とある道士の学園来訪   作:朽木琴弓

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 どうやらこの話を入れるのを忘れてたようです。


太公望・脅迫する

 テクテクと太公望の寮まで歩いていき、その若干広い部屋の中に入った。

 

「わー! 今朝ほかの人の部屋に入ったけど、それよりもずっと広いんだよ!」

 

「む、そうなのか」

 

 テーブルを挟んで太公望とインデックスは座る。目の前には食べ物の入った袋。

 

「さて、ここに食べ物がある。中身は菓子パン四つ、菓子四つ、野菜ジュース二つ」

 

 太公望はコンビニで買う時に、一応保存目的に多めに買ってきたのだった。かなり望み薄だったが、もしお腹を空かせたこの少女と会うことがあればついでに恵んでやろうとも思っていた。

 

「全部くれるんだね! ありがとうなんだよ!!」

 

「は?」

 

「え、違うの?」

 

「おぬし見たところ体躯は小さそうなんだが……全部食べる気か?」

 

「これでも足りないくらいかも!」

 

「……わしはそこのジュース一つで良い。あとは全部食べて良いぞ」

 

「ありがとうなんだよ!!」

 

 そう言うとインデックスは一気にその袋に手を伸ばし、袋を破り捨て、その口の中に放り込んだ。バクバクとどんどん食べ物が口の中に、さらに胃袋の中に入っていく。それを太公望は若干悲しそうな目で見る。

 

「わしの……」

 

「ん? 何か言ったかな?」

 

「いや別に、なんでもないぞ……」

 

 土地が違えば文化も違う。もちろん食文化も違う。ここの土地のものは皆こんなに食べるものなのだろうかと思ってしまう太公望であった。そんな彼は余った野菜ジュースをチューチュー飲むしかなかった。

 

 数分も経たないうちにインデックスは全てを平らげてしまった。

 

「……まるで花狐貂……おぬしの体はどうなっておるのか、気になるのう……」

 

 そう言いながら太公望はインデックスの袖に軽く触れる。

 

「……」

 

「ん? どうかした?」

 

「ふむふむ……」

 

 太公望は少し顎に手を当てて考えた。

 

「それで、少しおぬしに話があるのだが、良いか?」

 

「ん、何かな?」

 

 野菜ジュースを一滴残らず吸い取ろうと躍起になっていたインデックスは、ついに諦めてらしくそのジュースの箱をおいた。

 

「まず、おぬし、まだ逃亡を続ける気か」

 

「そのつもりなんだよ。私は魔道図書館。私の中の十万三千冊の魔道書が奴らの手に渡ってしまうと大変だから」

 

「……渡ってしまうとどうなるのだ?」

 

「まず魔道書自体が極めて危険なものなんだよ。普通の人なら見るだけで廃人確定。その『毒』の純度を落とさないと一流の魔術師でも扱うのは難しいし、読み取ることのできた優秀な魔術師の手に渡れば、その魔術は大規模化して大きな被害を生み出しかねないんだよ」

 

「ふむ……それを防ぐためにおぬしは逃げておるわけか」

 

 こくん、とインデックスは頷いた。

 

「どこかの魔術結社に追われてるんだ」

 

「このようなことは今まで何度も?」

 

「うん。でも正確な数はわからないな」

 

「なぜだ? 完全記憶能力を持っているのではないのか?」

 

「私、ここ一年より前の記憶がないんだ」

 

「おぬし、記憶喪失だったのか」

 

「うん、そうらしいんだ」

 

 再び太公望は顎に手を当て考える。

 

(完全記憶能力、魔道図書館、禁書目録、恐ろしい本、記憶喪失……)

 

「しかし、おぬし、前の状態ならともかく、今の状態で追っ手と渡り合うのは無茶なのではないか」

 

「……なんで気づいたの?」

 

「そんな針のむしろの衣を着ていれば、嫌でも何かあったと思うであろう。それにさっ

き触れた時に、その衣の能力がなくなっておることにも気づいたわ」

 

 そう太公望が言うと、インデックスは押し黙ってしまった、

 

「……」

 

「そんな時におぬしのいう追っ手、おそらく魔術師とかいうものなのであろうが、それに太刀打ちできるのか?」

 

「……それは……」

 

「次に、おぬしはどこかの機関に所属しておるのか?」

 

「……うん、イギリス清教、必要悪の教会所属の魔術師、それが私、インデックスなんだよ」

 

 おそらく、そのイギリス清教だか、必要悪の教会だかが、この少女を魔導図書館とさせているのだろう――太公望はそう思った。

 

「……わしは今でも、おぬしのことは子供だと思っておる。決して大人ではない。そんなおぬしに、魔道書とかいう恐ろしい本を、完全記憶能力にかこつけて覚えさせるような者たちの気持ちはよく分からん」

 

「……」

 

「辛くはないのか?」

 

 そう太公望が聞くと、インデックスは下を向いて少し考えたあと、顔を上げて、少し小さな声で答えた。

 

「仕方ないよ。これが私の役目だから」

 

「……追っ手たちは暴力的な行為でもっておぬしの頭の中を狙ってるのだろう。おぬしは『絶対』と称していたその衣の防御力がなくなった今、他に対抗する手立て、つまり何か魔術はあるのか?」

 

「……私は魔術は使えないんだよ。魔力がないから」

 

「ダアホ! それじゃあおぬしに対抗手段はないではないか! それでどーやって逃げ果せるつもりなのだ!」

 

「う……、今までの経験とか、知識とかを使って……」

 

「おぬしの話からすると敵と邂逅するのは滅多にない、というわけではないのであろう。向こうは構わず矢でも槍でも使ってくるであろうが。おぬし、それで生き残れると思うのか?」

 

「……」

 

 ふう、と太公望は一回ため息をついた。インデックスの方を見ると、沈痛な面持ちをしている。こんな子供にこんな表情をさせてしまうとは、と太公望は若干心が痛くなった。

 

「……と、ここで提案がある」

 

「……提案?」

 

「おぬし、わしから食べ物を恵んでもらったであろう? ならばわしの方からおぬしに何か要求があっても良いと思うのだ」

 

「え!?」

 

「なんだ、タダで恵んでもらおうと思っておったのか?」

 

「お恵みってそういうものだと思うんだよ……」

 

「わしは知らーぬ。おぬしが勝手にそう判断しただけのことよ」

 

「たいこーぼーちょっと酷いんだよ……」

 

「何とでも言うが良い! で~? おぬしはこれを飲むのか飲まんのか~どっちなのだ~? まあ~? 飲まないということなどないと思うがの~?」

 

「うう……分かったんだよ。なんでもするんだよ」

 

 もはや脅迫恐喝の域であり、捉えようによっては犯罪の香りすら漂ってくるが、身長160cmほどの少年(に見える)と148cmの少女とのやり取りなので案外微笑ましいものに見えるかもしれない。

 

 そしてそれを聞いて太公望はにやりといたずらっぽく口角を上げる。

 

「よし、然らば。おぬし、しばらくわしと共におれ」

 

「……え? ええぇ~!!」

 

 インデックスは悲鳴に近い声を上げた。

 

「そ、それはちょっと……男の人と一つ屋根の下っていうのはふしだらというか、はしたないというか……」

 

「安心せい。そういうものに関しては、わしはもう枯れておっての。それにおぬしのような年齢の女子に対して興味もないわ」

 

「それはそれでショックかも……」

 

「で、どうなのだ。飲むのか飲まんのか。いや、もう飲んだのだったな」

 

「……はあ、分かったんだよ。でも、私と一緒にいることは、生命の危機を意味するんだよ! それもいいの?」

 

「つまり、それがおぬしの言う、『私と一緒に地獄の底までついて来てくれる?』ということなのだろう? 禁断の杏、いや林檎か、かじったそれを食べてくれるのか、と。然らば答えよう」

 

 そこで言葉を切り、立ち上がって太公望はインデックスの隣に移動した。その顔をインデックスはジッと見つめる。

 

「わしはのう、おぬしのような子供が傷つくのが気に入らんわけよ。まして事情を知った今、それを何とかしないわけにはいかん。追っ手であろうと、おぬしの上司たちであろうと、子供を傷つけるのは気に食わんのだ。わしははたらくのは好きではないし、できればぐうたら生活をしていたい。厄介なことにもできれば出会いたくない。地獄の底などというところにも行きたいとわ思わぬ。だがそこに向かおうとしている罪なき者がいれば、止めねばならぬ。まして子供が苦しんでおるなら、助けるのが大人の役目よ。地獄の底に共に向かうのではなく、そこから引き上げたい、それがわしの答えよ」

 

「……いいの? たくさん迷惑かけることになるんだよ?」

 

「迷惑をかけるなど子供がしょっちゅうやることではないか。気にすることではない」

 

「……ふぇ……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、インデックスの目にじわりと浮かぶものがあった。

 

「……うぅ……」

 その涙は堰を切ったように瞳の中からとめどなく溢れてくる。決壊したそれはもう止めることはできない。インデックスは膝の裾を握り締め、そこに涙を落としていく。

 

 そして一方の太公望。

 

 青白い顔をし、額に汗を浮かべ、口に手を入れていた。

 

(な、なぜ泣くのだ~! ここは笑顔でありがとうとかそういうのではないのか~!)

 

 太公望は子供は好きだがその扱いを必ずしも心得てはいなかった。

 

「な、泣くでない。なぜ泣くのだ!? 頼むから泣き止んでくれ~!」

 

 太公望の叫びはその寮全体に響き渡った。

 

 

 数分間、太公望はあれこれとその頭脳を巡らして泣き止ませようとするのだが、一向にそうならない。結局自然に泣き止むまで待つ羽目になった。その時の太公望の顔は、彼の仲間たちでもめったに見ない顔であった。

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