はない。しいてあげれば、向こうからの迎えが来ることだ。その時が来るまで、せいぜい易姓の休暇を謳歌させてもらうことにしよう。

 

 

 

 その後、太公望は瞑想をすることにした。瞑想とは建前で、要は居眠りだが、無駄なエネルギーを消費せず、頭をスッキリさせるには一番の方法であった。

 

(学園都市、超能力、魔術、秘密主義、インデックス……)

 

 彼女、インデックスは無事に逃亡中なのだろうか。どういういきさつがあったのかわ太公望には分からなかったし、そんな中で部外者たる自分が出てきても、あまりいい方へは転ばないと彼は思った。

 

 

 

 太公望は外に出た。とりあえず稼がねばならない。占いが見向きもされなかったのは意外だったがなんとか粘って金をせしめたい。十万を使って良いかわからないからとりあえず自分で稼いでみる。ブラブラとそのへんをうろついたあと、ある場所に居座る。

 

「え~占い~占いはやらんかの~。十割当たる占い~」

 

 打神鞭を持って目を閉じ子供たちに広告する。多くが占いを信じないかもしれないと

はいえ、こういうものにこそ、のこのこやってくる者もいるはずだ。

 

「良いカモが来んかのう、けけけ」

 

 果たしてカモはやってきた。

 

「すいませーん! 絶対に当たる占い!?」

 

 セミロングで花の髪飾りをつけた活発そうな少女がやってきた。

 

「おう。わしの薪占い……ではなく風占いは百発百中よ」

 

「風……占い?」

 

「どうかのう。後払いで良いから試してみんかのう」

 

「えっと……、じゃあお願い!」

 

「うむ。占う内容はわしの方で決めさせてもらおう。では……」

 

 太公望は打神鞭で風を操り、少女の周りをやさしく包む。

 

「え……?」

 

 少女は少し戸惑ったような声を上げる。超能力の街といっても、やはりこういうことは見慣れないのか――その程度に太公望は考えた。しばらくすると風はおさまった。

 

「ふむ……。おぬし……」

 

「あの、ちょっといい?」

 

「む? なにかのう?」

 

 その少女はさっきとは少し変わって神妙な面持ちになった。

 

「あの、今のって風を操ったの?」

 

「うむ、そうだが」

 

「えっと、その、そういう『能力』って、使える人はどう感じているのかな~なんて思ったりして……」

 

「…………ふむ、どうかのう。『能力』のあるなしなんて関係ない……とはいえんのう」

 

 その言葉に、少女は僅かに震えた。

 

「人によって感じ方は様々。わしは使える、しかしだからといって別段快適というわけでもないのう。それがあったらあったでやることは増えるし、仕事も増えるし。おかげでおちおち怠けることもできないのう」

 

「……」

 

「ただのう。わしにはやりたいこと、いややらなければならないことがあってのう。才能は乏しかったが努力して力を身に付けた」

 

「努力……」

 

「能力でもってやりたいことがあればとことん邁進すればよかろう。届くかは分からんが、努力してみて納得いくまでやってみよ。やりたいことがなかったり、諦められた時は回り道をしたりすれば良い」

 

「回り道?」

 

「『能力』には価値があろう。しかしそれで人間の全てが決定するわけでもない。『能力』がなくともほかに昇華することもできようし、要は気の持ちようというやつではないかのう」

 

「……でも、やっぱり、もっとレベル上げたいよ……」

 

「ふむ、それはなぜかのう」

 

「なぜって……そりゃあここが学園都市だからに決まってるじゃん! 超能力に憧れてここに来て、結局レベル0に判定されて!」

 

 少女は思わず声を荒げた。その様子を太公望は静かに見守る。

 

「……結局、じゃあ学園都市に来た意味ってなんだったんだろうって、そう思っちゃうんだよ」

 

「…………おぬしはここに、超能力だけのために来たわけではなかろう? 気のおけぬ友や先達、師。一人でも出会うことができたのであれば、ここに来た意味には十分であろう?」

 

「……」

 

「わしものう、たくさんの友と出会った。だが大きな争いごとがあってのう、多くを失った」

 

「え!?」

 

「力など、ただ争いをうみ、争いに巻き込まれるだけなのやもしれぬ。そう思えば、むしろ友と笑い合えるおぬしは、わしには羨ましい」

 

「……そう、かな」

 

「……意味は分からずとも良い。先の未来に、振り返った時に見つければ良い。ほれ! しゃんとせんか!」

 

 太公望はその少女の両肩を叩き鼓舞する。

 

「どうもおぬしには暗い顔より明るい笑顔が似合う。きっと友も多かろう。そして力のあるなしに関わらず彼ら彼女らは友になったのであろう? その友を大切にせよ」

 

「……うん!」

 

 その少女ははじめの明るい顔つきに戻った。

 

「聞いてくれてありがとう!」

 

 そしてその少女は駆けていった。

 

「予言しよう! おぬしには幾多の困難が待ち受けている。だが、最後には友と笑っていられることを!」

 

「ありがと~!!」

 

 手を振りその少女は小さくなって、雑踏の中に入っていった。

 

「……ふう、あんまりアドバイスにもならなそうなことだったが、あやつが元気になったのであればそれでもよかろう。少し悪い気を纏っておったからのう」

 

 そして太公望は思い出す。結局当初の目的を果たせていないことを。

 

 その後いくらか待ったが興味を持って近づいてくる数奇な者はやってこない。結局寮にあった金を使う方針にした。

 

 

 

 朝が来た。その時太公望は、寝たら戻るみたいな感じの状況ではないことを理解した。

 

 昨日はあのあと、寮に帰ったが停電が起こったりして寝る以外にあまりすることがなかった。

 

「むう、そういえばここの暦を知らんな。暮らしていく中で必要であろうし、どこかで得る必要があるのう」

 

 そう言ったところで腹の虫が盛大になった。

 

「……まずは腹ごしらえだのう。生臭がなければ良いのだが……」

 

 仙道の類は肉や魚など生臭を食べることはできない。豆腐ハンバーグとか野菜ジュースとかそういうものなら大丈夫。野菜、果実の他、卵や牛乳なら許容範囲。菓子の類などならばなんでもいける。

 

 結局、そこにあった金を使うことにした。その後、太公望は鍵を閉めて十万円を握りしめて出かける。地図は既に頭の中に完璧に入れた。

 

 太公望が数分歩くとコンビニエンスストアにたどり着いた。他の人間が入るのを観察していると、ほとんど立ち止まることなく勝手に扉が開いた。

 

「なんと……ここはすごいのう」

 

 太公望も若干緊張しながらドアの前に立つ。すぐにその透明なドアは両開きで開いた。中は外と違いひんやりとした空気が流れており、なかなか快適そうに太公望には感じられた。

 

 その後、その中で店員に問答をしながら、菓子やら菓子パンやら野菜ジュースなどを買った。店員によると、今日は七月二十日というらしく、ここの学校の子供たちは夏休みというものを謳歌しているそうだ。

 

「わしも一応学生か、然らば八月三十一日までは暇をして暮らしていてもいいわけか! かかか」

 

 現在午前九時。学校に補習に行っている生徒以外はほとんど夏休みという日々を謳歌している。

 

 太公望は長点上機という学校に所属しているが、通うつもりはない。毎日毎日朝から晩まで勉強に打ち込むなんてことになったら、それこそぐうたら生活ができなくなってしまう。何もせず、収入は安定して、ぐうたら暮らせればそれに越したことはない。

 

 これから暇なので自分の寮でぐうたらするのも悪くないが、よりよく生活するために、少し街の中を見て回ることにしようと思った。

 

 不可思議な街。大いなる科学の力を使い、超能力開発を行う。

 

(だが、超能力というものは、おそらく才能の差というものもあるのであろう。落ちこぼれのわしの直感だ、間違いない)

 

 同胞は先に幹部になり、その弟子には才能で負けていた。そんな太公望の直感が告げている。この地においてもそういうものはまた存在する。そもそも格差のない社会はほとんど存在しない。発展した社会であればあるほど格差は肥大する。

 

(あの『怠けじじい』はそうは言わんのかもしれんがのう)

 

 三年に一度目を覚ますという、怠惰スーツに入った人物を思い浮かべながら太公望は心中でそう呟いた。

 

 

 

「む?」

 

 しばらくして視線の端に白い人物を捉えた。全身を白い衣でおおった、見覚えのある少女だった。銀髪をたなびかせながら走っているようだ。

 

「お~い、そこなるインデックス、しばし待て」

 

「……え? あ、たいこーぼーなんだよ!」

 

 その天真爛漫な少女、インデックスは太公望の方を見るとすぐに駆け寄ってきた。

 

「なんかたいこーぼー、前に会った時と感じが違うね。変な服着てるし」

 

「おぬしがそれをいうか。お主の真っ白けのほうがよっぽど変だわ!」

 

「これはちゃんとした正装なんだよ! たいこーぼー、失礼かも!」

 

 両者の服装の問題は平行線をたどっていったので太公望は話を変える。

 

「おぬし、まだ逃亡生活をしておるのか?」

 

「うん。今朝ちょっと色々あったんだけど、それでも逃げてるんだよ!」

 

 あの時の儚げな笑顔ではなく、陽のような笑顔だった。

 

「そうか。ところでおぬし、腹の虫は大丈夫かの」

 

「うう……それを言われると辛いところなんだよ……。今朝少し元気の出るサラダとビスケットを食べたくらいなんだよ」

 

「そうかそうか。しかしここにいくらかの食事があるのだがのう」

 

「え!? ぜひ恵んで欲しいんだよ!! お腹いっぱい食べさせてくれると、うれしいな!」

 

「ふむ、そうだのう」

 

 太公望はその姿をじろりと見た。昨日会った時と何か違う。具体的には、衣に安全ピンが大量に刺さっているところだ。頭の被り物もどこかに落としてきてしまったらしい。

 

「まあよい、わしのところに来るが良い。一応ねぐらを見つけてきたのでな」

 

「へ~! でもあんまりお世話にはなれないかも……」

 

「たわけ、食べ物をせびるおぬしが言うな」

 

「それはそうかも……でも……」

 

「腹が減ってはなんとやらだ。逃げるにしても、行き倒れては本末転倒であろう?」

 

「……わかったんだよ。お恵み、感謝するんだよ!」

 

 インデックスは眩しい笑顔で答えた。

 

 太公望は内心、いじめてしまったかと焦ったが、この眩しい笑顔で心配は霧散した。

 

「うむ。わしのねぐらはこっちだ。付いて参れ」

 

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